文芸翻訳入門 言葉を紡ぎ直す人たち、世界を紡ぎ直す言葉たち(Next Creator Book)
- フィルムアート社 (2017年3月24日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784845916184
感想・レビュー・書評
-
怠惰ゆえになかなか読む機会がなくて、気づいたら出版から5年も経っていたのだが、今読まねばほぼ一生読まないのではないかと思って手に取った。
英米文学者の藤井光さん編集による、文芸翻訳のオムニバス的入門書。文芸関連の翻訳指南書的なものといえば、柴田元幸を筆頭に、宮脇孝雄、越前敏弥、鴻巣友季子、大森望の各氏といった名手の単著が多くを占めるなか、複数の翻訳者の共著によるオムニバス形式のものは珍しい(と思う)。文芸翻訳ではない、いわゆる産業翻訳の参考書のほうが、この形は目立つように思う。
まず、編者の藤井光さんによる、大学入試の英文和訳形式による翻訳史の解説が面白い。例えば、同じE.A.ポーの作品の一節でも、時代と訳者によって訳文のスタイルが変わる。「下線部和訳から卒業しよう」と説くのがこの章の骨子だが、日本における翻訳文体の受容史として質の高い内容だと思う。それにしても森鷗外は上手い。ドイツ語から英語をやると、同じ北方ゲルマン語のルーツを持つゆえに読解が分析的になるんだろうが、日本語への落とし込み方がコンパクトで驚嘆する。
日本で翻訳を学ぼうとする人がソース言語と考えているのはほとんど英語なので、上記の翻訳者が1人くらい出てきてもいいのではないかと思うが、ロシア語、チェコ語など、非英語圏の言語の翻訳者による論考が多く、翻訳者の人選も興味深い。この本は「Next Creator Book」というシリーズの1冊なのだが、「外国語≒英語」という概念は最初に揺さぶられておくといいと思う。
個人的に面白かったのは、小説家で、ジーン・リースなどの翻訳でも実績のある西崎憲さんの「小説翻訳入門」。英米文学の翻訳者が翻訳に対して思っていること、言いたいことというのはわりと似通っているように思うが、私は西崎さんの「流儀」がちょっとそことは違うような気がして好きなので推します。西崎さんがいらっしゃるから、日本の英米文学翻訳では複眼的な視点が保てているような気がする。あと、渋谷哲也さんがファスベンダー作品を例に字幕翻訳を論じていらっしゃるのだが、主流の英日字幕翻訳に関する面白苦労話ではなく、独日、しかも戯曲の引用を字幕に落とし込むという高度な技術論でびっくりした。これを読んで字幕翻訳を志す猛者が現れていてほしい。
ほかには翻訳に対するQ&A、翻訳文学を読むプロの文芸関係者からの翻訳文学に対するエール的な小論が掲載されており、「翻訳」を勉強したり、触れたりして関わると思い浮かぶものがひととおり掲載されているので、翻訳技術を高めるというよりも、翻訳の世界をのぞくのに非常に適した本だと思う。
それにしても、本書に収録されている授業風景を読むと、藤井さんの翻訳クラスでは私は生き残れそうにない。めっちゃ難しいじゃん!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
笠間直穂子(執筆):國學院大學外国語文化学科准教授(共同執筆)。
※國學院大學図書館
https://opac.kokugakuin.ac.jp/webopac/BB01676913
-
英語ドイツ語韓国語あと何語か忘れたけど、色んな言語の小説の翻訳、映画の翻訳などに携わる人たちが、外国語と日本語の間で、物凄い自虐と葛藤と感動をまとめた内容。
SNSで見つけた外国語学習仲間?が紹介していて、買って、今回日本から持って来て読んでみた。
普段、中国語と日本語に挟まれて、端折ったり、端折られたり翻訳通訳で悶えているので、面白く読めた。
これまで翻訳本は全然読んでなかったけど、今後は増やしていこう。 -
翻訳に興味がある人にかぎらず、あらゆる本好きの人が読んで楽しい本。
翻訳は、絡まった一語一語をほどき、仕立て直す、というとんでもない気が遠くなる作業で、もはや職人技なのである。寄稿している翻訳家や作家のかたがた、文学や本、言葉に対する愛情熱く好奇心旺盛で、自分のワールドがある。
特に最初の章の藤井さんによる入試問題集と後の方の翻訳授業がよかった。翻訳の古今を知るし、実際に訳していくときのわくわく臨場感を味わえた。
著者プロフィール
藤井光の作品





