- 本 ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861823619
感想・レビュー・書評
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はたから見たら異質も異質でしょうが、相思相愛な恋愛物語だなーと思いました。
確かに女は貧しい環境から抜け出すために犯罪に手を染めながら金持ち男たちを渡り歩いて最後にはボロボロになっていくような人生を歩み、愚直なまでに一途な平凡男を傷つけて去ることを繰り返していました。
でも、何年離れていても幾度も彼と巡り合って、時には自分から彼を探しだして、つかの間じゃれ合ってから去っていくその40年間分の不安定な姿の見事な描写は、形はおかしくても実は彼女も男のことが好きで、男もただ根拠なく期待して待ち続けていたわけではなく苦しみながらもそれを心のどこかではわかっていたからお互い幸せだったんだろうな、と思えました。作中、女が男に「あなたは私の人生で最良の贈り物よ」とささやくシーンがありますが、あれは冗談でもまやかしでもなく、女の本心だったんだろうな、と。やっていることはひどく、常に寄り添い助け合う一般的で平和な家庭を築くことはなかった彼らだけど、これも一つの愛ですね。
それから、この物語では、男と女が邂逅する縁を繋ぐものとして、章ごとに登場する男の友人たちと世界の都市、そして時代や政治情勢がかなり重要な意味を持っていて、そういった絶妙な構成もこの小説を心から楽しむことができた大きな要素でした。
最後に、表紙の装丁について。
イギリスの画家ウォーターハウスの2枚の絵(どちらもギリシア神話のキルケを題材にしたもの)を使っているのですが、読み終わってみるとこの装丁が、中身のストーリーだけでなく女の不可思議で危うい精神性を見事に象徴していることがわかり、感激しました。これは日本限定の表紙なのでしょうか。だとしたら、本文にはキルケのキの字もないのにこの絵を選んだ方の炯眼に感服するばかりです。
ニーニャ・マラ(悪い娘ちゃん)とニーニョ・ブエノ(良い子ちゃん)の歪で深い恋物語、またいつか読み返したいですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
リョサにして珍しいほどのシンプルな小説。悪い娘=ニーニャ・マラがいわゆるファム・ファタールで、主人公は一生をかけて彼女を愛し続ける。ガルシア・マルケスの「コレラの時代の愛」のテーマも長年の純愛だし、この手のロマンチックな男性像は南米の伝統芸なのだろうか。
主人公は「パリに住むだけで満足、仕事も収入も平凡な男」なのだが、非凡な女性を致命的に愛しながら、家族や親友などの持てる絆を全て失い、彼女の周りにいる異常な人々とも対峙する、孤独で特異な人生を歩む。
単純な恋愛小説に留まらないリョサとして、舞台はペルー、パリ、ロンドン、東京、マドリードに及び、60年代に始まるペルーの政変から40年に及び、ヒッピー文化など時代が生き生きと描かれる。日本のくだりがグロテスクで興味深かった。 -
この本は比較的再読可能な部類にはいる。なぜなら再読しているからなのだ。なぜ再読しやすい本と再読しにくい本があるのか?とくに感銘を受けたわけではないだろう?話に入りやすいんだろう。青春時代からの、屈辱やら恋愛をたどって、そこはもちろん知らない世界の地域のことだったりするのだが、1950年代60年代70年代80年代90年代と時代の空気感を追いながら、その時自分はどこでなにをやってたか、悪い娘と思われる人と出会っていたり、すれ違っていたり、一緒に過ごしたり、ゆくえをくらまされたりと、方向性を探ってるなか、あいつやあいつらは、そうかこんなとこでこんなことをやってたのかといったふうで、なかなかおもしろい。
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ノーベル賞作家による、世界を駆ける最高の「ファム・ファタール」もの。とにかく楽しくて切なくて愛おしい話。大人のおとぎ話、とでも言うのか。図書館で借りて感動(?)して、文庫本になったら買おうと思ってるのに全くその気配なし。単行本で買うしかないのか。
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官能小説という前評判があったとのことだけど、確かに性的な表現はかなり露骨なものの、それ以上に四十年に渡り一人の女性を愛し、振り回されながらも待ち続ける主人公の一途さや、ペルー、フランス、日本、スペインと世界各国を舞台にしたストーリーに惹かれる作品。
南米モノのわかりづらさもなく、シンプルなストーリーは、らしくないと言えばらしくないが、登場人物のキャラの強烈さは魅力的。
ここ最近読んだ本の中では、さすがノーベル文学賞作家、秀逸で久しぶりの五ツ星。
ただのラブストーリーに留まらない作品、是非。 -
生真面目なペルー青年が40年もの間ひとりの悪女を愛し続けて翻弄されまくるという所謂ファム・ファタール小説。べらぼうに読み易くアッという間に読了。もちろん面白さゆえにページをめくる手が止まらなかったからでもあるけれど、その引っ掛かりのなさが物足りなくもある。それにこの女性、そんな魅力的じゃあない。ファム・ファタールものならエリクソンの『Xのアーチ』の方がアクロバットな展開で頭がこんがらかりながらスリリングな興奮を味わえる。なんていやらしい感想になってしまったけれど、頭を消耗しないで楽しむ読書もたまにはいい。
常にペルーの情勢を憂うアタウルフォおじさんがいちばん好き。主人公の二人の男女はそれぞれ全く別の人格として描かれているけれど、結局は祖国から逃げ目を逸らして生き続けたことで同じ穴の狢だ。この対比でリョサが言いたかったことは何なんだろう?と読了後の今になって考えている。 -
何十年にも渡る壮大な恋愛小説。さんざん浮気されて搾り取られて馬鹿にされた主人公だけど不思議と明るく幸せそうに感じた。
友人がぽろぽろと死にすぎるのがちょっといただけないけど死因がそれぞれの時代を象徴する死に方だったりもする。
恋愛大河。-
文庫になるのを待っているのだが、、、その気配無し。その代わり?「継母礼讃」が中公文庫に入るそうなので、そちらを先に読みます。。。文庫になるのを待っているのだが、、、その気配無し。その代わり?「継母礼讃」が中公文庫に入るそうなので、そちらを先に読みます。。。2012/07/24
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>nyancomaruさん☆
これ面白かったですよ~。私は図書館から借りました。文庫だったら「密林の語り部」とかかな、今あるのは。チボ...>nyancomaruさん☆
これ面白かったですよ~。私は図書館から借りました。文庫だったら「密林の語り部」とかかな、今あるのは。チボ~も借りて読んでみようと思います。2012/07/25 -
「文庫だったら「密林の語り部」」
そう!岩波文庫に入りましたね、読み忘れている。
こちらが先になるな。「文庫だったら「密林の語り部」」
そう!岩波文庫に入りましたね、読み忘れている。
こちらが先になるな。2012/07/27
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一生をかけて続くラブストーリー。最後は泣ける。