岸辺のヤービ (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
4.01
  • (83)
  • (104)
  • (60)
  • (7)
  • (2)
本棚登録 : 1100
感想 : 112
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834081978

作品紹介・あらすじ

寄宿学校で教師をしている「わたし」は、ある晴れた夏の日、学校近くの三日月湖、マッドガイド・ウォーターに浮かべたボートの上で、ふわふわの毛につつまれた、二足歩行するハリネズミのようなふしぎな生きものと出会います。そして、一粒のミルクキャンディーがきっかけとなり、「ヤービ」と名乗るその生きものと「わたし」の交流がはじまります。ヤービの語る彼らの暮らしは、穏やかだけれど、静かな驚きに満ちていました。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ディストピア物を読んだ後なので、本当に癒された。

    まだ豊かな自然が残る湖沼地帯に住む小さな生き物たちを取り巻く物語。
    こうやって、今あるものを大切に、互いを思いやり、出来る限りを尽くそうとする気持ち。
    大きな人(人間)が、忘れ掛けてしまっているものを思い起こさせてくれる。

    決して批判的でなく、戒め的な厳しさもなく、優しさで包まれるような物語。
    それでも、やはり大きな人たちの経済活動の影響が見え隠れする。
    続編も読みたい。

    2021.12.19

  • 「ヤービ」という、架空の動物の生態と、マッドガイド・ウォーターの岸辺に棲む、実在する鳥や虫、動物や植物の生き生きとした姿を、見事に同居させながら、薫り高い自然の息吹をも感じさせてくれる、この作品は、さながら、ファンタジーを塗した、「センス・オブ・ワンダー」といったところでしょうか。

    それから、小沢さかえさんの画ですが、以前に読んだ「チャーちゃん」とは、全く異なる感じなのが、また印象的で、「チャーちゃん」の哀愁を感じさせる幻想的な美しさに対して、ヤービの画には現実感があり、架空の動物に血肉を与えたような、自然な佇まいには違和感がなく、実在するかのようです。

    そんなファンタジー要素を含んだ世界であるのに、現実感の強い本書を読みながら、私自身もマッドガイド・ウォーターの、たそがれ川のボートの上にいて、ヤービとともに、クジャクチョウを眺めたり、湿原の冷たくて気持ちよい風を感じたりと、自然の素晴らしさを追体験しているようで、なんて素敵で心地好い場所なんでしょう。

    ただ、そんな場所にも、人間の環境破壊を思わせる描写があることには、胸が痛む思いがしましたが、もしかすると、読者がヤービの暮らしを見ることで、自然保護の大切さを考えるきっかけになるのかもしれませんね。

    そうした思いから、是非、多くの子供たちに読んで欲しいです(児童書なんですけど、内容的にはやや渋く、大人も楽しめるのは、梨木香歩さんがこの作品を、「永遠の子どもたちに」 捧げていることからも窺える)。

  • 大好きな梨木香歩さんの児童書がでたぁ。箱に入った美しい製本。それだけで心躍るのだ。福音館の創作童話シリーズとか福音館古典童話シリーズだいすきなのよね。児童書はハードカバーがすき。あの大きさ、腕に抱えたときのどっしり感。ページの質感・・・・・・一冊の本を何度も何度も読み返した子どものときのワクワク感が甦ってくる。でも児童書は高いからなぁ。なかなかお家の本棚には並ばないよぉ~
    まずは、ストーリーに入る前に。表紙にうっとり。
    とっても可愛い表紙のコ(ヤービ)とうっそうと茂る草木の色合いやタッチがすごく好み!表紙をめくると物語の舞台となるマッドガイド・ウォーターの岸辺付近の地図が。あれ?まんなかの湖(三日月湖)なんだか琵琶湖に似ているぞ。(全然違ったらごめんなさい!あくまでわたしの第一印象なので・・・・・)あとで知ったんだけれどこの絵を担当されてる小沢さかえさん、生まれ育ったのは琵琶湖畔みたい。そういえば、梨木さんも滋賀県に住んでおられたことが。うわぁ、なんだか身近に感じる。それだけでわたしにとって大切な物語になる。
    児童書なのですぐに読めるんだけれど、もったいなくてゆっくり時間をかけて読んだ。
    ヤービというちっちゃなちっちゃなはりねずみのようなおとこのことウタドリさんという大きい人(人間)とのやりとり。ヤービたちクーイ族の生きる術。自然や生物とのかかわり合い。たんなるファンタジーではない。わたしたちの周りでも起きていることがこのマッドガイド・ウォーターでも起きているのだ。この物語から大切な何かを見つけ出せるようなきがするの。とってもうれしいことにこれから物語は続いていくよう。壮大に広がっていきそうな予感。楽しみ!

  • 大きな夕日がゆっくりと湿原の向こうに沈んでいく。
    吹いてくる風には生きものの香りがする。
    それは優しくて懐かしい命のにおい。

    マッドガイド・ウォーターの岸辺に棲む小さな生きもの・クーイ族の少年ヤービと、ヤービから岸辺の話を静かに聴く人間のウタドリさん。
    四季の移ろいを肌で感じながら、穏やかな二人のやり取りに、読んでいてゆったりとした気持ちになる。
    可愛らしい小さな生きものたちの世界も人間界と同じく苦労が多い。
    「そんざいのつみぶかさ」に悩み食べ物が食べられなくなったり、恐ろしいカワガラスから隠れたり。
    一見穏やかで平和な岸辺にも危険が潜む。
    そして人間との共存の難しさを目の当たりにすると、現実に人間が小さな生物に与える影響を省みらずにいられない。
    もし私が岸辺でヤービと出逢えたとしたら、そっと近づきミルクキャンディーを差し出してみよう。
    きっと色々なお話を聴かせてくれるに違いない。

    ぜひ映像化してほしい作品。
    続編でまたヤービたちに逢えるかな。

  • 舞台はマッドガイド・ウォーターという名の小さな沼地、語り手はこの沼地の近くにある寄宿学校の先生です。
    マッドガイド・ウォーターにボートを浮かべ、本を読んでいた彼女が偶然出会ったのは、今まで見たこともない小さな生き物でした。

    ふわふわの毛に包まれた体、でも顔の部分は毛がなくて、もぐらかネズミのような長めの鼻面をしているクーイ族の男の子・ヤービ。
    好奇心旺盛で素直なヤービは、ずっと見ていたくなる、気持ちのよい子だなぁと思いました。
    ヤービの周りは楽しいこともあるけれど、心配なこともいくつかあるようです。
    この先続いていく物語の中でヤービたちがどのように成長していくのか、見守っていきたいと思います。

    挿絵と文章の優しさが絶妙にマッチしていて、古きよき児童文学を読んでいるような気持ちになりました。
    ボート、沼地、岸辺の動植物にふしぎな生き物…などなど、梨木さんの好きなものが凝縮されたような物語で、きっとものすごく思い入れのある作品なのだろうと思います。
    身近な自然の中にも生命の循環が営まれていること、そして私もその一部であることを、改めて思い出させてくれました。

  • ヤービは三日月湖の岸辺に住む小さい生き物。主人公がヤービに出会った場所も人間による環境変化で小さい生き物達が住みにくい所となった。へこたれずに自分を取り巻く世界に向かって「がんばれ」と励ますヤービの姿が好印象。

  •  創作童話シリーズとなっているが、大人が読んでも充分に楽しめる内容となっていると思う。
     むしろ子供にはちょっと難しい言葉使いとかも使用しているような気もする。
     マッドガイド・ウォーターという三日月湖の岸辺に住む生き物たちの物語。
     生き物の中には勿論人間も含まれる。
     命あるものを殺して食することの葛藤や、大きい人(人間のこと)による自然への干渉、それに伴う環境破壊、そういった諸問題が随所に出てくる。
     勿論、答えは用意されてはいないけれど、それは読者である我々が、本書に登場してくる命ある者たちと一緒になって考えるべきことなのだろう。
     いずれ続編が発表されるはずなので、是非そちらも読んでみたいと思う。

  • <span class="deco" style="font-style:italic;">ある晴れた夏の日、わたしが、湖に浮かべたボートの上で出会ったのは、ふわふわの毛につつまれた、二本足で歩くハリネズミのようなふしぎな生きもの、「ヤービ」でした。</span>

    梨木さんの新作!そして大好きな児童書ということで期待大♪
    体調が回復してきた頃からゆっくりゆっくり味わって読みました。

    クマのプーさんのイメージに近いのかな?海外の作品を読んでいるようでした。
    マッドガイド・ウォーターという地名やカタカナ名の登場人物ばかりだったからかもしれませんが、とても不思議な気がしました。

    じんわり温かくて優しい物語。

    主人公のヤービがとても愛らしくてすぐに大好きになりました。
    ウタドリさんもセジロもトリカもみんな魅力的。

    小沢さかえさんの挿絵も物語の世界にぴったりでとても素敵でした。
    見返しの地図もマッドガイド・ウォーターのイメージが自然と浮かんでいい感じ。

    最後の「みんな、がんばれ」にはじーんと感動してしまいました。
    力がわいてくるような、
    なんだか読者にもエールを送ってくれているようで幸せな気持ちになりました。

    シリーズ第一作とのこと。
    これはまだ序章なんでしょうね・・・続きを楽しみに待ちたいと思います。

  • 西の魔女が死んだ」で有名な梨木香歩さんの児童書。海外の翻訳物のような雰囲気を持つ1冊でした。 岸辺に住む小さな生き物ヤービと、人間との交流。そしてヤービの冒険や成長の物語です。 優しくて癒されます。挿絵もかわいくて、全体を通して雰囲気がステキな1冊☺️

  • 学校の先生をしているウタドリは、ある日ボートに乗っているとき、クーイ族の小さなお男の子ヤービに出会います。思わず手にしていたミルクキャンディーを彼に差し出しましたが、この事から、彼女は彼から、彼らの生活についてのいろんな話を聞かせてもらうことになるのです。

    このお話の大部分は、彼女が彼から聞いたことを書いたものですが、最後の、環境破壊に伴うお引越し問題については、続編での展開が望まれるところです。

    日本版ムーミントロルといった感じ。

    梨木香歩流の自然描写が、美しくも楽しい。

    物語自体は平易だが、結構な量があるため高学年向きでしょう。

全112件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梨木香歩の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
梨木 香歩
エラ・フランシス...
梨木 香歩
伊坂 幸太郎
梨木 香歩
恩田 陸
辻村 深月
ヨシタケ シンス...
クラフト・エヴィ...
荻原 浩
宮下奈都
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×