Filmmaker's Eye -映画のシーンに学ぶ構図と撮影術:原則とその破り方-

  • ボーンデジタル
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862462138

感想・レビュー・書評

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  •  今までそれなりの数の本を読んできたし、人並みの読解力もあるかなと思っているけれど、映画の鑑賞は未だによく分からない。ストーリーを追うことはできるが、それだけなら文字起こしされたあらすじを読むのと何が違うのか、と。この本は、映画好きの友人に教えてもらった。

     本書の最初は、映像における構図の原則に関する解説である。例えば、有名なヒッチコック監督の名を冠した「ヒッチコックの法則」。これはとても単純で、"「フレーム内のオブジェクトのサイズは、その瞬間においてそのオブジェクトがもつストーリー上の重要度を直接反映すべき」(p.7)"というものである。大雑把に言えば、大事な被写体を観客に印象づけたければ、その分大きく映せばよいということなのだろう。
     それに続くのが、よく用いられる25個のショットの紹介とそれらがもたらす効果の分析である。クローズアップやロングショット、ドリーショットに主観ショット、・・・と沢山あって少々ややこしいが、本書では、実際の映画でそれぞれの技法が使われている場面が合わせて紹介されている。文章だけだとなかなか分かりづらいところが、これらの実例のおかげでイメージしやすい。本書全体のスタンスとしても、理論的というよりは実践的という感じだろうか。僕は興味がなかったのでほとんど読み飛ばしたが、それぞれのショットに相応しいカメラ(焦点距離、f値など)やライティングの注意点、撮影に必要な機材も解説されており、これから映像制作に挑戦しようという人には参考になるのだと思う。
     ショットが及ぼす効果には、理屈を説明されてみれば至極当然に思えることも多いけれど、こうして改めて言語化・概念化することにはやはり意味がある。その一方で、繰り返し強調されているのが、構図の原則は決して絶対的ではなく、映像制作の技法というのはあくまでストーリーや文脈に沿ったものだということだ。スティーヴン・スピルバーグ監督の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の1シーンでは、一般的には権力や支配を示唆するローアングルを、適切な文脈の下で用いることで登場人物(インディ・ジョーンズ)の苦しみ・弱さを表現することに成功している。映像制作者は、便利と同時に安易な「定跡」に満足することなく、日夜新しい表現を開拓し続けているということなのだろう。いずれにせよ、構図が観客の感情に与える影響の絶大さがよく分かる。

     本書を読んでいて伝わってくるのが、画面の構成要素に不要なものは何一つとしてない(そして、制作者はそのような映像を作るべきだ)という筆者のメッセージである。1つのエピソードが紹介されている。あるとき、筆者は駆け出しの監督が制作した短編映画の試写会に招待された。上映後、質疑応答の時間。「カップルが喧嘩していたのは、(画面の前景に映っていた)TVゲームが原因ですか?」実際には、TVゲームはただ映りこんでいただけで、ストーリー上の意味はまったくなかったのである。参加者はみな大いに困惑することになった。
    "この監督が犯した最大の過ちは、ストーリーの意味を反映させた構図をつくらなかったことです。結局はストーリーとは無関係であると判明した細々としたものをびっしりと詰め込んだ、視覚情報満載の冒頭シーンをフレームに収めたことで、監督が観客に伝えようとしていたポイントが伝わらなかったのです。(略)早い話が、この監督は自分の映画のストーリーを映画としての視点からとらえていなかった、言い換えると、ストーリーを語るうえで重要なディテールを視覚的に強調するような構図をつくっていなかったのです。(略)しっかりとストーリーを伝えたいならば、最も重要なのは、ストーリーの明確なビジョンをもつことです。(p.1)"

     俳優の演技やストーリーと同時に映像技法にも目を向けながら映画を鑑賞するというのは、ただ単に使用されているテクニックに感心するということではない。そのテクニックによって画面のどこに力点が置かれているかを読み取ることで、「制作者は観客に何を伝えたいのか」をより深く理解するための手がかりとするということなのだと思う。

     一つ不満なのは、翻訳の下手さ。タイポが多いのは置いておくにしても、如何にも直訳という感じで読みづらい。

    フレームを決める
    構図の原則と技術面の概要
    イメージシステム
    1 超クローズアップ
    2 クローズアップ
    3 ミディアムクローズアップ
    4 ミディアムショット
    5 ミディアムロングショット
    6 ロングショット
    7 超ロングショット
    8 肩越しショット
    9 エスタブリッシングショット
    10 主観ショット
    11 ツーショット
    12 グループショット
    13 ダッチアングルショット
    14 象徴ショット
    15 抽象ショット
    16 マクロショット
    17 ズームショット
    18 パンショット
    19 ティルトショット
    20 ドリーショット
    21 ドリーズームショット
    22 トラッキングショット
    23 ステディカムショット
    24 クレーンショット
    25 シークエンスショット
    掲載映画作品リスト
    索引

    参考URL
    ・映画『ジョーカー』の撮影:カットを分析
    https://kashacamera.com/knowhow/joker-photography/?amp=1
    ・カット、シーン、シークエンスの違いの整理
    https://orita-ani.net/scene-different-from-sequence/

  • 映画の構図(ミディアムショット、ハイアングルなど)とその映画における意味を解説した本。
    これを読むとこのシーンはこんなメッセージを観客に伝えるためだったのかとわかるようになる。
    そして映画の画面作りは「観客に伝えるのに必要なもの」しか入れてはいけないということがよくわかる。
    (ので、これから映画をみるときはフレームの中に入っているモノの大きさ・明るさを意識すると伏線に気づけるようになるだろう)

    構図の原理の解説の後に実際の映画のショットを使って細かく背景の意味・焦点の意味などを解説しているのもありがたい。
    ただ、私がまだ映画の基礎をわかっていないため情報量が多すぎるのとやや難解で知識を上滑りしてしまっている感がある。
    基本を身につけたあと再読したい。

  • いままで映画をなんとなしに鑑賞していたが、ショットの構図やシーンの移り変わりに込められた意味をあまり理解できていないと感じたので、監督たちが意図しているものを深掘りしてみたくなり、この本を手にした。

    25の代表的なショットを、1948年から2009年までの古今東西の映画を例に挙げながら紹介していて、非常に勉強になる。
    各ショットの説明ページには使用するカメラの種類や焦点距離、ライティングなどの細かい技法も掲載しているので、どちらかといえば映画製作志望者向けなのだろう。

    ただ、自分のような趣味で映画を鑑賞する人間にとっても非常に勉強になる事柄が多く、いままでとはまた違った側面から映画を楽しめられそうな気がした。

  • よいですね。
    写真や映像は感覚であると言われることが多いですが、そこにはしっかりとした基礎・技術があり、それらを駆使した作品が名作と呼ばれます(もちろんストーリーや俳優の力も多いにあります)。感覚のみで積み上がるものはありません。
    私は写真専門ですが、映像技術もとても参考になりました。映像好きな方にはオススメです!少し高いけど!

  • 映画の見方がわかった。

  • 読み物。映画の構図の意図を知りたくて購入
    読みづらすぎ。レンズとライティングの説明が毎回入り、欲しい情報じゃなかった
    ・レンズは、「標準」「広角」「望遠」のどれを使えば良いか
    ・ライティング(光)はどのようなことを気を付けて行えばよいか

  • ただの映画好きですが、より深く味わえる鑑賞ができればと手にしました。

    カメラワークはどう考えて決めてるんだろう?どういう流れでショット間を繋いでいるんだろう?そういった疑問をサンプル映画の名シーンを例とし、非常に分かりやすい形で学べます。

    全編読んでみて、映画というのものはここまでこだわっているのか!
    とまさに衝撃でした。

    ・ 小道具をあえて前景に写し奥行きを出す

    ・ 適切なヘッドルーム

    ・ 2人での会話シーンで、画面の占有率が高いキャラがそのシーンで主導権を握っている

    などなど、完成された映画は全てに意味があり、構図の意図や理由を事細かに解説している。

    例を出せば書ききれないほど多くのことを知ることが出来ました。

    それなりに値段はしますが、得るものは大きいと思います。

  • 学生からのリクエスト

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著者プロフィール

グスタボ・メルカード(Gustavo Mercado)は、インデペンデントの映画制作者で、10年以上の間、映画およびHDムービーのプロデュース、脚本執筆、編集、監督、撮影に携わっています。ニューヨーク市立大学ハンター校のFilm & Media Studies Department(映像メディア学科)の教授として、編集、脚本、映画製作、映画撮影技術を教えています。

「2023年 『filmmaker's eye 第2版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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