少女マンガの宇宙 SF&ファンタジー1970-80年代 (立東舎)

制作 : 図書の家 
  • 立東舎
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本棚登録 : 87
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845630301

作品紹介・あらすじ

70年代SFファンタジーの傑作短編萩尾望都「ユニコーンの夢」A5サイズで初収録!!あの頃の少女マンガ家たちがイマジネーション豊かに描き上げた、ハヤカワ文庫のカバーイラスト106点も一挙収録!図版点数300点超!魅惑の少女マンガワールド。「SF&ファンタジー少女マンガ635作品リスト」ほか、作家・作品・雑誌を図版とテキスト3万字超で紹介!

感想・レビュー・書評

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  • 1970年代と1980年代に盛り上がった少女マンガ界でのSF作品の潮流をまとめた本。イラストなどもふんだんにあり、まさにこの時代にリアルタイムで、しかもSFと少女マンガしか読まなかった私には懐かしさのオンパレード。しかしながら、小田空、あさぎり夕、諏訪緑、明智抄、BELNE、笈川かおる、青木庸など、いわゆる日本のSFファンダムでは受けてなかったけど、ちゃんとしたSF・ファンタジーを描いて人気もあった作家が取り上げられてないのは、片手落ちのような気がしないでもない。

  • 男が少女マンガ誌を熱心に読んでいた時代

    1970年代、男性SFファンが大挙して少女マンガ雑誌を読みはじめた時代がありました。
     その頃、少女マンガ誌には女性マンガ家の描く本格的なSFマンガがいろいろ載りはじめていたのです。もちろん、少年マンガ誌にも男性マンガ家の描くSFマンガはいろいろ載ってたんですが、それらとは一線を画した作品群──女性の感性で描かれたSFマンガの数々が、SFを読み慣れた僕ら男性SFファンにとってはものすごく新鮮で、エキサイティングだったんです。
     僕が初めてそうした作品に接したのは、中学時代に読んだ萩尾望都「精霊狩り」(『別冊少女コミック』1971年7月号)でした。我が家では買うはずのない雑誌なんで、どこか知り合いの家で読んだのかもしれません。
     過去のヨーロッパのように見える世界で、魔女狩りならぬ「精霊狩り」が行なわれています。ヒロインのダーナも精霊の一人で、人間たちをからかおうとしたら、油断したために捕らえられてしまい……というのが冒頭部分。てっきりファンタジーだと思って読みはじめたら、実は核戦争後何百年も経った世界で、多くの科学技術が忘れられているという設定がしだいに分かってくるんですよ。精霊というのは核戦争後、突然変異で生まれた超能力者だったんです。しかもそこから、キャラクターがミュージカルみたいに歌って踊りだしたり、どんどんドタバタコメディになっていくんです。
     これは衝撃でしたね。「こんなマンガを描く少女マンガ家がいるんだ!?」と。
     次に読んだ「あそび玉」(『別冊少女コミック』1972年1月号)は、一転してシリアス作品。未来世界のある惑星で、子供たちの間で流行っている「あそび玉」というゲームがきっかけで、超能力に目覚める少年の話。これで確信しましたね。「この人は本当にSFが好きなんだ!」と。
     そして「6月の声」(『別冊少女コミック』1972年6月号)。巨大宇宙船に乗りこんで宇宙に旅立つ女性と、彼女を慕う少年の話。少女マンガで「太陽系外惑星移民」なんて言葉が出てくるんだからたまりせん。
     そこから先はみなさんもご存知でしょうが、萩尾さんは『ポーの一族』とか『11人いる!』いった代表作を次々に発表して、少女マンガ界の大御所になっていくんです。もちろん僕は、『11人いる!』と続編の『東の地平西の永遠』は、連載された『別冊少女コミック』を毎月立ち読みして(さすがに萩尾作品だけを目当てに毎号買うのはもったいないので)、リアルタイムで追っかけてました。『週刊マーガレット』に連載された、レイ・ブラッドベリ原作の短編シリーズも素晴らしかったです。

    :book:1572:11人いる!:

    :book:2673612:ウは宇宙船のウ:

     竹宮惠子さんの「ジルベスターの星から」(『別冊少女コミック1975年3月号』)も衝撃でした。竹宮さんの名前は以前から知ってましたけど、「この人もSFファンだったのか!」と。萩尾さんに影響を受けて、実はSFが好きだった少女マンガ家たちが、次々にカムアウトしはじめていたんです。

    :book:1894442:ジルベスターの星から:

     そうした1970~1980年代の少女マンガ界を席巻したSF&ファンタジーのブームを振り返ったのが、『少女マンガの宇宙』(立東社)。
     図版が豊富で、冒頭には萩尾望都さんのSF短編「ユニコーンの夢」(『別冊少女コミックス』1974年5月号)が再録されています。ああ、これも当時、読んだことあるなあ……まったく時代の流れを感じさせない、今読んでも“いい”作品です。

     萩尾・竹宮以外にも、僕が当時読んでいた作品のタイトルがいろいろ出てきて、懐かしさでいっぱいです。青池保子『イブの息子たち』(『プリンセス』)、大島弓子『綿の国星』(『ララ』)、弓月光『ボクの初体験』(『マーガレット』)、花郁悠紀子『フェネラ』(『プリンセス』)、水樹和佳『樹魔』(『ブーケ』)、あしべゆうほ『クリスタル☆ドラゴン』(『ボニータ』)竹本泉『あおいちゃんパニック!』(『なかよし』)、佐々木淳子『ダークグリーン』(『少女コミック』)……その多くは書店で立ち読みしてました。
     もちろん、恥ずかしかったですけどね(笑)。でもね、こんな面白い作品を読めるというのに、周囲の目なんか気にしていられないじゃないですか! 特に連載作品だと、最新の展開が気になって、単行本になるまで待っていられないんですよ。もちろん、立ち読みだけじゃなく、気に入った作品は後で単行本で買いましたけどね。(特に弓月光作品はかなり買い揃えました)

    :book:48806:イブの息子たち:

    :book:469379:綿の国星:


    :book:3203267:ボクの初体験 1:


    :book:1148562:フェネラ:

    :book:397208:樹魔・伝説 (ハヤカワ文庫 JA:

    :book:77692:クリスタル☆ドラゴン:

    :book:1222998:あおいちゃんパニック!:

    :book:699625:ダークグリーン:

     この本の中では、1970~80年代、少女マンガ家がカバーイラストを手がけたハヤカワ文庫FTの表紙も、カラーで多数再録されています。これがまた懐かしい絵ばかり! 特に萩尾望都さんが描いたタニス・リーの『闇の公子』『死の王』などはハマりましたねえ。他にも、内田善美、中山星香、めるへんめーかー、おおやちき、山田ミネコ、坂田靖子、竹宮惠子、あしべゆうほといった有名マンガ家さんたちが、華麗な絵をいっぱい描いていたんです。このページは眺めるだけで圧巻です。
     他にも、サンリオSF文庫やハヤカワ文庫SFの表紙もいろいろ紹介されています。萩尾さんが描いたジャック・ヴァンス〈魔王子〉シリーズもいいんですが、川原由美子さんが描いたタニス・リー『銀色の恋人』、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』、ロバート・F・ヤング『ジョナサンと宇宙クジラ』なんかも印象に残っています。
    (今ではその多くが新版になって、表紙も変わってしまっているのが残念です)

     値段の割に資料性の高いいい本で、少女マンガのSF&ファンタジー作品リストも役に立ちます。
     ただ、残念なことにこのリスト、重要な作品がいくつか抜けてるんですよねえ。たとえば弓月光作品では、『ボクの初体験』や『トラブル急行』は入ってるのに、なぜか『うっふんレポート』と『エイリアン1/2』が抜けてます。佐々木淳子さんも、長編は入っているのに、たくさんある優れたSF短編がほとんど抜けてます。湯田伸子さんの作品もかなり抜けているのは、主な活躍の場が少女マンガ誌じゃなかったからでしょうか?

    :book:1967978:うっふんレポート:

    :book:797246:エイリアン1/2:

    :book:2537160:Who!超幻想SF傑作集:

    :book:2856638:時のオルフェ炎の道行 SFロマン珠玉傑作集:


     この機会に、1970~1980年代の少女マンガ家の方々が、SF界にどれほど大きく貢献したか、ぜひ再確認してください。

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著者プロフィール

漫画家。1976年『ポーの一族』『11人いる!』で小学館漫画賞、2006年『バルバラ異界』で日本SF大賞、2012年に少女漫画家として初の紫綬褒章、2017年朝日賞など受賞歴多数。

「2022年 『百億の昼と千億の夜 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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