ヒトラーランド――ナチの台頭を目撃した人々

制作 : 北村京子 
  • 作品社
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本棚登録 : 98
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861825101

作品紹介・あらすじ

新証言・資料-当時、ドイツ人とは立場の違う「傍観者」在独アメリカ人たちのインタビューによる証言、個人の手紙、未公開資料など-が語る、知られざる"歴史の真実"。キッシンジャー元国務長官、ワシントン・ポスト、エコノミスト、ニューズウィーク各紙誌書評が激賞!

感想・レビュー・書評

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  • 第二次大戦前のドイツに在住していたアメリカ人たちの記録。著者は元ニューズウィーク特派員で、ベルリン・モスクワ支局長を歴任したジャーナリスト。記者だけにストーリー展開が上手く、物語を読むようだった。最後まで飽きない。
    当時、ドイツに在住していたアメリカ人の多くは特派員ジャーナリストと外交官たちとその家族。彼らはいわば傍観者としてドイツを観察し暗い時代を記録していった。
    著者は在独アメリカ人たちのインタビュー、証言、回顧録、手紙、未公開資料など丹念に辿り、台頭するナチスドイツを立体的に浮き彫りにする。
    ナチスに対する傍観者たちの眼差しは様々だ。
    第一次大戦後の荒廃したドイツのエネルギーと退廃に魅了された若者。ナチスやヒトラーに心酔する者。ヒトラーの弁舌の上手さや魅力を認めつつもいち早く彼の危険とドイツを覆う危機を見抜いた外交官やジャーナリストたちもいた。「あんなごろつきがドイツのリーダーになるわけがない」という青年もいた。「ドイツ人には知性があるから、ヒトラーに騙されるわけがない」と宣言したユダヤ人もいた(そう言った本人は強制収容所で死んだ)。ヒトラーが首相になったら、過激な言動は減り現実的になるだろう。反ユダヤ主義も穏やかになるだろう。ベルサイユ体制と国際秩序に挑戦することはないだろう。まさか再び世界大戦が始まるわけがない。希望的観測を並べ現実を直視しない人もいた。
    なかには、ヒトラーが政権を取り、ユダヤ人差別が激しさを増し、ポーランド侵攻が始まっても、目の前の現実に戸惑い何をどう判断してよいか分からずにいる人もいた。



    人は歴史を振り返るとき後知恵で判断する。結末を知っているがゆえに、あのときこうすればよかったのに、と弾劾糾弾する。だが、この本を読むと、日々の生活のなかで現実を直視し目の前のことから距離を置き、分析し、意味を見極め行動することが人間にとっていかに難しいか。そんな根源的な問いを読み手に突きつける。
    頭が良い。知性がある。先見の明がある。そのような能力は関係ない。秀でた知性があり優れた観察力がある人でも(でさえも)状況を見誤ることがあるということや、経験豊かな人でも自身の願望と事実認識を取り違えることがあるということをこの本は教えてくれる。
    本書を読んで、改めて実感した。そして序に記された次の一文が胸に響く。
    「嵐のなかにいるときは、日々の生活はときとして、一見ごく普通に続いていく。たとえそこにあきらかに異常なことや、不条理や不正義があったとしてもだ」。
    肝に銘じたい言葉。現実を見るということはそれほど難しい。
    この本はこれから生きていく上で指針として、または座右の書としたい。

  • 「ヒトラーランド」は当時ドイツ人とは立場の違う傍観者であった在独アメリカ人による証言等を集めた「のちに語られた歴史」ではないあの時の真実のドイツが見えてくる1冊。もちろんヒトラーのオリンピックといわれた「ベルリンオリンピック」も語られている。メダルの授与で黒人選手にヒトラーは握手を拒否したと言われるが当のアメリカ人選手ジェシー・オーエンスは侮辱を受けたとは感じていない。むしろアメリカ国内で侮辱を受けないことは不可能だったと語っている。人種差別に独裁国家。あってはならないことも視点を変えると焦点がぼやけてくる

  • ナチスやヒトラーについて、あまりにも多くのことを知りすぎて、心の整理がつかない。あえて率直な印象を表現するなら「第1次世界大戦のトラウマとヨーロッパを翻弄したアメリカが作り上げた虚像」とでも言おうか。かつて人類が経験したことのない惨劇を生んだ第1次世界大戦。戦火の再発に怯える戦勝国が、復讐に燃える敗戦国ドイツによって蹂躙されるという歪んだ構図。ビアホール一揆まではただの反逆者だったヒトラーが、世界最悪の独裁者へと変貌していく過程で常に存在したアメリカの陰。その中にヘンリー・フォードの名前が含まれているのには目を疑った。歴史を直視するのに、こんなにも勇気が必要とは。

  • 「満州事変と政策の形成過程」、「昭和陸軍秘録 軍務局軍事課長の幻の証言 」といった本を読むたびに「そうだったのか!」と目から鱗だったが、この本もまさにそうであった。
    ユダヤ人に対する憎悪はヒトラーだけでなく、ドイツ国民のみならずアメリカ国民も程度の差はあれ、感じていたこと(もちろん、そうでない国民も多くいたと思うけれど)、扇動者としてのヒトラーの能力は評価していたものの、当時の権力者は高をくくっていたことなど、ヒトラーの台頭を許した要因を当時のドイツに滞在していたアメリカ人記者の目から描写している。
    また、ヒトラーが支配していたドイツに訪れたほとんどのアメリカ人が賞賛していたということにも驚かされるとともに、ヒトラー=ナチスドイツだけを戦争の元凶だと、それこそ「高をくくって」いたら、現代でも悲劇が繰り返されることを警鐘している書でもあると思う。

  • アメリカ人がよき勝者であると考えられた理由の1つとして、ドイツ人から好意的に迎えられたことで、彼らの方もドイツ人に好意的に接したことがあげられる。アメリカ人とドイツ人はまた、どちらにとっても「悪しき勝者」であったフランスに対するいらだちも共有していた。第一次大戦直後の混乱期、ワシントンとパリは敗戦国ドイツの扱いについてことごとく対立していた 。

  • 多くの歴史は、それが論理的帰結のように語られるが、その当時の当事者の想定を超えるケースがほとんど。
    チャーチルに関する本を読んでみたい。

  • 第三帝国〜第二次大戦の日本〜〜オウム
    今考えると何故あの様な時代や社会を人々が疑問を持たずに、あるいは大いに疑問を持ちながら生きていたのかがわからない時代があり、その話に私は何故か惹きつけられる。それはもし自分がそんな時代に生きるとしたら何を感じてどんな生き方ができたのだろうと考えたくなるからだ。
    アメリカの外交官やジャーナリストの目から見たヒトラーの時代は十人十色の受け取り方で素早くその邪悪さを理解したものもいればそうでないものもいた。それはドイツ国民も同じだろう。筆者が日本語版向けのメッセージに書いたように「日常生活を送る人にとって、目の前で起こっている歴史的なできごとの意味や政治的熱狂の危険性を把握することがいかに難しいか」は今の時代も含むどの時代にも適用できる。

    アメリカのジャーナリストや外交官がドイツで過ごしたホテルでの奇妙な銃後の生活やプッツィ・ハンフシュテングルのグロテスクさマーサ・トッドの親ナチからソ連スパイに揺れる人生など興味深いシーンが多い。

  • アメリカっぽい感じの事実のみに目を向け、その内面には立ち入っていかないスタンスが気にならないことはないが、それを補って余りあるほどの分析。
    現代にまで通じる、そしてまさに今ある様々な問題がそのままこの本の中で描き出されていて非常に興味深く、そしてある種の絶望も感じざるを得ない面もなくはない。
    ただ日本に生きる人間としては、やはり著者による日本の読者宛のあとがきにつき深く考えるべきなんだろう。たぶん日本社会は歴史に対するセンスが世界と比較しイマイチではないかと当方思料するのだが、その痛い点を確実に突いてくる。
    歴史を見るというのは自らの生きる社会のあり様を考えるという至極シンプルな話でもあるのだから。

  • ドイツでどのようにナチスが拡大したのか、そこで過ごす人々の様子はどうだったのか。当時をドイツで過ごしていたアメリカ人達の記録を丹念に書くことで、今振り返るドイツではなく、その時々でどう受け止められていたのかが生々しく伝わってくる。

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著者プロフィール

アメリカ在住のジャーナリスト。「ニューズウイーク」誌で香港、モスクワ、ローマ、ボン、ワルシャワ、ベルリンの支局長を歴任後独立。受賞歴多数。著書に『ヒトラーランド――ナチの台頭を目撃した人々』『モスクワ攻防戦―― 20世紀を決した史上最大の戦闘』(ともに邦訳は作品社)がある。

「2017年 『隠れナチを探し出せ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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