全文読破柳田国男の遠野物語

著者 :
  • 三弥井書店
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838232826

作品紹介・あらすじ

現代語訳では絶対出せない物語の持ち味をいかすためにすべての漢字に振り仮名をつけて声に出してすらすら読める。物語の世界を十分に理解できるよう本文中の語句に丁寧な注釈をそえる。もっと『遠野物語』の核心に迫りたい人のために最新の知見を惜しみなく盛り込んだ「鑑賞」のてびき。

感想・レビュー・書評

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  • 生きてるうちに一度は読んでおくか、といった程度の気持ちで着手。原文に注釈がついたもの、全文口語訳のもの、はたまた児童向けのものなど、遠野物語は様々な形態で様々なものが出版されているが、泉鏡花と同時代程度なら原文がよかろうと、本書を手に取った次第。音読のために全文振り仮名がふられ(固有名詞を読むのに大変助かった)、それぞれの話毎に注釈と解説がついており、思っていたよりも数段快適に読めた。慎重に選んで正解。

    ものすごく簡潔に言ってしまえば、今でいう都市伝説集みたいなものだ(と私は感じた)が、それぞれの話を語った人物、場所等を明記し、実在した(する)人物の経験談として語られる形式は、感覚的に新しいというか、、、確かに「研究」的なものに感じられなくもない。当時の人々にとっての自然や神がどのようなものだったのか、全国的に類似する話が見られるのは何故か。これらの伝承には気候や地形、当時の習俗が深く関係していることは明らかであり、それらを俯瞰して眺めようと試みた、なるほど日本民俗学の出発点と名高い名著である。

    興味深かったのは、伝承が時代に合わせて進化していくこと。山男が"鞄のようなもの"を持ち始めた件は、現代の怪異が電子機器を自在に操る、または媒介することに通ずると思ったし、実在した大津波で家族を失った男が、翌年亡き妻と会話をする話は、神であろうと妖であろうと、その存在は生きる人間のために産み出されたものなのだ、という感慨を私に与えた。

    「遠野物語」が音読用に書かれた、という話も面白い。音読の習慣が日本固有のものなのか、かつては紙や本自体が高級品だったために、広く読み聞かせる手段として音読が習慣化されたのか、それは全く分からないが、確かに遠野物語は同時代の、例えば泉鏡花の文体と比べて、違和感を覚えるほど読みやすかった。本書の作者が言うように、声に出して読まれた「遠野物語」を回復することは、とても価値のあることのように思える。

    マヨイガ、座敷童、河童、天狗、付喪神、、、懐かしくもすでに遠くなってしまった存在たちが、遠くなりつつも現代に息づいていること、もしかしたら新しい形で我々に寄り添っているのかもしれないこと、人間のために産まれた、善でも悪でもない彼らが、かつてはこのようにして人々の間に存在していたのだというその事実、それらを少しでも感じることができて、とても満足です。面白かった。

  •  音読を念頭にすべての漢字に振り仮名をつけた遠野物語。それぞれに鑑賞のてびきもつく。

     コンセサマ。オコマサマ。ザシキワラシ。マヨイガ。オシラサマ。カクラサマ。ダンノハナ・デンデラ野・蓮台野。山の神、天狗、老猿、狐なども多く登場する。

     物語としても興味深かった。津波(1896年6月15日)で妻と子を失った夫の元に、妻が結婚前に想っていた男と現れる話は切なかった。

     他地域にも連なる、豊かな精神世界が広がっていたということだろう。そしてそれはそんな大昔のことでもない。

  • 口承文芸を後世に伝えた第一人者といえば小泉八雲を浮かべる。地方の識字できない人たちの言い伝え、昔話などはかろんじられ、文学とは見なされない時代において、怪談を含めてしっかりと遺してくれた。その八雲が東京帝国大学の講師として教鞭を執っていたその時、柳田国男は同大に学んでいる。学部が違えども教えは受けていたのではあるまいか。西洋化に走る時代にあって民俗学の下地を築いた功績は大きい。山の神、天狗は崇拝と同時に畏怖の対象であり、先人はその存在を語ることで自然を侮り荒らすことへの戒めとしていたことが伝わってくる。

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著者プロフィール

東京学芸大学教授、一橋大学大学院連携教授、柳田國男・松岡家記念館顧問、韓国比較民俗学会顧問。日本文学・民俗学専攻。
最近の単著に『100de名著ブックス 柳田国男 遠野物語』(NHK出版)、『ビジュアル版 日本の昔話百科』(河出書房新社)、『昔話の読み方伝え方を考える』(三弥井書店)、編著に『博物館という装置』(勉誠出版)、『昔話を語り継ぎたい人に』(三弥井書店)、『現代に生きる妖怪たち』(三弥井書店)、『外国人の発見した日本』(勉誠出版)がある。

「2018年 『文学研究の窓をあける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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