「正しい戦争」は本当にあるのか

著者 :
  • ロッキング・オン
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感想 : 34
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  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860520311

作品紹介・あらすじ

戦争は正義か、それとも必要悪か。フセインを倒すために戦争は必要だったのか。平和のために戦争は必要なのか。根源的な問いに気鋭の国際政治学者、藤原帰一がすべて答える。

感想・レビュー・書評

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  • 「ラヴ&ピースだけじゃダメなんだ」
     ――帯に書かれたそんな挑発的な惹句に誘われて、藤原帰一著『「正しい戦争」は本当にあるのか』(ロッキング・オン/1600円)を読んだ。

    気鋭の国際政治学者(東大大学院教授)へのロング・インタビューをまとめた「語り下ろし」。
    これは、示唆に富んだ素晴らしい本だ。ワタシ的には五つ星。

    全6章のタイトルを列挙してみよう。

    1.「正しい戦争」は本当にあるのか
    2.日本は核を持てば本当に安全になるのか
    3.デモクラシーは押しつけができるのか
    4.冷戦はどうやって終わったのか
    5.日本の平和主義は時代遅れなのか
    6.アジア冷戦を終わらせるには

    きな臭い世界情勢のなか、にわかに切実さを増したこれらの根源的な問いに、著者は明快に答えを出していく。

    自衛隊のイラク派遣(派兵)問題をめぐっては、「反対派=青臭い理想主義者、賛成派=オトナの現実主義者」と立て分けるムードが醸成されつつあるような気がする。

    だが、その二分法は藤原にはあてはまらない。
    彼はイラク派兵にも昨今のアメリカのやり口にも原則反対ではあるのだが、その姿勢を支える論理はこのうえなく現実的で、イデオロギッシュな感情論が微塵も混じっていない。本書の副題にいうとおり、「論理としての平和主義」なのだ。

    問題のありかを歴史的背景から説き起こし、冷静な現状分析を踏まえて腑分けする手際が鮮やかだ。〝藤原版『そうだったのか! 現代史』〟という趣もある。

    《平和はお題目じゃない。必要なのは祈る平和じゃなくて、作る平和です》

    ――これは本書の結びの一文だが、この言葉どおり、藤原は現実をしっかりと見据えたうえで、「武力を必要としない状況」を一歩一歩作っていくための方途を、真摯に探っている。

    私の目からウロコを落とさせたくだりを、いくつか拾ってみよう。

    《アメリカは軍事経済に依存してるんだから、そこから脱却できないっていう議論が昔からありましたけど、ぼくは必ずしもそうは思いません。むしろ軍事に頼る経済は、政府の注文に頼る経済なので、競争にさらされていない、弱いんです》

    《米軍の規模を抑制するうえで一番役に立つのはアメリカ国内の世論なんですね。アメリカってのは外国よりも国内の意見を聞く国ですから》

    《軍事的な合理性からいっても、いまの米軍はほとんどいらない。(中略)それは、米軍が冷戦期の緊張を前提として作られ保持された機構だからです。現在の米軍はソ連の兵力を想定して作られている》

    《核は使われない時期がこれだけ長続きしたから、使うことができない兵器だと誰もが思うようになってますけど、それは間違いです。核は使えない兵器ではなく、大規模な兵器にすぎません。(中略)冷戦後の核っていうのはその意味で、核が抑止の兵器から使える兵器に変わりつつあるっていう状況の転換になります》

    《(憲法九条は日本の武装解除のために作られた条項だから)外から見ますと、日本国憲法と日米安保条約のふたつが日本の軍事行動を抑え込むものであり、敢えていえば、憲法よりも安保条約こそが日本の軍事的な単独行動を抑えていると考えた》

    《欧米やアジアに行くと、日本の平和主義なんて誰も知らない》

    インタビュアーは、渋谷陽一と鈴木あかね。
    鈴木はロッキング・オンで通訳・翻訳などを手がけている女性だが、一橋とケンブリッジの大学院で国際政治を学んだという、聞いただけで恐れ入ってしまうような経歴の持ち主。

    以前、『現代ロックの基礎知識』という鈴木の著書(ロッキング・オン/99年刊)を読んだときから「ただ者ではない」と思っていたが、本書でも鋭いツッコミ連発で、藤原と対等に伍している。インタビューというより対論に近い部分すらある。

    テーマの重さとは裏腹に、「(笑)」が随所に登場するなどテンポは軽快で、読みやすい。それでいて、中身はすこぶる濃い。脚注もていねいで、理解を助ける。
     また、国際政治学の基礎と最先端の論調をわかりやすく伝える、優れた啓蒙書としても読める。

    イラク派兵問題に関心のあるすべての人に(「関心ない人なんていないだろ?」と思うかもしれないが、藤原も嘆くとおり、派兵に賛成でも反対でもなく「無関心」な層が多数派であるのが、日本の現状だ)、立場を越えて一読をすすめたい。

  • 正しい戦争とは何なのか?そのようなものが存在するのか。
    そもそも『正しい』ということが主観である以上、誰もが正しいと思って行う戦争はこの世にはあり得ない。
    戦争だけにとどまらず『正しい』ということの価値判断は難しい。だからこそ様々な経験をし世界を広げ、自分が正しいと思うことでも様々な立場から慎重に考えなくてはならないと思った。

  • 正しい戦争はないが現実には戦争がある。だからこそ考えなければならないことがある。

  • 「正しい戦争」という概念以前に、「平和」って何だろう?ということを見つめなおしている点の方が大事だと思った。「平和は祈るものではなく作るもの」、「国際政治の選択というと軍隊派遣か、平和祈念かという両極に行きがちだが、本当に大事なのは一つ一つの紛争を招きかねない火種、緊張について出来る限り犠牲の少ない対策を練り、努力すること」という極めてリアリスティックな主張はよくよく考えれば当然のことである。「戦争」はいけないことだけどなくならない、結局二者択一で議論しようとすることが間違っているということを教えてくれる。理想だけ、抽象論だけの平和主義は一歩間違えば軍事万能へと転換しうるという主張には納得させられるものがあった。

  • 論理展開がさっぱりわからなかった。
    ノリが軽くて易しそうだけど、そのためにさっくりとしてしまって、結局ある程度知識のある人じゃないとついていけないんしゃないかな。

  • ▼戦争を否定すると、その否定された戦争を行う違反者に制裁を加えることは「正義」となる。つまり、戦争を違法化することは、「正しい戦争」と表裏一体の関係にあるのである。
    ▼だがそうすると、恣意的な平和のための「正しい戦争」が行われる事態も想定される。そして「私たち」を絶対化してしまえば、否定される「彼ら」が生まれてしまうだろう。そうしないためには私たち一人一人が規律や倫理観(モラル)を内面化していくしかない。
    ▼国際関係においては軍事力が不要であるとは言えないだろう。だが、軍事力の行使に頼らない状況の打開策を模索する――著者の藤原氏が述べるように、大切なのは戦争の「正しさ」どうこうではなく、平和に対するアプローチの仕方なのではないか。
    ▼勢力均衡を是認するだけの現実主義でもなく、また理想に耽る平和主義でもなく。「現実の分析というのは、目の前の現象を丁寧に見て、どんな手が打てるのか考えること。」ぜひ、この考えを実践していきたいものである。

  • 会話調なので読みやすい。でも冷戦や憲法、民主化など内容は濃い。国際政治って実はおもしろいかもと思わされた本。

  • オトラジで取り上げられていた一冊。
    石田さんとも対談して本を出されている藤原さんの著書。
    こんな世界情勢だからこそ、改めて戦争について考えることの意味に思いを馳せた。
    強硬な姿勢で強気に出るのではなく、バランスを取りながら対話していくことの必要性と難しさを再認識させられた。

  • 終戦記念日を機に、どうして戦争は世界からなくならないのか、と読み出したダンナさんの本。
    平和主義は決して馬鹿なことではない、と、その先を考えていくことができた。

    「現実に向かうと戦争を肯定する、理想を唱えるとハト派になるって、そんなバカなことじゃない。現実の分析っていうのは、目の前の現象をていねいに見て、どんな手を打てるのかを考えることです」

    両極端な二択だけじゃない。
    もっと行動の選択肢はある。
    そのことを、歴史から、現在の情勢の在り方から、知ることができた。
    それが閉塞的で悲観的になっていた考えを救ってくれた。

    もっと「知ろう」と思った。
    もっと学びたい、と思えた。

    ぜひいろんな人に呼んで欲しい。

    #藤原帰一

  • 2004/1/20 . 2004/1/28 read up

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著者プロフィール

東京大学社会科学研究所教授

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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