- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784834081374
感想・レビュー・書評
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エイリアンの襲来で穏やかだった日常が崩れるなか、主人公の男の子は後ろの席の女の子との距離感が気になってぐるぐると迷妄に苛まれる。一言一句に至るまで綿密に計算された文章の構築力もさることながら、侵略SFを背景にした青春小説としてそれらを「同質」に描いた手腕が素晴らしく、最初こそ主人公の面倒くさい自意識バリバリの語り口に面食らうものの、侵略によってそれが正気を保つ日常の象徴へとシームレスにすり替わっているのが素晴らしい。唯一迷妄から解放された川辺でお弁当を食べるシーンは非常に胸に突き刺さった。傑作。
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SF的な始まりしながら実際にSF的要素が出てくるのは後半からである。その間は一体なにが書かれているのか? それは主人公のぼくが後ろの席の女の子、久保田との距離をずっと気にして気にして・・・いや、SF的要素が始まってもそれは変わりはしない。久保田との距離についての決着、或いはひと段落ついたところでこの物語は終わるのだ。少々SF的要素に決着が付かなくても。
自分流にシンドローム文体を表すならというこんな感じかな、という風に少々くどいように思われる文章もそれは精神的男子高校生の頭の中を視点としているので、最初はとっつきにくいが慣れればシンドロームの世界の住民になり、後半のSF展開がより身近になり恐怖すら感じる。
よく主人公のぼくは久保田に恋をしている、という感想を見かけるが、読者のぼくは少し違う捉え方をした。
あれは恋になる前の思春期たる症候群ではないのだろうか。
実際にほぼ、好きだとか、恋だ、っていう言葉は出ない。恥ずかしいのだ。そう言ってしまうのが。ただ久保田との距離、それも絶妙な距離を保ちたい。他の誰かではなくぼくが。
主人公のぼくに読者のぼくは共感してしまって、最後は少し心が痛みながらも、読み終えて良かったと思えた作品だった。 -
ある日火球が学校の上をかすめて近くの山に落ち、高校生であるぼくと友人たち(自意識拗らせ男子の主人公は自明に友人であるとは見なしていないが)は何とも言えない気味の悪さを感じてSF映画を援用しつつその正体を推測するうちに、事態は恥ずべきことにB級SF映画そのままの展開をたどってゆく。その事態の展開の中で、ぼくは後ろの席の女子が気になり、友人が彼女に好意を抱いているのではないかと気になり、女子との距離の取り方に悩み、しかし自分は精神的な存在であるから非精神的な迷妄に巻きこまれてはならないと固く自らをいましめ、結局迷妄にほかならないような思考をえんえんと開陳する。開陳された思考は微に入り細に入り省略されるどころか言葉尻をとらえて着実にエスカレートしてゆき、ある種の経験者にとっては一種の拷問ともなり得るあからさまさが素晴らしい。そして主人公の自問自答にかかわらず日常は別の状態に移行したまま戻らず、それゆえに主人公の拗れた語りは終わりを迎える。作中及び著者紹介における著者ブログまで視野に入れた映画の使われ方、丁寧にデザインされた装丁と挿絵といったテキスト外の要素も含めてよく考え抜かれた本だと思う。
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今、中盤まで読んだところ。
「ぼくはたまに、考えすぎることがある」(p.116) という文章が出てきて「いや、たまにじゃないだろ!」と、即座に突っ込んだ(笑)。わたしはおばさんなので、評判どおり自意識のかたまりの前半をずーっと笑いながら読んでるけど、当事者年齢だったらうっとうしいかもねw でもそこがいい!
「良くも悪くもはっきりとした性格で、妙に正直なところのある平岩」って……w 枕詞がおかしすぎるw
さて、後半は、どっちへころんでいくんでしょうか。
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どっちへころんでいくんでしょうか、どころじゃなく、すごい展開になっていった。
それでも休むことなく久保田との距離をはかりつづけるぼくの自意識。
そして学校の教師の(なかでも国語教師の)欺瞞と愚かさをするどく断罪するぼく。
でもそれはすべて頭のなかの出来事で、外には何一つ出てこない。
いや、久保田に「これが終わったら映画行こう」ってさそったか(笑)。
そんな、とってもちぐはぐで日常と非日常がないまぜになった描写が、3.11のとき感じた混沌そのもので、ものすごくリアルだった。家が崩れ落ちるかもしれないから避難指示が出てるのに、戸締まりしていてなかなか出てこない母親とか。
クセがあるから誰にでも勧められる小説じゃないけど、わたしはすごくおもしろかった。 -
面白い!SFよりも青春。日常が壊れ始めている。それでもぼくは、久保田との距離が気になって仕方がない。そういう話。
久保田さんがとってもキュート。
くせのある文体を飲み込んでからは疾走するように読み切った。とてもよかった。 -
迷妄の奴隷
サトテツ節を堪能できる