新自由主義か 新福祉国家か 民主党政権下の日本の行方

  • 旬報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845111558

作品紹介・あらすじ

「構造改革」政治が生みだした貧困と格差、地方の破壊…国民の怒りを「新しい福祉国家」づくりへ。

感想・レビュー・書評

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  • <内容>
    小泉・安倍政権でとられた新自由主義改革の内容、思想について分析したうえで民主党政権がどのような性格の政党であるかを分析してある。
    民主党とは
    1司令部の頭脳=新自由主義的な思想と親和性がある自由主義(リベラル)をた多分に含んだ執行部
    2胴体=小沢ら開発志向型(旧利益誘導自民党議員)ら。選挙での中心
    3手足=社民主義的な要素を持つ議員。実際の地方・都市で福祉問題を担当し、新福祉国家型志向(社民主義的)と親和性を持つ

    とある。

    <感想>
    あらかじめ断っておけば、この本は一定のバイアスがかかっている。おそらく筆者らは階級主義的な見方から分析をおこなっている。しかし、本書の分析はクリアーであり、かつ民主党が落ちぶれた現状をも十分予言しうる(結局3つの部分が空中分解してしまった)
    階級論を否定するにせよ、肯定するにせよ、本書は民主党、新自由主義について十分分析しており筆者の力量は高く評価できる。

  • 大学の政治関連を専門にされている先生の政治評論。
    よく勉強している内容になっているが、現場の声が聞こえてこないのはなぜだろう。
    政治を専門にしていない大学の先生の政治評論の方が面白いのは、一つは現場を抱えているからではないだろうか。

  •  本書は2009年衆議院選挙での自公政権から民主党への政権交代の背景と民主党の内部勢力を分析し、今後の方向性を提起した書である。2009年12月に発行されたものであるが、鳩山政権から菅政権、野田政権と民主党の混迷の2年間を経ても、本書の分析と提案は、いまだに光って見えると感じた。
     本書によると、民主党の大勝は二つの力が合流した結果もたらされたという。一つは「構造改革をやめて欲しい」との声。もう一つは「開発型政治をやめて欲しい」との声である。「開発型政治」は旧来の自民党的勢力、「構造改革」は新自由主義的小泉構造改革に代表される勢力である。このねじれた関係が、どのように進行して結果として民主党の躍進につながったのかを本書は論証している。当然ながら自民党内にも「構造改革派と開発型政治派」がおり、民主党も同様である。単純な色分けではないことが、本書を読んで良くわかった。
     また、民主党には三つの構成部分があるという。一つ目は民主党の執行部を構成する「新自由主義・自由主義派」である。彼らは民主党の「頭部」を構成している。二つ目は小沢派とも言うべき「開発型政治」を志向する民主党の「胴体」部分。三つ目は中堅議員グループの民主党の「手足」部分である。「頭部」は新自由主義的志向であり「右」を向く。「胴体」は開発型国家の「後ろ」を向く。「手足」は、反構造改革の「左」を志向しているとしている。これは、やや大雑把ではあるがわかりやすい分類であり、現在でも有効なのではないだろうか。
     本書では、新自由主義と構造改革が何をもたらしたのかについて大きなスペースを割いているが、その恐るべき貧困化の進行には慄然とさせられる。その克服策として「福祉国家の構想」を提案しているが、やや漠然としていて読んでいてもあまりイメージがわいてこない。本書の白眉はその前半部分にあるのだろうと思うが、それでも高く評価できる本であると思った。
     現在の日本においては、政治も経済も混迷を極めていると思う。その解決策もいろいろ言われるが、いまいち説得力に乏しい。それはこれまでの経過の分析自体が不十分であることも理由のひとつと思われるが、本書は、その点で重要な視点を提起していると思った。

  • 新自由主義批判の立場から書かれている。
    民主党の分析や、新自由主義の弊害を描き出している部分では大変参考になるが、肝心の福祉国家の構想がお粗末すぎるかと。

  • この本は、政治学、経済学、地域経済学、社会哲学を専攻する学者4人が、ここ10数年の「構造改革」の政治に対し、それぞれの持ち場で立ち向かいその変革を模索してきた経過を踏まえ、約一年前から議論し準備してきた論文集であり、主たる主張の第1点は、今度の政権交代が、日本では「構造改革」と呼ばれている新自由主義改革がもたらした社会の矛盾に対する国民の怒りと運動を主たる力にして引き起こされたものであること。
    第2点は、民主党政権とは一体いかなる政権でありどちらの方向へ向かうのかという肝心要の点が、解明されていないということであるとしている。
    そのような点を踏まえ、民主党政権の成立をもたらした力と政権の向かう今後の方向を、「新自由主義問題」を基軸に解明されていく。
    そして、民主党が新自由主義と対米追随の軍事大国化に代わる明確な政治の構想をもちえていない点にあるという視点から、新自由主義・構造改革に代わる新しい福祉国家の構想を提示することを目指し、この論文集が編まれたものである。
    いずれにしても、民主的な国政選挙において粛々と政権交代がなされたことは意義深い子とであり、この政権を社会科学的に分析・評価していくということが今後の日本社会の発展にとって重要なことであると思っている。

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著者プロフィール

1947年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学社会科学研究所助手・助教授を経て、一橋大学大学院社会学研究科教授。専攻:政治学・日本政治史

「2007年 『新自由主義 その歴史的展開と現在』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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