- Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
- / ISBN・EAN: 9784846014681
感想・レビュー・書評
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校正者のキャラや労働環境がどんな感じなのかというヒントが散りばめられていたアンソロジーだった。
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時代がかなり古い作品が多いからか、文章の端々に感じられる古めかしさが却って面白く、又今では知られていない作家の作品に触れられるという面でも興味深い一冊。
全くの余談ではあるけれど、収録作の一つ「青いインク」の中で大好きなキアラン・カーソンの「琥珀捕り」が出て来たのがなんとなく嬉しかった。 -
幻のまるい世界よ花の香よ/春さきの風間断もなし
川崎彰彦
「コウセイ、恐るべし」。このカタカナ部分は「後世」であり、「校正」でもある。文筆業には実に身にしみる言葉だ。
そんな校正の現場や、「誤植」をテーマにした小説とエッセーを集めた「誤植文学アンソロジー」を読んだ。活字が世に出る前の仕事に光をあてた、めずらしい、かつ生きがいも味わえるアンソロジーである。
掲出の連句は、川崎彰彦の小説「『芙蓉荘』の自宅校正者」の最後を飾るもの。作家中野重治の訃報に接して、連句仲間と追悼の意を表した、という設定である。
おそらく私小説なのだろう。主人公敬助は、妻に逃げられた40歳過ぎの文筆業の男性。原稿依頼もほとんどなく、いわば失業の身だ。知人の紹介で求人広告の校正の仕事を得たが、「失業者が求人広告の校正をする」という笑えない話でもあり、リアリティーあるエピソードが続く。
校正の内容は、カタカナばかりを使うベンチャー企業の広告の、「レンタル・ソース」をレンタル「リ」ースと直し、「メンテメンス」をメンテ「ナ」ンスと直すなど。また、そんなカタカナ好きな企業に限って、会社案内では「礼と躾【しつけ】を重んずる」と、「躾」というめったに使わない漢字を用いていたりする。そこに気付いた敬助の目は、すぐれた校正者の目なのだろう。
4畳半のアパートに暮らし、風呂代は節約しても酒だけはやめられない敬助の、言葉へのこだわりと、うんちく。読後、何ともやさしい心持ちが訪れたが、校正という仕事の奥深さには背を正されてしまった。
(2016年4月10日掲載) -
杉浦明平さんの「アララギ校正」がおもしろい。当時の雰囲気が伝わる。上林暁さんの「遺児」は人柄が伝わる。和田芳恵さんの「祝煙」にはハラハラさせられる。
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【収録作品】「行間さん」 河内 仙介/「祝煙」 和田 芳恵/「遺児」 上林 暁/「祝辞」 佐多 稲子/「赤魔」 倉阪 鬼一郎/「青いインク」 小池 昌代/「『芙蓉荘』の自宅校正者」 川崎 彰彦/「爐邊の校正」 田中 隆尚/「わが若き日は恥多し」 木下 夕爾/「で十条」 吉村 昭/「校正恐るべし」 杉本 苑子/「アララギ校正の夜」 杉浦 明平/「校正」 落合 重信/「植字校正老若問答」 宮崎 修二朗/「助詞一字の誤植」 大屋 幸世/「正誤表の話」 河野 與一
*校正の仕事が好きな者としては、時代柄とはいえ、気の滅入る短編が多い。