ニホンオオカミは消えたか?

著者 : 宗像充
  • 旬報社 (2017年1月5日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845114870

ニホンオオカミは消えたか?の感想・レビュー・書評

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  • 近年、イノシシやシカが増え、山や畑が荒らされる例が増えてきている。捕食者が消え、生態系のバランスが狂ったことが一因であるとされる。
    それに伴って、ではこうした「害獣」を狩る頂点捕食者を導入すればよいとする主張がある。具体的にはかつて日本にもいたが明治期に絶滅したとされるオオカミである。この議論には賛否両論あり、これしかないとする立場から、いやそれでは功を奏さないとする立場までさまざまである。

    本書の主題は、そうした議論のそもそもの根底部分に注目する。
    オオカミを導入する・しない以前に、オオカミは本当に絶滅したのか?という問題提起である。さらには、ニホンオオカミとは何者か?という問いである。
    オオカミが絶滅したとされてから100年以上が経つが、オオカミらしき動物を「見た」という人がいる。「オオカミを探す会」というものもある。それは果たして、ツチノコや雪男を捜すような荒唐無稽な雲を掴むような「ロマン」なのだろうか? 一部の人が夢中になっているだけのバカバカしい話なのだろうか?
    実のところ、野生動物との遭遇はそう簡単ではない。20年以上、多いときは1年の1/3を山で過ごした著者でさえ、野生のクマやキツネと出会ったことがないという。オオカミに会えないからといって、いないと言い切れるのか。「不在」の証明は極めて困難である。
    オオカミには目撃証言や2000年に撮影された写真がある。もちろん、捕獲個体はないため、確証ではないが、一笑に付してよいかどうかはわからないのではないか。
    著者はこうした目撃証言や証人に丹念に迫っていく。

    オオカミの問題をさらに困難にしているのは、そもそもニホンオオカミとは何物なのかという点に十分な整理がついていないことだ。
    ニホンオオカミのものとされる剥製の数は非常に限られており、いずれも相当古いものである。種の定義の基準となる「タイプ標本」はオランダに保管されている。剥製の中には、別の動物とつなぎ合わされたものや保存状態のよくないものもある。複数の剥製を比べると、大きさも毛皮の色も異なり、ものによっては本当に同じ動物なのか疑問が生じるほどだ。
    古来、オオカミには複数の呼び名があったこともことを複雑にしている。山犬、豺、オオカミ、お犬等、地域によってさまざまである。山犬と呼ばれる場合には、野犬化した犬も含まれる場合もあったからさらにややこしい。街でカラスを見ても、いちいちハシブトガラスかハシボソガラスか気にしないのと似たようなもので、山にいるイヌ科動物とざっくりと名前をつけたということになる。

    種が相当前に絶滅したとされ、剥製の形状もまちまちであれば、「ニホンオオカミ」とは何だったのか、検証は簡単ではない。ニホンオオカミはタイリクオオカミの亜種であるという説、別種であるという説に加えて、ニホンオオカミとタイリクオオカミ系のオオカミが2種存在したのだという説もある。オオカミ再導入派はニホンオオカミ=タイリクオオカミ亜種説を採る。別種説派は、別種のタイリクオオカミを導入することを疑問視する。

    近年、ニホンオオカミの骨のDNAから、その起源を探る研究が行われている。この結果からは、タイリクオオカミが日本に入り込み、島嶼化と呼ばれる、競争相手が少ない環境に隔離されたことによる小型化を経たという仮説が有望であるように見える。

    オオカミは犬とも近縁であり、交配が可能である。ニホンオオカミが実のところ、どんな進化の経緯を辿ったのか、完全に解明することはなかなか困難である。

    目撃証言はなお続く。
    ニホンオオカミは消えたのか?
    実はその問いに答えるのは、それほど簡単ではない。

  • 絶滅したといわれるニホンオオカミ。
    けれども、未だに「犬ではない」生き物の目撃証言はある。
    ニホンオオカミは絶滅したのか。
    そして、目撃されたニホンオオカミのすがたかたちはさまざまで、固有種とするには無理がある。はたしてニホンオオカミとはどのような種であったのか。

    ニホンオオカミが生きていると調査活動を続けるひと、絶滅したと主張するひと。ニホンオオカミという種を規定したひとたち。
    著者はニホンオオカミにまつわる彼らの意見を丹念に聞き調べ、考え、わからなくなる。

    とても面白いノンフィクションだった。

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