ヴィクトリア朝怪異譚

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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861827112

作品紹介・あらすじ

イタリアで客死した叔父の亡骸を捜す青年、予知能力と読心能力を持つ男の生涯、先々代の当主の亡霊に死を予告された男、養女への遺言状を隠したまま落命した老貴婦人の苦悩。
日本への紹介が少なく、読み応えのある中篇幽霊物語四作品を精選して集成!

一八六〇年代には今日のミステリやスリラー小説の源流になったと目される作品が次々と出版され、また、怪奇小説、恐怖小説の分野で優れた作品が数多く発表されたのもこの時代であった。内容的に長い話にはしにくかった恐怖小説は中短篇が主体で、特にクリスマスの時期になると、各雑誌が競って幽霊物語を掲載し、当時の文壇の大御所であった作家も好んで幽霊譚を寄稿した。比較的長い物語の場合、優れた作品でありながら、選集に収録するには長すぎるし、かといって、それ一作を単行本として刊行するには短かすぎる、ということで、あまり日の目を見ずにきたという作品もかなりある。本書では、そうした長めの怪異譚の中から、読み応えのある力作で、かつ、日本の読者にはあまり馴染みがない作品を四篇選び、これまでにない趣のアンソロジーの編纂を試みた。――三馬志伸「解題」より

感想・レビュー・書評

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  • センセーション小説という文学ジャンルを初めて知った。自然科学対心霊現象という構造を取りながら、登場人物の心理が、即テレビドラマや映画になりそうなほどリアルに描かれている。当時のイギリス貴族社会の生活や考え方を知るよいツールである。

  • 「狂気のマンクトン」の語り手はひょっとしてエイダに思いを寄せていたのかな。だとしたら命を危険に晒しながら、友情も愛情も報われることがなかったな。
    破滅が来るのがわかっていながら、目の前の幸せに縋りついてしまう人間の弱さを描いた「剥がれたベール」。彼女の内面が見えなかったから恋したのか、恋したから見えなかったのか、鶏と卵的な話。少なくとも彼の手に余る女ではあったね。
    「老貴婦人」はある意味変化球の地獄の描き方。生者から非難されるのが何よりの苦しみという。
    コリンズ以外は女性作家。この訳者の方の作品の選び方がユニーク。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50125244

  • 図書館のリストで見て読みたい、と思った覚書。
    読み始めたばかりだけど、これこれ、こうよ!という感じのウイルキーコリンズ。嬉しいなー。
    何か雑なロシア物超スピードで読み終えたあとなのでひとことひとことが心地よい。
    中編が4本、悲劇に終わる話の方が多いが、今どきの幻想怪奇ものと違って、落ち着いて読めるのが良い。
    この時代はシティづとめの銀行家は成り上がりとして上流階級から見下されていた、と当時の価値観が出てくるのも興味深い。

  • 不思議で不気味な小話4編。怪異や謎自体はそれほどでもないが、19世紀後半の時代背景が伴うと俄然面白くなる。ウィルキー・コリンズやっぱ面白い。

  • 『白衣の女』『月長石』で有名なコリンズをはじめとして、ジョージ・エリオット、メアリ・エリザベスブラッドン、マーガレット・オリファントの4名の短~中編収録。
    ヴィクトリア朝(1855年~84年、日本では江戸末期~明治辺りに該当)の時代なので、やたらと恐怖感を煽るようなホラー的作品ではなく、もう少しソフトな幽霊譚だったり、予知や千里眼、催眠術、読心術といった、あの時代の知識人達の間で流行した「科学」としての超自然的な能力を扱った小説(怪異譚)になります。
    また、アンソロジーにしては4名しか紹介されていませんが、その分、短篇集にするには若干長めの中編が多く採用されているので読み応えがあり、どの作品も面白いです。
    現在ではなじみの無い作家を紹介する、というコンセプトもあり、巻末の解説が充実しているのがまた良いですね。

  • W・コリンズやG・エリオットなど有名作家の作品であっても、長さの関係でアンソロジー等で紹介されにくかった中篇4本を集めて収録。最近までは研究者の間でもほぼ無視されていたというエリオットの「剥がれたベール」(1859)は意外性があって面白かった。千里眼をもつ語り手の男は一ヶ月後の自分の死を予告する。その瞬間に使用人たちが何をしているかまで正確に予知しながら何ら手を打とうとしないのはなぜか?ということを、男は子供時代までさかのぼって縷々語り始めるのだが、この煮え切らなさでは彼の妻でなくとも確かにイラつくかも?と思ってしまった。ブラッドン「クライトン・アビー」(1871)も女性キャラクターのひねり方が印象深くて◎。4人中3人が女性作家ということもあり、この時代の女性の経済的自立についても気になるところ。

  • 土方 正志(出版社「荒蝦夷」代表)の2018年の3冊。

  • 怪異譚としては特にどうということもないが、描写されているヴィクトリア時代の風俗が非常に面白い。良家の青年がグランドツアーに行くの本当なんだなとか、きちんと躾けられた女性が生計のために働くのは恥ずかしいことなんだなとか、そこがお話の主眼ではなく、当たり前の風俗として描かれてるので(周囲の人の戸惑いとか)かえってリアリティがある。
    最後の「老貴婦人」はディケンズ「クリスマスキャロル」のようなハートウォーミングな物語でかなり気に入りました。

  • ラング『夢と幽霊の書』に登場したようなビクトリア朝の超常現象の捉え方が、この短編集でもがっちりモチーフになっている。埋葬されていない死者が幽霊になって現れる話、幻視による未来予知、テレパシー等々。


    ●「狂気のマンクトン」ウィルキー・コリンズ
    あれ、そういえば『図書館島』もこのモチーフではなかったっけ? クリスチャンの、このburial にかける執念って、やっぱりresurrection が元にあるんだろうか?
    でも語り手はマンクトンが見たものを信じてないという立場を貫いていて、超自然と理性との相克が描かれている。

    ●「剥がれたベール」ジョージ・エリオット
    幻視による未来予知と、読心をモチーフにした短編。特殊能力を持つため、みずからを世間とは隔絶して生きてきた主人公のみじめさと、その彼の妻になる美しくも残酷な女性バーサの対比がきわだつ。超能力ものって、そうなんだよね。能力を持つがゆえに悲劇におちいるんだよね……それにしても、あまりにも主人公が生き生きしてなくて、というか、行きながら死んでてつらかった(^_^;;

    ●クライトン・アビー
    古い家系に伝わる不吉ないいつたえ。この話もはじめに匂わされるとおりに話が進んでいくので意外性はないのだが、ツンデレの婚約者ミス・トレメインがいい味を出していて、ダウントンアビーのゴシック版のような美しさがよかった。

    ●老貴婦人
    死なないような気持ちになって、どんなに勧められても正式に遺書を書かなかったために、愛する養女をかわいそうな境遇のまま遺してしまった貴婦人。幽霊になって舞い戻るが、ものに触れることも、人に自分の姿を見せることもできず……。
    ちょっとおもしろい視点から描かれた幽霊譚。

    どの話にも共通するのは、自分はれっきとした近代人としての教育を受けたのに、こんなものを信じるわけにはいかないとくだくだ弁明したり悩んだりするところ。あと、神を信じ、死後、魂が天国で永遠の命を得ることを信じているのに、こんなものが見えるはずが……(以下同文)というとまどい。ビクトリア朝の人々の思考の枠組みのようなものがはっきり表れているのがおもしろい。

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著者プロフィール

1824年ロンドン生まれ。法律家修業を経て、20代後半から作家活動に入る。30代半ばで発表した『白衣の女』によって一躍脚光を浴び、1860年代に大流行したセンセーション小説の礎を築いた。代表作は、『白衣の女』の他、『ノー・ネーム』『月長石』などで、後者は世界最初の長篇推理小説としても有名。1889年没。

「2018年 『ヴィクトリア朝怪異譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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