ソウルの市民民主主義: 日本の政治を変えるために

著者 :
  • コモンズ
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レビュー : 1
  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861871467

作品紹介・あらすじ

韓国ソウル市では、市民運動出身の朴元淳市長のリーダーシップと市民の参画で、自治体改革が進んでいる。貧困を解消するために働きがいのある仕事を創り出し、非正規効用をなくし、職員がまちへ出かけて弱い立場の市民のニーズを探る。日本にとって大いに参考となる政策を初めて詳しく紹介し、どうすれば日本でも可能になるかを考察。地方自治、民主主義、韓国社会に関心がある人たちの必読書。

感想・レビュー・書評

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  • 1人の著作者による分かりやすい解説書ではなく、現ソウル市長を含む、数人による研究書的な本なので、まだ自分の中に消化咀嚼するのはできていない。けれども、現在進行形の運動の最も詳しい紹介書だと思う。韓国では何故多くの若者があんなにも街頭に出てデモをするのか?何故反動政権を平和的に倒すことができたのか?その答えを探したい日本の市民にとっては示唆に富む幾つかのイシューがあったと思う。そもそも、日本とは歴史が違うのではあるが、この辺りはあまり展開されない。その代わり、びっくりするような施策が行われていた。「日本の政治を変えるために」という副題は、能動的に読み込む者だけに効く薬になるだろう。

    10pの政党変遷表は、韓国の主要政党が全て脆弱な基盤しか持ってない事を見事に表していた。保守も中道も左派も87年以来ほとんど数年で名前が変わったり、分裂したりしているのである。こんな実態であること自体、初めて知った。そんなに脆弱な政党ばっかりだったからこそ、市民が周期的に広場に出てこざるを得なかったのだとも推測できる。

    キャンドルデモの最初は、2002年のヒョンソンーミソン追悼集会(米軍装甲車が女子中学生2名を轢き殺した事件)だった。そういう意味では、最初から反米集会だったのである。次に04年盧武鉉大統領弾劾反対集会、そして08年BSE牛肉輸入反対集会だった。

    マニュフェスト選挙は、日本でも行われているが、韓国の徹底ぶりには驚く。第一期朴元淳ソウル市長のマニュフェスト達成率は、85%以上だったという。

    朴元淳ソウル市長の講演文書が掲載されていた。現役政治家による「革命」の分析である。キャンドル市民革命は16年10月から17年3月まで毎週土曜日に開かれたキャンドルデモがそれだった、という。その特徴は三つ。(1)国民主権である民主共和国であることを国民が自覚し(2)事故も暴力沙汰も起きないで平和的に推移し(3)民主主義制度に則って大統領を弾劾した。びっくりしたのは、ソウル市長は、安全面の配慮はもちろんのこと、移動トイレ(10ヶ所)並びに付近の建物のトイレ確保(200ヶ所)を準備したという。こんな市長は、残念ながら未だ日本には誕生していない。

    市長は「脱中心的」な革命だったという。大多数は社会運動の経験のない人、全ての年齢層を包括した。デジタルネットワークが可能だったからと分析している。そして「政党は政党革新を通じてキャンドル市民を政治的主体に押し立て、市民が日常的に意見を提示して参加できるプラットホームにならねばならない」と決意を示す。大いに支持したい。(初出「世界」17年8月号、17年4月の公開シンポの基調発題文より)

    一連の集会を主催し支えたのは、全国70都市の約2300団体がメンバーの「パク・クネ政権退陣非常国民行動」(退陣行動)だった。参与連帯、民主労総、全農など有名団体の全てが参加。しかし労働組合旗は掲げなかった。演説は3分。市民が中心。歌・踊り・寸劇を交互に入れた。政治家や選挙立候補予想者を登壇させなかった。また、マニュアルもつくり人権の尊重と配慮に満ちた集会になった。6回目の12月3日、ソウル160万人、各地70万人と最大規模になる。

    「市民革命」の将来はわからない。しかし、ソウル市内でその兆しは始まっている。

    ソウル市は2030年までに交通環境を劇的に変えるらしい。今度、6年ぶりにソウルを歩く予定なので、確かめようと思う。(バリアフリー、バスレーンの中央寄り、低床化、歩行者優先、レンタル自転車・カーシェアリングの拡充、幹線道路の地下化等々)

    ソウル市の南にある冠岳(クァナク)区は、​確か私も映画ロケ地を探して彷徨ったことがあるが​、有名な坂の上にある貧困区である。そこの改善が進んでいるという。また訪ねてみたい。ソウル市麻浦区の西部地域(城山・西橋・望遠・延南)のソンミサン・マウルの先進的な村つくりも機会があれば見てみたい。

    参与連帯の詳しい紹介があった。民衆運動(労働運動)と市民運動と連携を模索して1994年発足。2016年現在会員14827人。20ー40台で67%。充分若いように思えるが、韓国では高齢化が問題らしい。SNSフォロワーは12万人強。意外と少ない。会費は月額1万w。高いか安いか、少し微妙。新聞は発行していない。SNSで十分なのか。20年間で、訴訟357件、請願533件、監査請求265件、記者会見・公開討論会1955回、声明発表多数、報告書・定期刊行物・出版354件、集会等多数、講演会等382回、研修会683回。落選運動で有名。事務所にはカフェも併設しているらしい。機会があれば是非訪ねてみたい。

    このあと、労働政策、女性政策、福祉政策の細かな分析が続くが割愛する。

    2018年10月読了

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著者プロフィール

日本版解説・監修:白石 孝
1950年東京都生まれ。社会活動家・日韓市民交流を進める希望連帯代表。
父の出身地が群馬県安中市の亜鉛精錬工場周辺地域で、身内に公害被害者が多いことから社会問題に目覚めた。東京都荒川区役所に37年勤務し、差別・人権問題に関わる。同時に、非正規公務員問題に取り組み、2011年にNPO法人官製ワーキングプア研究会を設立して理事長を務める。同年に朴元淳ソウル市政が非正規職の正規職転換政策を進めたことを知り、ソウル市政を中心に韓国の社会運動調査・交流を続けている。2018年に『ソウルの市民民主主義―日本の政治を変えるために』(コモンズ)を出版したことをきっかけに「ナヌム文化」と交流を始めた。

「2020年 『<写真集>キャンドル革命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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