鬼の橋 (福音館文庫 物語)

著者 :
  • 福音館書店
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834027396

作品紹介・あらすじ

平安時代の京都。妹を亡くし失意の日々を送る少年篁は、ある日妹が落ちた古井戸から冥界の入り口へと迷い込む。そこではすでに死んだはずの征夷大将軍坂上田村麻呂が、いまだあの世への橋を渡れないまま、鬼から都を護っていた。第三回児童文学ファンタジー大賞受賞作、待望の文庫化。小学校上級以上。

感想・レビュー・書評

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  • R3.8.14 読了。

     時は平安時代。あの世とこの世をつなぐ橋で坂上田村麻呂があの世から現世を守ってくれていた。
    片方の角を折られた元鬼の非天丸と浮浪の女の子の阿子那に対して、はじめは見下していたタカムラだったが、徐々に仲良くなっていくにつれて、2人の印象が変わっていく。また2人と居ると、心地良さまで感じるようになった。非天丸は阿子那の傍にいることを望み、浄土に行くことを望むまでに変わった。それまで人食いだったのに、必死で人食いを止め生魚や狐や鹿などの野生動物を食らって生きようとしていた。また、阿子那が大切に想っている五条橋に火が放たれた時に非天丸は、大火の中で橋を守ろうと果敢に消火しようとした。自分がやけどを負うことよりも阿子那が大切に思っている橋を守りたかったのだ。そんな非天丸はかっこよく、心動かされた。まさかここまで物語に引き込まれるとは思ってもみなかった。脱帽です。 

  • レビュー数が少ないのがとても信じられない。
    タイトルと表紙の訴求力が弱すぎるのだろうか。ああ、もったいない。
    (このお話こそ、アニメ化したらいいですぞ、宮崎駿さん)
    97年児童文学ファンタジー大賞受賞作である。
    読み終えた後またすぐに最初から読みたくなる、魅力いっぱいの340ページだ。

    舞台は平安時代。主人公は漢詩人の達人であり、官僚としても優秀だったという小野篁(おののたかむら)という実在した人物。その少年時代である。
    フィクションの中に小野篁に関する様々な伝承を取り入れて、この少年の痛みと成長とを描いている。
    愛しさのあまりつい篁は異母妹に意地悪をしてしまい、そのため不慮の死へと追いやってしまう。
    激しい自責の念に耐えかねて町を彷徨ううち、異母妹が命を落とした廃寺の井戸から、あの世へと通じる道を見つけてしまう。
    そこは、今も六道の辻という名が残っている、冥界への入り口とされている場所。五条の橋を渡った向こうである。
    なんとかこの世に戻ってきたものの、やがてその井戸がこの世とあの世を結ぶ道となり、あの世の鬼までもがこの世にやって来てしまう。
    この鬼は自分が鬼であることを辛く思い、この世でひととして生きることを望んでいた。。

    大人になることを拒絶する篁だが、その心は悩み、揺れ、耐え、実は生きる希望をもとうとしてあがいている。鬼もまた同じである。
    危険な世界へとたびたび足を踏み入れる篁は、まるでその頃の自分を見るような危うさで、目をはなせない。
    少女・阿子那と鬼との関わりの中で、篁は次第に人間としての強さを知らず知らず身につけていくのだが、その過程のすべてが、たまらなく愛おしい。
    篁の父と母、そして篁と鬼と阿子那と、登場人物の描き方も丁寧で鮮やか。小さなエピソードの積み重ねが実に情感豊かで飽きさせない。
    時代こそ違っても、ひとの心の痛みを知り、許し、受け入れ、再び前を向いて歩いていく少年の姿は、ただもう深い感動を呼ぶ。
    終盤はもう涙、涙で、ああ自分はこういう小説を読みたかったのだと、そう思った。
    児童文学とは言え、大人にこそ読んで欲しい一冊。

    鳴くようぐいす平安京。もう1220年も前のことか。人間て、そんなに変わらないものなんだね。

    先日の中学生向けのブックトークでもこの本を扱った。
    ひとりの生徒がしばらくパラパラ見たあと「読む!」とひと言言い放ったのが印象的。

    • nejidonさん
      淳水堂さん、こんにちは(^^♪
      うわぁぁぁぁ!こーんなに昔のレビューを
      よくぞ探し出して下さいました!
      こちらこそお礼を申し上げます。...
      淳水堂さん、こんにちは(^^♪
      うわぁぁぁぁ!こーんなに昔のレビューを
      よくぞ探し出して下さいました!
      こちらこそお礼を申し上げます。
      確かこのとき、レビュー数は2ぐらいでしたよ。
      でも15にもなったということが素直に嬉しいです。
      淳水堂さんも楽しまれたようで、二重に嬉しいです。これは名作ですよねぇ。
      本当にありがとうございました!
      2019/12/06
    • goya626さん
      小野篁といえば、和田の原八十島掛けて漕ぎ出でぬと…という百人一首で知られ、地獄に通じる井戸を行き来し、閻魔大王と仲が良かったということで有名...
      小野篁といえば、和田の原八十島掛けて漕ぎ出でぬと…という百人一首で知られ、地獄に通じる井戸を行き来し、閻魔大王と仲が良かったということで有名ですが、こんな物語があったんですね。うーむ。そうそう、ぜんぜん関係ないような話ですが、「八十島」「篁」という名字の人にあったことがあります。
      2020/03/06
    • nejidonさん
      goya626さん、はい、その「小野篁」の少年時代のお話です。
      とは言えだいぶ創作が入っていると思いますが。
      公務員として優秀な方だった...
      goya626さん、はい、その「小野篁」の少年時代のお話です。
      とは言えだいぶ創作が入っていると思いますが。
      公務員として優秀な方だったらしいですが、不思議な伝説もたくさん残ってますね。
      その苗字、かなり面白いです!
      一体どんなご先祖様だったのやら、いろいろ想像してしまいます。
      2020/03/06
  • 今昔物語や百人一首などに出てくる小野篁の少年期を主人公とし、少年の成長、人が悲しみや後悔を飲み込んで前に進む様子、人の情により鬼が人になる様相を書いた児童文学。

    小野篁は自分の不注意で異母妹を死なせてしまった後悔と慕情と悲しさ寂しさで生きる気力を失いかけています。
    異母妹の死んだ井戸を覗き込んでいた篁は、あの世との境である河原に降り立ちます。
    そこで人を食う鬼の存在や、死んでなお都を守ることを使命とされた征夷大将軍坂上田村麻呂を知ります。

    この世に戻ってきた篁は、家も家族も失って父が人夫として工事に携わった五条の橋の下に住み着く少女の阿古那(あこな)、以前はあの世の川辺にいて残虐行為を繰り返していたがこの世に紛れ込んできた鬼の非天丸(ひてんまる)と出会います。

    篁の心の傷や思春期の心の澱はなかなか晴れずに、あの世からの誘惑を振り切れずにいます。
    さらに、また堅物の父の小野岑守(みねもり)とも意思の疎通ができなくなっています。

    少女阿古那は、最初は父の作った橋を守ることに、そして後半では元鬼の非天丸と共にいることにただただひたむきです。
    元鬼の非天丸は、田村麻呂に片方の角を折られて鬼の力とともにそれまでの力の根源だった人を憎む力も失っています。そして阿古那との間に親子のような繋がりができ、お互いに相手のゆく場所ならどこへでも行き共に行きたいと思うようになっています。
    田村麻呂は、武人としての強さとユーモラスさを持ちますが、死んでも縛り付けられる使命、生きていた頃の罪を常に目の当たりにしている苦しみも持ちます。

    篁は彼らとの交流でその想いを知り、またあの世から紛れ込んできた残虐な鬼たちと対峙してゆくうちに、徐々に異母妹への思いを胸にしたままで前を向くようになってゆきます。

    終わりごろまでは篁の後悔&思春期&反抗期&中二病(失礼/笑)が重苦しく、本当にこの少年は立ち直れるのか?!などと心配になってしまいました。しかしラストは自分の目が自分だけではなく周りの人間を観ることができて、忘れるのではなく前に進むということができた少年の新しい旅立ちとなり、霧が晴れたような読後感を味わえます。

  • 小学6年生でも、読書力がある子は読んでいました。中学生には、ぜひ読んで欲しい本に選びたいです。修学旅行で京都に行く前に読む…とかすると、旅路がふくよかになると思うんだけどな。

  • 図書館が長いお休みに入る前に借りられたので読みました。伊藤さんはお姉ちゃんの大学の学部の先輩と知って、きっと美しく魅力的で親しみ溢れる京都の情景が繰り広げられるのだろうと疑わなかったのですが、想像を超えるものでした。隠れ鬼で妹を亡くして憔悴した元服前の少年小野篁を中心に、成長してゆく子ども達の目線の高さにあわせて、世の中の不条理や大切なこと、「いのち」を、たおやかで流麗な文章で伝えてくれます。

    • nejidonさん
      よえりんさん、こんにちは(^^♪
      この本、大好きです!
      レビューを読んでつい嬉しくなってしまいました。
      小野篁の時代を彷彿とさせる描写...
      よえりんさん、こんにちは(^^♪
      この本、大好きです!
      レビューを読んでつい嬉しくなってしまいました。
      小野篁の時代を彷彿とさせる描写がいっぱいで、雰囲気たっぷりでしたよね。
      あちこちでお薦めしているのですが、タイトルに「鬼」とついてるからかな。
      なかなか広まりません。
      よえりんさんも面白く読まれたようで、本当に嬉しいです!
      って、自分が書いたわけでもないのに(笑)感動のコメントでした。
      2018/03/20
    • よえりんさん
      nejidonさんこんにちは
      実はnejidonさんのレビューのおかげでこの本にたどりつきました。ありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡...
      nejidonさんこんにちは
      実はnejidonさんのレビューのおかげでこの本にたどりつきました。ありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡
      岑守、阿子那、非天丸、将軍達の真摯な姿勢が篁を一人前に。残酷さも避けずに伝えているのに、ホカホカ体温を感じるような暖かな小説だと思います。私も大好きです。
      2018/03/20
  • 小野篁という人物に興味が沸いた一冊だった。

    今昔物語等でも篁についての逸話は、たくさん残っているらしく、本書もそれらの資料をもとに伊藤さんが物語に仕立てた作品だ。

    自分に自信のない、弱い、軟弱な男子「小野篁」が、義理の妹を自分の不注意で亡くしてしまう。
    その時よりあの世の入り口へ、何かと繋がるようになってしまった篁が、征夷大将軍であった坂上田村麻呂や半分鬼である非天丸、父を探して上京してきた阿子那らと関わり、彼らの生き方や考え方に触れる事で成長していく物語である。

    篁の成長が、焦ったくも丁寧に書かれていて、父と共に陸奥へ行こうとする場面を素直に受け入れることができた。

    六道の辻は、京都へ修学旅行へ行くたびに目にする地名。ここから鬼がくるとは、旅行生も思ってはいないだろう。

    中学生でも十分に楽しめる物語。
    むしろ、歴史や短歌などを学習している分、物語の世界観を理解する事が容易ではないかと思う。

  • 地獄と現世を行き交いしながら大人になっていく小野篁とその周りの人々の成長を描く物語。最初は妹の死に囚われていた弱々しい篁が坂野上田村麻呂の導きや、浮浪児、元鬼などと触れ合うことで強さを身につけていく。個性のある登場人物が魅力的で割と厚めの本だけど一気に読ませる。

  • 舞台は平安時代、12歳の少年・小野篁のイニシエーションストーリー。若い人達には美しいお話が必要だから、こんなに美しくてもいいと思った。

    挿絵は「やまなしもぎ」の太田大八。これ以上はないくらいお話に合っている。

    ゲド戦記と比べるととても日本的で(題材ではなくて、””自分”と世界との関わり方が)、ちゃんと考えると面白いだろうな。ちゃんと考えられない自分が残念。

  • こういう児童書を最近は見かけないので、一文一文を噛みしめながら読ませていただきました。 こういう児童書が読みたいんだよ!
    文庫にするなら講談社文庫かしら?文春文庫かしら?
    ともかく、もっとたくさんの人に読んでもらいたいです。

  • 小野篁は、遣隋使小野妹子の子孫であるとも絶世の美女、小野小町の祖先であるとも言われてます。少年の彼が冥界の入り口で鬼から都を守っている坂上田村麻呂と出会います。

    子供が高校生の時、日本の歴史上の人物レポートに坂上田村麻呂を選び、岩手まで行き、
    死んでまで都を守った。と書いたのは、
    小学生の時この本を読んだから?


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著者プロフィール

伊藤遊 伊藤遊(いとうゆう)1959年生まれ。京都市出身。立命館大学文学部史学科卒。著作に『鬼の橋』(産経児童出版文化賞推薦)、『えんの松原』(日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞)『ユウキ』(日本児童文学者協会賞、以上福音館書店刊)、『つくも神』『きつね、きつね、きつねがとおる』(第17回日本絵本賞)『狛犬の佐助 迷子の巻』(第62回小学館児童出版文化賞、以上ポプラ社刊)がある。札幌市在住。

「2014年 『えんの松原』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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