ハンナ・ア-レント: 〈生〉は一つのナラティヴである

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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861820915

作品紹介・あらすじ

戦争と革命、哲学と政治の十字路に立つアーレントの"生"とは何か。20世紀をともに生き、思考しつづけた2人の女性思想家の出会いによって生まれた、思想家論/評伝の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • クリステヴァによるアーレントの評伝。

    難解なアーレントを難解なクリステヴァが解説する。

    一体どうなるのかと読み始めたが、序盤はかなり読みやすい。というか、基本的には、ブルエールの「ハンナ・アーレント伝」を要約したような感じ。。。

    で、アーレントの生涯を大きく紹介したあとで、著作の解読に入る。とすぐに難しくなってくる。クリステヴァは本の内容をあまりサマリーせずに、ぐいぐいと本質に迫っていく。しかも、まだこの本のなかでは紹介されていない後の著作との関係を踏まえて論じていくので、厄介だ。一応、アーレントの主要な著作は読んだわたしも時々読むのがめんどくさくなってしまう。

    アーレントの本に馴染みのない読者はアーレントの最初の著作「アウグスティヌスの愛の概念」の解釈のところでギブ・アップしてしまうかも。

    と思いながら読み進めると「全体主義の起源」や「エルサレムのアイヒマン」あたりの話は、実にクリアだ。

    やっぱ、純粋に哲学的な話より、具体的な政治・歴史と関連のある話のほうが、わかるな。

    なんて思っていると、いつのまにか話は、「全体主義の起源」から、「精神の生活」のほうに進んでいく。アーレントのもっとも有名な「人間の条件」そしてそれと表裏な関係の「革命について」の丁寧な読解はない。

    というか、全体を通じて、「人間の条件」の議論はつねにリファレンスされている感じなので、この本を読むための「条件」として「人間の条件」を読んでいることが求められているということになるだろう。

    で、話題は、当然、「精神の生活」の第3部として予定されたが最初の1ページの題字だけをタイプライターに残してアーレントがなくなった「判断」にフォーカスされていく。

    アーレントの思想からして、「判断」が書かれたとしてもそこに決定的な道筋が示されるわけもないのだが、それでもアーレントの思想の中核部分、最後の到達点が「判断」には書かれるはずであったわけで、やっぱそこは知りたい。

    クリステヴァの解釈は、ある意味、ブルエールの理解と共通点が多いかな。

    人間の条件における「活動」とリンクされる形で、人間の共通感覚とでもいうべき「判断」が議論されていたのだろうという読み。

    ここの理解は、ある種、キリスト教的な世界観、「約束」と「許し」がある。

    ブルエールも「判断」については同様の理解だったと思うが、それに対しては、アーレントの主張を古典ギリシア的な公共性の復興と理解する人から、アーレントを「キリスト教化」していると批判する人もいるようだ。

    わたしが「人間の条件」を読んだ時の感想として、「活動」のなかの「約束」と「許し」のところがアーレントの筆圧が一番高い感じがして、ここがポイントだと思ったので、クリステヴァの解釈は基本的に納得性がある。

    アーレントは、「ナザレの人イエス」という言葉つかいをするので、キリスト教というより、一人の人間としてのイエスにフォーカスしているのだと思う。

    アーレントは、「反全体主義、反共産主義の旗手」みたいに思われることも多く、ニヒリズムへの批判を繰り返すので、神とか、人間の本質みたいなことに肯定的であると解釈する人もいるかもしれない。

    が、クリステヴァによると「人間の本質」みたいなものは事前に存在するわけでなく、他者との関係で、語りのなかから、浮かび上がるものとしている。

    つまり、語り、ナラティブが紡ぎ出すのだ。

    アーレントの「活動」「判断」がナラティブという概念と通じるということ。ここのところはとてもスッキリした。

  • ジュリア・クリステヴァ『ハンナ・アーレント』作品社、読了。難解な思想と文体で有名なクリステヴァだが、本書は非常に読みやすい。副題「“生”は一つのナラティブである」との通り、彼女の生き方と思想(著作)の結びつきを丁寧に描いている。格好のアーレント「入門」ではないだろうか。

    〔参考〕「日本の知識人は右も左も、他者への共感に限界があることを認識しない。自由人アーレントを称賛しながら、共感を押しつける排他的なふるまいをしてしまう」。「ひと・流行・話題:ハンナ・アーレントは終わらない」:朝日新聞2007年12月24日付。  http://book.asahi.com/clip/TKY200712240064.html

  • p17まで読んだ。

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著者プロフィール

(Julia Kristeva)
1941年、ブルガリアに生まれる。66年、パリに留学。以後は文学研究者、精神分析家、作家としてフランスに暮らす。文学の記号論的・精神分析的研究に従事するかたわら、後に伴侶となるフィリップ・ソレルス主宰の前衛雑誌『テル・ケル』、後続の『ランフィニ』に参加。バフチン、ソシュール、フロイト、ラカンらの読解を軸に、デカルト的主体の解体、意味の産出性、詩的言語の侵犯性を中核とする独自のテクスト理論を展開し、ポスト構造主義の一翼を担う。90年以降は小説の執筆もおこなうほか、障害者に関する社会運動にも身を投じている。2008年には「女性の自由のためのシモーヌ・ド・ボーヴォワール賞」の設立に際し中心的な役割を果たした。現在はパリ第7大学ほか国内外の大学の名誉教授。ホルバイン賞(2004年)、ハンナ・アーレント賞(2006年)、サン=シモン賞(2017年)を受賞。著作は世界各国で翻訳されている。日本語訳に『恐怖の権力』『初めに愛があった』『外国人』(以上、法政大学出版局刊)、『セメイオチケ』『中国の女たち』『黒い太陽』(以上、せりか書房)、『詩的言語の革命』(勁草書房)、『サムライたち』『プルースト』(以上、筑摩書房)、『斬首の光景』(みすず書房)、『ハンナ・アーレント』『メラニー・クライン』(以上、作品社)などがある。

「2018年 『ボーヴォワール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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