松本隆 言葉の教室

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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838731879

作品紹介・あらすじ

稀代の作詞家が教える“ポケットいっぱいの”日本語の秘密

「風をあつめて」「木綿のハンカチーフ」「ルビーの指環」「赤いスイートピー」「硝子の少年」……
伝説のロックバンド「はっぴいえんど」でドラムと作詞を担当。
解散後は作詞家として2000曲以上を手がけ、
50曲以上がヒットチャート1位に。数多くのヒット作を生んだ---

夕陽を言葉にしてごらん  
世界が一変するよ



もくじ

はじめに ―

レッスン1 記憶は宝箱 創作の源
堆積した記憶のなかから取り出す
幼い頃に観たドイツ映画から
場所の記憶
本の記憶
多感な時期の読書歴
自由気ままにインプット
音楽の記憶
いいものが残っていく

レッスン2 視点と距離 どこから切り取るか
目に映るものをノートに書いてみよう
通りから見た風景
視点をどこに置くか
一枚はさむ
目の高さを意識する
距離を正確に表す
自分とはなにか、3人称の視点
心を動かす訓練を

レッスン3 光と陰 美しさを際立たせる
デフォルメとアンプリファイ
針で突っつく
陰を描くことで立体的に
死が生を輝かせる

レッスン4 あなたが好きって伝えたい
ディテールを積み上げる
ふっと心が動く瞬間
共感を凝縮
色が移ろう
失意のまま終わらない
俯瞰する視点

レッスン5 リズムとバランスと美意識
易しく伝える
語感の気持ちよさ
字数を意識する
バランスの美意識
言葉によって世界を立ち上げる
色を表現する
とにかくたくさんの言葉を知る
言葉の並べ方
「ポケットいっぱいの秘密」の秘密
ダサかっこいいを極める
カナリア諸島と煉瓦荘

アフターレッスン 松本隆のポリシー
普遍性はどこから生まれるか
コツコツ積む
ときに休憩も大事
音楽も言葉も廃れはしない
歌はみんなの財産
日本語へのこだわり
きみをさらってゆく風

松本隆をめぐるナイン・ストーリーズ ―― 延江 浩
0.風街を往く
1. 喪われた東京
2. レイバンと髭面と幸福な春休み
3. はっぴいえんど結成
4. 日本語ロック
5. きっかけは「ガロ」
6. 5人目のメンバー
7. 作詞家に転職
8. 時代を創る
9. ありったけの愛

あとがき

感想・レビュー・書評

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  • ずっとノイローゼのようになっていて、看病だ、身内の葬儀だ、実家の売却の相談に乗れだ、卒論どころでなく、文字を読むのも苦しい。論文の締切は刻々と迫り、書くことも纏まっているはずなのに、雑文やチャットも書けなくなってゆく。商業で私のような文字書きに

    『やってみないか』

    といってくださるお話も、万全でないものはお渡ししたくないから、これもご辞退申し上げる。ただ、眼前の、肩に背負わなくてはならないことだけは、ひとつずつ、何とかしていくしかない。でも、それができていたとしても、内側の私は普段どおりではなくて。

    言葉を使わないということは、世界から隔絶していくことで、ふっとエアポケットみたいになった時間には、ただぼんやりと天井を見て、息をするのも苦しかった。言葉はいつも、世界への扉で、鍵で、味方だったのに。なんにも感情が動かない。そんなふうに。

    死ぬことと遠くに行くことしか考えなかったこの数ヶ月。急に今日になって、突然本を読めるようになった。砂が水を吸うように、すごい勢いで読み進む。延滞して、もうさすがに図書館に返したい本の山から、今日の6冊目はこれだった。

    松本隆さんの関わったアルバムで、映画『微熱少年』のサントラが、ものすごく好きだった。はっぴいえんどは知らないけれど、大滝詠一さんであったり、松田聖子さんであったり、好きなので…松本さんの詩に、いい!と思い続けてきた私は、これのレビューを見て、読んでみなくてはいられず、必死で借りて。読まずに返却したら、まるで二度と本が読めなくなるような、おかしな思い詰め方をしていた。

    端的に言って、この本の表紙の、ターコイズブルーのジュレップを飲んだような、すうっと心地の良い読後感だった。誇張も自慢もない。ただ、確かに歩いてきたひとの、穏やかな語り口があった。その印象は、一度テレビで拝見した松本さんの印象と綺麗に重なって、ほっとした。

    私が言葉を意識的に書くようになったのは、高校からで
    つたなく稚い詩が最初だった。その頃、私の作品を読んだ上級生は

    「これは上手いけど、詩じゃない。歌詞に近いんだ。もっと詩らしく書きなよ」

    と、批評をくれた。その後、私は書きくちを変えて校内誌に投稿をしていたが、自分のノートに書くものは、相変わらず、もとの風味があるままだった。バンドで歌ったりもしていて、詞も書いていたから、それはそういう部分を切らないために、私が無意識に活動の場に合わせてものを書いていたのかもしれなかった。

    詩にも、俯瞰とリズムと。書いた字面の印象が大事だ。言葉、と書くのと。ことば、と書くのと、コトバは違う。行間のリズムや韻が心地よくなくて、風景が見えないのはつまらない。そう思って書いてきた。それらは、私に、詞っぽい詩を書かせ、しまい込ませたり、息を吹き返させたり、私の折々に、ひょこっと気まぐれに顔を出してきた。

    この本を読んで、松本さんのような天才はすごくて、この『言葉の教室』で、私のようなタダの音楽好きの、駄文字書きにも、こんなのはダメなのかな、としまい込んだ、でも大事にしていた何かを

    「あ、これ。こういうことだ。私のこれ。きっと。」

    と、明るいライトが灯るような思いを分けてくださった。文章には、物語と風景と、思い出と、書いてない先の先が、ほのかに光っていなくちゃ。

    そして、他の方に触れていただくものは、趣味でも商業でも、うつくしい日本語で語りたい。小綺麗、ではない。糊の効いた日本語に、風合いを付けて使いたいのだ。そのためには上質のインプットもすごく大事だ。小さなこの本は、いっぱい気づきをくれた。

    読み終わった時、どうしてか音楽を聞いて寝そべりたくなって、ワイアレスヘッドホンの充電を慌てて始めた。こんなに書いたのに、まだ銀色のヘッドホンの充電は、終わっていない。ライトが瞬いて、沈黙も心地よい。ならいっそ、アイスコーヒーを淹れて、台風の心配でもしながら、カーテンを閉めよう。

    まだ論文は無理だけど、死ぬのはもう少し先でいい。神さまの言うとおり。だ。

    普段の文章なら、また書きたくなりそうな、そんな夜になった。

  • 作詞をする上で学びを得ようと思って読んだ。
    まあ、そうでしょうね、という予想通りの内容に終始。

  • 何となく気になり、本書を手に取りました。

    私は歌のことはよくわからないのですが、この本では「言葉」がとても大切に扱われていて、そのことが深く印象に残りました。

    まっさらな気持ちで、感じ取ること。
    「言葉」をたくさん自分の中に蓄えておくこと。

    多くの人たちに届く言葉というのはこんなふうに生み出されていくのか、とあたたかな気持ちで読みました。

  • 夕陽を言葉にしたら何だろう。
    その時の風や空気、気配でそれはきっと変わる。
    言葉にできない思いや風景を言葉に託した時、
    世界はたぶん一変する。
    言葉の力を信じたいし、言葉に力を信じて必死にもがく姿は切実さがある。
    日本語を大切に使える人に、簡単に伝えられる人になりたい。

  • この本は教室という言葉が題についているため、作詞方法やアイデアの作り方など、何かしらの学びを習得しようとする方が読むのかもしれない。そういった、本の内容を箇条書きにしてまとめるような、学びの情報のみを求めている方には向かないと思う。
    松本隆のこと、はっぴいえんどが好きだった方にはきっと届くはずだ。
    松本隆はこぼれ落ちるものさえ魅力的なひとだ。

    まさしく潜在意識をつつくような本だった。
    作り手の愛情が届く本は素晴らしい。

  • 説明する文章とは全く違う。

    削ぎ落とした言葉で、誰もが持ってる感情やイメージを想像させるって、もはやアートだと思う。

  • 松本隆になって世界を見てみたくなった。
    大好きな人。

  • 時宜を得たというか、きっとこの本が出るのが数年早かったら魅力が半減していたように思います。やはり歌詞を読むだけでなく昔の音源にもアクセスしやすくなったサブスクの存在はとても大きいです。
    何度も聞いたことのある木綿のハンカチーフってこんな曲だったんだ、みたいな再発見も多かったです。

    松本さんが礎を築いた「日本語で歌詞を書くこと」の美しさというのは、近年のJ-POPでもしっかりと受け継がれているように感じます。YOASOBIなどはサウンド面の印象が強いですが、歌詞もとても魅力的ですし、星野源さんの作品などにもその影響をとても強く感じます。

    余談ですが松本さんが作詞を始めたのも、星野さんがインストバンドのSAKEROCK後に歌い始めたのも、細野晴臣さんの一言がきっかけだったというのは面白いですね。才能を見抜く目がすごすぎる。

  • 寝る前に松本隆のことばを読みながら、音楽に耳を傾ける時間はやすらぎのひとときだった。
    彼がどのようにして言葉を紡ぎ、それに真摯に向き合ってきたのかがよく分かる一冊。彼こそが日本の作詞家である。
    どの歌の話も良かったが、『君は天然色』では涙を流してしまった。

  • 松本隆の言葉との付き合い方について、本人へのインタビューを通じてその片鱗を垣間見ることができます。難しいことは語らず、ただただシンプルな内容が語られており、まあ、やっぱり才能やセンスに溢れているんだろうなぁと再認識しました。

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著者プロフィール

1958年3月31日生まれ、東京都出身。
TOKYO FMゼネラルプロデューサー。
「村上RADIO」などのラジオ番組を手掛けるほか、作家としても活躍。
国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。

「2022年 『さはしひろし 今夜、すべてのロックバーで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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