私の家では何も起こらない (幽BOOKS)

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  • Amazon.co.jp ・本 (199ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784840131650

感想・レビュー・書評

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  • 表紙のどこか不思議な雰囲気に惹かれて読みはじめましたが、早々にゲゲゲ。これってホラー!だよ、と気づく間抜けさ。よくよく考えりゃ、本当に「私の家では何も起こらない」だと小説にならないわけで、これではまるで食虫植物に捕まった間抜けな人間のようです。ホラーなんて絶対読みたくなかったのに…。

    仕方なく読み始めると最初の章は不気味さはありましたが、まあ無事に過ぎ去り、次の〈私は風の音に耳を澄ます〉で何だか違う話になって、この本が絡み合う10の短編で構成されていることに気づくと同時に最初の章がストーリー全体を俯瞰する役割を担っていたことにも気づきました。ただ、そんなことよりも兎にも角にもこの章のホラーっぷりには、怖いよ〜、今夜眠れなくなるよ〜という強烈な怖さを感じました。何というかとんでもない恐ろしい身の毛のよだつ光景を、ひたすら淡々とした語り口で書き記しているところが余計に怖さを増すのだと思いました。冷んやりとしてとにかく怖いです。せめてもの救いは怖いのがここが頂点だったことでしょうか。あくまで私にとってはですが。

    人によって怖いと感じるものは恐らく違うのだと思います。それまで生きてきた中での経験の積み重ねが、その人にとっての怖さを形作っていく。何を怖いと感じるかを知ることでその人の人となりを知ることもでき、その人の世界観をも知ることができる。こんなところから人を見てみるのも面白いのではないかとふと思いました。と、読み終わるとこんな風に極めて冷静に感想を書いている自分がいます。それは、何とも言えない怖い話が続いて読みはじめたことを後悔していたのにもかかわらず、〈俺と彼らと彼女たち〉ですっかり怖さが落ち着いてしまったからです。あちらの世界の皆様にもそれぞれの居場所や事情や悩みがあって、基本的にはシャイで、悪い奴の前では何だか仲間でもあるかのようなそんな世界観に一気に変わってしまったのには、違う意味で驚きました。怖いのが苦手な方も読みはじめた以上はここまではとにかく頑張りましょう。必ず救いの手が差し伸べられます。

    そして、恩田さんは元々の終章であった9章でさらに違う世界観をふりかけます。〈私の家へようこそ〉、ホラーを冷静に見下ろすかのようなとても印象的なまとめ方です。一読の価値があります。また、恩田さんらしい余韻も残してくれます。
    「あたししかいないのに、淋しい感じがしないって。なんだか人がいっぱいいるような気がするって。」
    と出てきても、もう怖くない。何故だか怖くない。何だか幽霊屋敷が別物に感じてくるこの不思議さ。恩田マジックが勝利し恩田さんの余韻の世界にたっぷり浸る時間になりました、という感じでいい塩梅です。なので後で附記された最後の章は少し余計かなと思いました。

    なかなかに印象に強く残った作品でした。パブロフの犬じゃないですが、アップルパイの匂いがすると背筋が寒くなる気がします。そう、本を読んでいるだけなのに匂いを感じてしまう凄さ、不気味さ。そして、確かに書名は正しかった。「私の家では何も起こらない」、そう、あちらの世界の方は何も起こさないのです。こちらの世界の我々が勝手に匂わない匂いを感じたり、居もしないものが見えると叫んだりするだけ。

    しばらくアップルパイは食べたくないですが、何故か無性に再読したいと感じているこの不思議。そうです。恩田さんの本でもう一度読みたい一冊になってしまいました。

  • ちいさな丘の上に建つ二階建ての古い家。
    幽霊屋敷と噂されているその家を、購入したのは売れない作家の女性だった。

    この家の噂は、過去に人間の死に関わったり、この家に関わり死んでいった人が幽霊となって住み着くようになってから流れ始めた。

    一言で言うと、この家には本当に出る。

    ———-


    この本のタイトルの「私の家ではなにも起こらない」というのは、皮肉が効いていて面白い。

    その家に住む幽霊たちは、幽霊の存在を信じている人には悪さをしない。
    言い換えれば、肝試しや除霊など、幽霊の存在をぞんざいに扱う人の前には出てきて悪さをするというものだ。

    知っていても、幽霊が苦手な人からすると背筋が凍る思いがする。

    でも、物語は読みやすくて面白かった。
    人間以上に怖いものはないという教訓も為になりました。

  • 怪異は「家」で起きる。そこには人間たちの姿をうつらうつらと夢見続けている存在がある。そこでの時間は連続しているし、いくらでも時間はある。そこには刹那的な存在である人間たちの記憶が積み重なっていく

  • 丘の上の古い家にまつわる話。
    ホラーなんだろうけど、怖いなかにも雰囲気があって独特。
    ホーンデッドマンションのようなイメージを勝手にふくらませながら読んだ。

  • “ようこそ、幽霊屋敷へ・・”
    ホラーが続きますが、今度は英国風のゴーストストーリー。

    小さな丘の上に建つ二階建ての古い家を舞台にした、連作短編10話が収録されています。

    「私の家では“何も起こらない”」という表題(第一話のタイトルでもあります)ですが、いやいや、色々起こっておりますよ!
    ということで、各話で、この家で起こった凄惨な事件や悲しい事故などが語られるのですが、それぞれの話のリンクが絶妙で、うまい具合に繋がっているのが流石です。
    流れるような文体で読みやすく、詩的な印象すら受けるのに、内容はまぁまぁ残酷だったりするので要注意です。
    特に第二話「私は風の音に耳を澄ます」は、無邪気な少女の語りからの、グロテスクなオチへの落差が大きすぎて、グロ耐性の低い私は思わず“ひぃっ”と身を縮めてしまいました。
    全体的に、じんわりと不気味な雰囲気な話が多い中、第八話「俺と彼らと彼女たち」は、屋敷を修繕する大工さんと幽霊たちの交流がユニークで、明るい読後感が好きでした。
    そして、最終話「附記・われらの時代」では恩田さんの幽霊考察がサイドストーリー的に描かれていて、こちらも興味深かったです。

    というわけで、雰囲気たっぷりの幽霊屋敷を堪能させていただきました。
    まぁ、よく言われがちですが「怖いのは生きている人間だ。」ということですよね~。

  • 英国のテイストを感じます。
    軽やかな雰囲気ですが、そこはかとなくスプラッタ!
    とりあえず、大工さん親子が最強、と。

  • 再読。
    丘の上に建つ古い幽霊屋敷を舞台とした連作短編。
    時々無性に再読したくなる作品。
    過去に起きた事件や屋敷に関わってきた者達の様々な記憶が1つの糸として繋がっていき、死者の歴史を重ねていく。
    うっとりとしてしまうような狂気と味わいがあり、そこはかとない怖さの中にもどこか優しさも感じられる物語。
    生きている人間の方が怖い。
    見方によって印象をがらりと変えるのもこの作品の面白いところ。
    幽霊は思い出に似ているとのくだりがありますが、思い出を連ね、屋敷は丘の上に佇んで行くのだろう。

  • ホラーです。面白かったです!恩田さんの本は装丁も綺麗で買いたくなる。

  • ひっそりとした極上のホラーでした。
    1つ1つのエピソードがうまく絡み合って、1つの家で起こった現在過去未来を融合する物語。
    まあ、多少死にすぎですが、ホラーなのでよしってことで…。
    誰一人として登場人物の名前が出て来なかったのだけど…かえってそれが想像力をかきたててくれました。
    最後の書き下ろしって??必要だったのかな…。

  • おもしろかった。(私的には)一気読み。
    イギリスの田舎を思わせる土地に建つ幽霊屋敷をめぐる連作集。
    どの話も、一人称で語られる。姉妹の話でさえ、一人称で交互に話されている。
    「奴らは夜に這ってくる」は悲しい話だった。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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