犬たち

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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838719716

作品紹介・あらすじ

ある夜、私のアパートに犬がいた。不可解な生活は唐突にはじまった-。『体の贈り物』の著者の幻想に浸された、ある「愛」の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 一人で住むのがやっとな「私」のアパートに、突然どこからやってきたともしれない一匹の犬が住み着く。短い蜜月期を経て、犬に支配されるようになった「私」たちの関係は、犬が産んだ子犬たちによってさらに破滅へ向かっていく。現代の動物寓意譚。


    犬は何を表すのか。この作品を読む人はまずそれを考えながら読むと思う。最初はわかりやすく恋人、それもヒモ気質の若い恋人とのDV関係を描いているのかと思った。だが、「ミス・ドッグ」として犬が喋りだすあたりから様相が変わる。
    「私」は環境汚染や貧困、戦争の問題に心痛めるベジタリアンである。意識高い系というよりは、ワーキングプアでありレズビアンである自身に引きつけたマイノリティへの連帯感を持っている。ミス・ドッグの詰問に答える様子から、彼女が常に厳しい自己検閲の世界に生き、周囲の目を気にしていることがわかる。セクシャリティについて親に責められ続けてきただろうことも。
    犬たちの視線と声に追い込まれた「私」はついに首を吊る。だが、陰惨なアパートからいきなり景色は変わり、静かな庭園での快適な一人暮らしが始まる。ここから犬たちがやってきて少女の骨を掘りだし、川へ流すラストシーンまでの張りつめた美しさと静けさは本当にレベッカ・ブラウンらしい詩情に満ちていて素晴らしい。
    ブラウンの短篇「パン」と「私たちがやったこと」は私のオールタイム・ベスト作品であり、その二作のように『犬たち』も一見支配欲と相互依存がテーマかと思えるが、最後の場面に至ってそうではないと気づいた。胸のなかで死んでしまった子ども、死に続けていることも見て見ぬふりされてきた子どもと向きあえるようになるまでの日々の苦しみを描いていたのだと。少女の骨がでてきた瞬間は虚をつかれたが、川に流したその体が徐々にしなやかな犬のかたちに変身していくと、そうか、そういう物語だったのかと腑に落ちて、読んでいるあいだずっと緊張していた全身の筋肉が一気に弛緩した。
    犬という動物の選択も絶妙だと思う。牙があって、力もあるし足も速い。なんで人間の言うことを聞いているんだろうと不思議になる生き物。私は子どものころ犬が苦手だった。アメリカだと成人よりデカい犬を飼ってたりするし、支配関係の逆転はよりリアルに想像できて怖いのかもしれない。ここにでてくる犬たちは肉体的な暴力より言葉の暴力のほうが強いけども。
    「私」の何が最初に犬を呼びだしたのか。一人きりの部屋で熟成された愛されたい、肯定されたいという願望か。人が一人で生きていくのは、こういう感情に幾度も襲いかかられるということだろう。犬は「孤独」であり、「孤独の友」だったのかもしれない。

  • 「犬たち」は何を表しているのか。幻想的で、時に暴力的に進む主人公の生活を描いているが、これは、主人公の心象風景を描いているのかも。最初は歓迎していた犬たちに次第に支配されていき、ついには逃げ出すことになる。何度も現れる生と死の光景には主人公の再生が描かれていると思う。
    途中まで、何度も読むのをやめようかと思ったが、最後の章は、それまでと打って変わり、爽やかな清々しい読後感、最後まで読んでよかった〜と思う。
    誰しも自分の気持ちに嘘をついては生きられない。

  • 優しくもなく、助言をくれるでもなく、守ってくれるわけでもない、押しかけイマジナリーフレンド的な犬に隷属する女性の話。
    寓話っぽくはあるけど、副題になってるらしい現代の動物寓話集と聞いてイメージするものとは大分違う。犬を据えてるけどこれは人間寓話集だよなあ。

  • 「完璧なプレゼントを不意打ちで贈るのはすごく気持ちがよかった。」

    犬たちは主人公の投影かと思えばそうでもないような気もして、章ごとに表情がくるくる変わる。とりとめのない、それでいて何かを示唆しているような物語は、寓話のようだ。

  • 8章まで読んだが、おもしろくないことはないけれど、だんだんとついていけない文芸的な世界へ…。
    柴田さんの訳は好きだけれど、今は、こういう話は求めていないかもしれない。

  • 953き 閉架

  • 久々にものすごい本に出会ってしまった。恐らくは自意識から産み出された犬たちとの生活。支配と服従が逆転し、生々しく暴力的な妄想と現実が入り混じる中、ストーリーが進んで行く。最後の三章を巡る結末で解放される。カポーティのミリアムを思い出す。

  • レベッカブラウン二冊目だけど、彼女が捉えられない。そのくらい突拍子もない話で、どの本もひとくくりにできない。しいていうなら、これはわかりやすすぎたかなぁ。面白かったけど。

  • よくわからない。

    ほんと何が面白いのかわからないけど、読みきるまで逃げられない。
    犬怖すぎる。
    群れになってくるし。

    ちょっとわかりにくいけど、主人公は女性でレズビアンでおばあちゃんに対しどうしようもない愛憎を抱いている。

    犬は歪んで「穴ぐら」のような部屋に暮らす彼女の、現実と非現実のハザマで、でも現実にいるような気もする。
    彼女の欲求を必要に変えるもので。

    レズビアンであることと関係があるかはわからないけど(でも彼女がさりげなく、でも執拗に書いていることからして、関係付けて欲しいという意図が作者の側にあるような気がする)
    彼女自身のすべてに対して、たぶん劣等感を抱いてはいるのだけれど
    特に身体に。

    もし犬をなかったことにするのなら、妄想とともに自傷癖に駆られた女の絶望⇒再生、なのかもしれないけれど。
    (そこで「祖母」という存在がかかわってくる意味。)
    (老いと再生は近いところにあるのね。たぶん)

  • ホラーが書かれていると思った。「体の贈り物」や「家庭の医学」で感銘を受けた作家さんだったので、こんなに幻想的なストーリーにショックを受ける。犬達に自分の全てを捕られてもただでは起きない。生についてこれ以上研ぎ澄まされた文章があるだろうか。

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著者プロフィール

1956年ワシントン州生まれ、シアトル在住。作家。翻訳されている著書に『体の贈り物』『私たちがやったこと』『若かった日々』『家庭の医学』『犬たち』がある。『体の贈り物』でラムダ文学賞、ボストン書評家賞、太平洋岸北西地区書店連合賞受賞。

「2017年 『かつらの合っていない女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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