ヴァルター・ベンヤミン――「危機」の時代の思想家を読む

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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861823176

感想・レビュー・書評

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  • マルクスの史的唯物論の影響を受けつつもやけに神学的な歴史観が両義的でユニーク。ということはわかったけれども本書じたいはそれほど刺激的ではなかったというのが本音。

  • 著者がベンヤミンを読解する6日間の講義をまとめたもの。『翻訳者の課題』『暴力批判論』『歴史の概念について』『複製技術の時代における芸術作品』からの引用に、著者が解説を加えるスタイルになっている。

    ベンヤミンについての本書のような入門書が出ることを、一方では望んでいながら他方で恐れており、少し複雑な気持ちで本書を手に取ったのだが、全体的にはおもしろく読めた。著者はポストモダンの政治・社会思想について分かりやすく解説した著書をいくつも出版しており、本書でもベンヤミンをポストモダンの源泉の一つとして位置づけてその思想を読み解いている。ベンヤミンの思想の文学的側面に関しては十分に取り上げられていないことに不満を抱く読者もいるだろうが、それだけ著者のベンヤミンに対するスタンスがクリアになっていて、個人的には好感を持った。ユダヤ神秘主義からの影響関係についての解説を思い切って省略しているのも、適切な処置だと思う。

    だが、本書はただ分かりやすいだけの解説書ではない。著者は、ベンヤミンの原文を参照しながら、ベンヤミンがみずからの思想をどのようなスタイルで提示しているのかを解説している。もちろん、とりあげられている箇所はほんの一部だし、ベンヤミンの「精読」というには程遠いが、「ベンヤミンを読むこと」がどのような営みなのかを読者の前で実演している。

  •  三省堂本店で行なわれた著者の連続講義「ヴァルター・ベンヤミン──〝危機の時代〟の思想家を読む」を文字に起こし、おそらく編集部が体裁を整えたもの。素直に少しずつ読んでみることで見えてくるものがあるのを知らせてくれる点では、確かに刺激的である。とくに著者のロマン派研究が生きている、言語論の読解は示唆に富む。ただ、野村修の訳業にコメントを加えながら、原文の仕組みを解き明かしているところは、ドイツ語原文を参照する者にとっては興味深いが、それ以外の読者の関心をどれほど引けるだろうか。「複製技術時代の芸術作品」をメディア論として読む講義を中心に、著者とベンヤミンの資質の違いや、著者の芸術への関心の浅さが際立っている印象もなくはない。それに、ベンヤミンについてこのような注釈的講義を本のかたちで出版することに、いったいどのような意図があるのだろうか。ここで扱われている著作のほとんどに、すでに「精読」書が存在する。出版そのものの意義に対しても疑問が拭えない。

著者プロフィール

哲学者、金沢大学法学類教授。
1963年、広島県呉市に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科地域文化専攻研究博士課程修了(学術博士)。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。難解な哲学害を分かりやすく読み解くことに定評がある。
著書に、『危機の詩学─へルダリン、存在と言語』(作品社)、『歴史と正義』(御 茶の水書房)、『今こそア ーレントを読み直す』(講談社現代新書)、『集中講義! 日本の現代思想』(N‌H‌K出版)、『ヘーゲルを越えるヘーゲル』(講談社現代新書)など多数。
訳書に、ハンナ・アーレント『完訳 カント政治哲学講義録』(明月堂書店)など多数。

「2021年 『哲学JAM[白版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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