白い人たち 新装版

  • 文芸社
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784835591520

作品紹介・あらすじ

スコットランドの自然を舞台に死者の魂を色白の美しい人として見ることのできる少女が語る。神秘的で幻想的な物語。本当の意味での人間になれますようにとのバーネットの願いが随所に溢れる、心温まる作品。

感想・レビュー・書評

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  • 『小公子』、『小公女』、『秘密の花園』。これらの作品についてまったく聞いたことのない方はいないと思う。著者の名がバーネットだと知っている方も多いだろう。しかし、同じ著者に『白い人たち』というすぐれた作品のあることは、案外知られていない。
    砂川宏一訳以前には、川端康成訳『小公子』(ポプラ社、一九五八年刊)の中に、全体の一部を略した抄訳がある。ここでの題は『白い人びと』。砂川氏も元は川端の抄訳でこの作品を知り、忘れられなくなる。どこかから完全訳の出るのを二十年以上待ち続けたが、ついに自ら手がけることとなった。そのエピソードからも、物語の持つ魅力が推し量られる。
    主人公の少女イゾベルは、スコットランドの荒野に聳える古城の主。両親はなく、遠縁の親戚二人に育てられた。外界との交渉がほとんどない生活を送っている。ある日ロンドンに出たイゾベルは敬愛する小説家と知り合い、彼の母親とも親しくなる。
    二人を慕い、二人からも慕われて過ごすうち、イゾベルは自分が神秘的な能力を持っていることに気づく。小説家と母親は、とある「恐怖」に囚われている。イゾベルの持つ能力は、二人をその恐怖から救い出すことのできるものだった。
    登場する人物たちの姿から、ふと「愛別離苦」という仏教用語が連想された。愛別離苦は、人が人生で味わう八つの苦しみの中のひとつ。愛する者と生別、死別する苦しみの意だ。バーネットには息子が二人いたが、長男は病死。その悲しみを経て書かれたのが『白い人びと』だ。作中には聖書を賛える台詞が多く見られる。 バーネットは敬虔なキリスト教徒だった。苦しみや悲しみなど、現実生活での問題を解決するためのテキストとして、聖書を深く読み込んだのだろう。そして生み出したのは、宗教や人種を超えて人間の共感を呼ぶ話だった。
    物語の終盤の美しさは比類なく、まるで文章自体がひとつの救いであるかのようだ。短編集『掌の小説』で哀感溢れる幻想譚を綴った川端康成が訳をこころみたのも頷ける。抄訳の載った『小公子』は現在入手が難しいが、図書館などで手に入れば、完全訳『白い人たち』と併読してみるのも興味深い。

  • 『小公女』や『小公子』を書いたバーネットの作品。
    児童文学のようで大人向けの物語でした。

    見えない人々が見えてしまうヒースの中の城に住む少女と彼女を見守る二人の大人、後にロンドンで出会い少女と深く結び付く母と息子の五人が主な登場人物。
    『恐怖』と文中にはある根源的な畏れや人間の在り方をヒースの美しい世界や庭園で語る人々の姿は重いテーマでも読みやすく、夢を見ているような心地で読めました。

  • 翻訳者の砂川さんが20年以上も前から縮小された抄訳を愛読していて、ずっと完全版を読みたいと思っていたけど、原書はもう出版されていず手にはいるのをあきらめていたそう。なので、この本が翻訳されたいきさつは、とても奇跡的。その奇跡の、おかげで、たくさんの人が、こんな素敵な物語があること知り、読むことができているんだと思うと、すごいことだなと思った。
    物語は荒野の中のお城の相続人である若い女性が、人々が退屈するような土地や自然を愛して日々を楽しく暮らしているのだけど、彼女には他の人とは違う能力が備わっている。普通だと少し怖いと思うかもしれないけど、主人公の純真さや主人公を取り巻く人々の思いやりの心が素敵で、とても美しくて、不思議なやすらぎを感じられる物語だと思った。

  • 静かな感慨…。
    バーネット夫人がこうした作品を書いてくれていたとは、ねぇ。
    フランシス・H・バーネット、『小公女』『小公子』『秘密の花園』でおなじみのバーネット夫人の幻の名作が完訳されていたと、最近知りました。

    人里離れたスコットランドの自然の中で、死者の魂を色白の人として視ることができる少女が穏やかに語る幻想的な物語。
    人生について深みのある内容を、あくまで平明な文章で、客観的に語ってくれます。

    主人公のイゾベルは幼くして両親が他界した後、幸いにも賢明な人物であったジーンとアンガスに囲まれ、その希有で繊細な魂が守られ育ったという感じ。
    ところで、つまり、イゾベルはクレアボヤント(透視能力者)ですね。
    実は、この作品自体が大変“スピリチュアル”(この言葉、昨今、巷で溢れていてあまり好きでないけど)で、読んだ時は新鮮な驚きがありました。

    私の愛読書であった一連のバーネット作品と繋がっていく嬉しさも。大人になって完訳でそれぞれ読み返してみた時、バーネットの児童文学は物語の面白さだけでなく、人生についての深い洞察が垣間見られたことを感じていました。

    そしてこの『白い人たち』には、偶然はなく、すべての物事は自分自身が引き寄せているという哲学、また、いわゆる“ワンネス”(全てのものは一体である)だったり、体外離脱に近い、そうした言葉に表わしにくい感覚が美しく描かれているのです。
    また、一般的に、人が未知のものとして“肉体を離れる死”を怖れと捉えがちなのに、イゾベルは怖れる必要のないことを“知っている”のです。

     でも、実際のわたしは、好奇心からあれこれ知りたがるような子どもではありませんでした。わたしは、すべてのものを、ただあるがままに受け入れたのです。 第一章 最後の部分

    まさに、すべてのものをただあるがままに受け入れられたら…
    人生も世界も大きく変わることでしょう。としみじみ思うのでした。

    ※追記:

    後で、原書を試し読みして気がついたのですが、作品の冒頭の部分にある献辞が、翻訳本には載っていません。(載せてほしかったな)To Lionel (ライオネルに献げる)と始まる四行詩ですが、このライオネルというのは、バーネットの15歳で病死した愛息のことのようです。つまり、この作品には、登場人物を通じて、作者の思いも色濃く反映しているのですね。

    これも蛇足ながら、バーネット自身は児童文学作家であるつもりはなく(子ども向けにも書いたが)、小説家として書いていたようです。2004年に出たという彼女の伝記(The Unexpected Life)も読んでみたいな。

  • 訳がよみにくい・・・

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