謎の独立国家ソマリランド

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  • / ISBN・EAN: 9784860112387

感想・レビュー・書評

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  • どーんと分厚い外見通り、読み応えがある。まさにこれは「読む前と世界が違って見える」本の一つ。高野さんの代表作になるだろう。素晴らしい。

    「ソマリランドって、ソマリアの近く?ソマリア沖って海賊の出没するとこだよね?」程度の知識しかなかった私は、WEB本の雑誌に連載されていた第1章第2章のソマリランド入国記だけでも、十分驚きで至極面白かった。崩壊国家のただ中で内戦を独自に終結させ、二十年も平和状態を維持しているのに、国連が認めずほとんど知られていない国ソマリランド。「未知」「未確認」とされるものをその目で確かめずにはいられない高野さんが、入国を果たし、日本人とは対極にあるような強烈なソマリの人々に翻弄されながらその社会の有り様を身一つで調べていく。奇跡のような平和はどうやって作り上げられたのか。

    このソマリランドルポが実は導入にすぎない、というのがまあ何ともすごいのだ。同じソマリ人が作る海賊国家プントランド、戦火のただ中にある南部ソマリアへと高野さんの探査行は進められていく。ここが高野さんの真骨頂、とにかく「自分の目で見る」ことをモットーにし、「悲惨な内戦」という出来合いの先入観を持たずに、ずんずんとその実態を明らかにしようとしていく。もうここはとにかく読んで!としか言いようがない。大迫力である。

    しかしながら、そこはそれ高野さんである。こんなにとてつもないルポなのに、やっぱりいつもの「スットコテイスト」(Pipoさんお借りしました。これは秀逸!)が漂っているのがおかしい。何度大笑いしたことか。ジャーナリスト然とした傲慢さとはまったく無縁なところが、我らが高野さんの高野さんたる所以だ。

    それにしても、最近これほど色々考えさせられた本はない。帯に「西欧民主主義敗れたり!」とあるが、自分の世界の見方、ものの考え方がいかにその「西欧民主主義」的であるかということをあらためて痛感した。まったく世界は広い。思いもよらない様々な価値観を持つ人々がいて、世界を覆う(と私たちが思っている)欧米的な「常識」を軽々と無視して成り立つ社会がある。無政府状態で中央銀行もないのに強く安定した通貨(ソマリア・シリング)を持つ国なんて考えられるだろうか。インフラは整い(なんとか、ではあるが)、みんなが携帯電話を持ち、食料は豊富でおいしい。ないのは政府だけ…。

    国なんかなくてもちゃんと暮らしがあり、笑ったり泣いたり、真剣だったりいい加減だったりして人々が生きている。これはちょっと衝撃だ。私たちは、いかに多くのことをなくてはならないと思い込んで、閉塞感に浸っているのだろうと思わせられる。高野さんの書かれるものにはいつも、権力や権威をするっとかわしていく自由な風が吹いていて、そこが好きだなあ。

    そういう持ち味が一番よく出ているのが、最後に書かれているこれから何をしたいか、というところ。高野さんは、国際社会がソマリランドを支援することを望んでいる。それが「平和になれば、カネが落ちる」というソマリ社会への明確なメッセージになるからだ、と。そして…

    「もしソマリランドに援助や投資がなされるなら、私は日本で唯一の、そして世界的にも数少ない外国人のソマリ専門家として是非参加したい――とは露一つ思っていない。
    私がやりたいのは未知の探索だからだ。
    今考えているのは、ソマリランド東部の、ブントランドと国境を接する地域をラクダで旅することだ。……」

    これには拍手!あくまで「未知への冒険」を指向しているところがいいなあと思う。

        ×      ×      ×      ×      ×      ×

      
    行ってきました!「ソマリランド」刊行記念トークイベント。楽しかったなあ。コーフンさめやらぬまま、とりあえずイベントの様子を書き留めておきたくなりました。

    二日にわたって行われた大阪でのトークショー&サイン会。その二日目は丸善・ジュンク堂書店梅田店7階のこぢんまりとしたサロンが会場だった。ジュンク堂は大阪に何店舗かあるけれどここが最大規模。何とこの日は高野さんのイベントと同時並行で、建築家の安藤忠雄さんのサイン会が行われていて、夕方からは桂文枝さん(三枝さんね)のサイン会もあるんだとか。高野さんもこれには驚かれたようで「一人だけビッグネームじゃないけど」と笑っておられたが、いえいえ、一番喜んでたのは絶対高野さんのファンだと思います。

    だってトークショーはたっぷり一時間半、その後のサインも一人一人と話をしながら丁寧にしてくださって、感激ものだったのだ。私は一番好きな「ワセダ三畳青春記」を持って行って、厚かましくもこちらにもサインをお願いしたのだが、快く大きくサインをいれてくださった。ジュンク堂の店員さんの「それ面白いですよねえ」の言葉に思わず「十回くらい読みました!」と言ってしまい(本当なんです…)、すると高野さん「僕より読んでますね」だって。

    さて、肝心のトークショーだが、お相手は「本の雑誌」の杉江さんで、これまた嬉しかったなあ。杉江さんはとっても若々しい文学セーネン風のイケメンで、おお、こんな人だったの!と驚く。もっとオジサンだと思ってたのよ。意外といえば、高野さんもそうで、風貌は写真なんかで見るとおりなんだけど、低音の落ち着いた話しぶりがすごく知的な感じ。もっとこうハイテンションな感じをイメージしていた。いやあステキでした。

    おっと、トークの中味中味、これはもちろん「ソマリランド」取材の裏話的なもので、本の内容に期待を抱かせる濃い内容だった。京都人みたいなエチオピア人と、人の話を全然聞かないソマリ人っていうのがおかしかったなあ。随所に笑いを交えつつ、でも、紛争地帯というと一面的な報道しかしないマスコミや、とにかく危険と言っておく外務省の姿勢なんかに触れたときの話は、高野さんの硬骨漢ぶりがうかがえて印象的だった。

    おお!と思ったのは、最後のほうで今後の執筆や行動計画に話が及んだとき。少し前に出た「未来国家ブータン」はとっても面白かったが、ブータンについてもう一冊書く予定なんだそうだ。その内容というのが、何とブータンは十年ほど前に戦争をしていて、あまり知られていないその実態について調べて書きたいとのこと。ブータンが戦争?それだけでも驚きだが、なんとそれが「相手から恨まれない戦争をする」というコンセプトだったんだって!この日聞いた話だけでもたいそう面白かった。早く読みたいなあ。

    もう一作はイランについて、「学園国家イラン」ってタイトルだけ決まっているそうだ。この話がまた、いたく私のツボだった。高野さん曰く「イスラムというのは校則のめちゃ厳しい高校だと思うとわかりやすい」。うーん、これは私がこれまで聞いたどんなイスラム論より納得できるものだ。これも刊行を楽しみに待ちたい。

    高野さんは「大阪の人はトークに厳しいと聞いていたけど、とても温かく迎えてもらった」とおっしゃっていた。「万博公園の太陽の塔を初めて見て感激した」とも。是非またいらしてほしいものだなあと思いました。

    さあこれから「ソマリランド」を読むぞお。

    • たまもひさん
      後で考えたらちょっと恥ずかしかったです。高野さんも「変なヤツ」と思われたのではないかと。「三回ほど」ってサバをよんでおけば良かった…。

      サ...
      後で考えたらちょっと恥ずかしかったです。高野さんも「変なヤツ」と思われたのではないかと。「三回ほど」ってサバをよんでおけば良かった…。

      サインをもらった「ソマリランド」を今読んでますが、いやあすごいです。こういうハードな旅とあの飄々とした感じのギャップがいいんですよね。
      2013/03/05
    • じゅんさん
      なんて素敵なレポートでしょう!!\(^o^)/
      とっても楽しく読ませてもらいました。

      高野さんとお話できたなんて、高野さんへの愛を語れたな...
      なんて素敵なレポートでしょう!!\(^o^)/
      とっても楽しく読ませてもらいました。

      高野さんとお話できたなんて、高野さんへの愛を語れたなんて、すっごく羨ましいです。

      そっか、高野さんは低音の落ち着いた&知的な方なんですね。(*^_^*)
      >>「ワセダ~」
      いえいえ、サバを読むより本当のことをお伝えできた方がずっといいですよ。
      そして、高野さんの返しがまた洒落てますね。
      (*^_^*)

      きっと喜ばれたんじゃないかなぁ。

      ブータンの戦争のお話・・・
      興味があります。
      特にそのコンセプト!
      「ソマリランド」も未読なのですが、これはぜひとも読まなくちゃ!
      2013/03/05
    • たまもひさん
      じゅんさん、心優しいコメントをありがとうございます。

      高野さんはずっとファンだったのですが、今回のイベントで大ファンになりました。肩の力の...
      じゅんさん、心優しいコメントをありがとうございます。

      高野さんはずっとファンだったのですが、今回のイベントで大ファンになりました。肩の力の抜けた感じのたたずまいがとってもステキな、何とも言えない良い雰囲気の方でした。

      ブータンの話は本当に面白くて、本になるのが楽しみです。高野さんによると、捕虜にした人たちを手厚く接待してブータンを好きになって帰ってもらおうとしたんだとか。いやあブータン恐るべし。
      2013/03/06
  • 最初手に取った時、予想よりも分厚くて驚いた。
    でもするすると読み進められてしまった。この本でソマリアがもはやひとつの国ではないことを初めて知った。ソマリアにプントランド、南部ソマリア。なかなか事情がややこしかったが、筆者の体験に沿って得られる驚きはまるでミステリを読んでるようだった。
    氏族文化や、ソマリ人がどのような価値観で生きているのかなど、どれも新しい価値観で新鮮で面白かった。

  • Webで連載を読んでいて、「単行本になったら買う!」とすかさず購入。ものすごいページ数に一瞬ひるんだが、「高野ノンフィクションの面白さの前には、そんなものはものの数ではない!」と読み始めた。

    映画『ブラックホーク・ダウン』で取り上げられたように、内戦のさなかに撃墜した米軍ヘリの搭乗員を血祭りにあげてしまったことから、国際社会がドン引きし、アンタッチャブルになってしまった国、ソマリア。でも、その北部に、奇跡のように騒乱のない国、「ソマリランド」があるという。上田敏の訳詞のごとく、「山のあなたの空遠くさひはひ住むと人の言ふ」国なのか、ソマリランドは?と、行ってみずにはいられなくなった高野さんのソマリランドおよび(結果的に)ソマリアの騒乱中心部潜入ルポ。おっかしーなー、私も高野さんと同じように『国マニア』と『カラシニコフ』を読んだけど、ソマリランドのことなんて記憶にないよ?

    高野さんが芋づる式にどたばたと地元有力者と出会いながら、ゆるく的確に、ソマリランドの統治システムが紹介されていく。ソマリ人社会はもともと騒乱の多い社会だが、伝統的に、文化人類学でいうところのクラン(氏族)単位の社会であり、それと近代法による統治システムが絶妙のバランスを保って、「平和」を維持している。「どこのだれだれのつながり」という、このクランが実に細分化されているので、理解の助けにと、「○○(氏族名)平氏」「△△源氏」「××北条氏」など、有力氏族を武将一門になぞらえて解説してくださる親切設計なんですけど…ごめんなさい高野さん、私は戦国武将に明るくないので、クラン名そのままのほうがわかりやすいです!

    「日本の女王の墓がある!」など、「高野さん、何やってるの、もう!」とどたばた探訪をへらへら笑って読める、Web連載部分は実はつかみで、圧巻なのは、ソマリランド以外のソマリア国内をルポした「続き」部分。ソマリア内戦の内情をこれだけ的確に、しかもスットコテイストが絶妙にはさまれていることでブルーにならずに読めるのはこの本だけではないだろうか。ディアスポラと呼ばれる、海外亡命先の国籍を得たソマリ人が後押しする各「国」の独立や、海賊行為のソマリア内における社会的位置づけなどは、外国メディアにはまったく出てこないことなので、これ1冊で見かたがものすごく変わる。面白すぎて、読んでいる最中の晩は、脳が興奮しているのか、よく眠れなかった。それに、的確な強引さで高野さんの取材をサポートするワイヤッブ氏や、世界的には「廃墟」と思われているソマリアの首都・モガディシオで辣腕をふるうハムディ支局長らの勇気あふれるジャーナリストっぷりが素晴らしいし、高野一味プレゼンツ・海賊見積もりルポは可笑しすぎてたまらん!実現したら、日本に帰ってこれませんでしたから!

    ソマリ人社会に特化したルポとはいえ、氏族社会と国家運営、イスラム過激派とのかかわりについては、先日のアルジェリアのプラント襲撃事件のように、アフリカ全般に見られる問題理解の手助けになると思う。個人的には、大宅荘一ノンフィクション賞やサントリー学芸賞、少なくとも開高健ノンフィクション賞は軽く取れるハイクオリティの労作だと思うんだけど、うーん、全編を貫く『世界の果てまでイッテQ!』テイストが足かせになるかなあ…でも、そこがないと高野ノンフィクションじゃないんだけどなあ…。

    • たまもひさん
      あははは、あまりにもうなずきすぎて首が痛いです。もうおっしゃるとおり!

      私も戦国武将はかえってわからんと思いましたよ~。でもこれだけのル...
      あははは、あまりにもうなずきすぎて首が痛いです。もうおっしゃるとおり!

      私も戦国武将はかえってわからんと思いましたよ~。でもこれだけのルポをダレずに読ませる力業には心底敬服。凡百のジャーナリストのとても及ばない中味なのに、「スットコテイスト」(これいいですね!)あふれるところが高野さんですよねえ。

      ほんと、各賞選考委員の方々の懐の広さが試される傑作だと思いました。
      2013/03/06
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      「面白テイスト」じゃなくて、やっぱり私には「スットコ」としか思えません(笑)!もう、「そこで笑い取りに行かんでええから!」と何度も思いました...
      「面白テイスト」じゃなくて、やっぱり私には「スットコ」としか思えません(笑)!もう、「そこで笑い取りに行かんでええから!」と何度も思いましたよ!こんなストロングなノンフィクションなのに~。

      高野さんはお喜びにならないかもしれませんが、この面白すごさを理解できる選考委員のかた、ぜひ賞に推していただきたいですね!
      2013/03/06
  • ソマリランド。
    それはソマリアの中にある「独立国家」である。括弧でくくったのには理由がある。ソマリランド側は独立国家と主張しているが、国際的にはそうと認められていないのである。

    内戦が収まらない国の一角にある、十数年、平和を維持している独立国。本人たち以外はその存在を否定し、情報はきわめて少ない。
    そう聞いた著者は興味をそそられる。何せ、著者のモットーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す」である。
    少ない伝手を辿り、ソマリランドの謎を探るべく、現地へと飛ぶ。

    紛争地域が主題の本、しかも500ページというかなりの大部である。
    読む方としては身構えるわけだが、これが予想を覆して「おもしろい」。
    すごいことをやっているのには違いないのだが、まったくしかつめらしくない。
    紛争地域の本を読んでいて声を出して笑う箇所があるとは思わなかった。しかもそれが1箇所や2箇所ではない。
    著者は込み入ったソマリアの内情を、アニメや日本の歴史上の登場人物に喩えながら説明していく。
    著者の体験談が相俟って、感覚的になるほど、と思わせる説得力がある。

    遊牧民気質のソマリ人は即断即決である。仕事は早いが、人の話を最後まで聞かないし、物は大抵放ってよこすし、屁理屈議論をふっかけてくるし、何かというとカネを要求する。
    初めはそんなソマリ人気質になかなか馴染めなかった著者だが、現地の風習を手がかりにして、ソマリ人から話を聞き出すことに徐々に成功していく。それは、現地の男たちが興じるカート(覚醒作用を持つ植物)宴会。ひたすら葉っぱを囓り、じわっと効き目が現れるのを待つ。ひとたびハイになれば何でもどんとこいである。なんと商談や政策も、そんな宴会の中で決まることが多いのだという。
    著者は、ソマリ語を学び、ソマリの歴史を学び、そこに住む人々の懐に飛び込み、頼りになる伝手をどんどん増やしていく。カート宴会で得た知識や人脈ももちろんフルに利用する。
    最終的に、著者はソマリランドの「平和」がなぜ可能であったのか、ソマリア独特の氏族と掟の有り様から、結論を導き出す。

    探検家感覚の現場主義はまったくすごい。仕舞いには著者は、苦手と思っていたソマリ人気質にすっかり染まって、ソマリ人を言い負かすまでに至る。
    恐るべし、ノンフィクション作家魂。

    笑いながら考えさせられ、新たな視点をもらえる1冊である。

  • 『終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている独立国があるという。果たしてそんな国が存在しえるのか?』……この紹介文を読むだけで、「読みたい理由」は十分以上。そして、その期待をはるかに上回る読みものだった。ノンフィクションとして、今までに読んだものの中で最高傑作ではないだろうか。
    とにかく筆者の取材力、とりわけアフリカ取材においては「いかに現地民や現地での暮らしにとけ込むか」が問われるのだろうけれど、それが素晴らしい。一般的な雑誌や新聞で伝えられる「アフリカの現状」がいかに上っ面で一方的な見方のものしかなかったかということもわかり、520ページがあっという間だった。
    こういう体験ができるからこそ、読書はやめられない。

  • 本が分厚くて、読み応えがたっぷり。ソマリ愛溢れ、しかも全く未知の世界、文化。ソマリアというと紛争地帯で治安が悪いイメージだが、その中に存在するソマリランドという平和な民主主義を保つ独立国家。冒頭から沢木耕太郎の深夜特急でも読むようなワクワクが止まらない。その疾走感で突き抜ける読書。ソマリ人の早さ。カートをキメた明晰さ。

    ソマリランドから海賊国家プントランドへ。旅を続ける中で、国や文化、氏族主義などの制度を学び、発見する著者。まるで文化人類学の領域。果ては、海賊ビジネスに手を染めようとしたり、地元メディアに登場したり。大麻みたいなカートを食いまくる様は写真の著者からは想像つかない。

    そして、モガディショの剛腕姫との出会い。危険な南部ソマリアのホーン・ケーブルテレビ・モガディシオ支局長のハムディ。垢抜けて性格も男前な彼女は、別著『恋するソマリア』のカバーに写真があるが、想像通り。これは著者の表現力が素晴らしい。

    色々と意識散漫だが、とにかくあちこち、著者と共にスリリングに楽しめる内容。

  • ソマリアといえば内戦で大変な国。でもソマリランドって?聞いたことない!というのが本書を知っての最初の感想。だから「謎の」なのかしらん、と訝りつつ、かなり分厚いのでビビりつつ読み始めたのだが。

    ここに出てくるソマリランドは、あの世界最悪の内戦の国と言われたソマリアから独立した国なのだという。しかも、無政府状態でありながら複数政党制による民主化に成功し、治安もよく平和な状態を長年にわたって保ち続けているのだが、国際社会では国家として認められていない、というおよそ信じられないような話。ならば、自分の目で確かめてこよう、と思い立って本当に行ってきた、それをまとめたのが本書である。

    著者が、びっくりするような行動力とびっくりするような何とかなるさ精神で、実際にこの謎の国へ行き、あれやこれやで苦心惨憺、いいようにカネを払わされ、ぞっとする目にも合い、でもいつしか現地の人々の魅力に取りつかれていく様は、単に紀行文として読んでも面白いが、この謎の国の類まれなる研究の成果とも読める。参考文献も極端に少ないというこのソマリランドについて、いったいいつのまにどのようにして、情報を集め事態を整理し理解したのかと、不思議なほど詳しい。
    おそらく、著者がソマリランド学(そんなのあるか?)の日本の第一人者であることは間違いないだろう。

    そして当のソマリランドと言えば、列挙したい特徴的なこともいろいろあるが、何よりその国家としての成り立ちが恐ろしくリベラル。ある意味究極的な民主主義。
    著者も言っているが、現代社会の中で、最も先進的な民主主義かもしれない。恐るべし、ソマリランド。

    と、本書の素晴らしさを挙げてみたが、爆笑の記述もごまんとある。
    海賊を雇って他国の船を襲わせる金儲けの算段とか…ええっ、それこそ海賊行為では??そりゃマズかろう…。
    国連は会員制高級クラブのようなもん、とか。妙に納得~、説得力ある。
    あまた登場するソマリ人を、日本の戦国武将やら貴族やらになぞらえて名づけ、日本史に疎い私にはあまり効果なしかと思いきや、意外にカタカナに漢字が付属してくるだけで頭に入りやすかったりして、びっくりの効果。

    分厚さに戦いたのもなんのその、すいすい楽しく爆笑しつつ読了できました。
    著者言うところの、ソマリランドに似ているという、ブータン。
    『未来国家ブータン』も読まねば。

  • 複雑で飲み込むのは難しいが、実際の旅行記と併せてソマリランドについて説明されており,面白かった。
    臨場感があり、登場人物は皆面白い。
    読むのに時間がかかったが,ソマリランドについて知るための貴重な資料だと感じた。

  • 派閥や登場人物が多すぎて、敵になったり仲間になったり複雑で頭の中が大混乱。
    途中からメモに図を描きながら、間違えて解釈しないよう一生懸命読んだ。
    先進国が常識としていることが、この国では常識とは限らない。ここまでの取材力にただひたすら驚き。

  • ソマリ世界の事象はとても複雑だが、作者が確認がてら同じような内容を何度も言及してくれるので、大きな混乱もなく読み進められて、なんかありがたい。
    どの内容も新鮮な驚きにあふれていたが、「海賊を雇う際の損益計算」の具体例は圧巻。
    実際に現地に行って生で見ないことにはわからない、というのは本当に仰る通りだと思います。

  • ソマリア共和国について何も知らなかった。この本を読むまでは、アフリカ大陸の中にある、内戦が続く貧しい国ぐらいの認識しかなかった。しかしなんとも奥の深い国ではないか。特にソマリランドは興味深い。内戦が続き『崩壊国家』と呼ばれる共和国の中に、十数年に渡り平和を維持している独立国なのだ。謎の国、ソマリランドを探求した本がこの『謎の独立国家 ソマリランド』だ。500ページもある厚い本だ。当初、ただの旅行記かと思っていたからこの本のボリュームに戸惑ったが、いやいやこのぐらいの量がなければソマリランドは語れない。
    著者が書いているように『氏族』が、ソマリ人の根本的な概念である(そこから更に分家、分分家、分分分家と枝分かれしていく)。ソマリアで戦闘が行われているのは、この氏族単位である。単純に言えば、鈴木家の親戚一同と加藤家の親戚一同で戦っている感じだ。日本とは全く違う社会の成り立ちで、日本人から見るとなんとも前近代的だと思うけど、実はこの『氏族』という社会システムが平和をもたらす重要な要素になっている。
    日本の民主主義システムが硬直化している現代に、このソマリランドのやり方は大いにヒントになると思う。徹底的に『個』に行き着いた日本社会と、『氏族』という集団に所属しているソマリ人社会と、どちらが幸せなのか考えさせられる。

  • ソマリアのソマリランド、プントランド、南部ソマリアについて書かれた本。
    ソマリランドの内容を、日本の戦国時代になぞらえて書かれていたので、わかりやすかった。文章も小気味よくテンポ良く読めた。
    紛争あったり、海賊あったり、大変だなーとこっちは勝手に思ってしまうが、住んでいる人たちはそんなことあまり思ってなさそうで、バイタリティ溢れている。
    南部ソマリアで出会った、ハムディはかっこいい!
    女性で若いので、何かと大変なこともあるかと思うが、本当に剛腕すぎる!!
    テーディモの探検にも行ってほしい!

  • まさに「未踏領域」。
    分厚さが気にならない。

  • 高野秀行の体を張った渾身のルポ。世界から危険だと思われていたり、実際に危険だったりする場所に乗り込んで極力現地に馴染む。そういう手法が最大限活かされており、これまで日本はもちろん、旧宗主国という比較的なじみの深い国でも理解されていなかったことが書かれている。
    何しろ我々には縁遠い場所だが、日本の読者のために用いられる比喩(リアル北斗の拳とか、イサック藤原氏など)が読者の理解を助けてくれる。
    本書が書かれてからだいぶ時間も経ったが、いまどうなっているのかという興味をそそられる。

  • どっぷりとソマリに浸り尽くした作者、巻末ではソマリの誇りみたいのを身につけていたところなんかがもうすごい。
    氏族の関係は、いくら日本の歴史上の人物に換算されても、最後までチンプンカンプンだった…。

  • 今までこうゆう本をあまり読まなかったけど、面白かった。情勢がころころと変わる場所なのだろうから、時々、ソマリランドはいまどうなってるのだろうと思いながら読んだ。

  • とても採算の合わない取材で、物好きと仲間に称される高野さん。

    アフリカは人類の発祥の地、
    広大な土地にまだ未確認の地下資源も。
    人口の多さは、巨大な市場にも。

    建前上、国家として認められているのに、
    国内の一部(もしくは大半)が、
    ぐちゃぐちゃというなら、イラクやアフガニスタンなど
    他にもたくさんあるが、その逆というのは
    聞いたことがない。まさに謎の国、地上の「ラピュタ」

    ソマリランドの存在する地域は
    今もなお無数の武装勢力に埋め尽くされ
    戦国時代の様相.「リアル北斗の拳」
    陸が「北斗の拳」なら、海は海賊が「リアルワンピース」

    そんな崩壊国家の一角にそこだけ、十数年も
    平和を維持している国それがソマリランド。

    509ページという分厚いノンフィクション。
    ヒリヒリするような危険を背にしながら
    高野さんはいたってマイペース。
    なんでもお金に換算し、ふっかけてくる輩に
    自称「ネギカモ」とつぶやきながら
    見たいこと聞きたいことに奥深くまで潜入する。

    同じソマリ人でもソマリ人を語るには
    部族ではなく氏族を整理しなくては理解しがたい。
    また、その文化も途中どこの国の植民地だったかで、
    本来の文化の失われ度が違い、性格も違う。

    イスラム過激派が国にとっては
    「亭主元気でするがいい」ならぬ
    「イスラム過激派元気で留守(国内にいないこと)がいい」
    国としての成長を考えると、とかく閉鎖的で、
    発展から遠ざかる考え方の過激派。
    だが、政敵や敵国を退けるには必要。
    キリスト教国家が敵国に打撃を与えるために
    原理主義(これは本来キリスト教のことばです)を利用し
    また、統治に失敗した元政府が倒れた時
    その反動としてこのようなイスラム過激派、原理主義が
    はびこるが、これを熱狂的に指示するのは
    高圧的で、厳しい禁止事項があってもなくても
    同じ何も持たざる者(貧民)たちのみ。
    元の政権が倒れ、一時的に受け入れても
    その内容を見るや、逃げ出す人々が難民になる。

    まぁ、長くはありますが面白い一冊です。

  • いや面白かった。HONZで「読めばわかる!」と紹介されていたが、その通りだった。ソマリアにあるソマリランドという謎の「国」についての本で(しかも長いし)、どうしたら面白くなるのか疑問だったが、全くそんな心配は不要だった。

    ソマリランドとは、アフリカ大陸の東端に位置し、サウジアラビア半島の対面でアフリカの角と呼ばれるソマリア北部にある公式には認められていない「国」のことである。ソマリアは、飢餓や内戦、海賊など悪い話でしか取上げられることがない。NPOのトランスペアレンシー・インターナショナルが算定する政府の腐敗度を示す腐敗認識指数でも、2014年度も北朝鮮と並んですべての国の中で最低だと評価されている(※)。ソマリアの内戦は、後に「ブラックホーク・ダウン」という映画にもなったが、国連の平和維持軍活動において撃墜された米軍のヘリの乗員の死体が裸で切り刻まれて引きづり回された衝撃的な事件でも有名だ。ソマリアは、その事件が元で米軍が引き上げた以来、無法地帯になっているというのが、せいぜい最大限の世間の一般的な認知だろう。そもそも多くの人がソマリア自体を知らないというのが現状だ。

    ソマリランドは、ここに書かれてあることを信じるならば、そんなソマリアの中で、日本と同じくらい街も平和で民主的な「国」らしい。同じソマリアの中でも、隣の「国」ブントランドでは海賊を当たり前のように営んでいて、さらにソマリアの南部の首都モガディシュ近辺ではまだ激しい内戦が続いているというのに(著者は「リアル北斗の拳」と称していいる)。

    そんなソマリランドおよびソマリアに興味を持った著者は、持ち前のバイタリティと現地化力により、政府の人間やテレビ局の人間などを次々と伝手を辿って、海賊国家のブントランドで海賊業の見積もりを取ったり、ゲリラの内戦が激しい南部ソマリアまで行って銃撃されてみたり、といったことまでしている。そして、現地の人たちと、最初はカネのつながりだったものが、最後にはカネではない信頼関係を築きあげてしまう。最後には、著者の方もソマリの一員になりたいと書く。そんな思い込みを込めた著者が書くのだから面白くならないわけがないのだ。

    ソマリランドも含め、ソマリアは氏族社会であり、氏族が社会の成立において非常に重要である。それを著者は平家と源氏で説明してしまうのあるが、その譬えに沿った説明はある種天才的でもある。それ以前に、この氏族システムを理解し、自分のものとしてしまうところが凄いのである。

    著者の見立てでは、ソマリランドは「国際社会が無視していたから和平と民主主義を実現できた」のだという。下からボトムアップで完成されたハイパー民主主義だとして心から賞賛している。国際社会が認知するソマリアとは全く似ても似つかない現実がそこにある。

    そんな尋常ではない行動力のある著者は、早稲田の探検部出身で、これまでも色々と辺境に行って現地化した体験を本にしているようだ。少し読み漁ってみようかなと。

    (※) CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX 2014: RESULTS
    http://www.transparency.org/cpi2014/results

  • 多分ソマリアの詳細について知らなくても一生困らない。海上自衛隊がソマリア沖の海賊行為に警戒するために派遣されたというニュースが唯一の接点であろうか。

    本書を読むまでは、アフリカのどこかにある内戦が絶えない野蛮な国程度の認識しかなかったが、読み終わってみると氏族社会を根底とした合理的な国であることが良く分かる。

    隣接するケニアやエチオピアについては近年優秀なマラソンランナーを数多く輩出していることから良く知られている。高地であるが故に生まれながらにして高い身体能力を持ち、生活の中で長距離走に必要な能力が自然と養われていることは報道番組を通じて知る事が出来る。ただし、ケニアやエチオピアの政治情勢や国の成り立ちが興味をひくことはなかなかない。

    本書を読み終わってみると、東アフリカの一角に確かに存在するソマリランド、プントランド、南部ソマリアについてそれぞれが、なぜ平和なのか、なぜ海賊を生業としているのか、なぜ戦国なのかを知る事が出来る。

    自ら何度も現地に入り込み、自身がソマリ人化するあたりはエスノグラフィの教科書ともいえる。著者が他の国を根底から理解しようとする姿勢が素晴らしい。

  • 旅行記・政治本・近代史・アフリカ文化史・カート本・海賊についての本。ソマリア=「海賊」「無法地帯」「ブラックホークダウン」の印象を覆す分類不能な本。

    語学の天才の高野氏は、どの国にいってもその国の生活にディープに入り込む。今まで彼の書いたミャンマー、中国、タイ、トルコなどの探検記・旅行記を読んだがそれらの国はある程度、一般的に知られている国だった。しかし、この本は、ソマリランドという、国際社会の関与がない中で勝手に民主主義を成立させている「独立国家」や、内戦状況にある南部ソマリアの首都モガディシオに長期滞在した上で書かれている。

    ソマリア人の社会単位である氏族を、日本人なら誰でもイメージすることができる平家・源氏・藤原氏・武田氏・上杉氏という符号をふることで分かれやすく解説。

    ソマリア人にとって最も一般的な嗜好品であるカートという葉っぱを連日にわたってソマリア人たちと一緒に貪り食いつつ、ソマリアの政治や社会制度を聞き出していく。国連・米国が押し付ける「民主化」がいかに機能しないかも浮き彫りに。

    海賊たちと仲良くなり、収支計算/ターゲット設定などのビジネス・プラニングをする箇所など、ありえない場面のオンパレード。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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