パレスチナ 残照の聖地

著者 :
  • 長崎出版
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860954185

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  • 「パレスチナという地を知ってからということであれば、三十年以上に渡って、私は何からの形でパレスチナを意識し、彼の地に行き、撮影し、何かしら書いてきた」という著者による「パレスチナの過去から未来へのイマージュ」を表現した一冊です。

    私は大学生の頃に中東に強い関心を持つ機会をいただき、現地に足を運ぶことが叶わないながらも、書籍やユダヤの方々・アラブの方々に接することができる貴重な機会を大切にしてきたつもり(あくまでつもり)です。
    本書との出会いもまた、その貴重な機会をいただくものと手に取りました。

    本書を読むことで、著者が企図した通り、「パレスチナの空気や匂いを伝える」ことはできると思います。しかしながら、ジャーナリストが世に問う一冊としては、本書には大きな欠点がある、私はそう感じます。

    パレスチナがおかれた現状は、著者が本書で具体的にレポートしている通り、地獄絵図と言えます。破壊と殺戮が日常化し、希望を見いだせず死があまりにも日常化した世界。
    しかしながら、それはイスラエルも同じです。一見、イスラエルは強大な政治力・軍事力を持ち、パレスチナは常にその圧力と攻撃を受ける被害者のように見えます。しかしそれは、イスラエルの人々(ユダヤ人)が自らの民族、国土を護るために払ってきた多くの犠牲の上に成り立っています。ほんの一例ですが、売春婦に身を落としてまで、あるいは家族を殺され憎しみの対象でしかない敵国・組織に潜り込んでまで諜報活動を行い、得られた情報を母国に送る。その情報によってはじめて、イスラエルは、その政治力・軍事力を有効に行使することができるのです。彼らに与えられるのは名誉のみ。母国を護るという強い意志を持っていたとしても、その地獄絵図は想像を絶します。
    パレスチナ・イスラエル、それぞれがそれぞれの民族・国土を護る闘い。

    憎しみの大地と称される中東。そこは、国際平和・一つの地球というような言葉ではどうにもならないほどの多くの血が流され、今も流され続けています。血は憎しみを呼び起こし、憎しみは憎しみを増幅させます。しかし、その闘いをやめたとたん、自らの国土を失い、民族は滅びる。パレスチナもイスラエルも。それが現実です。
    現在の人類がその発展の過程で得た、人々・文化・伝統の融合の最大の単位がネーションステート。国民国家・民族国家をこえての融合をまだ人類は経験していません。

    最悪の場合、アインシュタインが言うように、「幾度も戦争を繰り返し、最後には、闘争に疲れる時が来る」のを待つしかないのかも知れません。
    一方でそれを待つことなく、これらを解決できるものがあるとすれば、それは人類が衣食住を満たして後に真っ先に得たもの、「政治」にほかならない、と私は思います。

    著者はこの程度のことはもちろん、これ以上のことを熟知されていることと思います。しかしながら、本書はパレスチナ側の視点に立ちすぎています。著者にそのような意図はないのかもしれません。
    しかし、本書はジャーナリストの肩書がついた状態で、一般の人が多く手に取る書籍です。前提知識がない状態で本書を手にとった場合、「被害者としてのパレスチナ」が大きくクローズアップされてしまい、とんでもないミスリードがされる、そう強く思わせる内容です。

    イスラエル・パレスチナを訪ねたい。その想いが強くなりました。

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