空が青いから白をえらんだのです: 奈良少年刑務所詩集

著者 :
制作 : 寮 美千子 
  • 長崎出版
3.98
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本棚登録 : 115
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860954024

感想・レビュー・書評

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  •  奈良少年刑務所の受刑者たちが書いた詩を集めたものである。所々に,編者(であり授業者である)寮さんの解説がある。この解説のお陰で,子どもたちが作った詩のチカラを改めて感じることができる。
     たとえば…

    すきな色

    ぼくのすきな色は
    青色です
    つぎにすきな色は
    赤色です


    というこどもの詩がある。こんな詩を学校の子どもたちが書いたとすると,おそらくほとんどの担任・指導者は,「もう少し工夫してごらん」などと言うのではないか。
     寮さんの解説にはつぎのような文章がある。

    あまりにも直球。/いったい,どんな言葉をかけたらいいのか,ととまどっていると,受講生が二人,ハイッと手を挙げました。/「ぼくは,Bくんの好きな色を,一つだけじゃなく二つ聞けたよかったです」/「ぼくも同じです。Bくんの好きな色を,二つも教えてもらってうれしかったです」/それを聞いて,思わず熱いものがこみあげてきました。/世間のどんな大人が,どんな先生が,こんなやさしい言葉をBくんにかけてあげることができるでしょうか。(以下略)

     これが受刑者同士の授業風景である。寮さんは,あとがきの「詩の力 場の力」というところでも,つぎのように述べている。

     わたしは,彼らと合評をしていて,驚くことがあった。誰ひとりとして,否定的なことを言わないのだ。なんとかして,相手のいいところを見つけよう,自分が共感できるところを見つけようとして発言する。(p152)

     そして,そんな子どもたちの姿がどこから来るのか観察して,刑務所の先生方の姿勢に気づくのだった。

     先生方は,普段から,彼らのありのままの姿を認め,それを受けいれているというメッセージを発信し続けていらっしゃる。(中略)ともかく,いい機会さえ与えられれば,こんなにも伸びるのだ。それがなぜ,教室に来た当初は,土の塊のように見えたのか?(p152)

     「社会性涵養プログラム」の一環として授業を引き受けた寮さん。彼自身も,次のように受講者から学んでいる。

     わたし自身,詩を書く者であるのに,詩の言葉をどこかで信用していなかった。詩人という人々のもてあそぶ高級な玩具ではないか,と思っている節さえあった。/けれど,この教室をやってみて,わたしは「詩の力」を思い知らされた。(p.154)

     特にわたしの心に残った詩の一端を少し(ネタバレ)。

        ※

    誕生日…産んでくれなんて 頼まなかった わたしが自分で あなたを親に選んで 生まれてきたんだよね

    いつも いつでも やさしくて…くり返しがいいよ

    クリスマス・プレゼント…ぼくのほんとうのママも きっと どこかで さびしがっているんだろうな 「しゃかい」ってやつに いじめられて たいへんで 

    二倍のありがとう…ありがとう お父さん役までしてくれた ありがとう ぼくのお母さん

        ※

     ところどこにはさまれている,刑務所の建物や内部の写真。建物自体が詩的な雰囲気に見えてくる。

     本書には,本当はここに来るはずじゃなかった子どもたちの心の叫びと,そんな子どもたちがもともと持っている人間性を引き出す大人たちの世界が繰り広げられている。
     年に一度ある,刑務所の見学会に行ってみたいなと思ったが,今じゃ,この建物はホテルになっている?らしい。

  • 奈良少年刑務所いる少年は、もちろん犯罪をおかしている子たちがいるわけだ、、。しかし、少年のうちに犯罪者になってしまう場合は、とくに環境に左右されることが多い、つまり家庭環境といいますか。  受刑者の「社会から目をそらしている心」、「完全に凍り切った心」を開かないと、反省のスタートラインにも立てない。 きちんと心を開くことがないと再犯ということにもつながりかねない。
    その心の扉を開く教育・矯正のプログラムが、【社会性涵養(かんよう)プログラム】といいまして、その講師のおひとりが、作家の寮美千子さんです。
    このプログラムを通して、受刑者が書いた詩を、寮さんがまとめられています。 それぞれの子たちの背景とともに。 おどろく程やさしい言葉があふれています。
    受刑者も刑期が終わると、出所します。そのとき、罪が消えるわけではないですが、若いその受刑者を社会がどう受け止めていくのか。そして、刑期のあいだにどのように反省させて時間をすごさせるのか。 社会に出てから、ちゃんと社会生活送るだけの能力も必要で、、、。 (学校も卒業させ、技術もつけて、収入を得れるようにしなければ、また不幸な生活のくりかえし)
    しかし、結局結局、はじめにこんなことにならない社会にしなくてはいけないのですが。 いろんなことを考えさえられ、感じさせられる 一冊です。

  • 「空が青いから白をえらんだのです」
    このタイトルを聞いただけで読まずにはいられない。なんてシンプルで深くて涙が出そうな言葉なんだろう。
    言葉の力って大事なんだな。私は金八先生のシリーズの中で第七シリーズが大好きで、このシリーズを通してのメッセージは、卒業式の伸太郎の言葉「先生、言葉って大事だな」に集約されると思うのですが、なんだか改めてこの第七シリーズが見たくなりました。金八先生が国語教師という設定は、実はすごく意味があるんだろうな。という全然関係のない話。言葉の持つ力、可能性を感じた本でした。
    中盤から押し寄せるみんなの「お母さん」に向けた言葉に、すごく胸が熱くなります。

  • 今日は西脇市黒田庄町へ、この著者(というか編者)である寮美千子さんのお話を聞きにいってきました。
    私がこの本を読んだのは、もう2年ほど前になるでしょうか。奈良の友人から薦められて手に取りました。周りの社会から見捨てられ、自分を追い込み、ついに暴発して取り返しのつかない罪を犯してしまったそんな少年たちが、心を閉ざし自らを殺してしまっていても、こんなにも純粋な気持ちが心の中に眠っているんだと、暗い井戸の中にさすひとすじの光といいましょうか、温かい感動をもって読んだ記憶がありました。
    今日のお話はこの詩集にまつわるお話を聞かせていただきましたが、受刑者の少年たちの体験を通じて、人はコミュニケーションによって自らの人間性を保ち、取り戻すことができるものなのだなと、あらためて感じました。
    この刑務所で寮さんが行われたこと、それは皆に朗読、詩作をつうじて自らを表現する方法を獲得する手立てを示し、なおかつお互いの表現を受け止めあうことで自信を培っていくことだったように思いましたが、このことは何も特別なことではなく私たちにとって本当に根源的なことなのだと思います。だからこの少年たちからこぼれ出た言葉(詩)が心を打ち、それによって成長していく少年たちの姿に感動するのでしょう。
    最後に、「加害者の人権ばかり言うけどじゃあ被害者はどうなるの?」という言葉に対し、「もっと被害者のケアが必要なのに、それが不足していることが加害者へのバッシングにつながる」「加害者の人権を守り、加害者自らに命の尊厳に気づかせ再犯を防ぐことが、新たな被害者を生まないことにつながる」という寮さんの考えにとても共感しました。

  • 絞り出されたような言葉の数々。特に後半の、母親への思いを綴った詩に心打たれました。

  • まっすぐで,幼ささえ感じる言葉が心に響く。気持ちを語る言葉をもつ事の大切さを感じた。

  • とても素敵な作品でした。
    人は見栄えを気にしすぎ、言葉や態度を選びます。
    受刑者たちの素直な心がとても胸に響きます。
    罪を憎んで、人を憎まず。
    そう思える社会であり、過ちを犯す人間が一人でもいなくなる社会を作っていくことが大切だと思う。

  • 本当にすごい本なんです。人間って深いって改めて思いました。窒息しそうなぐらいの純粋な思いの数々です。人はやっぱり逆境やそういうことがないと深くなれないでしょう。しかし喪われた命、犯してしまった罪もまた取り返しは付かないんです。とにかく……自分が恥ずかしくなりました。悩み悩んで考え詰めて、彼らの方がよっぽど素晴らしいって。そしてくだらない偏見とかすべて捨てたい。本当に正しいことって何? とにかく深い人間になりたい。

受刑者の作品

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