暁の群像――豪商岩崎弥太郎の生涯

  • 作品社 (2009年7月25日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861822483

暁の群像――豪商岩崎弥太郎の生涯の感想・レビュー・書評

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  •  幕末に江戸幕藩体制の解体が進み、明治天皇政府という資本制社会が成立する社会的激動期に、資本の原始的蓄積とも言えるさまざまな手法で多くの財閥が築き始められた。
     そのひとつ、四国は土佐の侍社会底辺の地下浪人の倅に生まれながら、以後千辛万苦自らの商魂を育てつつ、商機をつかむや明治新政府の権力を懐柔し思い切利用し尽くし、草創期の三菱財閥を作り上げた岩崎弥太郎。

     『暁の群像/豪商岩崎弥太郎の生涯』は、その1850(嘉永3)年頃か1885(明治18)年に数え歳52で死んだ弥太郎の生涯を太い糸とし、維新の時期に出没した政官財の多数の青壮年期の人間像を描き、読み応えのあるA5版2段組420ページの一大ロマンとなっている。

     末国善巳の<解説>によれば、この長編は「東京新聞」夕刊に1962年8月から63年9月まで連載され、以後単行本・文庫本と版を重ねたとのこと。

     明治維新期を描いた小説は数えきれないが、長谷川伸の『相楽総三とその同志』や島崎藤村の『夜明け前』、子母沢寛『新選組始末記』や司馬遼太郎『竜馬が行く』等と鮮やかに違うのは,この小説が政商としての主人公の成長を興味津々に追求していることにある。

     それは、歴史はその社会の経済的構造を土台として動く、ということを思い出させる。
     勿論,このような小説も多い。例えば,『三菱王国』の邦光史郎。また三菱の岩崎に対して,『三井物産初代社長』はじめ明治期の多くの財界人を書いた小島直記もいた。

     何よりもこの長編は、経済学者でもある作家南條範夫のカラーが鮮やか。

     例えば廃藩置県の時,その詔令が守られないことを恐れて薩長土肥の親兵隊を準備したが、全く問題は起こらなかった。
     これは武力で威嚇しているようだが実は、という数行が効いている。
     それは経済的に見ると多くの藩は財政的に全く行き詰まっていたし、領民に重税を課する力もなかった、ということ。
     そこで、各藩の清算事務で内国債は中央政府で肩代わりし、外国債はその後2年経ってようやくメドをつけた、という。

     この時期土佐の藩営事業を、弥太郎に払い下げることになったが、その際の外国債返済は政府で処理済みであり,また事業の譲渡価格や支払い条件は,弥太郎と昵懇の間柄であった後藤象二郎や,林有造などの計らいできわめて有利なものだった、と。こうして明治6年、岩崎個人の三菱商会が発足。
     この絡繰りでも,政商弥太郎のがめつさはキッチリ描写される。

     さらに台湾侵攻,西南の役などなどを始めとした動乱での,政府収支をさまざまな史料から読み解き,三菱をはじめとする諸財閥の膨大な利益は数字をもって示される。
     弥太郎は三菱の海運会社を中枢にすえ、東京海上,明治生命,三菱貿易会社,横浜正金銀行,三菱為替店など多角的にビジネス展開を進め,ほかに取引所の株買い占め,高島炭坑も買収した。さらに世間の三菱批判に対してマスコミも活用した。郵便報知新聞や東京横浜毎日新聞などの記者連中を買収して提灯記事を書かせようとした。
     弥太郎は強欲な手法で財界の雄としてのし上がって行くが,同時に妾6人を含む妻妾同居の家庭も持っていたというのも、如何にも明治の風俗を感じる。

     これらを読むと昔も今も,巨大企業(日本経団連)の政界やマスコミとの癒着は相変わらずということが解る。もっとも明治の頃のように、あからさまに国民に知られるように横暴なことは出来なくなっているのは、先の敗戦以後の時代の流れもあるだろう。 

     さらに著者は,このロマンに弥太郎の少年期からの友人三橋節弥という美男を登場させる。
     仕事はからっきしできない男だが,その容貌に惚れる女はきりがない。この女出入りだけで一編の物語が出来るのだが、あえて男臭い大ロマンの息抜きとしての彩りをつけるにとどめているのも、著者の工夫だろうか。

     (内容目次)
    この父/この子/少林塾/新おこぜ組/城下の惨劇/奇妙な仇討/有為転変/尻抜け後藤/長崎の月/京洛の月/片隅の波瀾/大坂土佐商会/築地梁山泊/金と女と/廃藩置県/富貴楼お倉/争う藩閥/三菱商会/制覇への道/金難女難/富商盛衰/西南の役/人と人/財界の覇者/にせ札事件/自由の烈風/攻撃の開始/少年車夫/凄惨な競争/高島炭鉱/巨木倒る

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