東京タワー

著者 :
  • マガジンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838713172

感想・レビュー・書評

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  • 2組の男女の愛の行方など
    私達が理解してはいけないのだと思った。

    全然薄汚くない
    それよりももっと透明で純粋な愛に
    心を奪われながら読み進めた。

    愛の行方はこの2組にしかわからない。

  • 東京タワーって夜のライトアップはすごく幻想的だけど、昼間はすこし興ざめする気がする。鉄塔のフォルムは美しいけれど、館内は年季が入っていて「昭和だな」という雰囲気がある。

    このお話の女性たちも、暗いところでは魅惑的で奔放だけど、お天道さまのもとでは社会人として年相応の生活をしながら上手に仮面をかぶってる。若い男の子たちは、魅惑と現実の間を行ったり来たりしながら、大人のずる賢さに翻弄されてしまう。

    前に読んだときは男の子たちと同じ年代、今回は女性たちと似たような年代。あのときは「?」だったものがなんだか理解できるような気がして、年を重ねても重ねたなりに味わえる小説はいいなと思いました。今みたいにケータイも普及していない時代ならではのもどかしさもまた、なんかよい。

  • 表現がきれいだったので雰囲気で読了できたけれども、二人の少年が両極端で妄想的だったので全然共感できなかった。
    妄想的な恋バナに終始。
    ここまで共感できないものを読んだのは、久しぶり。

  • 映画にもなった話題作、じつはまだ読んでなかった。

    読んでるとき、詩史さん=黒木瞳さんのイメージが強すぎて困った~

    でもしっとりとして、雨の匂いのするすてきなお話でした。

  • 初出 鳩よ! 1999年11月~2001年8月号
    2001年秋 あとがき 港区芝の大叔母の家 坂の上 東京タワー ぴかぴかに光る東京タワー→大人の人生がいいものに思え、私も早く大人になりたいと思ったものでした。

     世の中でいちばんかなしい景色は雨に濡れた東京タワーだ。
     トランクスに白いワイシャツを着ただけの恰好で、インスタントコーヒーをのみながら、小島透は考える。

     1980年3月に、透は生まれた。父と母は、透が小学校に入学した年に離婚した。以来、透は母親と住んでいる。
     詩史(しふみ)と知りあったのも、母親を介してだった。

     ラップと紙コップをゴミ箱に捨て、耕二は公衆電話から電話をかける。呼びだし音が鳴っているあいだに、煙草をくわえて火をつけた。
    「はい、川野です」
     三十五という年齢に似ず、若々しい喜美子の声が応える。

     ヨガの教室は恵比寿にある。よって恵比寿のホテルに行った。
     喜美子は黒い下着をつけていた。抱くと肋骨があたるほど痩せていて、しかしフラメンコの賜(たまもの)か、手足は美しく筋肉がついて力強い。手のひらの大きいことが、昔からコンプレックスなのだと言っていた。


     事がすむと、由利ちゃんはすぐに服を着てしまう。口にだしたことはないが、耕二はそのたびにわずかに不満を感じた。
     もっとも、狭いベッドでいつまでもぐずぐずくっついていられるよりはましだと思うし、こういう由利ちゃんの態度は、たとえば「はじらい」とか「初々しさ」とか呼ばれる類のものだろうとも思う。
    「あしたお店に遊びにいってもいい?」
     ベッドに入る前にケーキを食べ、レモンを浮かべた紅茶を飲んだその食器を、流しで洗いながら由利が訊いた。
    「あした?」
     起きあがり、下着を身につけながら耕二はこたえる。
    「かまわないよ」
     四時半。そろそろでかけなくてはならない。透と六時に約束をしている。きょうの三つの予定―喜美子に電話、由利とセックス、透に会う―のうち、耕二は三番目がいちばんたのしみだった。透に会うのは夏休み以来だ。

     寒い夜だ。吐く息が白い。この坂をのぼるとき、振り向くとそこには東京タワーが見える。いつも。真正面に。夜の東京タワーはやわらかな灯りに縁どられ、それ自体が発光しているようにみえる。まっすぐな身体で、夜の空にすっくと立って。

     大晦日、母親の支度ができるのを待ちながら、透は部屋の中で所在なくしていた。スザンヌ・ヴェガを聴きながら、写真集の頁を繰ってみる。「渾成の大地」という写真集だ。中国の街と人が写っている。

     詩史は写真が好きだ。絵よりも現実的だから好きなの、と、言っていた。

     ホテルのベッドの中で、二人とも裸だった。
    「遅れちゃったけどクリスマスプレゼント」
     喜美子はそう言って、プラダの財布から三万円だした。三万円。耕二は自分でも意外なほどショックを受けた。金をくれようとすること自体にも、その中途半端な金額にも。

     昼間の東京タワーは、地味でやさしいおじさんのようだ。小学校にいくみちみち、いつも透はそう思っていた。地味でやさしい、堅実で安心な。
     小学校のころ、透は毎日半ずぼんをはかされていた。冬でもずっとだ。いま考えると意味のない習慣だが、あのころは、そういうもんだと思っていた。

    「陽子さんとはもう十年来のお友達なのに」
     いつだったか詩史さんはそう言った。
    「それなのに、あなたのことは知らなかった。損したわ」
     それは、とても詩史らしい物言いだった。直截(ちょくせつ・ためらわずハッキリとものを言う)で、甘く、軽い。

    街の雪
    「こういうとき、年をとったなって思うの」
     グラスを揺すりながら、詩史は言った。
    「え?」
     透には脈絡がうまくのみこめなかった。
    「こんなふうに予定が狂うことを、若いころはもっとたのしめたような気がする」
     透はそれについて考えをめぐらす。若いころはたのしめた、ということは、いまはたのしめない、ということだ。いまは歓迎できない、という―。

    グレリム・グリーン「情事の終り」


     憶えているのはそこまでだ。あとの記憶は断片的で、詩史が途中で、
    「大丈夫よ」
    と言ったことか、ともかく、最後まで事をおえた、ということしか憶えていない。
    「すくなくとも私に関して、あなたは何かをしなければならないとか、してはならないとか、思う必要はないのよ」

     軽井沢は快晴だった。
     東京駅から銀色の新幹線に乗って六十五分。母親には、大学の友人と旅行にいく、と言って来た。母親は一瞬疑わしそうに透の顔をみたが、そう、と言った。気をつけていきなさい、と。

    「山の空気ね」
     まだ八月だというのに、ところどころに乾いた芒(すすき)が揺れている。歩くとき手をつなぐのは、もう習慣になっている。
    「来てくれて嬉しいわ」
     詩史は言った。
    「ここを、透くんと歩けてとても嬉しい」
     その言葉は、どういうわけか、透をひどくせつなくした。このひとと自分は、ずっと、別々の場所で生きているのだ。

     ひさしぶりに会った由利は、ちょうちん袖のブラウスを着ていた。
    「かわいいじゃん」
     ほめてやると、由利は嬉しそうな顔をした。午後二時。由利がアイスティを飲みおえるのを待って、アパートに帰り、バイトにでかけるまで一時間半。完璧だ、と、耕二は思う。一日は万人に平等に二十四時間なのだから、効率よく使うべきだ。
     ストローをくわえた由利の、清潔に白い頬が耕二は気に入っている。喜美子の顔は削げているが、由利の頬はふっくらとしている。それは、耕二の目に、なにか尊いもののように映る。不幸にしてはならないもののように。

    …耕二は間食をする習慣がないので、橋本のみならず友人の多くが、この時間に腹を減らすことが解せなかった。

    「大好きだよ」
     すべてのあと、缶づめのイワシみたいにならんで横になったまま、煙草を喫いながら耕二は言った。自分でも可笑しいほど甘い、みちたりた声がでた。

     透は、着ていたTシャツとジーンズの上に、紺色のサマーセーターを羽織ってでかけた。夏の夕方は、銭湯みたいな匂いがする。
     地下鉄を二駅だけ乗って降り、改札口の伝言板の横で、文庫本を読みながら耕二を待った。文庫本は遠藤周作で、詩史が学生時代に読んで感銘を受けたと言ったものだ。
     五分後に現れた耕二は、胸にHUGO BOSSとロゴの入った、うす紫のTシャツを着ていた。

     夏の夕方、磨きおわった窓ガラスごしに、透は東京タワーを眺めている。部屋の空気には、スプレー剤の匂い―レモンを模した、しかしレモンとはほとんど似ていない匂い―が残っている。

     昼間。代官山という街は、人が多くてもどこかのんびりしている。小さな広場にテーブルと椅子を持ち出しただけ、という風情のカフェでサンドイッチを食べながら、透は詩史を美しいと思った。

     窓の外にはうらぶれた夜景が、雨に濡れてネオンをにじませていた。

  • 大人の恋の仕方といいますか、新しい恋の形といいますか、わからないがわからないでもないそんな恋バナでした。

    36歳の女の恋。

    そんなドンピシャな年齢が、リアル感が出るかと思いきや、全くそんなこともなく、わたしの周りにもこんな話は聞いたことないし、、、ある種の理想型ファンタジーであろうか、

    いるのかこんな人妻!!!!

    そんな一冊でした。百戦錬磨の男、高校生っていうのもねぇ。
    ファンタジーかな。
    にしても江國香織はほんと退屈になりそうな嘘くさい恋愛を、ここまで読ませるんだからすごい!!!!!!恋愛小説書かせたら右に出るものはいないな。

  • タイトルに惹かれて読んで見たけれど、あまり繋がりを感じなかった。メインの4人は誰も彼もズルくチープに見えた。いいとこ取りしたいだけのような。詩史さん気に入りの小説や音楽はこの作品の世界観を感じる手助けになる。

  • ・9/24 読了.あまり気が進まない感じで最後まで読んだ.どうもこの歳になってしまうとあまりに他人事でこういう若者の恋愛についての興味が無くなって感情移入もできずにどんな感想も抱かなくなってしまった.まあでもだからといって若かったとしても特に感動を呼ぶような内容では無かったけど.東京タワーの存在が薄すぎた.


  • 「大学生で感情に素直で恋愛を楽しんでる【可愛い】大学生」でいる自分は、美しく歳を取った女性に勝てないこともあるのかもしれない。『かわいらしいというだけで恋に落ちるなんて、みんななんて謙虚なのだろう。』
    詩史は最後には仕切りを誤って、透をこちら側に呼んでしまった。既婚者である以上、遊びとして割り切る方が透のためなのではないかと思った。
    『一緒に暮らさなくても一緒に生きることはできる」』果たして、そうなのだろうか。

  • 映画を見てから読んだ。
    どっちもいい。
    原作には透明感がある。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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