本を読むときに何が起きているのか  ことばとビジュアルの間、目と頭の間

制作 : 山本貴光 
  • フィルムアート社
3.44
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本棚登録 : 612
レビュー : 47
  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845914524

作品紹介・あらすじ

カリスマ装丁家が読書における想像力の謎に迫る、かつてない「文学×デザイン×現象学」の探究の書物。

感想・レビュー・書評

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  • 原題は「What We See When We Read」。
    著者のピーター・メンデルサンドは数々のブックデザインを手がけた装幀家。
    もっともそれは「私は本の装幀家で」という347ページの記述を読んで知ったこと。
    それまでは、多用される挿画や画像、工夫を凝らしたフォントなどを見ては、編集の苦労を勝手に思いやっていたのだ・笑

    読書する時に、頁に印刷された文字の他に私たちは何を見ているのか。
    読むときに何を頭に思い描いているのか。
    それを理論で展開するのではなく、読書の追体験をしながら豊富な挿画や画像を用いて解説してくれる本。
    様々な問いかけと実験。時折吹きだしてしまうようなユーモアもあって飽きさせない。
    思考実験はヴァージニア・ウルフの「灯台へ」で幕をあけ、同じ本で終わる。
    その間の旅は、ちょっとしたワンダーランドを巡るかのような面白さだ。

    例えば「アンナ・カレーニナ」を読んで、アンナはどんな顔をしているのか私たちには分からない。読者が頭の中で描くスケッチは、警察が描く似顔絵よりお粗末だという。
    文字を目から情報として取り込み、脳内で展開する過程で「登場人物」なり「情景」なりは人それぞれの物として変質していく。
    時にそれは慣れ親しんだ土地や風景だったり、よりよく知っているものに変換する。
    読者は、小説の舞台となっている場所や登場するもの・人物が、自分の思い描く場所・もの・人物と同一であってほしいと思っている。
    メンデルサンドはこれを、「共同創作」と名付けている。
    カフカは「変身」の出版元に、「虫そのものを絶対に描いてはいけない」と手紙を書いたそうだ。読者に「内側から外側を見るように、虫を見て欲しかったから」という理由らしい。

    見るという事の虚構性を論じた後で、著者はこうも言う。
    私たちの脳内再生装置は、過去の記憶や体験、更に配置されたイラストやイメージに簡単に影響されてしまうような、信頼性の怪しいシステムであると。
    しかし、メンデルサンドはそこに「読む」ことの意味を見出して解説してくれる。
    曰く、私たちは「要約する」と。
    『脳そのものが、要約し、置き換え、表象化するようできているのだ。
    信憑性は偽の偶像であるだけでなく、到達できないゴールでもある。だから、私たちは要約する。私たちはこのようにして世界を理解する。これが、人間のすることだ。』

    思考実験は音楽・演劇・美術にまで及ぶが、読書として取り上げられるのは小説が中心。
    内容から言えば仕方がないかもしれないが、そこがやや残念なところ。
    ノンフィクションに言及した箇所は、ただ一ページしかない。
    小説の印象的なフレーズを、挿絵やフォントの変化で更に印象的に見せる工夫が随所でなされ、もはや「アート」というほどの訴求力を持った本だ。
    (カルヴィーノの作品の挿絵では思わず爆笑だった)

    読み方でも読んだ後についてでもなく、読書中に起きていることについて、ここまで考察した本は珍しい。
    このワンダーランドに、皆さんもぜひお越しください。
    開いた状態をキープ出来ないというのが、唯一の欠点。
    でも著者は装幀家だから、これも計算のうちなのかな。。。

    • nejidonさん
      夜型さん。
      非常に面白い質問ですね。
      メアリアン・ウルフの本にこちらが引用されていないことを、むしろ不思議な思いでおりました。
      ワタク...
      夜型さん。
      非常に面白い質問ですね。
      メアリアン・ウルフの本にこちらが引用されていないことを、むしろ不思議な思いでおりました。
      ワタクシは両者の近似性を感じました。
      もしもディスレクシアの子も「要約し、置き換え、表象化する」働きが同様であるならば、そこが糸口になるのでは。
      テキストを画像に置き換える。
      全く違うタイポグラフィにすることで読書も可能になるかもしれません。
      専門に学んだわけではないので詳しい説明ができないのですが。
      子どもたちはもっと不思議に満ちています。
      大人よりはるかに生活経験が少ない(と思う)のに、想像力はどこから来るのか。
      読んだ後の感想を話してくれるとき、いつも驚嘆するのはそこです。
      2冊とも手元にないのが残念ですが、そんなことを考えますね。

      2020/10/22
    • 夜型さん
      僕も同感でした。よかった。
      「本」とも「おはなし」とも関係ありませんが、以下の本はその発見に良いヒントを与えてくれるかもしれませんよ。
      ...
      僕も同感でした。よかった。
      「本」とも「おはなし」とも関係ありませんが、以下の本はその発見に良いヒントを与えてくれるかもしれませんよ。

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      2020/10/22
    • nejidonさん
      夜型さん。
      おお、三冊もご紹介いただいてありがとうございます!
      どれも非常に興味深いですね。
      ワタクシは視覚から入った情報は先ず忘れま...
      夜型さん。
      おお、三冊もご紹介いただいてありがとうございます!
      どれも非常に興味深いですね。
      ワタクシは視覚から入った情報は先ず忘れません。
      耳からのはサッパリです・(笑)
      視覚を進化させることが出来たらもしや天才に近づけるかと思うこともあります(*´▽`*)
      メアリアン・ウルフとこの本、同じように感じて下さり光栄です。
      どちらも大変な良書ですね。忘れ難いです。
      2020/10/22
  • ハリーポッターの本を読み始めた頃だったか、挿絵がなく、小説の中で登場人物の特徴や情景の描写が少なかったりするときに、自分の想像力で補強をすることができなくなった。描かれていない、根拠のない肉付けをしていいのか。そういう作品に出くわすたびに迷いを払い退けられず、ストレスを感じていた。
    絵本、挿絵多め、挿絵なしの本と人間の読書能力は鍛えられていくらしく、どうやら私は最終段階でつまづいたままのようだ。

    私だけかと思っていたけど、まっとうな悩みなんだそうな。そもそも本は読み手の数だけ違う姿になっていいのだ。長年の悩みから解放された気がする。

  • 『本を読むときに何が起きているのか ー ことばとビジュアルの間、目と頭の間』知ってるけど、知らなかった。 - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/41578

    本を読むときに何が起きているのか ことばとビジュアルの間、目と頭の間 | 動く出版社 フィルムアート社
    http://filmart.co.jp/books/composite_art/honwoyomutoki/

  • 幼いころに読書したときの疑問が晴れるような本でした。ここに書かれていたようなことが気になって読書ができなくなってしまった頃があったのだけど、いつの間にか忘れてしまっていて、人間はそういうことを割りきって読書しているのか。と実感しました。

  • 本を読むという中で、どう理解しているのか?
    文字を読んで言葉を視覚的に理解しながら考えている。
    文字も順に追っていくだけでなく、行ったり来たり、あるいは飛ばしながら読む、それでもだいたいを追いかけられる。登場人物の描写が(最初にあると限らない)そこまでのイメージと合うやいなや、読み返すことも。。
    挿絵やあるいはドラマ化、映画化されているならばそのイメージに引っ張られるだろうし。。

    挿絵や、フォントが美しく、いろいろ考えさせられる本。
    面白い。

    というか本を読みながら、自分は全く他のことに想いを馳せることもあるし、いろいろ自分の中の思考へ展開することも。
    本というものの不思議さ、考えさせられた本。

  • 読書中の私たちの頭の中では何が起こっているのか、再現しようとしている本。面白い試みだと思うけど、それ自体が難しいからか文章がわかりづらく、読むのが少々つらかったです。
    挿絵(というかデザイン画?)がとてもおしゃれで、デザイン画集として楽しむのでもいいかも。

  • 「読書」について現象学的に捉えようとした本。だが、
    理論を振りかざそうというのではなく、読書するときに
    起きていることを追体験するように詳述しようとした本
    と言えるだろうか。本を読むときに何が起きているのか
    を本に書くという難事にタイポグラフィーを駆使して
    挑み、ある程度成功していると思う。

    ただ、ここで主に採りあげられる「本」が小説のみで
    あることはやや物足りない気がするし、書かれている
    形式も手伝い、全体を通して「理解する」本ではなく
    「感じる」本となっているのは惜しいところ。

    小説読みを自認する人は、一度読んでみると面白い体験
    が出来るだろう。

  • 読書をするということを、改めて考える機会となりました。
    著者が米人なのであたりまえですが、引用も訳書になりますが、日本的な考え方ではどうなのかしら・・と‥
    本を読む時に私たちは何をみているのか?
    読書を楽しみとしている私は、頭の中で思い描くことが愉しいのかな・・どういう読書を続けていく事になるのでしょう!

  • あきらかにふざけている。馬鹿がつくほどまじめに。
    著者の語る冗談があまりにも強力なため、読者の思考ははるか遠くに投げ飛ばされる。だが著者に救済を求めても不毛である。彼の目的は読者の心に漂流と欠落感を呼び醒ますことなのだから。むしろ、充実した読書体験はそうしたドリフト感に執拗なまでにつきまとわれる。私たちは著者と読者の区別を超え、内省という名の無様でぎくしゃくしたダンスを演じる。その忘我の状態こそ、私たちは「読んでいる」と言えるのだ。

  • 著者は装丁家。
    タイトルから学術書かなあ・・・と思ったら、確かに学術的な示唆も多く含んでいるんだけれど、本自体はなんだろう、コンセプトブックというのもおかしいけれども、凄い豊富なビジュアルイメージを含んだ、文章も1ページ1ページレイアウトが全然違うし、図像も色々入ってきて、それが著者の言いたいことを象徴している、というデザイン本みたいな本。
    雰囲気としてはA・マングウェルとクラフト・エヴィング商會を混ぜてこねた感じ。

    主として文学作品を読むときに、人はどう読んでいるのかということについて、当たり前のように思っていることが実はそうではない、ということを色々示していく。
    例えば人は登場人物のビジュアルをどう処理しているのか。考えて想像している、ようでいて、具体的には描いていないことが多いことを指摘していく。だから挿画や映画化などビジュアルを出してしまうことは大きな影響を持つし、カフカは『虫』について、装丁に虫を出すことを絶対にするなと禁じたりしている。

    一見分厚いけれど、かなりグラフィカルなので、内容はそんなに長くない。ただし、豊富でないという意味ではない(1枚でずっと考えこんだりも出来うる)。

    今やっている研究に直接関わるわけではないので今回はパワー・ブラウジングで済ませたけど、また時間を作ってゆっくり読んだりしたい系の本だ。

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