エレクトリック・マイルス1972‐1975 ~「ジャズの帝王」が奏でた栄光と終焉の真相~ (ワニブックスPLUS新書) (ワニブックスPLUS新書 29)

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  • ワニブックス
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784847060205

感想・レビュー・書評

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  • 元スイングジャーナル編集長の音楽評論家だけどこの人の書くものがけっこう好きなので手にとってみた。帝王マイルスの、作品で言うと「オン・ザ・コーナー」から「パンゲア」まで、いわゆるジミ・ヘンドリクスとスライ・ストーンに影響を受けたとされる時代について本人と関係者の証言から何が行われていたのか、を解明しようとした作品。マイルス・デイビスはメジャーな会社から出てる作品は一通り全部持ってるアーティストの一人で個人的には凄く好きなんだが、特に賛否が分かれるこの時代の諸作品について個人的には好きだと言ってたのだけどそれはたぶんに「そう言ってたほうがかっこいい」みたいな見栄というかなんか頭で聴いてたな、という反省もあって今回読書と共に久しぶりに聴きなおしてみた。多重録音だったり大人数でドヒャーと訳のわからないことをやっている、という印象だったのだけど改めて聴くと全然真っ当な音楽でフリージャズの違いとは一線を画していることが分かった(フリーもけっこう好きなんだけど)。ド素人なので的外れな事を言ってるのかもしれないがコード分解のバップからスケール中心のモードと来たマイルスが次に取り組んだのがリズムで、ドラムが4分の4のところにパーカッションが8分の6にギターがまた別の拍子で二番目のギターはまた別の、といった感じでどんどん人数が増えていって…という感じ。その意味では影響を受けたのは間違いないだろうけどジミやスライとはまた違った方向に進んで行こうとしていた、という本作の指摘はよく理解できる。酷評にも全く動じることなく己の信ずる道を行く姿は帝王の帝王たる由縁という印象でやはりかっこいい。巻末の関連ディスコグラフィーも楽しくて~Apple Musicに入ってるから聴き放題!(笑)〜凄く楽しく読めました。

  • 2013年2月26日読了。書面にあるとおり1970年代の「ビッチェズ・ブリュー」「オン・ザ・コーナー」などの「エレクトリックな」作品群を生み出したマイルス・デイヴィスの活動の記録。ハービー・ハンコックやチック・コリア、キース・ジャレットなどの有名どころをはじめ、膨大な数の(おそらく、一癖もふた癖もある)ミュージシャンたちを束ね活用しつつ、成功からくるプレッシャーやドラッグ中毒、脚の手術失敗から来る痛みなどに耐えながらこれほどの作品を生み出したマイルスの創造力・リーダーシップは本当にすごいものだ。マイルスのエレクトリック・ファンク路線にはジミヘンやスライの影響もあったようだが、たどり着いた境地は彼らを遠く置き去りにするものだった、ということか。70年代ってのはスリリングな時代だったのだろうなあ。

  • 中山氏のマイルス研究にはいつもながら脱帽させられる。この人マイルスが何月何日何時にどこで何をしていたのかほとんど把握しているんじゃないだろうか?

  • ジャズは聴くのだが、かなり偏っている。
    一言でいえばECMでリリースしてるようなものを結局よく聞いている。
    結果、聴くのはパット・メセニーやキース・ジャレット、テリエ・リピタル、チャーリー・ヘイデン、さらにはデビッド・サンボーンだったりする。

    ただ、
    '70年代のマイルス・デイビスについてはある一定の間隔を置くと
    体調のいいときに
    妙に聞きたくなり、「アガルタ」「パンゲア」「ゲット・アップ・ウィズ・イット」
    などなどの音をヘッドホンで大音量で聴く。

    なんといっていいのかわからない不思議な音楽だと思う。
    混沌としたエネルギーが永遠に沸き続けるような音楽。
    逆に静謐な「ひー・ラヴド・ヒム・ソー・マッドリー」などは
    カンなどの'70年代ドイツのロックに近いテイストも感じられる。

    比することのできない音楽。
    この不思議な感じを言葉でとらえたものはないかと
    ずっと思っていたのでこの本を読んだ。

    巻末のディスコグラフィーはさまざまなジャンルの作品をとりあげ
    充実している。作者の見識に感心はした。
    本文では各時期のメンバーの詳細な説明などもある。

    ただ、私にとっての「'70年代マイルスの謎」は
    この本ではまったく解けなかった。

    有名な自叙伝も読んでいないので、まずはそっちを読んでから
    評伝を読むことにした。

  • 改めてエレクトリックマイルスを聴きなおすきっかけになった本。

  • 69年の『ビッチェズ・ブリュー』以後、75年の活動停止期に至るまでのマイルスの活動の軌跡を描いた本。
    この時期のマイルスが、一番分りにくい時期であることは間違いないだろう。ライブもレコーディングもバンドのメンバーは流動的で、レコーディングは散発的に行われ、完成したアルバムはプロデューサーのテオ・マセオによって編集され、演奏されたどのマテリアルが使用されいるのかも不明(少なくとも、後世にコンプリート盤がリリースされるまでは)。

    この時代の代表作として、今は一部で名盤の評価を得ているアルバム『オン・ザ・コーナー』も、同時代では理解されなかったことも記されている(ダウンビート誌で5星満点中2星)。
    自分も、15年くらい前にリイシューされた『オン・ザ・コーナー』を買って聴いたとき、落胆したのを覚えている。JBやスライのような分りやすいファンクを期待した耳には馴染めなかった。モコモコとした、リズムの輪郭が不明瞭なリフが延々と続く退屈なアルバムというのが、当時の率直な印象。

    以下に著者の引用。
    「『オン・ザ・コーナー』は、次世代のみならず、その後につづく何世代もの若者たちのサウンドトラックとして重要な役割を果たすことになる。そしてそれは『オン・ザ・コーナー』の音楽に「終わり」がないように、永遠につづくように思われる」

    今、聴き直すと『オン・ザ・コーナー』も違った感想を持つのだろうか?
    この時代のマイルスをもう一度聴いてみたくなる好著。

  • 中山康樹さん『エレクトリック・マイルス 1972-1975』(ワニブックスPLUS)読了。70年録音の『ジャック・ジョンソン』から75年の日本ツアーの『アガルタ』『パンゲア』に至るまで歩み。ドラッグ&手術で心身ともにボロボロになったマイルスはその後、6年間も沈黙を守り続ける。

    マイルスのもとを巣立ったジョン・マクラフリンはマハビシュヌオーケストラを、チック・コリアはリターン・トゥ・フォーエヴァーを、ジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターはウェザーリポートを、ハービー・ハンコックはヘッドハンターズを結成して時代を牽引した。
    全員が1969年の2大傑作『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチェズ・ブリュー』のセッションに参加したメンバーだったというのがすごい。70年代のジャズロック、クロスオーヴァー、ファンク、フュージョン路線はすべてマイルスの影響圏から出発している。

    キース・ジャレットとジャック・デジョネットの2人だけがエレクトリック路線に背を向けるが、このふたりは後に、ECMを舞台にスタンダーズで新しいアコースティック・ジャズの地平を切り開く。

    あの時代のマイルスだけが持ちえた創造力と強烈な磁場は、しかし、ドラッグと病魔によって徐々に蝕まれていく。体調が悪化し倒れる寸前だったという『パンゲア』。ワウワウ・ペダルによって奇妙に歪められたマイルスのトランペットの音は、マイルスの苦痛の叫びにも聴こえる。

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著者プロフィール

1952年大阪生まれ。『スイングジャーナル』編集長を経て音楽評論家。ロックにも造詣が深くビートルズ系の本の中でも『ビートルズを笑え!』は辛口でありながら面白く書かれている。オノ・ヨーコに批判的で日本語が読めるオノに対して批判する評論家としては希有な存在。主な著書に『マイルスを聴け』(双葉社)『エヴァンスを聴け』(ロコモーションパブリッシング)『超ブルーノート入門』(集英社)『Jazz名曲入門』『Jazz名盤入門』(宝島社)『ジャズを聴くバカ、聴かぬバカ』(KKベストセラ-ズ)『スイングジャ-ナル青春録』(径書房)『ビートルズ アメリカ盤のすべて』(集英社)『ビートルズ全曲制覇』(エイ出版)『ビートルズを笑え!』(廣済堂)『ディランを聴け』(講談社)『音楽中心生活』(径書房)『超ビートルズ入門』(音楽之友社)『クワタを聴け!』(集英社新書)『ジャズ・ヒップホップ・マイルス』(NTT出版)等がある。

「2012年 『かんちがい音楽評論[JAZZ編]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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