下町酒場ぶらりぶらり

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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860112219

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  • 寅さんの哀愁ってなんだろう。それはあの名台詞、それを言っちゃぁお終いよ、に凝縮されているんじゃないかな。寅さんも解ってはいる。でも理屈じやない何かに突き動かされて、止むに止まれずお節介。そして自分がまた旅に出れば八方収まる、結構毛だらけ猫灰だらけ。なんとなく、アラブの頓知、駱駝の遺産分けのよう。十七頭の駱駝の半分を長男に、三分の一を次男に、九分の一を三男に。一頭加わえて三人とも満足し、最後に一頭余る。本当は、最初からいてもいなくても変わらない。

    そんな時間が流れるだろうことは鼻からお見通し、でも、それを言っちゃぁお終いよ。その畳み込まれた時間の中に取り込まれて見えなくなってしまうことだってお見通し。さっきまで居たように思ったのに、もう辺りを見回しても見当たらない。皆が忘れたって構わない。でも皆は、あれ、何か変だよ、って気にはなる。きっと、そんな名残り惜しさが生み出すもの。それが寅さんの哀愁なのだと思う。

    それとそっくりな哀愁を大竹聡は生み出すように思う。呑めば、一人であろうと何人とであろうと、ここに居ない人のことを想い、畳み込まれてしまった時間の流れのことを思い、その中に自分自身が取り込まれていく。時間の流れは、全ての人の、そして全てのモノの終点を、いやでも引き寄せる。そして残されるのは、反語的な不在。名残り惜しい気持ちだけ。本人も、また、貸し出された一頭の駱駝のように、最後はきれいさっぱり、立つ鳥跡を濁さずのつもりでも、寅さんのように鞄一つで旅立つことも儘ならぬ。気付けばドクターストップの掛かった身を持て余している。そこに人の業の深さと自己矛盾に満ちた本質が体現されているようで、悲喜交々の泣き笑いとなる。

    人はみな酒はきれいに飲みたいと思うけれど、ままになる日もならぬ日もある。むしろ儘にならないことの方が日常だ。そこが面白くてやがて悲しい人のさが。自分に父親を重ね、他人の人生に自分の人生を重ねる。そんな酔っ払いの戯言に、酔う。

著者プロフィール

1963年東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊。

「2022年 『ずぶ六の四季』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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