欲しい ほしい ホシイ

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  • / ISBN・EAN: 9784844338031

感想・レビュー・書評

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  • 遺伝子という視点で見ると「感情」は「命令」

    私たちは花を見るとき、遺伝子から「そこに安心できる暮らしがあると感じねばならない」という「命令」を受ける
    「でないと、貴様が死んでしまうのだ!」と

    私たちの祖先は花に囲まれて暮らしてきた
    花は「豊かな食料と安全な住まい」の目印
    まさに救世主であった

    「感情」は言語にならないレベルでの「命令」
    そして、感情はしばしば「優先付け」をします

    蛇にはゾ~っとするけど
    車にゾ~っとしないから世界で100万人以上が亡くなる

    本能は「ぎょっ」とするものを記憶する
    害があるのかないのかわからない要注意生物だから
    →これが”インパクト”の原理

    動物は自分と同じ属性の人がやっていることはマネしなければならないという命令を受ける
    それが逃げるときや、狩りのときに有利だから
    →これが”共感”の原理

    売れる広告とウケる広告は違う

    理性という人間の心の半分にしかスポットライトを当てていないことが多い

    第1章 認知のこと
    情報が情報を意味付けする
    ただの棒でも、目と口があれば鼻に見える

    人間は情報を個別ではなく他のものと組み合わせながらその意味を解釈する

    人間の脳は、常にラクをしたがる

    脳は「拙速(せっそく)」
    仕上がりは下手でもやり方は速いという意味
    →広告コミュニケーションを考える上での大前提

    人間の脳は体全体の2%の重量だが約20%カロリー消費
    大昔、食料が十分でない頃、思考にカロリーを取られすぎるとそれが意味するところは死。

    脳の消費エネルギーは電力に換算するとわすか20ワット
    最新PCの数十分の一のエネルギーで計算できちゃう高性能

    情報は単体で見たり聞いたりするよりも前後にサポートしてくれる情報がある方が強く、認知・記憶できる

    ゲシュタルト群化原理
    =ない情報を勝手に補完する
    CMなどを見る人は自分たちで「ふくらませて」認知する
    人の脳はストーリーを勝手に「作り上げる」

    広告のストーリーとは、商品を効率よく認知してもらうための情報フォーメーションである

    選択的無視
    ヒトはフィルターにひっかからなかった情報はまったく認知されない

    例:バスケットボール ゴリラ
    https://www.youtube.com/watch?v=P-PP35A0vHw

    人は、自分と関わりがあるもの・動いているものに意識が行く

    大事なのは、登場人物たちの意識が常に商品に向いていること

    商品がなければストーリが成立しない
    ことがCMとして成立するかどうかの基準

    認知されない例:エリマキトカゲ ミラージュ
    https://www.youtube.com/watch?v=QlUTPk-iVMo

    コピーの中に、商品への意識が含まれていればOK
    レミーマルタン「あと百年、これでいく。」

    商品こそが広告の主役であり、コピーも、ビジュアルも、すべてのクリエイティブ要素は商品を担ぎ上げるために存在するのです。

    ざっくり計算の脳は、
    ドキッ=好きッと省略して考える

    なんでも短絡的につなげようとする習性がある

    3B
    Beauty・Baby・Beastを起用するのも
    気持ちが動く=ほしい?となる

    広告表現に利用するモチーフは「身近な」ものがいい

    どの広告もロゴの位置が右下
    人の言語中枢が左脳にあるのでm言葉は右の視界にある方が認識しやすい

    右脳がイメージをつかさどっているので左にあるものを美しいと感じてしまう
    例:モナリザ
    https://ameblo.jp/rich-family/entry-10123444367.html
    https://www.blog.crn.or.jp/report/04/29.html

    広告をレイアウトするときは
    左側:ビジュアル
    右側:コピーや商品名

    ヒトは、欠けているものがとてつもなく気になる
    →広告も「どこかに少しだけ違和感を残す」

    素直がいちばん
    →肯定語を使用する
    「うんこくさくないダイヤモンド」と言われてもうんこのにおいが残る

    女性の採集本能
    楽天市場、ドン・キホーテ、カタログ通販、折込チラシ
    楽天市場はわざと商品を見つけにくくしているという噂

    女性向けなら情報はできるだけ多く見せるのがよい

    「まさに私!」と感じるかどうか

    ピンクレディ:自分事
    キャンディーズ:他人事

    ブランディング
    ヒトは自分と関連付けようとする
    ハンバーガーを食べてうまい!と感じるときMのロゴがあれば、Mのロゴを見るだけで喜びを感じる

    ヒトは何かを見るとき「物体」ではなく、「表象」として見てしまう(自分との関わり合いを含んだビジュアル)
    →集団の写真でも、一人がこちらを見ているとそこに目が行ってしまう

    ロゴは、ターゲットとの「関連性」を貯める容器
    →人類史上最も成功したロゴは十字架

    物事をカテゴライズする方が脳もエネルギーが必要ない
    まとめてひとつにしたりするときは、脳はドーパミンを分泌して快感を伴わせることで、積極的に推し進めようとする


    第2章 「記憶」のこと
    記憶とはヒトの意思で自由にできるものではない
    記憶に残すか残さないかは「感情」が決める

    全人類の感情 6種類
    幸福感・驚き・恐れ・悲しみ・怒り・嫌悪
    ヒューマン・ユニバーサルズ
    →このどれかを強く感じたとき、その原因となるものを記憶する
    →広告表表現はなんらかの「感情」を伴わなければならない。特にネガティブな恐れ・悲しみ・怒り・嫌悪は残りやすい。

    広告が存在を許されているのは、観るものをいい気持にさせてくれるから。そのことを忘れてはならない。
    →つまり、使えるのは幸福感と驚き

    住居のサバンナ化
    動物だけでなく、花や緑などサバンナ的なものを目にすると人は幸福感を覚える

    デズモンド・モリス
    「幸福は人生が突然好転したときに我々が体験する『感情』のことである」
    →幸福感とは一瞬の「点」であり、持続せずにすぐに冷めてしまうもの。好転と鎮静を繰り返す。
    →自分の人生が「好転」しそうだと感じられるもの、が記憶に残りやすい

    幸福感につながる表現
    ・競争要素
    ・達成要素
    ・協力要素
    ・リズム要素
    ・快楽要素
    ・知識要素

    驚きを残すには
    例外的な表現を見せてあげればいい
    これまで知らなかったもの=例外的なもの

    ヒトはなぜ笑うのか
    →「なーんだ、ネコじゃん」
    安全だという認識と伝達=笑い

    「笑い」とは、意外なものに遭遇し、それが安全だとわかった時、安全だということを他社へ伝えるために湧き上がる警報解除メッセージ
    だからこそ、誰かが笑うと他の人も笑い出す

    笑えるものが印象に残るのではなく、
    意外性のある表現が記憶されるときは副産物として笑いも伴いやすいということ。

    ヒトは物事を特徴で認識し、その特徴を肥大化させることで記憶に定着させる

    この特徴のことを広告では「フック」と呼ぶ
    そして、店頭で記憶を呼び起こす「キュー」となる

    熊というキューに対して、死んだふりという最重要であるデータを引っ張りだせるようになっている。
    コンピュータと同じようにアドレス配置型だったら、覚えたものは必ず引っ張れるが求めているものが見つかるまでに時間がかかる


    第3章 「購買」のこと
    人間が最も大切にするのは、子供。そして、子供を創るためのパートナー。育てる動機や力を生み出す人間性・愛。

    人々へのお金の執着は?
    ジンメル『貨幣の哲学』
    人間はつながっている存在であり、そのつながりはなんらかの「交換」であり、貨幣はその交換をカタチにしたものなので、貨幣は人間から奪い取ることはできない。
    サルが互いにグルーミング(毛づくろい)をすることによって群れの秩序を確認するように、人間は貨幣を介して売ったり買ったり、あるいは与えたりすることで社会性を維持している。

    お金とはだれにも平等な偏りのない白いお皿のようなものなので、そこにはあらゆる感情・想いが封じ込められる。
    カジノやゲーセンが、チップ・メダルを使用するのも、その執着を取り除くため。
    しかし、現在ではお金も「データ化」されるようになり執着がなくなってきている。

    感情とは、命令のこと。
    感情は、人に遺伝子を残すための行動をさせる案内人であり、監視人でもあります。

    最も気持ちいいことが最も遺伝子を残す目的に近い場所にある。例えばセックス。
    逆に痛みなど、目的に反することは不快感を覚える

    お金をもらうとき、使うときにはドーパミンが出るため快感になる。アメリカではうつ病の治療法として「ショッピングセラピー」というものもある。

    ヒトはお金を出し入れする、その瞬間の気持ちよさのために購買行動をする。これは、食事をして排泄をする気持ちよさの相似形である。

    ヒトが「出し入れ」で快楽を得ているとすると、ネット社会は情報の出し入れ。また、使う額は減っても回数が変わらなければ生活者の気持ちよさは変わらない。

    生活者は何か買いたいと思っているという前提で広告を立案していくべき。

    9割が無意識。ヒトが商品を「買う」動機の9割は、その人の「意思」によるものではない。

    バーゲンセールではテンポの速い曲を流すと、疑似アドレナリンの役割を果たし、無意識にいけいけと命じているかのように勘違いする。

    ヒトは何をするかを決めてから行動するのではなく、
    行動してから決める

    脳は行動「前」ではなく、0.3秒「後」に活動している

    意識や意思とは、「無意識へのラベル貼り」
    ヒトの動機は、そもそも無意識からわき上がるものであり、そこに「拒否権」を行使するのが意識なのではないか

    整理すると、人は
    最初に無意識による情動で「買いたい」と思い、その次に意識が修正をかけて購買行動にいたる。意識による習性が働かないとき、衝動買いとなる。

    広告の役割
    ①無意識の情動に訴えかけ「買いたい」ドーパミンを分泌させるもの
    ②「買わない方がいい」という意識の拒否権を抑え込むもの

    消費行動の研究によると消費者がお店に入る前に買うべき商品を決めている「計画購買」の割合は11%に過ぎないというデータがある

    伝説のダイレクトマーケッター 
    ジョセフ・シュガーマン
    「人は感覚で買い、理屈で納得する」

    多くの動物はほかの個体を模倣しながら生きている
    OLに売りたい商品があるなら、広告にはOLを登場させればいい

    使用者の表情が大事
    そもそも表情とは?
    →自分にウソをつけなくするため

    新商品のパッケージを見せると中身がなんだかわからなくても3分の2くらいが「買う」という
    →大脳:行動に幅を与える役割
     小脳が大きい動物は同じことしかしない
    →最強のコピーは、新発売
    →「商品から新しい刺激を感じる」広告が真にいい広告

    おふくろの味が最強
    =「おいしさ」の正体は「安全」

    自分から積極的に関与する回数が多いほど好感度が上がる(カスケード効果)
    目玉を動かすくらいのことでもよい
    異性の顔写真も正面よりもわきに置いた方が印象が良くなる。これも拙速の例。

    人は「自分に決まり事を課すことでストレスが緩和される」性質がある
    =広告も決まりごとがある方がやってみたくなる
    例:コロナのライム、チキンラーメンのくぼみ


    第4章 「言葉」のこと
    レトリック(修辞法)=Zipファイル
    ①様々な意味をひとつにまとめて伝える技法である
     まとめることで脳の負担を減らす

    コピーライティングとは、必要とされる伝達要素をレトリックによって圧縮する技法である

    ②話者と聴き手の共同作業である
    Zipファイルは解凍しなければならない
    つまり理解度の負荷が上がると意味が伝わりにくくなる
    ただし、解釈するための一瞬の作業が愛着を生む

    広告コピーは80%の完成度がいい
    受け手との共同作業で90%
    商品がくっついて100%になる

    コピーとはターゲットの生活環境、時代環境と合わせて意味を創るもの

    サルは毛づくろいをしてもらったら、自分をやってあげないと群れから追放される
    =返報性

    コピーの大きな役割は、企業と生活者の「仲間意識」を生み出すこと

    広告コピーの書き方
    まずは、商品とターゲットの接点を探す
    ターゲットの無意識のラベル化、言葉化をする
    そして、ターゲットの生活環境や時代環境といった共通認識に基づき、レトリックで圧縮し、受けてと共同作業できるカタチにする

    コピーならではの機能
    =未来への約束

    狩猟採集生活は、その日暮らし
    人はもともと「未来」について考える必要はなく、「いま」を大事にしてきた
    農業を始めたときから「未来」を意識するようになった

    ビジュアルは約束しないもの
    言葉は約束するもの

    コピーライターの冥利は、
    コピー戦略によって企業やブランドを正しい方向へ動かしていくこと

    現状をコピーにするのではなく、
    一歩先、数年先のめざすべきところをコピーにする


    第5章 「マーケティング」のこと

    ターゲットインサイトは動き回るし、分化する
    同一化と個性化どちらも持ち合わせる
    身を守るための同一化
    リスクを減らすためのバリエーション化のための個性化

    人間を含むすべての生物の究極の目的は
    遺伝子を残すこと
    子供を守る、同じ国民を応援するのはそのため。

    実用的でないものを所有していることは
    その人のパワーを表す
    スポーツカーはクジャクの羽と一緒

    男女の遺伝子保存戦略からすれば
    一夫一妻制はヒトの本能に反している

    生活者の本音の欲求、すなわちターゲットインサイト
    =狩猟採集時代のヒトの本能と、現代の理性との接触点に浮かび上がってくる

    企業は生活者の下請け?
    効率的に売るには求めるものを聞いた方が早い
    =マーケティング的発想からは斬新なものは売れにくい

    たとえ話
    縁日にいくとバナナのたたき売りをしていた
    その売り文句が見事に楽しかったので通行人は足をとめ、バナナを買っていく人もいた
    それに目を付けた人が、隣で同じようなバナナを「こちらは1本増量でしかも1割引き」という札を掲げた
    すると通行人はたたき売りの芸を楽しんで、隣でバナナを買うようになった
    いつしか芸を見せる売り子は淘汰され、むっつりした露店ばかりになり、その縁日自体行く人はいなくなった
    →そこにマーケティングのワナがある。
    →そして今の日本はそうなっている


    第6章 「コミュニケーション」のこと

    生命とは何か?
    生命とは自己増殖するデジタル情報メディアのこと

    コミュニケーション活動とは、
    遺伝子を残す活動の相似形である

    ヒトは本能的にコピーがしたい
    言語というデジタル手法を持ち込んだのは、自分たちの知恵や知識をコピーしたかったから
    →言語は遺伝子の相似形である

    言語によって、ヒトは2種類の遺伝子をもつ生物となった
    ①細胞の遺伝子
    ②文化の遺伝子

    コミュニケーションこそが人類発展のエンジン
    文化的営みというものが生殖活動の代替行為にもなっている。作品のことを「子供」と呼ぶことから。

    「仕事か家庭か」という悩みは、
    「文化遺伝子を残すか、本来遺伝子を残すか」とイコール

    文化度が高い国ほど、少子化が進んでいる
    深読みすると、文化遺伝子は人類が地上を埋め尽くす悪寒から生まれた人口調整機能なのかもしれない

    情報量の増加にともなって広告効果が効かなくなってきたといわれるが、生活者がモノではなく情報を消費することで快楽が満たされているということかもしれない。

    商品力は、そこにくっついた文化遺伝子の力で決まる

    ウォークマンはただの小さいカセットプレイヤーだったが、「外で音楽を聴く習慣」という文化遺伝子をくっつけたことで力強い商品になった

    リチャードドーキンス
    強い文化遺伝子の条件
    「忠実度、多産性、長寿」
    =「伝えやすく、広がりやすく、飽きられにくいもの」

    広告とは、この文化遺伝子増殖のサポートをする仕事
    =製品に文化遺伝子をくっつけて商品にするメソッド

  • 生活者のインサイト。
    本書ではインサイトとは本音と描かれている。
    広告を行うには、これを見極めることが極めて重要となる。

    著者は、生活者のインサイトを探るため、思考の対象を生活者から人間全般へ。更には生き物全般へと広げる。

    生き物はなぜ今存在するか。
    生き物が生まれてから、何億年も一度として途切れることなく、なぜ今も存在するか。
    そこに、全ての鍵はあるのではないか。

    著者は「生物は遺伝子を残すことを快とする」が全ての原点ではないか、と分析。
    その原点に立ち返り、人間、生活者の行動、考えについて洞察する。

    この、「遺伝子を残すため」が全ての原点。という分析は、これまで自分が考えてきたことと合致し、そのとおり、と感じたにとどまるが、これを広告の分野まで広げて論を進めていることに、感心して読み進めることができた。

    この本で、新たに気づいたことといえば、「文化遺伝子」という概念。
    著書、文章、仕事や、社会的地位みたいなものが「生殖活動の代替行為」として受け止められ、「文化遺伝子を残す行為にも、人は気持ちよさを感じている」との指摘。
    この数十年、社会が「発展」することで少子化が進む傾向がある、一つの要因かもしれない、と感じた。
    もう少し考えてみたいと思う。

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