村長ありき―沢内村 深沢晟雄の生涯

著者 :
  • れんが書房新社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784846203412

感想・レビュー・書評

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  • よく読めばわかるが、沢内村の生命行政の奇蹟は、深沢村長一人の力によるのではない。
    例えば、深沢以外にも、高橋清吉という村の国保行政一本の“役人”が登場するが、学歴や目立った経歴もない高橋が、深沢の「いいと思ったことはどんどん言ってきなさい。責任は私がとるから」という言葉を信じ、保険や健康行政についていろいろ進言するところがおもしろい。

    高橋の案は長期滞納者が保険料を納めたら賞品を出したり、長寿の祝いに賞金を出したり、正直、今の感覚から見ると“?”だろう。だが高橋の策は、意外にも次々と効果をあげる。
    保険料支払いの賞品は村民に「村は滞納防止のためこんなに本気で取り組んでいる」と気付かせ村民の意欲と村政への信頼を高め、長寿祝い金は、大家族のなかで自分だけ働けず寂しい思いをしていた高齢者に自分も家族のために貢献できる、という誇りをもたらした。村の苦しみを誰よりわかっていた高橋だからこそ言えたのであり、それを気軽に言える環境を作り、聞き、実行した深沢あってこそだろう。
    ワンマン・パワーではなく、周りを引き付け、やがて全体に広げる・・ 地方自治に英雄はいらない、人間的魅力が最後には勝つ、と感じた。

    最後に、この本は深沢が故人となった後に書かれているが、深沢の事績の詳細な記述は(当時存命だった)未亡人ミキさんの功績が大きいだろう。巻頭にミキさんと深沢の新婚当時の写真があり、眼鏡をかけた笑顔のミキさんの写真からも、その聡明さが伺えることを付け加えておきます。
    (2009/10/10)

  • 映画「いのちの作法」の原点についてさらに深く知りたいと思い、本書を買い求めた。

    映画に登場する人物や出来事が、「生命尊重の福祉」の勢いある水の流れであり、また、熟れた果実であるとすれば、故・深沢村長の村政に果たした業績は、川の源流であり、また、果樹の種であった。

    まず、この本が三度にわたり、出版社を変えつつ(それぞれ版を重ねたのであるが)も、世に放たれたことに「出版人の良心」を見る思いがする。デジタルデータでの公開や、図書館での貸し出しでなく、繰り返し読む本だからこそ、「本」という形態にこだわり、届けていく。それは、私のようなものにとってまたとない福音だ。

    そして、内容であるが、これが実に丹念に取材されている。労作である。客観的な事実や時代背景の記述は必要にして簡潔。その上に、深沢晟雄(ふかざわまさお)の信念、心情の描写に関しては、その心の襞にまで丁寧に及んでいる。相当な取材とそれを埋め合わせる想像力、そして、読み手を意識した構想力がなければ書けない本だ。

    福祉の先駆的な取り組みはどうしても欧米から紹介されることが多い。しかし、この日本にも、貧困と闘い、地方自治を住民のものとして根付かせた先行例があったのだ。先駆者がいたのだ。それは戦争という生命軽視の時代を真正面から生き抜き、反省し、批判し、そこから人間にとって真に必要なものは何なのか、それを信念や政策にまで深沢は結晶化させた。

    住民が深沢を慕う気持ち。深沢が住民を愛でる気持ち。いくつもの大きな壁、それはときに人の心であり、経済的な問題であり、地理的な問題であるのだが、それらの壁を乗り越える度に双方のつながりが強固になっていく様に、感動は押さえがたいものとなる。

  • 岩手県沢内村(現西和賀町沢内地区)の元村長・深澤晟雄(ふかさわ・まさお)氏の生涯を綴った本。

    死後、2000人もの人が、深澤氏の遺体を出迎えた。
    沢内村の3分の1にも及ぶ。

    当時岩手県にもあまり導入されていなかったブルドーザーを4台購入し、冬の豪雪地帯の道路を切り開く。
    乳幼児死亡率を、国内最悪レベルから、全国初の「死亡率ゼロ」まで高める。

    トップに立つ人間の気概を感じつつ、読み進めている。

    ※氏の業績は、西和賀町ホームページ
    http://www.town.nishiwaga.lg.jp/index.cfm/8,10167,11,html
     深澤晟雄資料館
     http://www.nisiwaga.net/masao/
     に詳しい。

  • 地方行政に関わったり、大学卒業後に地元企業に勤めたいという若者と最近よく話をしたので、彼らに紹介しようかと思って読んだ本。かつて「日本のチベット」と呼ばれた岩手県の中でも、無医村で乳児死亡率が全国最悪だった沢内村で村長になり、生命行政を掲げて5年間で乳児死亡率ゼロにした名村長の伝記。村人の命を優先にし、当時の行政や地域医療界に牙をむいた反骨精神に富んだ村長だが、沢内村から外に飛び出し、上海や台湾、満州で苦労した若い頃のくだりが一番興味深かった。村とはまた違う過酷な環境の中で、夢を持ちながらも挫かれ、それでも新たな夢に向かって突き進む村長の心持ちは、自分を含めた現代人にも欲しいところである。

  • Kodama's review
    熱い思いが、目的を達成させる原点。しかし、その目的が自らの利のみであれば、いつか必ず、歪みが生じる。
    深沢村長は、まさに利他に生きた人生でした。だから、カッコよく、だから、尊敬される。仕事をしていく中で、そして、生きていく上で大切なこと、たくさん教えられる一冊です。
    (08.9.28)
    お勧め度
    ★★★★★

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著者プロフィール

及川 和男
1933年、東京に生まれる。戦争で疎開、岩手に住みつく。
日本ペンクラブ、日本児童文学者協会会員。
小説・児童文学・ノンフィクションなど50作ほどあり、主な作品に『村長ありき』『鐘を鳴らして旅立て』(新潮社)、『米に生きた男』(筑波書房・農民文化賞)、『生命村長物語』(童心社)、『わらび座修学旅行』(岩波書店)、『森は呼んでいる』、絵本『いのちは見えるよ』(岩崎書店・いずれも全国課題図書選定)、『なんでも相談ひきうけます』(岩崎書店・北の児童文学賞)、『ザシキボッコの風』(本の泉社)など。

「2014年 『浜人の森2011』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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