自分の力で肉を獲る 10歳から学ぶ狩猟の世界

  • 旬報社 (2019年12月21日発売)
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  • 本 ・本
  • / ISBN・EAN: 9784845116119

感想・レビュー・書評

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  • 「命をいただく」ということを教えてくれる本。
    当たり前のように食べているもの全てに命があって、私たちは他の命に生かされている。

    たぶんむかしはもう少しそういうことが身近にあったのだと思うけど、今ではどんどん遠くなって、お店に並んでいる加工食品からそれを感じとることが難しくなっているのではないか。
    これは児童書だけど、子供だけでなく大人にも読んで欲しい一冊だと思う。

  • 狩猟免許を持って、自分の肉を山で獲っている著者による狩猟入門。
    山に入り動物の痕跡を探す方法から始まり、狩猟に関する規制、罠の種類やかけ方、罠にかかった獲物の留めの指し方、解体の仕方、料理などの活用方法、そして猟生活で感じること。
    罠といっても闇雲に仕掛ければ良いのではなく、狙う動物が確実に通る場所に、その動物がかかるやり方で張らなければいけません。

    そこで痕跡の見つけ方には、足跡、獣道、ふんなどの方法があります。
    足跡を見つけて、なんの動物か、体重はどのくらいか、どこからどこに行くのかなどを探ってゆくのはまさに探偵さんのようです。
    獣道も、その動物専門の道か、みんな使うのか、片道用か、往復してるのか、などなど読み取れることはたくさんある。
    ふんからも、含まれる動物の食べたものから山の状況を知ることができます。
    猟とは動物を捕まえることだけでなく自然全体の状態を知ることなんですよね。

    罠で獲るのはイノシシやシカですが、そのような狩猟許可が出ている動物は増えすぎると自然の生態系が乱れる。そしてイノシシやシカを獲って食べられるのは人間だけ(熊も肉は食べるけど狩りは下手らしい)。そこで人間が山を知り狩りをするのは生態系の一員の営みなんだ、というのはとても納得しました。

    著者は鉄砲ではなく罠を使うので、かかった獲物はトドメをさして解体して自分の家まで運ばなければいけません。
    これは急所(シカは後頭部、イノシシは眉間)をどついて気絶させてすぐにナイフでトドメを指します。
    罠で暴れる動物に近づいて急所一撃、分厚い毛皮のイノシシの心臓一撃ってやはり慣れが必要そうだな…。

    罠の張り方や解体の仕方はカラー写真で掲載されています。
    血抜きをして、内蔵を取り出し、皮は脂身と皮の間にナイフを入れて皮を剥いでゆくのですが、ほんとうに脂身が分厚い!
    著者の息子さんたちは小学生のころから一緒に解体しているのでかなり慣れているんだそうだ。
    猟についての考えなども語られます。著者は「残酷だという人もいるけれど、肉を食べるなら、他の人が育てて殺した肉を食べるか、自分が獲った肉を食べるかということ。自分で獲物の跡をを追って、内蔵や骨格全てを知って食べるということでなにか感じることができるのではないか」といいます。
    猟師とベジタリアンは、動物と真剣に向き合って生きているという点では同じではないか、という考えも興味深いです。

    狩猟の楽しみは動物との知恵比べだそうです。猟師が猟をするのは動物を軽んじているのではなくて、獲物を尊敬しているのです。
    猟という生活を通して、人間が自然の一つだと感じられる本でした。

  • 知識と観察と思考、そして行動力の上に成り立つ狩猟の世界を垣間見れる1冊。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    最初のカラーページの写真で、挫折しそうになる方は多いかもしれませんが、本文は白黒で時折写真は出てくるものの、イラスト表現も多めです。

    狩猟を行うには動物や狩猟に関する法律の知識、そして観察したことから動物の行動を読んでいくという、このバランスがしっかりしていないと、できないものなんだなと感じました。
    これはまさに、今の教育が掲げている「考える」力の原点ではないだろうかと思います。

    そもそも昔の暮らしには、知識、観察、思考、行動が生きるために欠かせなかったことがよくわかります。
    しかし様々な道具が発明され、暮らしが便利になったが故に、狩猟を自らせずとも、つまり知識・観察・思考・行動をせずとも肉が食べれる環境になったことは、果たして人間にとって良いこととは言いきれないのだなと感じました。

    便利さは思考を奪います。
    考えるところを他者にゆだね、製品のゆだねてしまうからです。
    もちろん、そうして得た時間を自分のより情熱の向くほうに使えれるのなら、便利さも悪くはないのですが、そんな暮らしが自分にできているのかと言われれば、疑問です。

    お金を払えば肉は手に入る時代に、なぜ狩猟を自分はするのだろうか。
    狩猟だけではなく、その物事を行う理由を「自分のなかに」もつこと、「自分はどう生きたいのか」自分につねに問いかけ続け、芯をもつことが、今の世の中を自分のまま生きるためには必要不可欠なことなのだなと感じました。

  • 概ね『ぼくは猟師になった』と同じ内容。子ども向けに書かれているので、読みやすい。カラーページは解体の様子だけでなく、動物の足跡、ヌタ場、シカ、イノシシ、クマが木の幹につけたキズ、わなを仕掛ける様子などがあり、『ぼくは』よりさらに実践を意識して作られている。
    著者にも2人の子どもがいる、とあるので、子どもたちに教えるイメージだろう。マダニへの注意、狩猟のきまりなど具体的なことから、何を残酷と感じるかなど、考えも述べていて、分かりやすい。
    私が一番心に残ったのは、商業的シカ猟を止めるところ。
    シカが増えすぎていることもあり、シカ肉の美味しさを知って欲しいということもあり、とって捌いた肉を安い値段でレストランなどに分けたところ評判になり、次々と注文が来るようになった。しかし、シカを獲るのが義務のようになり、狩猟のよろこびは消えてしまう。ロースやモモなど、調理しやすい部位ばかりを要求される。「わなに掛かったシカが不安げな表情でじっとこちらを見つめている。ぼくはその顔を直視できず、目をそらしてしまう。」(P168)あっ、これまさに「なめとこ山の熊」ではないか、と。自分が必要なだけ獲り、皮も骨も残さず利用している間はこんな気持ちにはならない。著者は売れない部位は自宅でミンチにするなどして食べていたが、もとより安く売っていて儲けになるわけでもない。無為に殺すことのうしろめたさ。これこそ小十郎の苦しみではないか。
    家畜を肉にするのは、決まったルートがあるし、飼っている人が直接殺すわけでもないので、こんな気持ちにはならないだろう。しかし、森に生きている野生動物を、猟師は自分で殺して捌くのだから、それを粗末にされれば(もちろんレストランの調理師はそんなつもりはなかったろうが、普通に食肉を買うように「ロース五キロ」とか頼んでいたわけである)、これをしていいのか、という思いが頭をもだげてくるのは、良識があれば当然だと思う。シカの食害が問題になり、だったら食べればいいという声はよく聞くが、家畜ではない動物の肉は、家畜と同様には扱えないことを肝に銘じなくてはならない。
    まあ、バンバン殺して、売れない肉は捨てるハンターもいるだろうけど、それはもちろん法には触れないが、どうなんだろうと思う。ここを掘り出すと哲学的になるけど。賢治が抱えた苦悩はこの辺にあるんじゃないかな、と直接この本とは関係ないけど、思った。

  • 罠猟でシカやイノシンを狩って自分の糧としている京都で生活している筆者。2児の父。現金収入は運送会社で働いて得ている。
    罠を仕掛けて採り、それを絞めて、解体と一連の流れが書かれている。肉の美味しさは何を食べている時期なのかとか、絞めかたによると知って、なるほどな~と感心した。あとは、罠猟だと、山を知って、採りたい動物の動きを読まないといけないというのも面白かった。解体が写真付きなので、本としては個人的には好きだけど、学校図書館配架は学校により色々な扱いになりそうな本。ルビは中学年位から読めるくらいふってあるようだ。
    余談だが著者は京大文学部だったらしい。…本もイロイロ、人生もイロイロ。

  • 千松氏の存在は一般書や雑誌などで知っていて、SNSで発信されている情報もいつも興味深く拝見していた。

    子どもたちに向けて、どのようなことを書かれているのかと思いながらページをめくった。もともと動物好きだったこと、食べること、生きることへの考え方が、非常にわかりやすく、押し付けがましくなく書かれている。
    本業の狩猟のことはもちろんだが、結局は狩猟を自分の生業として選ぶのか、暮らし方として生活に取り入れるのかによって、全く違う人生になってしまう。
    動物好きがなぜ狩猟をするのか?それは自分の食べるもの、命の連鎖に責任を持つということだという。さらにビーガンにも触れ、肉を食べないという選択は、家畜化され過度なストレスに晒された環境で飼育される動物を一匹でも減らしたいという、やはり動物の命を考えた上での選択で、彼らも動物が好きであるということが根底にあるという。一見相反する生き方に見えるけれど、突き詰めれば、ヒトが生態系の一部としてどう存在するか考え、生き方を選んだ結果なのだ。
    子どもの頃からストイックになる必要はないけれど、思春期にしか考えられないことや悩みもある。里山の生態系を脅かす野生動物の存在を知り、大人も一緒に考えて社会貢献として狩猟をとらえることができればと思う。

  •  狩猟に興味を持つ子供向けに、筆者が子供の頃、なぜ狩猟に興味を持ったのかなど、実体験を交えて具体的に書かれている。狩猟は子供にはできないが、子供でもできる獣道や、動物の痕跡の探し方などが詳しく載っている。
     子供向けとはいえ、狩猟には免許がいることや、禁止鳥獣など狩猟の概要については書かれているため、狩猟に興味のある大人でも楽しく読める。
     筆者は罠猟が専門のため、主に書かれているのはくくり罠を使った罠猟の方法である。銃猟、網猟などに興味を持っている人は別の本の方が役に立つかもしれない。
     冒頭にカラー口絵があり、実際の獣道や動物の痕跡、大まかな解体の流れなどが写真で載っている。解体のシーンは子供向けに、ショッキングなシーンは省いてあるが、手順は説明してある。本文中はモノクロのイラストが使われている。
     本文は子供向けに文字が大きく、すぐ読める。

  • 子供向けに書かれた本なので、とても読みやすい内容になっている。
    生き物を殺めてそれを糧にするということを考えるきっかけにちょうど良いと感じた。生きるために食べる為なら生き物を殺めることは正当化出来るか?ということを言う人もいるかもしれない。
    狩猟に限らず畜産でも一緒で、自分たちが何を食べて生きているのか考えることは大事。

  •  一流の猟師は獣道を見れば、だいたい何kgほどのオスメスか分かるようになるのか。
     そこまでの獣道の見切りの技術、ないです。
     毎日、山を歩けというのはその通りなのだが。

     子どもにも理解されやすいようにやさしく書かれているが、その実は狩猟者であれば「マジかよ」と思うような猟の知識が書かれている。
     

  • 筆者がやっているのは罠猟。罠猟は毎日の見回りが欠かせず、いつ獲れるかもわからない。筆者にとって猟は、趣味でも仕事でもなく生活の一部と捉えているそうだ。そういう感覚でなければなかなか続けられるものではないと思う。なんとなく、銃猟よりも気楽に始められそうなイメージを持っていた罠猟だったが、実際は獲りたい時にだけ獲りに行ける銃猟の方が自由な時間の少ない現代人には始めやすいのかも知れない。

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著者プロフィール

センマツ シンヤ 猟師。

「2024年 『究極の学び場 京大吉田寮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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