三遊亭円朝探偵小説選 (論創ミステリ叢書 40)

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  • Amazon.co.jp ・本 (516ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784846007836

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  • 「落語中興の祖」三遊亭円朝が「翻案」を手がけたミステリ(あるいはサスペンス)仕立ての物語5編を収めたアンソロジー。

    円朝といえば「真景累ヶ淵」「鰍沢」「死神」「怪談牡丹燈籠」といった名作落語の作者として、また円山応挙をはじめとした幽霊画のコレクターとして知られる大名人であるが、ここでは翻訳ではなく翻案というとおり、モーパッサン『親殺し』(→『指物師名人長二』)などの海外文学を人づてに聞き知った円朝が、同時代の市井の人々にも理解しやすいよう舞台や登場人物を日本に移し、また言文一致体に直すと同時に、部分的に原典にはないシーンや人物を登場させることでよりテンションの高い作品にまで磨き上げた珠玉の《創作》作品が取り上げられている。収録されているのは、

    『英国考子ジョージスミス之伝』
    『松の操美人の生埋』
    『黄薔薇』
    『雨夜の引窓』
    『指物師名人長二』

    の5作品。表題には「探偵小説」とあるがべつに誰かしら「探偵」が登場し謎解きをするわけではなく、どれもどちらかといえば「ミステリ的要素、あるいはサスペンス的要素の強い人情噺」といった趣きである。

    円朝というひとはつくづくモダニストであったのだと、ところで、このアンソロジーを読むとよくわかる。ひとつには、やむにやまれぬ事情があったといはいえ芝居噺の世界を離れ、扇子と手ぬぐいのみであとは「ことば」の力だけによる素噺へと転向、近代落語のひとつのスタイルを築き上げた改革者であるという点で。もうひとつには、みずから江戸時代に生まれ江戸の美学を貫くことに執心しつつも、明治維新後の近代国家の礎を築いた思想家や文学者などと積極的に交わることで、異文化をどん欲にみずからの「芸」に吸収していったという点で。円朝による《翻案》のプロセスについては、それが比較的明らかな「指物師名人長二」についての考察「『名人長二になる迄』〜翻案の経路」が余録として収められているので、それを読むと面白いと思う。

    江戸から明治へ、その移り変わりを「激動の時代」と呼んで片付けてしまうことはかんたんだが、実際そこに居合わせた人々にとってはとても容易には受け容れがたい、しかし差し迫った大問題であったにちがいない。思うに、この《翻案》という作業は三遊亭円朝にとって、「落語」という芸を「要」として、江戸と明治というふたつの時代を結びあわせ、乗り越え、受容するためのひとつの試みだったのではないか。その意味で、円朝はその翻案物を通じて同時代の、同じ境遇を生きる市井の人たちのための「水先案内人」をみずから買って出たのだ、とぼくはなんとなくかんがえずにはいられない。心やさしき名人の姿がそこにある。

  • 話し言葉って、有機体。

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著者プロフィール

1839~1900。幕末から明治の落語家。人情噺を大道具・鳴り物入りで演じて人気を博す。近代落語の祖といわれる。代表作に「真景累ヶ淵」「怪談牡丹灯籠」「塩原多助一代記」など。

「2018年 『怪談牡丹燈籠・怪談乳房榎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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