彼女のいる背表紙

著者 :
  • マガジンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838719921

作品紹介・あらすじ

書物のなかの"彼女"と書き手の生きた道すじを清謐な筆致で重ね綴る-。雑誌「クロワッサン」で好評を博した、上質な随筆集。

感想・レビュー・書評

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  • 随筆とエッセイの間で語られる、実在した女性たちを題材にした話。ある風景を見て、思いがけず友人や故人を思い出した様子がつづってあるなど、三行でもなかなか思い出深く感じる内容なので一話一話じっくりと読みたいところ。


    これは幻想文学に入れてもいいと思う。

  • なんだろう この心地よさ は
    なんだろう この清聴さ は
    なんだろう この涼やかさ は
    なんだろう この清涼感 は

    ほとんど 読んだことのない作品たちの
    ほとんど 出逢ったことのない「彼女」たち

    それでも
    読んでいるとき
    血がさらさらになっていく
    そんな 気がしてしまうのです

  • 堀江敏幸という人を知らなかったけれど、本当に言葉のきれいな人だ。
    ひとうひとつの小さなエッセイに題がついているのだが、どれもはっとさせられるような、世界の不思議を覗き見させるような、そんな素敵なタイトルがつけられている。

    「彼女のいる背表紙」
    「犬になりたかった人」
    「仕事としての円周」
    「プラムを冷やした人」
    「本を借りなかった少女」
    「空の足跡」
    「いつもミシンが追ってきて」
    「きみはきみのつめたい春でぼくの頬を打った」
    「実際にあるものとしての、罪」
    「知らない町を選んだ夏」
    「ドロップと卵とマーマレード」

    などなど。
    気に入ったものたち。

    どれも何かの本の中の一節からの引用だったり、この人が考えたものだけど、どれも本当に、いい。

    言葉の選び方が実に鋭敏で繊細でなのに的確だから強い。

  • 文学

  • 日本ではあまり知られていない作家、または有名な作家の知られていない作品についての文章が多い。本を愛する作家の本についての語りは魅力的。やっぱり作家は本を愛してなくちゃ。

  • クロワッサンで連載されたエッセイ。エッセイとは言っても、その回ごとに一冊の本に出てくる女性にスポットを当て、堀江さんらしい静かな文章でその作品を紹介している。 静かすぎて、ぐっと集中して読まないと気が散ってしまい電車の中などで読むのは難しかった。

  • 書物の中で出会った「彼女」をテーマにしたエッセイ集。
    読後、改めて目次を眺めてみたらタイトルが全部ステキ過ぎるのに気付いた。
    堀江氏の作品の既読の書評や著作に比べて女性を念頭に綴っているからか言葉が多彩で豊満なイメージがした。官能的と言っちゃうほどには陰がないけれど。
    『ふすだしぅ、もしくは緑の記憶』の中の「言葉だけで、人の、女性の、奥深い秘密がにおい立つ。」なんて言葉が出て来るなんて。『名前を失った人』の書き出しも知らない堀江氏が見えて、ちょっと嬉しかった。
    魅かれるタイトルを気分で選んで再読しようっと。

  • 時に本を読むことに疚しさを覚えることがある。何もあぶない本というわけではない。自分が読者に相応しいとは到底思えない本を手にしたときである。あとがきに次のような記述がある。

    本書は二〇〇五年四月から二〇〇七年四月にかけて、「クロワッサン」に連載した一連の文章をまとめたものである。この雑誌の中心的読者であるらしい四十代の女性を念頭に置きながら、おなじく四十代に入った男の心に残っている≪女性たち≫の思い出を語る。

    とうにその年代を過ぎてしまった男としては、いささか手にとるのをためらわせるところがある。とはいえ、著者は今の日本で、その文章を読む気にさせてくれる数少ない書き手の一人である。読まずにすますには惜しい。しばし葛藤のすえ、手にとった。

    ブッキッシュな著者らしく、心に残る女性といっても実在の人物ではない。書物のなかで知り合った女性のこと。若い頃から読んできた作品に登場する主人公や作家その人を、できるかぎり初読当時の本(版型、仮名遣い、翻訳等々)にあたって、その扉を叩き、再訪を試みた探訪記である。

    今でこそ小説家の肩書きに何の不思議もない堀江だが、デビュー当時は、そのエッセイとも小説ともつかぬ一種独特な作品世界、ある意味中途半端とさえ形容できそうな微妙な立ち位置を好んでとっているように見えた。

    板に二本の釘を打ち、それに余裕のある長さの輪状にした紐をかけ、輪の内側に鉛筆を入れ、たるまぬように気をつけて鉛筆を動かすと板の上に楕円が書ける。この作家には初めから、一つの中心を持つ円ではなくて、二つの中心を持った楕円の精神を喜ぶところがある。

    どうやら作家その人の思い出が語られているものと安心して読み慣れた文体に身をまかせていると、いつしか話の中心は物語の中の女性に移っていて、作家の鋭い視線が彼女の心理の襞を追っていることに気づく。リブレスクなエッセイとも随筆風の書評ともいずれにも決めかねる二つの中心を持つ楕円の描く軌跡のような、この作家ならではの世界に知らぬ間に誘われている自分を発見することになる。

    採りあげた作品はおよそ五十篇。女性作家が中心ということもあって、掉尾を飾る『更級日記』のように名の知れた古典を別にすれば、海外のそれも知る人ぞ知るといった作家の作品が多い。それらに共通するのは、どんな境遇に置かれても不遇をかこつわけでもなく、かといって従容とそれに従うわけでもない、くっきりとした輪郭と、決して派手ではないが、独特の光彩を身に纏った一人の女性の肖像が目に浮かんでくることである。

    それともう一つ、かつて初めて彼女たちと出会ったときには気づかなかった事を年経て相見えることで再発見した作家の驚きの眼差しである。「彼女たちを苦しめている環境は、同時に生かしている環境でもある。支えてくれる人々はすぐ隣にいるわけではなく、一見、無関係なところに立っていて、表向きは支援者に見えない場合もあるという世の中の仕組みを、私は知らずにいたのだった。」『少女パレアナ』で知られるエレナ・ポーター著『スウ姉さん』からの引用を孫引きする。

    全世界いたる所に、無数に散らばっている「スウ姉さんたち」に、この作品をささげます。/しんぼうづよく、不平をいわずに、「わずらわしい毎日の雑用」を果たしながら、はるか遠いかなたに自分たちをさしまねいている「生きがいのある生活」をながめているのが、それらのスウ姉さんたちです。(中略)私が知ると知らぬにかかわらず世のすべての「スウ姉さんたち」に祝福あれと、私は心からいのります。

    さまざまな女性の人生との邂逅を綴ったエッセイとも、卓抜な読書案内とも読める本であるが、上に引いた文章からも、この本が、意のままにならぬ人生を、それでも自棄になって放り出すことなく、懸命に生きている女性たちに向けておくられた静かなエールであることが伝わってくる。

    そう思うと、他人宛に書かれた親書を覗き見たような、はじめに感じた疚しさが、またぞろぶり返しそうになるのだが、いい歳をした男でも、もう一度読み返したくなる本や、一度会ってみたいと思わせる主人公が少なくなかった。言い訳めくが最後に一言申し添えておく。たとえば次のようなものがそうだ。

    ヴァージニア・ウルフ『ある犬の伝記』
    E・L・カニグズバーグ『ジョコンダ夫人の肖像』
    チェーザレ・パヴェーゼ『美しい夏』
    ナタリア・ギンズブルグ『ある家族の会話』
    ヴァレリー・ラルボー『幼なごころ』

  • 堀江敏幸「彼女のいる背表紙」読んだ。http://t.co/ruWeK0fV 題名と目次から小説とばかり思ったら全然違った。書評でもありエッセイでもあり。映画女優を語るときに代表作を持ってくるような感じで、小説の主人公を、その作品をとおして語る(つづく


    堀江敏幸の書くものはフィクション/ノンフィクションの分類に乗らないけれど、この本は書評でありエッセイもありで、堀江敏幸の作品姿としか言いようが無い。おもしろい。読みたくて長らく実現していないエルヴェギベールをついに読もうかな(とこの人は相変わらずわたしの読書熱を上げる)(おわり

  • タイトルに惹かれて読み始めたエッセイ。
    エッセイ事に書物が引用されている。
    単純な感想になってしまうが、その読書量の多さに驚いた。

    おばあちゃんは、その他なの?という少女の質問(とても大切なその他)や
    マリー・ルイーゼ・カシュニッツの『でぶ』と題された物語には衝撃を受けた。

    私にとっては遠く難しい彼女たちの背表紙だった。
    充実した時間でした。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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