ガンディーの経済学――倫理の復権を目指して

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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861823022

作品紹介・あらすじ

新自由主義でもマルクス主義でもない「第三の経済学」という構想。知られざるガンディーの「経済思想」の全貌を遺された膨大な手紙や新聞の論説によってはじめて解き明かす。本書では、主に、人々の消費行動、産業化と技術、受託者制度、労使関係、仕事と余暇、および教育といった諸領域におけるガンディーの経済思想を検討する。

感想・レビュー・書評

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  • リバタリアニズムとは違うみたいだ。

  • 経済学と倫理を交差させた柔軟かつ実践的なガンディーの思想を辿る

    「非暴力」「不服従」を唱えた「インド独立運動の父」“裸の聖者”として有名なガンディーと対極に位置する「経済学」なるものがイメージとして全く結びつかなかったが、奇妙な組み合わせに興味をひかれて手に取った一冊。

    さて、本書は、ガンディーの思想を主として経済学の観点から読み解く一冊で、イギリスの植民地支配と貧困、そして宗教的な因襲に起因する不平等からインドの自立……これをスワラージととらえてよいだろう……を目指すガンディーの柔軟かつ実践的な思想を浮き彫りにしている。権利と義務、産業化、平等論、教育など多様なテーマが本書では取り上げられている。

    ガンディーに一貫しているのは、欲望に任せて際限なくそれを追求する立場への批判である。そして働くことの大切さという極めてシンプルな考え方だ。ここに経済学と倫理が交差することとなる。

    一見すると古くさい考え方のような印象を抱くかも知れないが、ガンジーは学者ではなく実践の人間である。古色蒼然とする倫理的経済感覚を柔軟に適用させようとするから驚いた。

    例えば、社会的弱者への支援は必要不可欠だろうが、そうした慈善が受け手の自尊心を失わせるものになるとすれば、道徳的に悪い行為と判断するし、財政基盤の安定性がないならば、倫理的に善とされる政策も赤字を出しては意味がないと批判する。そこで提唱されるのが独自の「受託者制度」である。金持ちの財産を信託管理で運用し、社会全体の繁栄へと導くスケッチだ。その青写真は確かに夢想的でもある。しかし西洋社会と全く異なるインドという文化背景を踏まえるながらあながち夢に終わらないかもしれない。

    近年、アマルティア・センの開発経済の考え方が正義論とセットで注目を集めている。その意味では、経済学と倫理を交差させたガンディーの発想は、そのひとつ水源とみることも可能であろう。

    評者はガンディーに対する無批判な礼讃(←単なるナショナリストなところ等々)に対しては極めてネガティヴであり、名言のみがコンテクストと離れて流通している現状には正直なところ「おなか一杯」というのは否定しがたい事実である。

    例えばガンディーの名言のひとつに次のようなものがある。すなわち、

    「7つの社会的罪。1.理念無き政治、2.労働無き富み、3.良心無き快楽、4.人格無き知識、5.道徳無き商業、6.人間性無き科学、7.献身無き崇拝」

    、、である。まさに完膚無きまで完璧な一節であろう。ぐうの音もでないほど否定しがたい模範解答である。しかし、そうした言葉がどのような背景から出てきたのか、名言だけを後生大事にするひとに是非手にとってもらいたい一冊だ。

  • 1393夜

  • アンベードカルと佐々井秀嶺の存在を知ってからのガンディー。
    より凄みが増しました。
    ガンディーから教わりたい。

  • 歴史は繰り返す。ドッグイヤー、マウスイヤーとも呼ばれるほど、時代の移り変わりが激しい。そういった時代においてはつい80年前を振り返ることも非常に価値があるのではないか。インドを中心として第三世界に大きな政治的影響を与えていたマハトマ・ガンジー。彼の経済に係る活動を中心にまとめられている一冊。「非暴力・不服従」や「塩の行進」など社会的活動にばかり側面が目立つガンジーであるが、彼が当時、経済的な施策として実施していた「農村地域による糸車の普及」。その背景には、イギリス製の綿製品を着用せず、伝統的な手法によるインドの綿製品の着用を呼びかけたことにある。当時の植民地主義による経済的な侵略への対抗であった。保護主義ともとれるガンジーの施策は、倫理的な側面、経済的な側面の両面を満たすことに重きを置き、経済だけでもなく、倫理的な側面を重視するだけでもない第三の道を示していると筆者は述べている。
    昨今、新聞を賑わせているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を考える上でも、また一日5ドル以下で生活しているBOP(Base of the Pyramid)層をターゲットとしたビジネスを考える上で、深い示唆を与えてくれるのではないだろうか。

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