泳ぐのに、安全でも適切でもありません

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834250619

作品紹介・あらすじ

いろんな生活、いろんな人生、いろんな人々。とりどりで、不可解で。江国香織初の書き下ろし短編小説。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカの田舎町の川べりの立て看板<遊泳禁止>の文言が引用された表題作を含む10篇の短編集です。<泳ぐのに、安全でも適切でもありません It's not safe or suitable for swim.>この注意書きを、人生に置き換えると、先々にどんな危険が待ち構えているかを気にかけながら生きるよりも、今この瞬間に情念を傾けて生きること、そんな奔放な女性たちの、やるせなく切ない愛の風景が綴られています。

  • 14年ぶりの再読。
    ここまで間が空くとすっかり新作のような気分で読んだ。

    10のお話から成る短編集。
    「愛にだけは躊躇わない、あるいは躊躇わなかった、女たちの物語になりました」(あとがきより)

    このタイトル自体は冒頭に収録されている短編のタイトルにもなっているのだけど、そのお話に限らず全編通して、安全で適切な恋愛なんてこの世には存在しないのかも、と思わされる、そういう共通点があるように思った。
    ある程度幸せな“現在”が描かれている作品でも、どこか刹那的というか、ずっと続くような予感がしないというか…見た目は穏やかなのにどこか不穏さを感じるようなお話が多かった。私の感じ方の問題かもしれないけれど。

    終わってしまった愛、どことなく終わりが見えてしまっている愛、どうにか繋げている愛、倫理的ではない愛。
    様々なかたちがあるけれど、それに包まれている(いた)時女たちは幸福だったのだ、と思う。
    そういう感覚は自分自身、身に覚えがあるから分かる。
    正しさ、とかではなく、周囲から見たら不穏だとしても、その時自分は幸福だったと言い切れるようなもの。

    それでも、どこかあっさりと乾いているところが江國ワールド。色香はあるのにいやらしくないところも。

  • 「It's not safe or suitable for swim. [...] 遊泳禁止の看板だろうが、正確には、それは禁止ではない。泳ぐのに、安全でも適切でもありません。私たちみんなの人生に、立てておいてほしい看板ではないか。」(22ページ)

    人は誰しもそれぞの人生を泳いでいる。
    そして、誰しも人は、誰かを愛していたか、愛している最中なのだ。
    けっして、愛がその人生において安全でも、適切でなくても、
    人はそうしてしまう。そんな物語り。

  • 表題作ほか9篇収録の短篇集。

    心の柔らかい部分にしみいるような江國さんの文章が好きだ。

    文章に身をゆだねてみる。すると、全身で読書しているような感覚を味わうことができる。

    登場人物たちが食事をする場面が多くて、無性にお腹がすく。特に2番目に収録されている、「うんとお腹をすかせてきてね」が良かった。

    p30 「あたしたちは毎回、我ながら見事に食事をする。」
    「感覚という感覚を全部使ってきれいに食べる」

    親密な男と女が、共に食事をし、共に寝る。
    要約するとただそれだけの物語。

    でもよく考えてみると、これはとんでもなく幸せな物語なのだ。

    食欲と性欲と睡眠欲という三大欲求を満たす行為を、
    共に楽しんでくれるパートナーがいるということ。

    人間として、生き物として、最高の幸せだ。

  • ひとりひとりの女性が、幸せそうで、全く幸せそうじゃない。
    でも誰にでも幸せな一瞬は確実にあったんだね。

  • ガラス張りのアパートのよう。

    収録されているのは十編の短い短編、その話ごとに世界観はがらりと変わってしまうのに、なんだか全て切ない共通点がある。

    全く違う生活を営む人たちの共通点は部屋は違えど"居住地"。
    そのことの自然さと偶然さと哀しさを随所に見せながら、住人同士の生活を触れられない域で傍観しているかのような透明な読み応え。

    『うんとお腹をすかせてきてね』は唯一何度も何度も読み返した。

    ああ、そうだったのか、と。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      江國香織って、不思議なタイトルの本が多いですね。
      そのセンス惹かれるけど、今迄読む気にならなかった、、、でも「自然さと偶然さと哀しさ」は味わ...
      江國香織って、不思議なタイトルの本が多いですね。
      そのセンス惹かれるけど、今迄読む気にならなかった、、、でも「自然さと偶然さと哀しさ」は味わってみたいな(文庫になったら読んでみよう)。
      2013/01/10
  • 2002年5月9日読了。以下、過去の日記から抜粋。

    最新短篇集。恋愛に関するものばかり。
    しかも起承転結が見つからないほどの短篇。
    そこに江國女史の魅力が凝縮されているような作品である。
    さて、表題作「泳ぐのに、安全でも適切でもありませんとは・・・
    結局何のことかといえば、すなわち「人生」のことであった。
    チキショウ、やられたっと思った。
    読むまで全然分からなかった、変なタイトルだと思っただけだった。
    本当にプロのセンスってのは凡人を超越したところにあるのね。

    好きなのは表題作と「うんとお腹をすかせてきてね」
    あいかわらず不倫の話なのだけれど、どこか可愛い二人が描かれている。
    食べ物の趣味が合うということは本当に必要なことなのだなと思う。
     
      あたしたちは毎晩一緒にごはんを食べる。
      (中略)
      だからあたしは思うのだけれど、あたしたちの身体はもうかなり
      おなじものでできているはずだ。
      栄養素というか、肉体的組織の構成成分として。

    こういう意識の持ち方は非常に素敵な気がする。

  • 今回初めて短編集を拝読。江國さんは長編の方が個人的には好みかもしれない。ただ、好きな方にはこの小説は好みかもしれないと感じた。
    恋愛のもどかしさや女性特有の感じ方、感情が随所に散りばめられていると感じた。

  • 初めて江國香織さんの本読んだ。
    文章が詩的で行間があいていて、小川洋子さんの感じに近いと思った。
    短編集で全て女の人の話。
    あんまり共感できるところはないけど、
    自分のことを振り返ってしまう間がある。

  •  


  • 「It’s not safe or suitable to swim・・・私たちみんなの人生に、立てておいてほしい看板ではないか。」

    「何かを恐れているより、恐れていることが起きてしまう方が、すくなくとも安全な状態ではないか。」(『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』)


    「女は、いい男にダイエットをだいなしにされるためにダイエットをするのだ。」(『うんとお腹をすかせてきてね』)

  • 10の短編集の中で、印象深いのは「りんご追分」。
    今生活している現実を、どうすることもできない、その気持ちにとても共感した。

    ⭐︎どうしてだかわからない。私の心臓が泣き始めた。号泣、と言ってもいいような泣き方だった。「りんご追分」がしみてしみて、早朝の公園で誰かが練習しているその「りんご追分」を、私は全身で捕まってしまった。

    ⭐︎私の心臓は架空のもののために泣いていた。架空のものたちと、現実の智也と、現実のあたしのために。

    りんご追分という曲は知らなかったので調べて聴きました。主人公の心臓が泣き始めたが、痛いほど伝わってきた。

    江國香織さんの作品をもっと読みたいと思うあとがきでした。

  • 江國香織さん2作目。大体わかってきました。
    続いて読んでみたい。

  • 江國さんっぽい作品だなと思う。

  • 「愛にだけは躊躇わない女たち」を描いた短編集。
    江國香織が書く「女」は、わかる人にはとことん共感できるが、わからない人にはさっぱり理解できない生き物であると思う。
    私は残念ながら後者だが、時たま共感を覚える文章が出てきてハッとした。
    『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』という言葉と出会えたことが一番の収穫。

    <収録作品>
    泳ぐのに、安全でも適切でもありません/うんとお腹をすかせてきてね/サマーブランケット/りんご追分/うしなう/ジェーン/動物園/犬小屋/十日間の死/愛しいひとが、もうすぐここにやってくる

  • 泳ぐのに、安全でも適切でもないけれど、
    どんな人にも物語があってそれぞれの人生が哀しいけどどこか輝いていて、いいな、とおもう。
    あとがきも良かった。

    瞬間の集積が時間であり、時間の集積が人生であるならば、私はやっぱり瞬間を信じたい。

  • 女性の恋バナ短編集。
    イタイ恋バナばかりが延々と続く・・・。
    不倫とかひも男とか、私には「だったら捨てちゃえ!」としか思えないような話ばかりで、イラっ。そもそも、そんなのを愛することができるっちゅうのが、私には理解できない。辻仁成さんとのコラボ小説から読み始めた作家さんだけど、苦手かも。

  • タイトルがすごく好き
    サマーブランケットの話が一番かな

  • 地の文で一人称が「あたし」のものが苦手なので、ほぼひとつおきにしか読めなかった。
    ダメな男に嵌る人の頭の中ってこういうパターンもあるんだな…と勉強に(?)なった。

  • タイトルからもわかるように江國さんの世界観満載です。
    愛だけは躊躇わないーあるいは躊躇わなかったー女たちの物語。恋愛短編小説です。
    文中に出てくる表現にクラクラします。ほかの作家さんが真似できない独特な感じ。特に何か起こるわけでもなく、サラリと読めますが、濃厚さを感じます。
    生きることも、恋をすることも安全でも適切でもなくて、それぞれの形で思い躊躇うことなく愛に生きていく姿が素敵です。
    「瞬間の集積が時間であり、時間の集積が人生であるならば、私はやっぱり瞬間を信じたい。」
    江國さんに惚れてしまいます(笑)

  • また読むかと聞かれても読まないとこたえるかな

  • 素敵な短編集。江國さんの文章を読むと快適な生活を送りたくなる。雨の日の匂いがしてきそう。最初の話は悲しかった。

  • 「あたしたちは物事を複雑にしない術をちゃんと学んだ。」
    「肉体の美しさを、実例抜きで認識することはできないもの。」
    「大切なのは快適に暮らすことと、習慣を守ることだ。」

  • "It's not safe or suitable to swim. 私たちみんなの人生に、立てておいてほしい看板ではないか。" 本文より引用です。
    かわったタイトルですが私自身まさにその通りだと思いますね。

    九州大学
    ニックネーム:おてらか

  • 十本ある短編小説の中で、特に気に入ったのは『うんとお腹をすかせてきてね』。
    いつだったか、食と性はつながっているとかなんとかって聞いたことがあって、この短編小説を読んで「ああ、なるほど」と思った。
    全部ひっくるめて愛し合っているというか、もう愛とかそういうことじゃないような気もするような。
    そして羨んだり。

  • 愛に対してだけは毅然とした、でもその他に関してはアンニュイな雰囲気の漂う作品が集約されていました。

  • うんとお腹をすかせてきてね…よく食べる男女
    りんご追分…バー『ねじ』で働く女性
    ジェーン…家庭のある男と不倫をし、大学をやめて海外に移住し、ジェーンとルームシェアをし始めた女性
    動物園…子を持つ女性、別居中だが険悪ではない夫との夫婦仲
    作者曰く、「愛にだけは躊躇わない──あるいは躊躇わなかった──女たちの物語」

  • 短編。

    入院した祖母の見舞いに集まった母と男運のない姉妹。
    愛し合う二人でいれば、食事も睡眠も幸福そのもの。
    海の家でひっそりと暮らしながら、時々訪ねてくる若いカップルに刺激を受けるまどろみ。

    煮え切らない恋愛と、夜のバーでの出来事。
    習い事で知り合った主婦の他愛ないボーリングでの喪失感。
    ルームシェアしたジェーンと終わりかけた恋。

    息子と行った雨の動物園と遠ざかる愛しい夫。
    犬小屋に執着する夫の奇行を夫の兄の元妻に話すひととき。

    フランスでの妻がいる人との思い出と失恋、再生。
    帽子屋を営み、また恋をする待ち遠しい瞬間。

    愛に躊躇わない女たちの話、らしい。

    かつての思い出、そしてこれから過去になって行く今を愛おしく感じているような
    甘ったるくていつかは終わってしまうのが切なくて
    じっとかみしめているような雰囲気を受けたよ)^o^(

  • (2002.04.15読了)(2002.04.12拝借)
    (「MARC」データベースより)
    さまざまな男女の関係を独特の筆致で描く、初の書き下ろし短編集。「泳ぐのに安全でも適切でもない」人生のなかで、蜜のような一瞬を生きる女性たちの、凛々しくて、切なくて、幸福な珠玉の物語10編を収録。

    ☆江國香織さんの本(既読)
    「すいかの匂い」江國香織著、新潮社、1998.01.30
    「神様のボート」江國香織著、新潮社、1999.07.15
    「冷静と情熱のあいだ Rosso」江國香織著、角川書店、1999.09.30
    「薔薇の木枇杷の木檸檬の木」江國香織著、集英社、2000.04.30
    「ウエハースの椅子」江國香織著、角川春樹事務所、2001.02.08
    「ホテルカクタス」江國香織著、ビリケン出版、2001.04.
    「日のあたる白い壁」江國香織著、白泉社、2001.07.23
    「東京タワー」江國香織著、マガジンハウス、2001.12.07

  • 冷静と情熱以来の江國作品。サラッとした中のソウルフルなテイスト‥解りづらいな、瞬間の集積が時間であり時間の集積が人生ならば~という後書きがこの小説達を物語っている。短編集なのに全ての作品がタイトルを素直に感じさせるブレない安定感が凄い。相変わらず言葉の使い方が上手い。結論として、間違い無く江國香織が好きなんだろうな。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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