ファインマンさん 最後の授業

制作 : Leonard Mlodinow  安平 文子 
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レビュー : 18
  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784840108973

感想・レビュー・書評

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  • ファインマンという名前と出会ったのは実際いつのことだったろうか。有名な「ファインマン物理学」という教科書が本屋に並んでいるのは、高校生の頃から目にしていたと思う。そして更に有名な「ご冗談でしょう、ファインマンさん」という痛快な自伝も大学生の頃には出版されていた筈だ。しかし実際にファインマン関連の書籍に直接目を通すようになったのは、ずっとずっと後のことである。1996年、あるショッピングモールの本屋で"Surely You're Joking, Mr. Feynman!" という本を手にするまで、自分はファインマンという人物についてほとんど知らないままでいた。

    その時、自分は何故かコネチカットにある研究所に身を置いていた。今でも不思議な気持ちで当時を思い出すことができるが、そこは明らかに分不相応な場所だった。自分の同僚は核物理学者ばかりで、いったい自分がそこにいて何をするべきなのか途方に暮れていた。朝一番に誰よりも早く研究所の自分の部屋に行き一番遅くまで残っている、という生活をしていたが、それでもそれは朝7時から夜7時までのことで、歩いて5分のアパートまで帰れば、持て余す程の時間があった。その中で読んだ一冊がファインマンの自伝である。

    それからというものファインマン関連の本は読み漁ってきた。コネチカットでもヒューストンでもファインマンの名前の付いている新しい本があれば、躊躇することなく買った。原書も読んで邦訳も読んだ本も少なくない。ファインマンは自分のヒーローになった。もちろん、直接逢ったこともないファインマンの真の人間性を知り得よう筈もないのだが、型破りな人生をつづった本の数々や、一般読者向けの物理の本などを通して想像する人物は、とても人間臭くて、がむしゃらで、そして、かっこよかった。ファインマンの書籍を通して学んだもの、それは「1たす1」のレベルから理解する、あるいは、専門家以外の人に解るように説明できるように理解することの大切さ、だ。その教えは、その場違いな研究所に居る自分にとって励ましにもなった。

    ファインマンは本に描かれている程人間的にはできた人物ではない、というような噂は研究所で同じチームだった博士からも聞いていたし、それはそうなんだろうな、とも思っていた。そのことは充分本からも想像できていたし、この「ファインマンさん 最後の授業」に描かれている人物も、その想像通りの人だったともいえる。もちろん、この本はファインマンの魅力をポジティブに伝える本として申し分ない本だと思うし、自分のファインマンに対する見方も全く変わってはいない。マレー・ゲル=マンとの確執も、まぁ、想像通りという感じだ。それでも本書は、とても公平な態度で、ある短い期間だがファインマンとその周辺の様子を伝えている。そしてそこに描かれているファインマンは、やっぱり、かっこいいファインマンに違いないのだが、伝説の色眼鏡を外して観察されたより人間的な人物でもある。

    とても控えめに描かれてはいるが、実のところこの本はファインマンのことを書いているというより、ファインマンと知り合った頃の著者ムロディナウ自らの、苦悩の時代へのオマージュ、という色彩が強い。実はその部分が、自分にとってのファインマンとの出会いに余りにもダブって映るものだから、より強くそういう印象持つのかも知れない。ファインマンに伝道師のイメージは似合わないが、闇を切り開いていくような彼の人生の歩み方は、若者にとってとても頼もしい人生の師、と見えるのだ。

    ムロディナウが教えてくれたことの一つで、科学者には「ギリシャ人」か「バビロニア人」かの2つのタイプがあると、ファインマンが考えていた、というのが面白い。なる程そういうことか、と思う。多くの科学者は自分の研究していることに数学的繊細さを追求しがちで、それはギリシャ人的な考え方、あるいはプラトン的考え方、だ。一方、現象そのものの説明能力にこだわる人もいて、こちらはバビロニア人的、あるいはアリストテレス的と類別することができる。そして、ファインマンは自分をバビロニア人であると思っていたらしい。

    科学者はたいてい「真理」を求めようとする。その道筋として「美」を選んでしまう人もいるし「善」を選んでしまう人もいる、ということなのだと解釈し直し見ると、よりしっくりくる。自分が何故ファインマンに惹かれるのかもよく解る。何故ならファインマンは「善」の人であり、自分も常々そうありたいと思っているからだ。ただし自分には「美」を追求する能力がないから、という消極的理由もあるが。MITの数学科に進学したくらい、ファインマンは数学が得意だったにもかかわらず、その美を追求しなかった。道具としての数学にこだわっていたのだ。本当に「なんでそうなるのか」を「1たす1」から考えることが好きだったんだなぁ、と改めて思う。

    ファインマンはこれからも相変わらず自分の偶像であり続けるだろう。ファインマンのように一生「なぜそうなるのか」という疑問に挑み続けていけるかどうかは、はなはだ心許ないけれど、カルテクで途方に暮れていたムロディナウやコネチカットで途方に暮れていた自分にとってそうであったように、挫けそうになった時にはファインマンの言葉を思い出して勇気を奮うだろう。この本を読んで、そのことが確かなことであるということに気づいたのだった。

  • 後期のファインマンを同僚視点で。
    同僚の物語にいかにファインマンが影響をあたえたかといった具合。
    C0098

  • ファインマンの晩年の物の見方が知れる。
    もし、そうだったとしたら。

  • 294

  • ファインマンという偉大な物理学者が、こんなに魅力的な人だったんだと、初めて知った。

  • まだ岐阜に住んでる時、島のカルコスで買った本。岐阜時代に買った最後の単行本かな。長らく積読状態だったけどやっと読んだ。読み始めたら2日で読み終えた。

    著者のレナード・ムロディナウがカルテクに着任し、研究者として悩んでいるところをファインマンとの会話を通じて自分自身をみつめ直し歩みだしていく過程がつづられている。

    本書の中にはファインマンの言葉そのものは少ない。ファインマンのエピソードや言葉が目当ての人には不服だと思う。ただし、悩みを抱えた著者との会話の中に、ファインマンの科学に対する思いや人生観などが多分に含まれており、他の本にはない魅力といえる。

    ここに登場するファインマンは『ご冗談でしょう、ファインマンさん』からイメージされる、いたずら好きでユーモアたっぷりのファインマンさんではなく何十年の人生、研究生活を過ごし、癌を患い死を受け入れた年老いたファインマン氏。近い時期の、チャレンジャー号の事故調査のことを書いた他の本も読んだけど、死生観とかは今回初めて目にした気がする。新しい一面を知ることが出来てよかった。

    ずっとひも理論を嫌い続けたファインマンが人生の最後の数か月でひも理論を学ぶ決心をし、ライバル・マレーが毎週個人的にセミナーを開いたというところは美しい場面だった。

    ファインマンの命日と自分の誕生日が同じ(年は違う)という点、わずかながら縁を感じる。

  • ファインjマンは哲学という学問を軽蔑していた 僕は物理学に自分の居場所を見つけた。それが僕の人生だ ナホボ族の人たちは、虹を幸運の前兆だと考え、それに対してほかの部族は、虹を生と死を結ぶ架け橋だと考えていた

  • ムロディナウさんから見たファインマンさんと、小学校の時に読んだ「ご冗談でしょ、ファインマンさん」の違いに少しとまどいましたが、晩年のファインマンさんが身近?に感じられる本でした。

    読んでよかったです。

  • 晩年のファインマンと研究の道に迷う若い研究者との交流。研究に対するファインマンの姿勢がよくわかる。あれだけ反対していた超弦理論を死ぬ直前になって知ろうとした事やそれにライバルであったゲルマンがそれに応じたことなどは本当に切ない感じがした。

  • 晩年のファインマンさん語録を読もうとするなら、半分以上を読み飛ばすことになる

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著者プロフィール

1954年アメリカ生まれ。カリフォルニア大学で博士号を取得した後、マックスプランク物理学研究所やカリフォルニア工科大学で量子力学の理論研究をおこなう。著書に『たまたま』、『しらずしらず』がある。

「2016年 『この世界を知るための 人類と科学の400万年史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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