建築が生まれるとき

著者 :
  • 王国社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860730475

感想・レビュー・書評

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  • 例えば、いまこの言葉を綴るときにも、それを読む他人を意識するのと同じくらいに、自分自身との対話をしているような、そんな意識が強くある。いま自分が考えていること、感じていること。それを言葉にすることで、いまの自分がどんなところに立っているのかが分かってくる。それは現在地の確認であるし、次の場所へ進むためのステップにもなっている。形になりながら、定まらないもの。完結するものではなくて、継続していくもの。自分が前に進んでいくために、向き合わなきゃならないもの。言葉にすることが自分の中でそんな存在になってる。

    日常の中で感じること、思うこと、自分の中で生まれてくるたくさんの感覚はとてもはかなくて、あっという間にこの手をすり抜けていってしまうものだから、それを手放してしまわないように、言葉にするということがとても大切だと実感してる。


    でも、言葉にするということはとても難しい。いまこうやって言葉を並べていても、自分の中にあるものをまったく同じ形で言葉に変換すすることができないし、それに近づけることすらとても難しい。言葉がもっともっと、自分の良い対話相手となるようにするには、言葉という道具をもっと自分のものにしないとあんまり意味がない気がしていて、まだまだ全然言葉が使いこなせないから、いまはどんなことでも言葉にしようと、いろんなことを日々綴っている。


    建築という表現と、言葉にすることというきっかけ、そんな話が本書の中にも綴られている。こんなふうに、言葉にするということ、そのきっかけがいまを整理整頓したり、つぎの何かを生み出したり、建築を作り出すということの中でも、同じことが起こってる。


    第1部では、藤本さんのこれまでのプロジェクトを時系列的に紹介している。藤本さんが考えたこと、目指したこと。建築家の言葉らしく難解さはあるが、イメージが共有できる内容で自分の中に言葉が入ってきた。「弱い建築」、「部分の建築」、「曖昧さの建築」。藤本さんの綴る言葉が、自分の中のまだ言葉にしていなかった部分を形にして整理した。人の言葉がきっかけになって、自分の中が整理される。新しい感覚に気付く。本を読む楽しみがここにある。

    第2部では、藤本さんが感動した建築、出来事などが綴られている。藤本さんの思いが真っ直ぐ伝わってくる良い言葉になってる。感動が共有できる言葉になってる。こんなふうに言葉を綴りたいと強く思った。


    言葉にすることに終わりはない。いまここにある言葉もまた変わっていく。

    でも、これがいまある言葉。

  • 藤本壮介氏と言えば、武蔵野美術大学図書館を手がけた建築デザイナーである。2010年12月24日、著者の講演を聞く機会があった。デザインをあらゆる面で理解したかったこともあり、建築デザインの本として、本書を読んでみた。結論から言うと、著者の言っている言葉があまり理解できなかった。講演では理解できていたつもりだが。彼のデザインに対する思想が前衛的であり、私の理解が追いつかなかったのだろう。

    冒頭、著者は、未来の建築の特徴として5つ挙げている。
    - 場所としての建築
    - 不自由さの建築
    - 形のない建築
    - 部分の建築
    - あいだの建築

    本書は書き下ろしではなく、1998年から2009年の間の著者の建築雑誌への寄稿をまとめたものである。なので、上に挙げた5つのキーワードが繰り返し繰り返し、別の文脈の中で出てくる。著者の思想がどのように形成されていったかが垣間見れる。

    <メモ>
    気になった箇所をメモしておく。
    - (精神病院は)「家であり、同時に都市である」(18)
    - 部分と部分との関係性による新しい秩序:簡素な部屋とそれらの連結による複雑さ。家の居心地と都市の多様性(20)
    - 部分の建築:建築を設計するときに、全体からではなく、部分と部分の関係から考えていく(26)
    - 「居場所の建築」:「部屋」という完結したパーツを前提とするよりも「居場所」という、曖昧で、関係性の中からしか定義できない場所がより相応しいのではないか(49)
    - プリゴジン+スタンジェール『混沌からの秩序』:印象に残っているのは、近代というものが持っていた「大きな秩序」に対して、部分と部分の関係性から生じる「部分からの秩序」のようなものがありえる、というメッセージだ(191)

  • 2018/09/21

  • たぶん、建築そのものを見たほうが良いタイプの人なのだろう。実際の建築の中を歩きまわったほうが、著作を読むよりもえるものがあるのだろう。建築の技法に裏打ちされた随筆なので、随筆だけ読んで何かを得ようとする私のような人間には向きませんでした。

  • これまでの建築についての論評がまとめて読めて便利。図版や写真は最低限しかない、しかしそれを補い、著者の説得力のある建築論が展開されている。言葉で建築していることがこの本で再認識できる。もう図や写真は一切なしでもいいかと思うぐらいだ。
    まとめて読んで思ったこと。それは氏の建築論の多くが二つの対義語で成り立っていること。「プリミティブ・フューチャー」、「家であり同時に都市であること」「部分と全体」など。これらの語は両者が極端に離れている対義語である。対義語を同時に存在させるような空間があらゆる環境を許容し、建築を豊かにさせていると思った。

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