さいごのゆうれい (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
3.92
  • (14)
  • (27)
  • (17)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 301
感想 : 34
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834086065

作品紹介・あらすじ

世界中が「かなしみ」や「こうかい」を忘れて、だれもが幸せだった〈大幸福じだい〉と呼ばれた時代があった。そんな時代の夏休み、小五だったぼくは、田舎のおばあちゃんちに預けられた。空港のあるその町で、いわゆる「お盆」の、その最初の日に、ぼくは、ひとりのちいさなゆうれいに出会った。その子はいう。自分が、ゆうれいのさいごのひとりかもしれないと。ゆうれいを救い、世界を取り戻すために、ゆうれいと過ごした四日間。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • タイトルに、「さいごの」を付けるのは、ずるいなと思う。しかも、その後に続くのが「ゆうれい」ときたら、もう涙なしでは読めない作品なのではないかと、勘ぐってしまう。

    私がこう思ったとき、あるわけがないと思いながらも、「永遠」というものを、信じたいのだろうし、それに縋りたいのだろうなということを、実感させられる。
    要するに、最後なんて来ないでくれと、思いたいのだ。そんなわけ、ないのにね。

    最後は、時に、別れということもできる。
    おそらく、別れの際に生じるのは、「かなしみ」。

    だったら、「かなしみ」がこの世から無くなれば、皆、幸せになれるのではという、ひとつの試みをしているのが、この作品。

    ところが、無くなったからといって、幸せになれるわけではなかった。

    悲しみを無くすということは、確かに別れた事実は無くなるが、その人の存在や記憶も、当事者の頭の中から無くなってしまう。
    こう思い当たったとき、「あれ?」と思った。

    いやいや、待てよ、だって、まず大切な人を失ったら、心が壊れるくらいの、言葉では形容しがたい、大きな痛みや苦しみ、そして、悲しみが付き纏って、とても辛いんだよ。

    でも、その人の存在や記憶が、突然、私の心から消え去ってしまうことを想像すると(そもそも消え去った事実を覚えていない)、仮に失った後だとしても、それは、とても恐いし、辛く、悲しいし、それこそ、絶対に嫌だと感じてしまうだろう。

    ・・ということは、もしかして、この作品は、悲しみを自分の中で、自分なりに消化してゆく方法を、私に教えてくれていたのか、ということになるのだろうか。

    詩人の、斉藤倫さんの作品では、これまで読んだ中で、もっとも完成度が高く、児童書の枠では収まらない、序盤の様々な伏線も見事な物語に、それぞれに過去の「かなしみ」を抱いていた、魅力的な登場人物たち(ハジメ、ネム、ミャオ・ター、ゲンゾウ)のエピソードを知ることで、改めて、「かなしみ」って、なんだろう? という難しくも向き合わねばならない課題を考えさせられ、「西村ツチカ」さんの可愛くほのぼのとした素敵な画が、物語を更に盛り上げてくれる。

    また、私が特に印象的だと感じたのは、ハジメと、ゆうれいのネムの思い。

    ネムが、ゆうれいは、「いる」ではなくて、「ある」が正しいと言い張りながらも、時に、矛盾した言い回しをする、その裏にある思いと、ネムが「おいしい?」と聞いて、ハジメが「おいしい」と答えた、ただ、それだけのことを、何年たってもハジメが繰り返し思い出す、その真意を、読み終わった後に理解したときの切なさは、何とも言えないものが。

    しかし、結末が「かなしい」のかというと、案外そうでもなく、子供たちには、人として、ひとつの成長を感じるだろうし、大人にとっては、悲しみと寄り添って生きていくことへの、ひとつの励みになるのかもしれないし、ゆうれいという、存在を通じて、人が人を思い続けることの意義を、実感させられたことは、私にとって、最も大切なことのように感じられた。

  • 〈大幸福じだい〉悲しみや後悔がない時代。
    いいじゃない?
    これは、そんな時代が終わり悲しみが戻ってくるまでの物語。

    小5夏お盆、ハジメはおばあちゃんの田舎で最後のゆうれいネムに出会う。
    ゆうれいがいなくなったのは、悲しみを手放したことで、亡くなった大切な人を思い出さなくなったからだという。
    ネムに導かれながら、ハジメと托鉢坊のゲンゾウ、動物保護活動家のミャオ・ター、それぞれが大切な人たちを思い出す。過去の大きな悲しみと共に。そして、ハジメも。

    後悔を伴う悲しみは苦しい。思い出したくない。悲しみは人を壊すこともある。
    そんな辛さを味わっても〈忘れない〉そのことを選択したみんなの気持ちに胸が締め付けられた。

    登場人物や物語展開はユーモアさえ感じられるのに、訴えてくるものが深い。けれどその言葉はどこまでも優しく、美しい。

    西村ツチカさんの挿し絵がまた良い。
    単純に描かれているネムの存在感が曖昧でゆうれいらしく(って見たことないけど)、表情や仕草がなんとも愛らしかった。

  • 表紙と本文のイラストに惹かれて読み始めた。飛行機が大好きな少年が、祖母のもとで過ごした夏休みの不思議な出来事。
    イラストが物語を優しく解説してくれて、内容が理解しやすかった。クライマックスで一気に伏線が回収されていく。切ないが、前向きになることを教えてくれる小説だった。

  • 斉藤倫さんでこのタイトル、というだけでもう泣かないわけないよね…。
    忘れられない一夏のこと。
    悲しみがなかった頃の、未来の話。
    未来、なのだけど今の現実と繋がってひやりともする。
    けれど、物語を包む(まさにロールキャベツのキャベツのように!)眼差しは温かくて、胸に滲みた。
    挿画もぴったり。

  • 「かなしみ」という言葉がもはや死語となっている時代に生きるぼく。
    小五のなつ休み、父親が仕事で忙しいため田舎のおばあちゃんのお家に預けられた。そこはすぐ近くに飛行場がある。飛行機を見るのが好きな僕は、毎日毎日、飽きもせず飛行機を見に飛行場へ行った。
    ある日、見たことのない飛行船のような機体が遠くから降りてきた。それは滑走路を外れて着陸した。様子のおかしい飛行機をじっと見ていると、開いた機体からたった一人の小さな人影が降りてきた。その子は自分のことを「ゆうれい」だって言う。


    途中で断念しそうになりましたが、最後まで読んで良かったです。
    自分はファンタジーがあまり得意ではないのだなと改めて分かりました。入り込むのに時間がかかりました。

  • 最高な物語です。最初読んだ時は、どういうわけかわからなかったけど読み終えた時に読むとなるほどと思えました。

  • 小5のハジメは、科学者のお父さんと二人暮らし。お父さんの仕事が忙しいので、夏休みはおばあちゃんの家に行くことになる。田舎の町には最近飛行場ができた。飛行機好きなハジメは毎日飛行機を見に出かけた。そしてお盆航空に乗ってやってきた女の子ネムとであった。ネムは、最後のゆうれいなのだという。トラのようなミャオ・ターと虚無僧のゲンゾウの4人で、消えて無くなりそうなゆうれいの国を救いに行くのだが…?

    児童書らしい空想物語などと思ったら大間違い。悲しみとは何か、人を思う気持ちとは…奥が深い話だった!

  • ”わからないことばを引くと、もっとわからないことばが書いてある”辞書の感覚にふふっとなりながら、そうだった。キリがなかったなあ。とじんわり思い出すことが散りばめられていて、それは”かなしみ”でも”こうかい”の気持ちでもなく知らぬ間に取り込まれている成分、でもなく、ただただ、「忘れていた」のだけれど、思い出すと、結構大切なことや感覚だったりして背筋が伸びる気持ちになる。

    ハジメくんが”草”サラダを2週間食べ続けたことも、おいしい。と感じるようになったこともとても素敵だ。
    ”忘れたい””忘れてしまいたい””忘れられたら”
    「今」は幸せだ。でも、「未来」ではそんなことなくて、その感情をどうやって自分の中で溶け込ませていくのかは、生きる、うえでの課題なのかも。いや、課題、というより、いきる。ということなのかも。

    やさしくてかなしくてあたたかくて
    ぎゅっとしたくなるお話だった。大好き。
    ツチカさんの装画も吸い込まれそうで
    とてもすてきだった。

  • カ、カバーの女の子が光っとる(゚A゚;)!?凄い!とまず思う(^^)内容は難しい(--;)これ本当に児童書か?と思うくらいに(._.)「かなしみ」が薬で無くなってしまった世界、ゆうれいも絶滅寸前だという…(゜゜;)そんな世界があれば良いな~とも思うけれど、やっぱり「かなしみ」は必要(T-T)死後にお盆航空を利用したい(^^)

  • 「かなしみ」や「こうかい」は忘れた方が幸せなのか。なんだかのっぺらぼうにみえる。引き受けるから、ずっと抱え続けるから未来があるようにも思う。でもトワイライトみたいにもし知らない間に薄められて消されたら。しかもそれが大切なものだとしたら。ぞっとする。でもこれはない話じゃないように思う。最初の展開はゆったりのんびりしてるのに最後にドラマティックな展開が待っているのは斉藤倫さんの物語の特徴かもしれない。いい意味での裏切りと驚き。

全34件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

斉藤倫 詩人。『どろぼうのどろぼん』(福音館書店)で、第48回児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に『せなか町から、ずっと』『クリスマスがちかづくと』『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』『さいごのゆうれい』(以上福音館書店)、『レディオワン』(光村図書)、『あしたもオカピ』(偕成社)、『新月の子どもたち』(ブロンズ新社)』絵本『とうだい』(絵 小池アミイゴ/福音館書店)、うきまるとの共作で『はるとあき』(絵 吉田尚令/小学館)、『のせのせ せーの!』(絵 くのまり/ブロンズ新社)などがある。

「2022年 『私立探検家学園2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

斉藤倫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×