福田和也の超実践的「文章教室」 〜スゴ腕作家はなぜ魂を揺さぶる名文を書けたのか〜 (ワニブックスPLUS新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784847060106

感想・レビュー・書評

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  • 先月、今月はいつになく面会コンサルティングが増えていますが、
    最近、ビジネス書作家の方に申し上げているのは、「豊かな読書体
    験がないと良い作家になれない」ということ。


    それぐらい伝えるために「読む」ことは大切なのです。

    こういうと、すぐにビジネス書を読みまくる人がいるのですが、質
    を上げようと思ったら、何事も吟味することが重要。

    もし、読者の狙いが文章力の向上にあるのなら、純粋に文章だけで
    評価される文芸の世界に学ばない手はありません。



    最初は、「たまには文芸の世界の文章論も読んでみるか」ぐらいの
    軽い気持ちだったのですが、村上春樹や江國香織、柳美里などの人
    気作家、そして夏目漱石、谷崎潤一郎、小林秀雄、向田邦子などの
    大作家の文章の奥深さに触れるうちに、すっかり彼らの観察眼、人
    間洞察、そして表現の深さに引き込まれてしまいました。


    時制を巧みに使いこなした松本清張の『西郷札』、『わが友マキア
    ヴェッリ』で、500年前の人物を現代に甦らせる塩野七生の目のつ
    けどころ、暴力シーンを詩的に変える柳美里の文章術…。

    さまざまな文章サンプルと、福田和也氏の解説を読むことで、名文
    家たちの文章術を奥深いところで理解し、吸収することができる、
    ものすごい内容です。

    逆に言えば、優れた文章家になりたければ、ここまで深く読みなさ
    い、ということ。

    読者が何であれ、伝えることを仕事とするなら、本書は「買い」の
    一冊です。


    デビュー以来、村上(春樹)氏は、たくさんのアメリカ文学、フィ
    ッツジェラルドからサリンジャーにいたるまで、実に多くの小説を
    翻訳していますが、これこそが氏の圧倒的な文章力、表現力の源泉
    です。氏がつねに進歩しつづけることができたのは、翻訳という、
    読みとり、自らの言葉で書くという、読む力と書く力を直接結びつ
    ける行為を倦まずに続けてきたからだ、といえると思います


    小説の技術のなかで、「人称」と「時制」をどう設定するかは大きな課題

    時制をうまく使っているなぁと思わせるのは、たとえば松本清張の
    『西郷札』です。冒頭、展覧会をやることになり、そこに西郷札と
    いう西南戦争のときに使われたお札が展示されることから、そのお
    札をめぐる詐欺がかつて行われたという中心的な話になっていきます

    塩野七生氏の『わが友マキアヴェッリ』では、「その人は何を奪わ
    れたら一番苦しむのか」という問いを投げかけ、それを解き明かす
    形で文章を進めていきます。この問いかけにより、五百年も前の人
    物が現代に甦る。何百年も前の人物の心臓をわしづかみにして現代
    に持ってくるその握力は素晴らしい、の一言に尽きる

    下手な書き手は、ストーリーを進めていくための情報伝達を会話の
    なかでやってしまいますが、現実での会話で情報を伝えることはあ
    まりありません。小説のなかで会話を会話として成り立たせるため
    には、二人の人物像や関係性を周到に作る必要があります

    読者が興味を持つところは、その場面が目に浮かぶように細部まで
    描き、主眼ではない箇所は軽く流す

    カッコいいことは誰でも書けます。逆に自分の愚かさ、みっともな
    さを主人公がわかっていないとすることで──私小説といえども主
    人公と作者は別だと考えるべきで、そこに作者の技巧がある──す
    ごい力を持つことがあります。愚行への言い訳をくだくだ書かず、
    事実だけを書く力でもあるが、「へりくだりの力」、つまり読者よ
    り一段低い位置に主人公を設定することで、普通の人間では書けな
    いことも書ける。それが文学の力です

    カッコいいことは誰でも書けます。逆に自分の愚かさ、みっともな
    さを主人公がわかっていないとすることで──私小説といえども主
    人公と作者は別だと考えるべきで、そこに作者の技巧がある──す
    ごい力を持つことがあります。愚行への言い訳をくだくだ書かず、
    事実だけを書く力でもあるが、「へりくだりの力」、つまり読者よ
    り一段低い位置に主人公を設定することで、普通の人間では書けな
    いことも書ける。それが文学の力です

    いま自分が立っている場所は、どんな人がどのようにして築いてく
    れたのか。当然だと思っているものを支えている根本には何がある
    のか、それを考えることが批評だと私は思っているのです

    「自分の考え、感性」といったものでも、それがいかに「自分以外」
    のものに左右されているかを意識すること。学ぶとは、そのように
    して自らの存在を、歴史的な視点で考えることでもあるのです

    ◆文章上達に必要な三つの要素
    1.上手な文章のイメージを明確にする
    2.構成力・企画力
    3.豊かな語彙と言い回しの工夫

    小林秀雄は、「エピソード」「情報」「描写」とつなげることで、
    自分の「信じる」ことを読み手に伝えようとしました。進化学者の
    今西錦司は、資料をどんなに集めても「一+一=二」にしかならな
    い論文はおもしろくないと言いました

  • 書名に偽りなし。ブックオフで買っておけばよかったなぁ。

  • 『文章教室』なのにまずは、
    「読む力」の必要性を説く。それは書くための目標を明確に定めるため。何処に行きたいのかわからずに車を走らせる人はいない。なのにただ漠然と「文章が上手くなりたい」と思う人へのメニュー提案だ。さまざまな作家の作品を取り上げ「あなたはどんな文章に魅了されたか」→「こんな文章が書きたい」と感じさせてくれる。そしたら、少しだけその文章の輝きの理由を福田和也氏がすてに解き明かしてくれている。あなたにとって、好きな作家も、人間としては好きでなくても惹きつけられる文章を書く作家も、そして知らなかった作家もたくさん用意されています。

    そして、
    「書く力」ここでは、3点あげているけれども、私はあえて1点に絞って共感した。それはいいと感じた文章を分解、分析すること。そしてそれを認識すること。どこのところが、何故、自分を惹きつけるのかを強く見つめること。それは自分を知ることにもつながる。
    というアドバイスは根本的なところに立ち戻って言葉というものに取り組む訓練になる。
    冒頭の方に書いてあった、好きな文章を手書きで写す練習を進めていたが、その感覚がわかる。それは「読んでいて掴める快感」と「書くことで感じとる質感」の違いのようなもので、緩やかなテンポと指を動かす意識が伝える刺激か脳で発火するときに生じる特別な何かがある。
    最後に
    「調べる力」が挙げられているが、これは重要なことはわかるが、福田氏があげる「調べる力」が私のもとめる「文章力向上」とはかけ離れているので、ここでは触れない。

    かつて読んだ本の魅力の謎解きにも役立った。

  • 思い出すだけではなく、あの鯨に、あの熊になりたいと無性に思うことがある。そしてその想像は私を甦らせてくれる。あの巨きな獣になった自分を私は感じることができる。
    一点、誰かが撃った小さな銃弾に負った小さく深い傷の痛みを交えながら。

  • ハウツー

  • 作家に必要な素質はどれだけ感度のいいアンテナを持っているか。
    文章を書きたいというきっかけは、違和感を感じたとき。
    資料をできるだけ集めたほど、その結論がしっかりしている、といえないこともないが、資料と結論との関係をそういうように考えることは結局結論を資料によって縛るということにほかならない。
    自分と共通の基盤も何もない他者とどうすれば通じ合うことができるのか。プロの文章とはお金をとれる文章のこと。このことを念頭に置く。他者にどうやって自分の考えを伝えるか。
    読書の効用の1つはボキャブラリーの増強。

  • 全般的にいまいち。第3章は興味がないので読み飛ばした。

  • 「垂れ流しの文章はなぜダメなのか」「『プロの文章』を目指す」などはなるほどなるほど…なのだけれど。

    引用の作品・作家がともて大雑把だと感じる。

  • 福田和也が様々な作家の名文から、その作家がどう考えどういう視点で、背景に何があって、その文章が具体的にどういう効果をもたらしているかなどを読み解いた本。

    名文を書くためには読む力が大事、という事で大部分がそれに割かれている。その後に書く力、調べる力という章が若干。

    タイトルは釣りで、名文を書くためにはたくさん読んで、地道に書き写しながら呼吸やリズムなどを学び、そしてしっかり調べ物をしよう、つまり絶え間ない努力が必要だと伝えている。同感です。

    また直接的には書いていないけれど、福田和也が各作家の名文をどう取り上げているか、その編集力を学ぶことが良い内容を伝える事に繋がるだろうと思った。それだけコンパクトに各作家の素晴らしさがまとめられている。

  • 各作品の名文が次々と紹介され、日本文学のレベルの高さを実感できる。紹介されている名文が名文すぎて、興奮する。

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。批評家。慶應義塾大学名誉教授。『日本の家郷』で三島賞、『甘美な人生』で平林たい子賞、『地ひらく――石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。

「2023年 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

福田和也の作品

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