影の縫製機

  • 長崎出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (64ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860951498

作品紹介・あらすじ

M・エンデ絶頂期の傑作待望の邦訳出版。

感想・レビュー・書評

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  • ミヒャエル・エンデの詩と、ビネッテ・シュレーダーの絵が織り成す、幻想的で美しくも儚い、黒と白の世界。

    影の縫製機というのは、それ自体が影のようだが、縫い上げたものも、影なのだと実感することで、人間にとって、光だけが必要なのではないことに気付かされる・・かもしれない。

    というのも、本書では、あくまで読んだ人それぞれが、それぞれの思いを抱くであろう、そんな感慨の違いが無限に発生しそうな程の、謎と曖昧さに満ちているからであって、しかも、選択肢は二択のはずなのに、まるで、それ以上あるかのような気にさせられる、この感じはいったい?


    見返しの絵から、既に私は魅了されてしまい、奈落の底から立ち現れたような、エンデに見える影に向かおうとするのは、エンデが愛してやまなかった亀だが、『モモ』の案内役の「カシオペイア」にも見えて、始まりの幕開けを思わせてくれる。

    最初の、ジャック・プレヴェールへのオマージュ、『本当の林檎』で、私の思考は早くも停止する。
    しばし黙考し、そうか、シュルレアリスムかと。
    それに、世界の複雑さを知ることは、人間の複雑さを知ることにも繫がるし、今の時代にこそ、こうした思考法はいいのかもしれない。

    続いて、『道標』。
    すっかり、迷い人の視点で読んでしまったが、道標自体の気持ちなんて、考えたことなかったし、そう言われればそうだと。考えれば考えるほど、頭が混乱しそうだが、最後の一文には、エンデのやさしさが溢れている。

    また、私が最も好きだったのが、『うら寂しき微笑み』。
    南国で、北国にいるニルスを想う、ドロレスの口元に浮かぶ、「うら寂しき微笑み」が、彼女がお茶に呼ばれたのを機に、置き去りになった後、その微笑みだけがニルスを求めて旅立つ、これまたシュールな詩だが、最後が温かくも美しくて、これが超現実ならば、嬉しくない人はいないだろう。

    そして、『夢の漁師』。
    影と光。夜と朝。黒と白。そして、逆さ○。
    それらが改めて問い掛けるのは、世界も人間も、それらが隣り合わせで繋がり合い、互いに影響しながらも、存在しているということを教えてくれているのかもしれない。夢と悪夢のように。

    他にも、なりたいのではなく、なってはいけないものとして、捉えた視点が面白い、『透明人間』や、『いかれたチェス』の、「黒い白は 白なのか 黒なのか」という禅問答のような問い掛けには、光と影という、相反するものを通して見た、世界や人間の不可思議さを感じ、まだまだ、世界も人間も、それぞれ見方は、多様にあることを教えてくれたようでもあり、なんだか、そう感じると、周りの世界も楽しく見えてくるから不思議だ。

    なんて書いていると、エンデからこう言われるかもしれないな。


    『魔法使い』より

    じつはまやかし この韻のごとく



    追記
    ビネッテ・シュレーダーが、今年の7月5日に、お亡くなりになっていたことを知りました。83歳だったそうです。

    私は本書で、初めて彼女の絵を見て、この完成された幻想的な美しさに、とても魅せられて、シュールなんだけど、とても泣きたくなるような哀愁感や、ファニーで可笑しみを感じさせる親しみやすさもあって、本書も彼女の絵が無ければ、きっと、素晴らしさは半減したことでしょう。

    ご平安をお祈りいたします。

  • ミヒャエル・エンデの絵本。

    『モモ』や『はてしない物語』が鉄板本のエンデ。
    我が家の娘の本棚にも置かれており、いつか読もうと思っているのだが、それはまた別の話。

    本書はエンデの詩のような、ショートショートのような短い物語にビネッテ・シュレーダー氏が挿絵を付けたもの。
    黒ペンなのかエッチングのようなものなのか、黒一色の線で緻密に書き込まれた絵は、エンデの書いた不思議な話を見事に表現しており、まさに文と絵の合作。

    じっとそこに立ち、うす汚れたただの木を大事な存在に喩える”道標”、訳者の韻の取り方が冴えわたる、原文も読んでみたい”魔法使い”、目が見えない網元の先導で穴場へ向かい、夢を投網で捕まえてくる”夢の漁師”が好き。

  • 『インゲボルグにささげる』

    と、始まる詩集はミヒャエル・エンデ53歳、妻インゲボルグ・ホフマン61歳の時に出版されたもの。巻頭の詩「本当の林檎」はシュルレアリスムの詩人ジャック・プレヴェールへのオマージュとされているが、両親の離婚で悲喜交々の思いがあったであろうエンデの父親もまたシュルレアリスムの画家であることと緩やかに響き合う。児童文学者と限定されることを嫌ったというエンデの社会派的視線が詰まったようにも読める一冊。そしてその視線は確かなものであったことが時間の経過という試験を受けて証明される。

    例えば『いかれたチェス』と題された詩の中の一節。

    『ところがそれでもあきたらず
     こんどは色までかえてみた
     白のコマは 黒くぬり
     黒のコマは 白くぬる
     気づいてみれば もとのもくあみ

     なんたる混乱のきわみ!
     黒白 白黒 区別がつかず
     白と黒 くんずほぐれつの大合戦!
     まてよ まて 黒い白は白なのか黒なのか』

    ここに今日の汎世界的な混乱を俯瞰した視点を見出さないでいることは難しい。

    エンデの言葉をモノクロの世界に表出して見せてくれるビネッテ・シュレーダーもまた児童書向けの柔らかな筆遣いとは異なり白黒のダリのような雰囲気を醸し出す。時に詩に付された挿絵は言葉の持つ可動域を矮小化しがちだけれど、この本に関しては上手く共鳴している。そして組版のデザインも秀逸。こんな傑作が世に出る後押しをした出版社が破産・消滅してしまったのは何とも残念。

  • ミヒャエル・エンデによる不思議な世界観の詩集です。
    絵も詩に劣らないほどの不思議な雰囲気を作り、大人の絵本といった印象を受けました。

  • シニカルでくすりと笑える詩、温かさを感じる詩、教訓的な詩まで、幅広い詩の世界。詩は特に『本当の林檎』、『道標』が好きだった。絵は『夢の漁師』が味わい深い。日本語訳も最大限韻を踏襲しているのではと感じられてすごい。

    <追記>
    ちょっと絵を見て引っ掛かってたんだけど、ミヒャエル・エンデのEndeって、「終わり」って意味なんだ!それも踏まえてまた読んでみよう。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      shokojalanさん
      倒産した長崎出版の貴重な一冊。シュレーダーのイラストが好きなので購入。。。何所かに眠っている筈。読みたくなったので...
      shokojalanさん
      倒産した長崎出版の貴重な一冊。シュレーダーのイラストが好きなので購入。。。何所かに眠っている筈。読みたくなったので探そう(独り言でした)
      2021/02/21
    • shokojalanさん
      猫丸さん
      こんな素敵な本を世に送り出した出版社が倒産してしまったのは残念ですね。楽しい再読の時間になりますように。
      猫丸さん
      こんな素敵な本を世に送り出した出版社が倒産してしまったのは残念ですね。楽しい再読の時間になりますように。
      2021/02/22
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      shokojalanさん
      良い本が売れて経営が成り立つとは限らないのが、辛いですね、、、
      shokojalanさん
      良い本が売れて経営が成り立つとは限らないのが、辛いですね、、、
      2021/02/23
  • ドイツの児童文学作家・ミヒャエル・エンデ(1929-1995)の詩集絵本『影の縫製機』は、〝影とのつきあいが苦手な人への処 方箋、じわりと効いてくる漢方薬〟と、著者がコメントを残している。幻想と夢想、シリアスな中にユーモアを取り交ぜて、人生という舞台を縦横無尽に戯れる不思議な世界への誘い。 詩編「例外」 ~〝猫にもあるか 禿げ頭? まさかね! 知る人ぞ知る いわゆる 禿げ猫には しっかり禿げがある これがまた すごい禿げでね!〟...ビネッテ・シュレ-ダ-のモノクロ・イラストと併せてご覧あれ!

  • エンデによる19篇の詩×シュレーダーの挿絵という詩集絵本。
    時にサイズさえも変えながら秩序よく整頓されたエンデの巧みな言葉たち。
    エンデの詩をさらに盛り立てる、モノクロで繊細などこか毒をはらんだ挿絵。
    そして一面黒で覆われた、しっとりと手に馴染む表紙。
    細部に至るまでこだわりが見られる作品です。
    ページを開くとその世界観に引きずり込まれる、それがまた心地良い。
    私にとって大切な一冊。

  • 鑑賞を終えて、深く息を付いてしまいました。

    素晴らしい芸術作品には、観る者の魂を削る力があります。
    削られた魂は、その欠落を埋めようと、芸術作品へと語りかけます。
    優れた芸術作品は、自らが削った魂の欠片へと自らを織り込み、返してくれる。
    類い希な芸術作品に触れることで、心が豊かになる理由は、こういうコトです。

    だから本作を観賞後、深い息が吐き出されるのです。
    ちょっと豊かになった魂の欠片。
    戻ってきた事で、少し大きくなった魂。
    魂の住処が窮屈になってしまいます。
    その為、息を吐き出しながら、住処をちょっと広げるのです。

    Michael Endeの広大な想像力が、短い詩編にぎゅっと凝縮されています。
    その傍らには、Binette Schroederの不可思議な世界が描かれます。
    言葉によって紡がれる、幻想的な風景。
    絵画によって描かれる、幻想的な風景。
    二つの風景が、異なる表現で、同じ一面に描かれます。
    それはまるで、白昼夢の中に迷い込んでしまったかのような心持ちです。
    時間や空間を何処かに置いて、ただその風景を無心に眺めているかのようです。

    Michael Endeの絵を観るのは初めてでした。
    とても味があって、寂寞を感じさせる素晴らしい絵でした。
    なんとなく、佐々木マキ氏の絵柄を想像しました。

    Endeの言葉には、魔法が掛かっていると思います。
    その魔法を崩すことなく、異なる言語へと移してくれる。
    そんな妙技が出来る、訳者の酒寄進一氏は素晴らしいです。

    全ての詩編が素晴らしく、心が静かに浸食されていくのが分かります。
    Endeの紡ぐ言葉によって生まれる世界は、不思議な光を湛えています。<blockquote>気に入ってくれたら拍手をどうぞ
    <DIV style=text-align:right><i>「閉幕」より</i></DIV></blockquote>静かに、けれども熱狂的な、そんな拍手を捧げたいと思います。

    本作を鑑賞される方は、どうか急がず、ゆったりと物語を<b>眺めて</b>下さい。
    その文字から、絵柄から、作品の端々から、漂ってくる息吹を感じられるはずです。

  • 1982年にドイツで出版されたミヒャエル・エンデの詩集。ドイツでは限定出版だったのでこれまで幻の本でした。詩の翻訳の難しいところは意味を重視するか、ことばの響きを重視するか悩むところ。もちろん両方できれば一番だけど、翻訳ではそこがむずかしい。今回の翻訳では意味重視と響き重視が混ざっています。(響き重視の方は韻も踏んでいるので、ぜひ音読してみてください。)しかもこの本ビネッテ・シュレーダーの挿絵(これも解釈)が加わっているので、さらにやっかい。一番の自信作は最後の「閉幕」でしょうか、詩の中に登場する人物の名前を「お袋さん」と意訳しました。どうしてかは本書をお確かめください。
    >>>テレビ東京『ちょっといい話』(2007年2月12日21時54分〜22時00分)で、宮崎美子さんが『影の縫製機』から「道標」を朗読します。3月にもふたたび別の詩を朗読の予定。

  • ミヒャエル・エンデの詩集絵本。詩によってはどこかコミカルな雰囲気もあり、頭の中では広川太一郎さんの声と調子で読んだ。

    作:ミヒャエル・エンデ、絵:ビネッテ・シュレーダー、訳:酒寄進一

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