戦争の悲しみ

  • めるくまーる
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レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784839700928

作品紹介・あらすじ

キエンは何度も死地を生きのびた。だが、戦争という苛酷な体験は、彼の心身に癒しがたい傷を残した。凄絶な戦闘、ジャングルをさまよう死者の霊、部下たちの気高い自己犠牲…痛切な思い出の数々が彼につきまとう。戦後のハノイに生還して、キエンは奔放で情熱的な同級生フォンと11年ぶりに再会する。かつて二人は狂おしい愛で結ばれていたのだった。だが今は、芸能会の放恣な生活に身を委ねるフォン。ここにも戦争の深い傷あとがある。極限状況における人間の悲劇性を見てしまった二人に、はたして青春の愛は回復するだろうか?ヴェトナム作家協会賞受賞・英インデペンデント紙海外小説賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。ベトナム戦争はイデオロギーの戦争、表現形態は各々の立場が色濃く表出されがちである。が、『戦争の悲しみ』では敵味方でなく、一人間の優しさや愚かさを慈しみ悲しむ。戦争は人間の持つ善と悪の両極を剥き出しにする極限だ。惨たらしい場面がいくつも出てくる。主人公キエンの回想は人間に通底する奥深くの悲哀を幽玄にまで昇華する。これほどの悲しみを美しく幻視するのはとても辛いこと。恋人フォンの水浴場面の美しさは、汚されても決して汚れない純潔の魂の具現として忘れ難い。故に癒えることない永遠の悲しみを残す。ただただ悲しい。

  • 先ほど読み終わって、呆然と打ちひしがれています。
    「反戦小説」などというチープなレッテルを拒むほどの圧倒的なリアリティと普遍性を兼ね備えています。
    読みごたえ十分です。
    題材はベトナム戦争です。
    と言うと、私たちはつい米国の視点に立ってこの戦争を眺めがちです(それはそうですよね、参戦はしなかったとはいえ西側諸国の側にいたのですから)。
    「ドイモイ文学の傑作」とも評される本書は、北ベトナムの視点に立って書かれています。
    つまり「勝者の視点」です。
    しかし、勝利に付随する歓喜は毛ほどもありません。
    「戦争に勝者も敗者もない」というのは、ベトナム戦争の場合、アフォリズムでは決してないどころか、一種のアイロニーです。
    米国が支援した南と北との軍事力、物量の差は圧倒的で、北はおびただしいほどの犠牲者を出します。
    戦闘シーンは凄絶そのもので、眼を背けたくなるほどです(何と言っても、爆弾だけでも住民6人に1トンが使用された凄まじい戦争だったのです)。
    迫真性に富むのは、著者が実際にベトナム戦争に従軍した経験を持つからでしょう。
    著者バオ・ニンはベトナム人民軍陸軍に入隊し、サイゴン攻略にも参加しています。
    その後、戦没者の遺骨収集に携わり、ハノイへ帰還するという経験をしました。
    本書の主人公・キエンもまた、ベトナム戦争に従軍します。
    11年間にも及ぶ戦争にどっぷりと浸かり、文字通り九死に一生を得てハノイに生還します。
    キエンにはかつて一生の愛を誓った恋人・フォンがいました。
    美しいフォンと交遊する場面が、これまたみずみずしくも美しい文章で描かれます。
    しかし、彼女との恋は戦争によって、あまりにも無残な形で引き裂かれます。
    私はほとんど胸を押し潰されるような気持ちで、この場面を読みました。
    しかし、これが戦争の実相の一断面でもあるのだと得心もしたのです。
    本書は戦後の現在と、戦前、戦中を激しく往還しながら物語が展開します。
    本書でも作品内の作品について語る形で言及されていますが、時系列に沿って物語を展開することもできたでしょう。
    ただ、時系列には記述されなかったことに、恐らく大きな意味があるのではないでしょうか。
    この作品は、過去・現在・未来が激しく往還する形でしか記述され得なかった。
    むごたらしい戦争を体験した者の心の動きというのは、まさにこういうものなのではないかと思うのです。
    「美しいノスタルジア。そして戦争の悲しみ」と251ページに、さりげなく記されています。
    時を行きつ戻りつしながら、私たち読者もまた、キエンと同じように戦争の悲しみに打ちひしがれるのです。
    「ドイモイ文学」という枠組みにとどまらず、世界中で読み継がれるべき一冊と言えましょう。

  • 天文学的な確率の幸運の結果、対米戦争を生き延びた兵士の物語。これは作者バオ・ニンの自伝的要素が強い。戦後、間断なく襲う戦時の記憶がフラッシュバックする姿は、終戦による平穏とは無縁の、生き地獄的な様相を呈する。

    「反戦小説ではない」と作者は自作を評する。戦争の是非を問うているわけではない。極限状況のなかで現れる裸の人間の姿が明らかにする、持って生まれた無軌道さ、如何ともし難い悲劇性に焦点が当てられている。

    小説技法も練られている。発表のあてもなく書かれた原稿が残され、読み解く第三者には、前後のつながりが分からないという設定。時系列が崩されており、ある悲劇の前段が後から語られることで、悲惨なエピソードの無慈悲性が強調される。かといって決して無用に難解ではない。

    兵士キエンと恋人フォンの悲恋の行方を追う、という読み方もできる。このストーリーラインは切なく後味が悪く、痛烈な読後感が残った。恋人を思うがゆえにとった行動が裏目に出るところは、戦争の宿命、平時の大事が戦時の小事という残酷な現実を語る。

  • 時系列があっちこっちに飛んで読みにくかったが、そういう手法らしい。

    ただベトナム戦争の悲惨さは伝わってきた。
    枯葉剤などの悲劇はニュースなどで知ってたけど、
    なんの罪もない民間人がここまで殺されていることに憤りを感じる。
    それなのに過去から何も学ばず、未だに戦争がなくならないのは何故なのか?

  • ‪戦争と青春の焼けつくようなイメージの断片が時空間を無視してなだれ込んでくる。入れ子構造の悪夢。苦痛の回想って確かにこういう感じだ。想像力のない僕でも脳内再現率がハンパなくて圧倒されました。あとベトナム視点のベトナム戦争ものというだけでまず社会的価値があると思います。すごい傑作。
    ‪※実際は改訳にあたる世界文学全集で読んだ。‬

  • 作者バオ・ニンが実際に戦場で経験した事実をもとに描いた小説なので、戦争がもたらした悲惨さがそのままストレートに伝わってきた。この作品の主人公キエンと恋人フォンとの間に起こった出来事と同じような悲劇が多くのヴェトナム人を襲ったのだ。戦争は人間が想像し得る以上の悲惨さを生み出すのだ。この地球上から戦争がなくなることを望む。

  • 現在のベトナムに暮らしていても、ほとんど思い起こすことがない対米戦争(ベトナム戦争)の悲惨さ、ベトナム民族の苦労を痛いほど感じさせてくれる作品であった。とはいえ、米軍やサイゴン政権への敵意や批判、社会主義の賛美などといったものとはまったく無縁で、ただただ戦争の時代に生きる庶民の苦しみを語っている。

  • CL 2012.6.12-2012.6.21

  • 1565.初、並、カバスレ、帯つき。
    2010.2/10.名古屋みなとBF。

  • クリアしなければならない課題がなんなのか、本当は分かってるんだ。

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