東京タワー

著者 :
  • マガジンハウス
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レビュー : 646
  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838713172

作品紹介・あらすじ

「恋はするものじゃなく、おちるものだ」。ふたりの少年と年上の恋人-恋の極みを描く待望の長篇恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 大学生、19歳の透と耕ニ。ふたりの共通点は同じ高校に通っていたこと。そして人妻と付き合っていること。

    詩史に夢中になる透。透明な魔女みたいな魅力を持った人妻・詩史に、彼は心の底から依存し、弄ばれる。現実的には彼女と一緒に暮らすことなどできるはずはないと理解しつつ、透は詩史と一緒に生きていくことを選ぶ。

    女と別れるときは自分からと決めている耕ニ。情熱的で感情的な人妻・喜美子、大学生・由利。ふたりを交互に回し、イニシアチブをとっているのは自分だと信じていた耕ニだったが、かつて手を出した人妻・厚子の娘、吉田が現れ、喜美子に翻弄され、由利にも別れを切り出される。

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    前に読んだのは大学1年のころだったから、もう5年くらい前のことで、そのころとは違う部分が今回は気になった。

    透が目の前の詩史だけでなく、過去の詩史をも追いかける姿や、過去の耕ニを追いかける由利の姿にゾクゾクした。

    そのひとが昔好きだった本や音楽、過ごした場所、なんでもいいからそのひとを追いかけて、そのひとのかけらを集めたくなる気持ち。

    「そのひとの過去が知りたいと思ったら、そのひとのことが好きなんだぞ。それも相当にな」と言っていた中学の社会教師を思い出した。

    中学1年生に対して、何でわざわざそんなこと言ったんだろうと思ってたけど、
    彼も誰かを想っていたんだろう、今ではそう思う。

  • 再読。19歳の二人の青年と二人の人妻、それぞれの恋愛模様。15年前に読んだ時には青年側の心情に同調したのに、今は人妻側の揺れる気持ちの方に共感できる。読書の醍醐味ですね。耕二の欲望そのままの刹那的な恋愛と、徹の真っすぐで深くて揺るぎない恋慕の対比が素晴らしい。一緒に暮らさないで一緒に生きる・・・ある程度の年齢と経験が言わせた、含蓄あるこのセリフが心に響く。

  • 二人の結末が書かれておらず、すっきりしない終わり方。
    なのに、すごく「いい本だった~。」と思った。
    言葉選びがいいんだろうな。
    言葉が気持ち良く、心にはいってきた。

    映画の予告だけみていたから、
    岡田くんと黒木瞳、松潤と濡場の女王・寺島しのぶで読んでしまった。
    だからよかったのかも。

  • 「言葉は僕を裏切る」「理性をかき集める」。表現がきれいなので、不倫の話だけど読んでいて心地良かった。読後に結末が欲しかった私にとって、エンディングには少し歯がゆさが残るので−★。江國さんの本、他にも読んでみたいな。

  • はじめての江國さんの作品。
    独特の空気感がとても心地よいなあと
    思いながら読み終えた気がします。

    透の、心の透明感が
    すごくすきでした。

  • 映画から先に観てしまったため、映画のイメージが入ってきてしまったのですがとても面白かったです。江國さんの作品は今回がはじめてだったのですが、とても読みやすく雰囲気も好きです。書き方が好きなのかもしれません。

  • お金も夫も店舗も別荘も自由もある美しい詩史と、
    優しい大学生・透の静かな恋愛‥
    そして透の同級生・耕二と人妻喜美子の濃密な情事‥
    二組の対比を、弟の打ち明け話を聴くように読ませていただきました。

  • すごく昔の自分を思い出す。
    これはありそうな話だなーって読んでました。
    これは今の私が読むからしっくりくる本なのかもしれない。若い頃に読んでも難しく考えるだけ。
    読むタイミングが良かった。とても心地よく読めた。

    まだ若かりし頃、歳上の人って、考え方とか時間の感覚が違うんだなってずっと思ってました。
    大人になってから、その時理解できなかった言葉の意味を理解できるようになって、あとから答え合わせのような感じです。
    できるだけ一緒にいたいと思う人と楽しい時間をお互いに共有できるだけでいいと思う人。
    同じ好きでも種類の違う好き。
    私は上手くいかなかったな。いろいろ経験した結果、やっぱり恋もシンプルがいいと思う。現実的には複雑な恋はいつか疲れるから。

  • 映画にもなった話題作、じつはまだ読んでなかった。

    読んでるとき、詩史さん=黒木瞳さんのイメージが強すぎて困った~

    でもしっとりとして、雨の匂いのするすてきなお話でした。

  • 初出 鳩よ! 1999年11月~2001年8月号
    2001年秋 あとがき 港区芝の大叔母の家 坂の上 東京タワー ぴかぴかに光る東京タワー→大人の人生がいいものに思え、私も早く大人になりたいと思ったものでした。

     世の中でいちばんかなしい景色は雨に濡れた東京タワーだ。
     トランクスに白いワイシャツを着ただけの恰好で、インスタントコーヒーをのみながら、小島透は考える。

     1980年3月に、透は生まれた。父と母は、透が小学校に入学した年に離婚した。以来、透は母親と住んでいる。
     詩史(しふみ)と知りあったのも、母親を介してだった。

     ラップと紙コップをゴミ箱に捨て、耕二は公衆電話から電話をかける。呼びだし音が鳴っているあいだに、煙草をくわえて火をつけた。
    「はい、川野です」
     三十五という年齢に似ず、若々しい喜美子の声が応える。

     ヨガの教室は恵比寿にある。よって恵比寿のホテルに行った。
     喜美子は黒い下着をつけていた。抱くと肋骨があたるほど痩せていて、しかしフラメンコの賜(たまもの)か、手足は美しく筋肉がついて力強い。手のひらの大きいことが、昔からコンプレックスなのだと言っていた。


     事がすむと、由利ちゃんはすぐに服を着てしまう。口にだしたことはないが、耕二はそのたびにわずかに不満を感じた。
     もっとも、狭いベッドでいつまでもぐずぐずくっついていられるよりはましだと思うし、こういう由利ちゃんの態度は、たとえば「はじらい」とか「初々しさ」とか呼ばれる類のものだろうとも思う。
    「あしたお店に遊びにいってもいい?」
     ベッドに入る前にケーキを食べ、レモンを浮かべた紅茶を飲んだその食器を、流しで洗いながら由利が訊いた。
    「あした?」
     起きあがり、下着を身につけながら耕二はこたえる。
    「かまわないよ」
     四時半。そろそろでかけなくてはならない。透と六時に約束をしている。きょうの三つの予定―喜美子に電話、由利とセックス、透に会う―のうち、耕二は三番目がいちばんたのしみだった。透に会うのは夏休み以来だ。

     寒い夜だ。吐く息が白い。この坂をのぼるとき、振り向くとそこには東京タワーが見える。いつも。真正面に。夜の東京タワーはやわらかな灯りに縁どられ、それ自体が発光しているようにみえる。まっすぐな身体で、夜の空にすっくと立って。

     大晦日、母親の支度ができるのを待ちながら、透は部屋の中で所在なくしていた。スザンヌ・ヴェガを聴きながら、写真集の頁を繰ってみる。「渾成の大地」という写真集だ。中国の街と人が写っている。

     詩史は写真が好きだ。絵よりも現実的だから好きなの、と、言っていた。

     ホテルのベッドの中で、二人とも裸だった。
    「遅れちゃったけどクリスマスプレゼント」
     喜美子はそう言って、プラダの財布から三万円だした。三万円。耕二は自分でも意外なほどショックを受けた。金をくれようとすること自体にも、その中途半端な金額にも。

     昼間の東京タワーは、地味でやさしいおじさんのようだ。小学校にいくみちみち、いつも透はそう思っていた。地味でやさしい、堅実で安心な。
     小学校のころ、透は毎日半ずぼんをはかされていた。冬でもずっとだ。いま考えると意味のない習慣だが、あのころは、そういうもんだと思っていた。

    「陽子さんとはもう十年来のお友達なのに」
     いつだったか詩史さんはそう言った。
    「それなのに、あなたのことは知らなかった。損したわ」
     それは、とても詩史らしい物言いだった。直截(ちょくせつ・ためらわずハッキリとものを言う)で、甘く、軽い。

    街の雪
    「こういうとき、年をとったなって思うの」
     グラスを揺すりながら、詩史は言った。
    「え?」
     透には脈絡がうまくのみこめなかった。
    「こんなふうに予定が狂うことを、若いころはもっとたのしめたような気がする」
     透はそれについて考えをめぐらす。若いころはたのしめた、ということは、いまはたのしめない、ということだ。いまは歓迎できない、という―。

    グレリム・グリーン「情事の終り」


     憶えているのはそこまでだ。あとの記憶は断片的で、詩史が途中で、
    「大丈夫よ」
    と言ったことか、ともかく、最後まで事をおえた、ということしか憶えていない。
    「すくなくとも私に関して、あなたは何かをしなければならないとか、してはならないとか、思う必要はないのよ」

     軽井沢は快晴だった。
     東京駅から銀色の新幹線に乗って六十五分。母親には、大学の友人と旅行にいく、と言って来た。母親は一瞬疑わしそうに透の顔をみたが、そう、と言った。気をつけていきなさい、と。

    「山の空気ね」
     まだ八月だというのに、ところどころに乾いた芒(すすき)が揺れている。歩くとき手をつなぐのは、もう習慣になっている。
    「来てくれて嬉しいわ」
     詩史は言った。
    「ここを、透くんと歩けてとても嬉しい」
     その言葉は、どういうわけか、透をひどくせつなくした。このひとと自分は、ずっと、別々の場所で生きているのだ。

     ひさしぶりに会った由利は、ちょうちん袖のブラウスを着ていた。
    「かわいいじゃん」
     ほめてやると、由利は嬉しそうな顔をした。午後二時。由利がアイスティを飲みおえるのを待って、アパートに帰り、バイトにでかけるまで一時間半。完璧だ、と、耕二は思う。一日は万人に平等に二十四時間なのだから、効率よく使うべきだ。
     ストローをくわえた由利の、清潔に白い頬が耕二は気に入っている。喜美子の顔は削げているが、由利の頬はふっくらとしている。それは、耕二の目に、なにか尊いもののように映る。不幸にしてはならないもののように。

    …耕二は間食をする習慣がないので、橋本のみならず友人の多くが、この時間に腹を減らすことが解せなかった。

    「大好きだよ」
     すべてのあと、缶づめのイワシみたいにならんで横になったまま、煙草を喫いながら耕二は言った。自分でも可笑しいほど甘い、みちたりた声がでた。

     透は、着ていたTシャツとジーンズの上に、紺色のサマーセーターを羽織ってでかけた。夏の夕方は、銭湯みたいな匂いがする。
     地下鉄を二駅だけ乗って降り、改札口の伝言板の横で、文庫本を読みながら耕二を待った。文庫本は遠藤周作で、詩史が学生時代に読んで感銘を受けたと言ったものだ。
     五分後に現れた耕二は、胸にHUGO BOSSとロゴの入った、うす紫のTシャツを着ていた。

     夏の夕方、磨きおわった窓ガラスごしに、透は東京タワーを眺めている。部屋の空気には、スプレー剤の匂い―レモンを模した、しかしレモンとはほとんど似ていない匂い―が残っている。

     昼間。代官山という街は、人が多くてもどこかのんびりしている。小さな広場にテーブルと椅子を持ち出しただけ、という風情のカフェでサンドイッチを食べながら、透は詩史を美しいと思った。

     窓の外にはうらぶれた夜景が、雨に濡れてネオンをにじませていた。

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著者プロフィール

江國 香織(えくに かおり)
1964年、東京生まれの小説家。1986年、児童文学雑誌『飛ぶ教室』に投稿した「桃子」が入選。2004年、『号泣する準備はできていた』 で、第130回直木賞を受賞。他、山本周五郎賞、中央公論文芸賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞など受賞歴多数。代表作として、映画化もされた『きらきらひかる』や『冷静と情熱のあいだ』など。女性のみずみずしい感覚を描く作家として、多くの読者を魅了している。また、小説から絵本から童話、エッセイまで幅広く活躍中。翻訳も手がけている。2019年5月2日、2年ぶりの長編小説『彼女たちの場合は』を刊行。

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