ゆくとし くるとし

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  • マガジンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838716920

感想・レビュー・書評

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  • 入院生活の長かったこどもの頃、病院のベッドで
    「願いをひとつだけ叶えよう」的な童話を読むたび、私だったら?と考えました。

    「丈夫な子になれますように」にしたいけど、丈夫になったとしても
    ある日突然事故とかで死んじゃったらいやだし、
    結婚した人が実はものすごく意地悪な人だったりしたら困るしなぁ。。。

    そこで思いついたのが、「幸せになれますように」!
    うん、これはいい♪ だって何がどうあっても、幸せになれるんだもの♪
    今考えると、体が弱っていたとはいえ、なんてものぐさなこどもだったことでしょう。
    本を片手にほくほくしている小さな私に、「コラコラ!」と
    デコピン(ちょっと手加減した、70%威力ダウンの)をくらわせたくなってしまいます。

    『真夜中のパン屋さん』で人気沸騰の大沼紀子さんが、
    坊ちゃん文学賞大賞を受賞した『ゆくとしくるとし』が収められた、この短編集。
    もう一作の『僕らのパレード』で描かれる幸せのかたちが、素晴らしいのです!

    「タンポポのわたぼうしを一度で吹き飛ばせたら、幸せになれる」
    という、4人目のお父さん「よんちゃん」の言葉を信じ、無邪気に生きるサム。

    娘にセピア、息子にはTRFが好きだったから、サム、とミーハーな名前をつけ
    (韓流にはまった挙句、末息子の名前には「ペ」か「ヨン」か「ジュン」の
    どれがいい?と言う始末。。。「ペ」はないでしょうにねぇ。。。)
    ひっきりなしに新しいお父さんを連れてくるお母さんを恨みもせず

    ある日突然ひと言も喋らなくなったお姉ちゃんのことも
    喋らなくても、大好きなお姉ちゃんに変わりはないと受け入れ

    自分は頭がいいし運動もできるけど、普通に優しいっていうのが出来ない
    と悩む、反抗期真っ盛りの優等生紺野くんを、拙い言葉で慰め

    東京で心を壊して故郷に戻り、方向感覚をすべて失って
    家と自分を青い糸で繋いでいないと、近所へも出かけられないアヤエの
    パン作りを手伝いながら、さりげなく外へと連れ出して。

    周りのみんなをおおらかな優しさで救ったサムが
    純粋なあまり心の森に閉じ込めていた、受け入れがたい悲劇の記憶を甦らせ
    闇に沈みそうになったとき、「糸に繋がれた女の子」だったアヤエが差し伸べた手と
    そのあとに続くささやかな幸せのパレードに、心が温められます。

    世の中には平等なんてなくて、マイノリティーは排除されがちで、
    小さな偏見、小さな悪意に満ちているけれど、それでも世界は回っている。
    自分のところに幸せがあっても、それでも誰かのために、
    幸せのわたぼうしを探して、吹き飛ばそうとする人がいる。

    ハードルを上げ過ぎずに、目の前にある小さな幸せをそっと抱きしめ
    身近にいる大切なひとの幸せのために、それがわたぼうしを飛ばすことでも、
    初詣で配られる小さな干支の置物を、二度並びしてもらってくることでも
    何かできることがある、それがまた幸せなことなのだと
    気づかせてくれる、隠れた名作です。おすすめです!

    • まろんさん
      だいさん☆

      本のレビューだというのに、書いていることがあっちに飛び、こっちに飛びしてしまう
      拙いレビューを、「枕のほうが面白い」なんて言っ...
      だいさん☆

      本のレビューだというのに、書いていることがあっちに飛び、こっちに飛びしてしまう
      拙いレビューを、「枕のほうが面白い」なんて言ってくださって
      救われた気分です。ありがとうございます!
      というわけで、救ってくださっただいさんが、魔法使いということで(*'-')フフ♪

      昼間は咳の発作があまり出なかったので、存分に本を読めて機嫌よくしていましたが
      夜になると咳がひどくなって大暴れ(?!)することもあったので
      両親は、そっと抱きしめるどころか、ベッドから転がり落ちないよう
      ぎゅう~!!!っと抱きしめるのに必死でした。
      苦労をかけてしまったなぁと思う今日この頃です。
      2013/01/27
    • 円軌道の外さん

      あははは(笑)
      確かに「幸せになれますように」は
      最強で万能な願いですよね(笑)(^O^)


      ある意味子供らしくない
      現...

      あははは(笑)
      確かに「幸せになれますように」は
      最強で万能な願いですよね(笑)(^O^)


      ある意味子供らしくない
      現実的な願いとも言えるけど、

      自分も両親がいなかったから
      目が覚めたら
      全部夢だったらいいのにって
      いつも思ってたし(笑)、


      でもそれだけ
      幼少時のまろんさんが
      切実に
      今よりいい状況を願ってたってことが
      伝わってくるエピソードで、
      なんかヒシと
      抱きしめてあげたくなりました(笑)(>_<)
      ↑あっ今、嫌やぁ〜って悲鳴上げました?(笑)




      まろんさんの詳細なレビューで
      あったかさや情景が伝わってくるし、

      『真夜中のパン屋さん』も
      ずっと「早く読まなきゃリスト」に
      入れっぱなしやったんで(汗)


      今年こそは!
      ↑今年中か〜い(笑)


      忘れずチェックしたいと思います(*^o^*)


      P.S.
      あっ、エアー絆創膏持ってきたんで、
      おでこにペタペタしといてくださいね(笑)


      2013/01/28
    • まろんさん
      円軌道の外さん☆

      いえいえ、悲鳴だなんてとんでもない!
      小さな私に、ヒシと抱きしめていただくにふさわしい
      ヒラヒラの可愛いパジャマを届けな...
      円軌道の外さん☆

      いえいえ、悲鳴だなんてとんでもない!
      小さな私に、ヒシと抱きしめていただくにふさわしい
      ヒラヒラの可愛いパジャマを届けなければ!と
      パジャマの素材からデザインまで考えてしまいました☆

      大沼紀子さん、脚本家をなさっていたこともあって
      ちょっと変わったヒトを魅力的に描くのがとても上手で、ひき込まれます。
      『真夜中のパン屋さん』はもちろんですが、この『ゆくとしくるとし』と『てのひらの父』は、ほんとに心がじんわりあったかくなる、おすすめ本です♪

      エアー絆創膏は、妄想の中で、プーさん柄のものを
      デコピンされた小さな私の額にぺたりと貼っておきました(*'-')フフ♪
      2013/01/28
  • 大沼紀子さんのデビュー作を読了。
    少し切なく、どこか温かい。そんな2編の物語。そ
    れぞれに哀しい事情は抱えつつも希望を持って生きる。
    そんなそれぞれの主人公に心を打たれた1冊でした。

  • 東京の大学に進学をしたトリコだが、目的を見失い留年が確定してしまう。その報告を含めての年末の帰省で、実家に帰るがそこには、母と仲良くコタツに入っているオカマのミカがトリコを迎える。何故オカマが居るのか説明をしない母と聞かない娘。掃除以外は家事がまったくだめな母と似た娘を前に、住み込みのミカがおせち料理を作り正月を迎える。オカマのミカを交えての出来事で、母に初めて聞いた自分の事。「長年の親子やし、似るんかもしれんわ」「そっか」「そうや」短い言葉のやり取りで通じる。母がいかに自分を信じ愛されているかを、、、

  • どんな環境でも、状況でも、生い立ちであっても・・・。命の尊さ、そして素晴らしさが心に染み込んでくる作品でした。

  •  どーしてもオカマが須藤真澄のイラストで想像できてしまう。どういうことだ。

  • 家族は血のつながりではなく、心の繋がりでは無かろうか?時には繋がりの紐が絡まる事もあるし、離れてしまう事もあるだろう。心が寒い時に暖めてくれるのは家族なのだ。とてもよい本だった。

  • 「ゆくとし くるとし」「僕らのパレード」の2本立て。
    生きるって難しいことだし、自分の気持ちを伝えるっていうのも本当に難しい。ほんのちょっと間違っただけで、大きな亀裂が入ったりする。
    だから、真剣に誰かに向き合うって怖いことでもあるけど、どんなに拙い言葉でも、本心から伝えようとしたら、必ず伝わる気がする。
    そうして、なんとか伝えて、受け取って、伝えて、受け取っての積み重ねて、なんとかやれていくんじゃないかな。

  • 心が温かくなった。
    書き方は軽いのだけど、内容は結構心にくる。
    擬音が多くてかわいい書き方だな、と思った。
    大沼さんの作品はこれが初めて読んだ物だけど、他の作品も是非読みたいと思った。
    「ゆくとしくるとし」のオカマのミカさんも母親も素敵な性格だと思った。
    「僕らのパレード」は小学生なのに、考え方がすごいなと思った。
    やっぱり大人の影響ってあるんだな…。

  • +++
    年末、久しぶりに帰省すると、そこには母と、オカマがいた。そんな予想を覆す我が家の風景に違和感を覚えながらも、閉じこもりがちな感情が、明るくたくましいオカマのお姉さんと、母のいつもと変わらぬ愛で、少しずつ開いていく・・・。第9回坊ちゃん文学賞大賞受賞作。
    +++
    表題作のほか、「「僕らのパレード」
    +++

    大沼さんの紡ぎだす物語は、とりたてて派手な出来事はないが、日々の暮らしの些細な引っ掛かりや、胸に抱え込んで凝ってしまった事々をじんわりと温めて溶かすような物語なのだと、この二編を読んで改めて思う。そしてやはり、足りないもののことを嘆くより、手の中にあるものを慈しむ方がずっとずっと満ち足りた心持ちになれるんだよ、と語りかけられているような一冊である。

  • 重くて深いテーマを軽く、さりげなく。
    悩んでいたり、苦しかったり、悲しかったり、辛かったり、色んな負の感情もまあるく暖かく包まれている。
    ‘わるいひと’はひとりもいない。
    甘いと言われるかもしれないけれど、私はそういうのが好きだ。

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著者プロフィール

1975年、岐阜県生まれ。2005年に「ゆくとし くるとし」で第9回坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、小説家としてデビュー。『真夜中のパン屋さん』で注目を集める。

「2019年 『路地裏のほたる食堂 3つの嘘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大沼紀子の作品

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