名将の演出―号令・命令・訓令をどう使い分けるか

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  • マネジメント社
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784837803881

感想・レビュー・書評

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  • ○この本を一言で表すと?
     戦法の考え方とその実例とそれらから導き出される経営学の本


    ○面白かったこと・考えたこと
    ・第二次世界大戦時に現場寄りの士官だった著者のバックボーンからの思考と、過去の戦争の地形等まで調査対象に入れて、その戦争を分析する手法と、戦争において有効な手法を経営学として昇華している内容がどれもよかったです。

    ・副題で書かれている「号令・命令・訓令」はどれも同じような「掛け声」で、その掛け方の違いかなと思っていました。発令者の意図と受令者の任務の関係で、戦闘・戦術・戦略などの小さな規模から大きな規模までを全て包含した考え方だったというのは意外で、説明されると腑に落ちました。号令・命令・訓令の区分法で、命令は発令者の意図と受令者の任務を要件としていて、号令は受令者の任務のみ、訓令は発令者の意図のみ、とシンプルに区分していながら、その違いが歴史上もとてつもなく大きいものだったことが説明されていて興味深かったです。

    ・例として出されている戦争がかなり細かく説明されていて、戦史としても面白かったです。

    ・所々に書かれている古典の名言もよかったです。その名言の中に統帥綱領が多く、またその内容が妥当で興味深かったです。

    ・受令者の任務を伝え、また陣頭指揮で受令者を率いるという手法は分かりやすく、考えてみれば現代においてもその型のリーダーは多いなと思いました。上杉謙信単騎で佐野城に入っていったこと、織田信長の桶狭間、明智光秀の本能寺の変など具体的な戦闘においてどのように動いていたのかがよく分かりました。司馬遼太郎の小説で桶狭間は偶然ではなく入念な準備の上で勝利を得たことが書かれていましたが、さらに具体的に知ることができてよかったです。有効に働いた事例を挙げながらも号令戦法の限界についても書かれていて、何度も繰り返すべきではないこと、本末を誤りやすいこと、ということからある意味で非常時の策かなとも思いました。(第1部 号令戦法)

    ・命令戦法を活かすための方策が、ライン・スタッフ組織で、ナポレオンが革新的な戦法を駆使する上でこの仕組みが活きたという実例が興味深かったです。ラインの系統とスタッフの系統で、ラインの系統はわかりやすいですが、スタッフの系統が何をすべきか、何をすべきでないかが現代の組織においても曖昧になっていることが多そうです。スタッフが補佐機関であり、指揮を執ってはならないという原則は、なかなか守られにくいことでもあると思いました。ナポレオンと徳川家康の小牧・長久手の戦いにおける各個撃破戦法で寡が衆を破ることを可能にする戦法として成立させ、それを達成させる前提に命令戦法が存在したことは興味深いなと思いました。(第2部 命令戦法)

    ・命令戦法を駆使したナポレオンが、訓令戦法によるディビジョン組織の敵によって破られたというのは、大きな規模の戦争においての命令に対する訓令の優位性を分かりやすく示している例だなと思いました。ナポレオン自身が率いる軍隊が負けなくても、それ以外の場所で負ける、命令の行き届かないところでは有効に機能しないということが命令戦法の限界だということが理解できました。日本陸軍に大きな影響を与えたモルトケが普墺戦争で参謀チームを各部隊に配して全体戦略を機能させた事例は訓令戦法を実際に使用する際の準備段階から書かれていて分かりやすかったです。(第3部 訓令戦法)

    ・第一次世界大戦のマルヌ会戦におけるドイツとフランスの対決で、それぞれに作戦がありながら、その遂行が様々な要因によってうまく進まないこと、その障害となる最大の要因が人であり、ごく少数の人によって全体の戦局が左右されていることが興味深かったです。現場では退却について考えもしなかったところに弱腰のヘンチェ参謀が重要度ではなく近接度で訪問先を選んで回っていく中で、退却の意思決定を下し、取り返しのつかない状態にしたことは、ヘンチェ参謀にも責任はあると思いますが、その人選をした小モルトケの責任の方が大きいなと思いました。一つの塊ではない複数の舞台に分かれる軍隊の場合、互いの連絡が密に取れないときでもある程度揃った行動をとるためには訓令が行き届いた上で各命令を伝えていかないと全く意図通りに動かないということが分かりました。(第4部 命令戦法と訓令戦法の極致(1))

    ・第一次世界大戦のタンネンベルヒ会戦におけるドイツとロシアの対決で、トップにいる人間が違うだけで、戦力として明らかに劣る側が優れる側を下したというのは、「一匹の狼が率いる羊は一匹の羊が率いる狼に勝る」という諺を見事に体現しているなと思いました。新たにトップになったヒンデンブルグとルーデンドルフの意見がすぐに一致し、またすぐに実施できた背景に、シュリーフェン作戦計画という訓令に当たる全体計画が存在したというのはそれ自体がドイツ側の強みだったのだなと思いました。ロシア側の失策とドイツ側の着実な遂行が対比的で、どちらがなくても元々劣勢だったドイツ側が勝利することができなかったのだろうなと思いました。(第5部 命令戦法と訓令戦法の極致(2))

    ・ドイツの指導者ヒンデンブルグとロシアの指導者ジリンスキーの行動範囲の違いがかなり顕著で、現場の人間と顔を合わせ、人間関係にも配慮することの重要性が戦争全体の勝敗に繋がっている点が興味深かったです。作戦自体が有効であっても、それを活かす仕組みと、そのための労力がなければ全体として成功しないというのは現代の企業経営においても有効な教訓だと思いました。(第6部 タンネンベルヒ会戦を考える)

    ・マルヌ・タンネンベルヒの両会戦におけるトップの行動から、スタッフを活用し、考えさせることの重要性、トップが最も配慮すべきなのは人事であることは意外ながらも説得力があるなと思いました。人間関係も同盟関係も「共通の利益がある」「助力を必要とする」「互いに役に立つ」という三条件が重要という話は含蓄があるなと思いました。(第7部 経営の目で見た両会戦の教訓)


    ○つっこみどころ
    ・タイトルと表紙の武将の絵から、戦国時代の掛け声としての号令などについて書いた本と思って、それも面白そうだと思って購入しました。もう少し経営学について触れていることが分かるようなタイトルだともっと売れているのではないかと思いました。

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著者プロフィール

経営評論家

「2014年 『統帥綱領入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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