名もなき人たちのテーブル

制作 : 田栗 美奈子 
  • 作品社
3.85
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  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861824494

作品紹介・あらすじ

11歳の少年の、故国からイギリスへの3週間の船旅。それは彼らの人生を、大きく変えるものだった。仲間たちや個性豊かな同船客との交わり、従姉への淡い恋心、そして波瀾に満ちた航海の終わりを不穏に彩る謎の事件。映画『イングリッシュ・ペイシェント』原作作家が描き出す、せつなくも美しい冒険譚。

感想・レビュー・書評

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  • 「おとなになるまえに、おとなになった」子供たちの21日間の船旅と、その後の人生。

    一気読みしてしまった!
    時々涙が溢れそうになるよ。
    美しい文章に乗って世界が流れている。
    変わることを止められない…。
    少年の冒険譚であり、成長ものであり、親子の物語であり、恋愛小説であり、ミステリであり…。
    様々な要素を含んで切ない。

  • 装幀に惹きつけられた。深い青緑色に小さく銀文字のタイトル。真ん中に客船の姿が控えめに浮き上がった感じで刷られている。子どもの頃に読んだ翻訳物ってこんな感じだったような…。読み終えてしみじみ、なんてこの物語にふさわしい本の姿だろうと思った。

    どういう物語かは、訳者あとがきに簡潔にまとめられている。

    「一九五四年、セイロン(現スリランカ)に住む十一歳の少年マイケルが、大型客船オロンセイ号にたった一人で乗って、母の待つイギリスへ三週間の船旅をする。船上で出会う個性豊かな人々との関わり、波乱に富んだ航海の模様、謎めいた事件、そしてマイケルたちのその後の人生が、過去と現在を行き交いながら、オンダーチェの持ち味である詩のような美しい文章で語られる」

    原典の文章の「美しさ」はもちろんわからないけれど、翻訳からでもその雰囲気は伝わってくるように思う。大げさでない静かな語り口に切なさがにじんでいる。「イングリッシュペイシェント」は原作を読んでいないのだけれど、映画の印象も、なるほど通じるところがあるように思う。

    あとがきにあるように、航海は波乱に富んでいるし、最後に明かされる「事件」の真相や、登場人物たちのその後の人生にも心動かされ、どんどん読み進めていける。と同時に、何気ない描写にしばしば目がとまり、忘れがたい印象を受けた。言葉にするとありふれているが、すべてのものは過ぎ去っていくけれど、それでもその中に真実はある、というような。

    一番強く心に残ったのは、オロンセイ号が真夜中にスエズ運河に入っていくところだ。マイケルと友人カシウスは船のへさきの手すりに危なっかしく腰かけながら、眼下の「絵のような光景」に見入る。

    「屋台で食べ物を売る人、たき火のそばで語らう技師たち、ゴミを降ろす作業。あの人たちもこうした出来事もすべて、二度と見ることはないとわかっていた。そして僕たちは、ささやかだが大事なことを理解した。じかに関わらずに通り過ぎていく、興味深い他人たちのおかげで、人生は豊かに広がっていくのだ」

    マイケルは後に、二十代の終わりの頃、船旅以降消息を知らなかったカシウスが、画家となり近くで個展を開いていることを知り、その画廊に出かけていく。カシウスには会えなかったが、そこにある絵はすべて、あのスエズ運河の夜を描いたものだった。この場面が胸にしみた。

    「今こうして画廊で目にしているのは、あの晩カシウスと僕が光の繭に包まれて働く人たちを手すりから見下ろしていた、まさにあの角度で見た光景そのものだった。四十五度とか、それぐらいのアングル。僕は船の手すりに戻って見つめていた。これらの絵を描いていたとき、カシウスの心もそこにあったのだ。さようならと、僕はあの人たちみんなに告げていた。さようなら」

  • 中身以前に装幀が美しい。海の色を写したブルー。
    少年がスリランカからイギリスへ船で旅をする。少年が船中で出会う人々や事件によって子供時代を脱する成長物語であり、パマナ運河の場面の鮮やかさに見るように旅行記であり、人間関係の謎解きが隠されたミステリーでもある。読み手も、この青い大海原をゆっくりと旅しているような読書体験だった。
    オンダーチェは「イギリス人の患者」以来だが、うまい。特に少年マイナ=疑似作家本人が大人になってからの場面と交錯する加減が絶妙だ。船旅は、マイナ=マイケルにとって、特別でドラマが凝縮された人生の一コマ。11歳にしてクライマックスを迎えてしまったようだ。その後の人生では、初恋の従妹エミリーとの再会、船の中の親友たちとの別れなど、切なさが漂う。
    全体のトーンに対して「事件」があまりにヴィヴィッドで、違和感があるほど劇的だと感じたが、これはフィクションを貫くための作為か。ただし、それもあって映像的な印象がある。映画化して欲しいと思わせる。監督はもちろんミンゲラといいたいが、かなわないのが残念だ。

  • 前半だけだったら間違いなく☆5つ。
    少年の3週間の船旅が夢のようにうつくしく、それでいて自分もその船に乗っているかのように懐かしくて、うっとり。ひとつひとつのチャプターが短い、詩のような細切れ感も好き。
    ただ、これはほんとうに個人的な勝手な意見なのですが、後半、乗客たちの秘密があかされるっていう展開はべつに要らなかった気も。ただ少年の目をとおりすぎていく描写だけでも、じゅうぶん物語として成立していたのに。

  • マイケルオンダーチェ「名もなき人たちのテーブル」 http://www.sakuhinsha.com/oversea/24494.html … 読んだ。おおお、すごくよかった。。進行も文章も淡々としているのに読むにつれ自分の感情が揺さぶられてくる。余韻が半端ない。読み終わりたくなかった。静かで美しい佳品(つづく


    子供目線での記憶の中の人物像や出来事を大人になり当時の関係者とともに振り返り、新しい事実を知ることで、自分の記憶と感情が微妙に補正されていく様がせつない。アメリカが「スタントバイミー」で単純にマッチョに仕立てるものをこの静謐さと瑞々しさと苦さの配合はイギリスならでは(つづく


    船旅、子供/青年時代の色鮮やかな記憶、過去の人物との再会、というモジュールと、決して順調ではなかった主人公の半生(または充たされない現在)という設定は「ブライツヘッドふたたび」を思わせる。こちらも良品(こっちの根底は宗教と信仰)(おわり

  • 人は、いつ何をきっかけにして大人になるのだろうか。マイケルは11歳。セイロン(今のスリランカ)のコロンボから二つの大洋を越えてイギリスに向かう汽船の客となる。幼い頃に分かれた母親がイギリスの港で待っているはずだ。たった一人で三週間の船旅を過ごした後はイギリスの学校に入学することになっていた。

    あてがわれた船室は喫水線より下にあり、窓もなかった。食堂での席は七六番と決まっていて、船長たちのテーブルからもっとも離れた位置にある。同席する九人のうちの一人、ミス・ラスケティに言わせると、その席は俗にいう<キャッツ・テーブル>で、「もっとも優遇されてない立場ってこと」らしい。「名もなき人たちのテーブル」という邦題はその意訳。

    七六番テーブルには同じ年頃の少年が二人いた。喘息持ちでおとなしいラマディンと、学校の一年上で悪名高き反逆者カシウスだ。他にも、落ち目のピアノ弾きに植物学者、元・船の解体業者に無口な仕立屋といった面白そうな大人が何人もいた。親と離れ、一人で大人たちの中に交じって過ごす日々は、少年たちにとって刺激的だった。乗客の中には恐水病の治療のため本国に向かう貴族もいれば、鎖につながれた囚人もいた。子どもを使って盗みを働く偽男爵やら、旅芸人の一座といった曰くありげな人々の秘密を盗み見ては想像をたくましくする少年たちは、いつしか、その冒険の渦中に入ってしまうのだった。

    自称男爵にスカウトされ、盗みの手伝いをするくらいのことは、そのスリルを味わっていられたのだったが、高僧を馬鹿にしたせいで呪をかけられた貴族の死にはラマディンが絡んでいた。殺人罪で捕らえられた男を父に持つ娘の悲運には皮肉屋のカシウスさえ胸を傷めた。果ては、同船していた従姉のエミリーが殺人事件に巻き込まれてしまうなど、少年の目に映る大人の社会は危険に満ちていた。

    今は、テレビ番組にも呼ばれるほどの有名作家となったマイケルが、少年のころの船旅を回想しつつ、二人の旅の仲間のその後、テレビを見たミス・ラスケティからの手紙に触発されたエミリーとの再会を語ることで、当時の自分には計り難かった大人の世界の秘密が解き明かされてゆく。少年時の胸躍る冒険の回想譚と思わせながら、じわじわとミステリ小説仕立ての大団円に向かってゆく、その手際はなかなかのもの。

    少年の眼から見ることで、キャッツ・テーブルの仲間はもちろん、それ以外の乗客たちがいかにも魅力に溢れて描き出されている。大人になったマイケルの目を通して描かれる同じ人物の評価の差に、実人生を知った物書きの視線が感じられ、その温度差に幾許か人生の悲哀を感じずにはいられない。少年時代の自分を視点人物とした児童文学風の物語と、回想視点を用いて描き出された大人の男女の出会いから恋愛関係、そしてその崩壊に至る人生模様の対比が鮮やかである。

    人は、いつから何をきっかけにして大人になるのだろうか。それは、幼いながらも自分以外の誰かを守ろうと決意した時点からではないだろうか。少年たちは、二十一日間の旅のなかで、その経験を得る。しかし、当然のことに、その時はそれに気づかない。彼らは、それを胸中に抱えながら知らず知らず日を重ねそれなりの歳になるのだ。

    三人は船を下りたときから別々の道を歩き始め疎遠になっている。マイケルは、かつてラマディンが自分を見つけ出してくれたように、今度はカシウスが自分を見つけられるように、あの船での出来事と、その後日談を書いてみようと思う。それが、この小説なのだ。

    主人公の名前や経歴が作家自身のそれと重なるため、自伝と読まれることを恐れ、末尾にフィクションであることを強調する一文が置かれている。もちろん、そうにちがいなかろう。嵐の晩、甲板にロープで身体を縛りつけ、波に呑まれるシーンをはじめ、キプリングの小説よろしく身体にオイルを塗りたくられ、ドアの上の隙間から他人の部屋に侵入する場面まで、あまりに冒険小説的エピソードに溢れすぎている。しかし、だからこそ、案外、細部は事実に基づいているのではないかと想像したくなる。わざわざ一頁を割いて、こう記してさえおけば、その筋で働いていた登場人物にも、いらぬ迷惑のかからぬ道理である。

  • なんて切なくて、美しくて、感傷的な幼い少年達の物語・冒険譚なのだろう。ここまで美しい少年を主人公にした冒険譚は初めて読んだ。だが、子供の頃に本書を読んで、本当の意味で理解できたかと思うと疑問だ。つまりこの本は、幸せだった子供時代を抜け、今日々を送る私たちに向けて、マイケル・オンダーチェから語られるかけがえのないプレゼントなのだ。
    中盤までは主人公であるマイケル少年と一緒に、乗り込んだ船であるオロセイン号を探検しているかのような気持ちで、ドキドキ・ハラハラしながら頁を読み進めてゆくことができる。
    そして中盤以降は主人公や一緒に船に乗り込んだ人びとの、その後の人生が明かされてゆき、サスペンスの要素までが物語に織り込まれてゆく…それを描写するオンダーチェの筆もますます冴えわたっており、見事としか言いようがない。特に見事なのが、ミス・ラスケティの章だ。本当に美しい文章である恋のいきさつが描かれている。
    ラストシーンの終わり方もよい。目を閉じると瞼の裏に最後の情景が浮かんでくるかのようだ。
    必ずしも人生はハッピーエンドではない。むしろ、やりきれない気持ちで終わることの方が圧倒的に多い。そんな日々の中でも、私たちは救いを見出し、自分なりのケリをつけながら生きている。
    しかし、オンダーチェはそんな私たちへ″それでよいのだよ″と物語の向こう側から、優しく語りかけてくれている…そんな気がしてならない。

    また本書は、オンダーチェを初めて読んでみようかなと思っている人にもオススメしたい。全体的にとても読みやすく、何しろ読んでいてドキドキ・ワクワクの連続で、とても楽しい読書体験になること間違いなしだ。
    最後にこの素晴らしい本を執筆してくれたオンダーチェ本人、そして日本での邦訳・出版を決断した作品社と訳者へ大きな感謝を申し上げたい。ありがとうございました。

  • 初めての船旅で、大人たちが起こす様々な出来事や子供同士の交流、ぶつかり合いなどを通じて、少年たちが変化していく様を描いている。船旅という特別なシチュエーションを前提としながら、その中で起こっていることは実に日常的で親身近。人は変わるものだし、変わらないと生きていけないものだが、変わるま前の過去は二度と戻れない、取り返しがつかないものだとしみじみ実感。夏休みなどの旅行中には最適の書。

  •  豪華客船の旅。ただし、歓迎されざるものはキャットテーブルへのキャットテーブルに座る人たちの物語。
     時代は1950年代。ゆるやかな子供たちの冒険譚と思いきや、闇は想像以上に深く、読む内に空恐ろしくなってくる。あまりの平穏さと不穏さに。取るに足らない命の軽さに。
     読み終えて、読み返したいけど、怖い。そんな作品でした。実に端正。

  • 慣れ親しんだ世界から未知の世界へ、船上という世界を3週間かけて通過しながら、渡っていく物語。はじめはわくわくする子どもの冒険の姿をしている船上のエピソードの数々が少しずつ様相を変えていき、物語も船上と旅のその先を行ったり来たりする。
    3週間の船旅が、主人公マイナの子ども時代の終わりとなったように、共にテーブルを囲んだ人たちにとってもそれまでの暮らしの終わりとなっていくさまがさびしい。物語の様々が美しいから、余計に。

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