科学の女性差別とたたかう: 脳科学から人類の進化史まで

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861827495

作品紹介・あらすじ

「“女脳”は論理的ではなく感情的」「子育ては母親の仕事」「人類の繁栄は男のおかげ」……。科学の世界においても、女性に対する偏見は歴史的に根強く存在してきた。こうした既成概念に、気鋭の科学ジャーナリストが真っ向から挑む!
神経科学、心理学、医学、人類学、進化生物学などのさまざまな分野を駆け巡り、19世紀から現代までの科学史や最新の研究成果を徹底検証し、まったく新しい女性像を明らかにする。
自由で平等な社会を目指すための、新時代の科学ルポルタージュ。

「自分の脳や体、お互いの関係についての私たちの考え方は、科学者によってまとめあげられたものだ。そしてもちろん、私たちは科学者が客観的な事実を与えてくれるのだと信用している。科学者が提供するのは偏見にとらわれない話なのだと信じている[……]。
だが、こと女性に関しては、この物語のじつに多くが間違っているのだ」
(本書「まえがき」より)

感想・レビュー・書評

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  • 科学の世界、或いは業界に潜む性差別についての書。
    科学史や最新科学見地から分析されている。書内で貫かれている分析は、「実は女性の方が男性よりも頭脳、能力面で優っている」というものではなく、「男女間で頭脳、能力面でほとんど大差は無い」または「その差は発見できていない」というもの。しかしそこには「神経性差別主義(ニューロセクシズム)」というものが今だに蔓延っていて、それに伴う大きな誤解、偏見が「最新科学で解明された」ことにされている。本書はこれらを丁寧に論破していく。これはフェミニズム運動にはかなり「有効な戦略」と思われる。ジェンダー平等への批判は当初、宗教や家父長制などの「伝統」によって理由付けされた。しかしこれらの非合理性から人々が遠ざかりつつある現在は、生物学や脳科学により「男女の差」が批判の武器にされている。それを突き崩す「有効な戦略」というわけだ。

    ダーウィンは「遺伝の法則から女性は男性に劣っている」「家庭を守る存在てあるべき」と晩年に答えている027

    男性が女性よりも体格的、筋力的に優っていることが男性優位の証拠ならば、人間よりも体格、筋力がはるかに優っているゴリラは、人間より優位な霊長類と言えてしまう36

    女性の方が長生きな理由は、妊娠するのでそれに伴って免疫機能が男性より強力だから、様々な伝染病や病原菌に強いという説がある。但し免疫が強い故に生活においてアレルギー的な病気や体調不良を得やすい(リウマチ・インフルエンザ・ワクチンの副作用など)61

    また、生理痛及び上記のように体調不良を起こしやすい体質のため、ある意味「痛みに我慢強い」精神を持つ故、疾患の早期発見が送れる傾向があるという。例えば心臓病や胃ガンなどで症状が出てから医者にかかるまでに費やす時間は、男性よりも多い64

    過去には女性が大学に行くと生殖器系に差し障りがあるから行くべきではない、と主張されていた131

    科学は非政治的で客観的ではない。特に(宇宙物理学などに比べて)神経科学は人間に関するものであり、人がどうふるまって実社会を生きるかに深刻な影響を及ぼすので、政治、社会問題に絡まれやすい139

    「男性が空間認知能力が高い説」の原因は、幼児期に親がジェンダー偏見により、「男の子が喜ぶオモチャ」としてブロックやアクションゲームを与える(女の子には人形)。それで遊ぶび成長するために空間認知能力が高くなるのではないか。144

    霊長類研究て解ったのは、人間は他の大型霊長類と違い「母親1人で子育てをする」ように進化していないこと。アロペアレントと呼ばれる子育て協力者が現れて、母親もそれを頼るように進化した167

    60年代の文化人類学では、人間の脳が発展して現在の反映をもたらした元は、「集団狩猟生活(男性が担う)」であると結論された。しかし70年代ころから霊長類学(この分野は例外的に女性研究者が)から、「人類の進化に女性の存在が抜けている。作為的な感じもする」と科学的な反論が現れる。172

    男女平等は近年のリベラル思想から生まれた訳ではなかった。人類学者は狩猟民族や原生人類の研究によってそれを理解している185

    人類は他の霊長類と違って親族以外の他人と協力関係を作る。例えば現代の狩猟民族の1人は生涯に1000人の他人と交友関係を結ぶ。チンパンジーの雄は生涯に20匹の雄としか関り合いを持たない186

    最新の生物学では「雌も雄同様、複数の相手と性交渉する」という事実が霊長類他様々な動物から観察されている。ごくごく一般的とさえ言われている。つまり進化には必ずしも「雌は貞淑が有利」とは言えない202

    チンパンジーは雄優位社会だが、ボノボは雌優位社会である。ボノボが雌優位を確立しているのは雌どうしでグループを作っているから(チンパンジーの雌は孤立化している)。数十年前までボノボはチンパンジーとの種の違いを認識されておらず、人間の進化を研究するための霊長類学では、もっぱらチンパンジーが研究されていた。このため人間の男性優位は生物学上の必然とされてきた。しかしボノボが研究されはじめてこの見解が変化している。雌のボノボは「フェミニスト運動への贈り物」と言われる249

    女性の更年期は生物の老化ではなく進化で得られた特性である可能性がある。集団におばあさんが居ることにより、種族全体の利益になる(おばあさん仮説)。したがってこの更年期を病気としたり、嫌悪する現代社会の風潮は「症候群」と呼べる説275

    『女はすぐれている』を1953年に刊行した先駆者アシュリー・モンタギューは『エレファントマン』の原作者でもある277

    本書で引用されている「子供を育てるなは村中の人が必要だ」という格言(アフリカ由来)はヒラリー・クリントンが引用して、さんざん保守派から叩かれた。293

  • 脳科学から人類の進化史まで、というサブタイトルにある通り、自然科学(+人類学)のなかに潜むジェンダーバイアスを暴き出すサイエンス・ノンフィクション。とくに自然科学は客観的・中立的・実証的だと考えられがちだが、学問もまた人間の営みである以上、データの収集や分析、解釈などあらゆるプロセスにバイアスが入り込む余地がある。日本にもいるのかもしれないが、海外ではこんなにもいろんな分野にフェミニズムの立場にたつ研究者がいるのかと驚いた。

  • 2月新着
    東京大学医学図書館の所蔵情報

  • 科学への接し方・科学の扱い方について考えさせられる記述が印象に残る。
    ・ホルモンレベルが安定している男性のほうが研究対象になりやすい
    ・科学者は優位な差のある研究結果を発表する傾向にあり,科学雑誌も効果の大きいものほど掲載する
    ・性差に関する多くの研究には再現性がない

    これから分かるのは,そもそも科学を扱っている人間が不完全でありバイアスにまみれているということだ。
    科学的エビデンスを振りかざし理性的にジェンダー論を叫ぶ人がいる。
    しかしそういった主張には注意したい。
    理性的であることを自認し感情的な議論を切り捨てるような人間こそが,感情論に陥っている。

  • 【書誌情報】
    『科学の女性差別とたたかう――脳科学から人類の進化史まで』
    著者:Angela Saini ジャーナリスト
    訳者:東郷えりか
    出版社:作品社
    定価:本体2,400円
    ISBN:978-4-86182-749-5
    発行日:2019.4

     「“女脳”は論理的ではなく感情的」「子育ては母親の仕事」「人類の繁栄は男のおかげ」……。
     科学の世界においても、女性に対する偏見は歴史的に根強く存在してきた。こうした既成概念に、気鋭の科学ジャーナリストが真っ向から挑む!
     神経科学、心理学、医学、人類学、進化生物学などのさまざまな分野を駆け巡り、19世紀から現代までの科学史や最新の研究成果を徹底検証し、まったく新しい女性像を明らかにする。自由で平等な社会を目指すための、新時代の科学ルポルタージュ。

    《自分の脳や体、お互いの関係についての私たちの考え方は、科学者によってまとめあげられたものだ。そしてもちろん、私たちは科学者が客観的な事実を与えてくれるのだと信用している。科学者が提供するのは偏見にとらわれない話なのだと信じている[……]。/だが、こと女性に関しては、この物語のじつに多くが間違っているのだ。》 (「まえがき」より)
    http://www.sakuhinsha.com/nonfiction/27495.html

    【目次】
    目次 [001-003]
    献辞 [006]
    まえがき [007-024]


    1 男と比べての女の劣等性 025
    「地球上の生命の歴史が、雌の重要性を語る証拠の連鎖を途切れることなく示しているのは、私には明らかに思われた」
    「妊娠中の雌馬の尿からの金探し」

    2 女性は病気になりやすいが、男性のほうが早く死ぬ
    「ほぼどの年齢においても、女性は男性に比べて生存能力が高いと思われる」
    「男女いずれかを研究するほうが、はるかに安上がりだ」

    3 出生時の違い
    「多くの研究結果は決して再現されず、それらはおそらく間違っている」
    「データから自分たちの意見を切り離すのは難しい」

    4 女性の脳に不足している五オンス
    「男のほうが見たり実行したりするのに苦労しない」
    「特定の使命を帯びているのだと思う」
    「科学は政治的空白で活動するわけではない」
    「脳を二つ見れば、それぞれに異なっている」

    5 女性の仕事
    「人間における協力的養育がますます重要になってくる」
    「人間では男性の関与の仕方に大幅な可塑性が見られる」
    「人類の半数を締めだす理論は偏っている」
    「女で狩人であるということは、本人が選べる問題」

    6 選り好みはするが貞淑ではない
    「性差別主義に聞こえることが、学説を禁ずる正当な理由にはならない」
    「雌が複数の相手と交尾するのは、ごくごく一般的なこと」
    「すべてが申し分のないふりをしつづけることはできない」

    7 なぜ男が優位なのか
    「身持ちのいい娘は夜の九時にほっつき歩きはしない」
    「私がまず気づいたことの一つは、雌が雄を攻撃していることだった」

    8 不死身の年配女性たち
    「エストロゲンの欠乏した女性」
    「まさに発電機のような年配のご婦人たち」
    「男は、老いも若きも、若い女を好む」

    あとがき [277-285]
    謝辞 [287-289]
    訳者あとがき(二〇一九年月三 東郷えりか) [290-294]
    参考文献 [xiv-xxxii]
    索引 [i-xiii]


    【著訳者略歴】
    アンジェラ・サイニー(Angela Saini)
    イギリスの科学ジャーナリスト。オックスフォード大学で工学の修士号、およびキングス・カレッジ・ロンドンで科学と安全保障の修士号を取得。『ニュー・サイエンティスト』『ガーディアン』『タイムズ』『サイエンス』『セル』『ワイアード』『ウォールペーパー』『ヴォーグ』『GQ』 などの有名メディアに寄稿。また、BBCラジオで科学番組にも出演するなど多方面で活躍している。著書に『Geek Nation: How Indian Science is Taking Over the World』など。本書の原書である『Inferior: How Science Got Women Wrong-and the New Research That's Rewriting the Story』は高い評価を得ており、英国物理学会『Physics World』誌で2017年のブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

      東郷えりか(とうごう・えりか)
    翻訳家。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。訳書に、シアン・バイロック『なぜ本番でしくじるのか――プレッシャーに強い人と弱い人』、シンシア・バーネット『雨の自然誌』、ルイス・ダートネル『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(以上、河出書房新社)、デイヴィッド・W・アンソニー『馬・車輪・言語――文明はどこで誕生したのか』(筑摩書房)、アマルティア・セン『アイデンティティと暴力――運命は幻想である』(大門毅監訳、勁草書房)など多数。

  • ぜひとも読むべき重要な本である。
    と同時に、1ページ1ページ、いや一言一句ごとに胸が悪くなる。男どもの言語道断な蛮行と捏造は、どこまで行っても果てがない。その1つ1つが胸に刺さり、抉る。

    女性について今と今までに男どもが述べてきたことはすべて嘘、捏造、そしてほんのわずかの誤解である。
    これはつまり、意図的に女性を貶め、酷使搾取してきたのが大半であるということだ。
    「男は馬鹿だから(しかたがない、許してやれ)」というような甘言は、もはや有害でしかない。彼らの悪質さをしっかりと認識し、糾弾すべきである。

    女性を救うのは女性同士の連帯、シスターフッドである。
    大型類人猿の社会の観察がそれを物語る。

    2019/7/22〜7/26読了

  • リクエストチャレンジ成功!リクエストありがとうございました。

  • 今週の本棚:内田麻理香・評 『科学の女性差別とたたかう 脳科学から人類の進化史まで』 - 毎日新聞
    https://mainichi.jp/articles/20190519/ddm/015/070/006000c

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    「“女脳”は論理的ではなく感情的」「子育ては母親の仕事」「人類の繁栄は男のおかげ」……。科学の世界においても、女性に対する偏見は歴史的に根強く存在してきた。こうした既成概念に、気鋭の科学ジャーナリストが真っ向から挑む!
    神経科学、心理学、医学、人類学、進化生物学などのさまざまな分野を駆け巡り、19世紀から現代までの科学史や最新の研究成果を徹底検証し、まったく新しい女性像を明らかにする。
    自由で平等な社会を目指すための、新時代の科学ルポルタージュ。

    「自分の脳や体、お互いの関係についての私たちの考え方は、科学者によってまとめあげられたものだ。そしてもちろん、私たちは科学者が客観的な事実を与えてくれるのだと信用している。科学者が提供するのは偏見にとらわれない話なのだと信じている[……]。
    だが、こと女性に関しては、この物語のじつに多くが間違っているのだ」
    (本書「まえがき」より)
    http://www.sakuhinsha.com/nonfiction/27495.html

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著者プロフィール

アンジェラ・サイニー(Angela Saini)
イギリスの科学ジャーナリスト。オックスフォード大学で工学の修士号、およびキングス・カレッジ・ロンドンで科学と安全保障の修士号を取得。『ニュー・サイエンティスト』『ガーディアン』『タイムズ』『サイエンス』『セル』『ワイアード』『ウォールペーパー』『ヴォーグ』『GQ』 などの有名メディアに寄稿。また、BBCラジオで科学番組にも出演するなど多方面で活躍している。著書に『Geek Nation: How Indian Science is Taking Over the World』など。本書の原書である『Inferior: How Science Got Women Wrong-and the New Research That's Rewriting the Story』は高い評価を得ており、英国物理学会『Physics World』誌で2017年のブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

「2019年 『科学の女性差別とたたかう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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