<自己顕示欲が一切感じられない、静謐な魅力にあふれた読み物です☆>
衣・食・住、暮らしにまつわるいろいろなことを、ごくごく自然なうちに知的さが滲み出た文章で綴ったエッセイ集。一篇ずつ、静かに味わって読みたくなります♡
著者の増田れい子さんが、戦後初の女性新聞記者にして、女性初の日本記者クラブ賞受賞者だということ、さらにはあの住井すゑさんの次女だという知識は、恥ずかしながら後になって知ることとなりました(中途半端に、サンデー毎日の人、というイメージだけは持っていましたが……★)。女性がジャーナリズムに携わる、ということの意味合いも覚悟も、現代とは全く違った時代を生き抜いた方ではないかと想像します。著者の劇的な体験(多分あるよね~)のことも、むしょうに知りたくなってきたぞ★
しかし、そういった著者の背景を一切気にせずに読んだ(まあ、無知から来るものではあったわけですが……)くらい、この本のなかに流れている時間は、ふわっと優しいものでした☆ 自宅にいても、緑に目をやるのでも、一杯の珈琲を味わうのでも、装いを選ぶにしても、一つずつのことに何だかふわっと、素敵に澄んだ空気がまとわりついているような感覚なのです。
こういう文章に心がなじむと、特別な体験よりもささやかなしあわせを宝物と思って、急がずじっくりと感性で咀嚼して生きていけそうな気がしてきます……☆
とは言え、本書に登場する方々は明らかに堅気ではなく(笑)、恐れ多いイメージの作家や教養人だらけなのです。石井好子、向田邦子、高峰秀子に田宮虎彦……。彼ら知識人たちのエピソードに触れたい人にとっても、本書はかなりおいしい内容だと言えるでしょう。
けれどもやはり繰り返しますが、綴っているのは人の暮らしの普遍的なしあわせであることにこそ、個人的には魅了されました。本書からは、自己顕示欲のようなものが感じられない。本物の才女だから、何一つ気取ったところもなく自然体で書かれたのでしょうね。