凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩

著者 :
  • 洋泉社
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本棚登録 : 428
感想 : 53
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862488237

作品紹介・あらすじ

東京は凹凸だらけ。高低差を楽しむ、まったく新しい地形エンターテインメント。見て楽しい、歩いて楽しい、15エリアの3Dマップ付。

感想・レビュー・書評

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  • いよいよ東京湾を跨ぐ東京ゲートブリッジが開通し「水の都」とも形容される東京。しかし、水は高い所から低い所へ流れるという事実からも分かるように、東京は山あり谷ありの起伏に富む大地なのだ。本書では窪地状の谷を「スリバチ」と命名し、ゴマでもするかのように褒めたたえている。

    著者は東京スリバチ学会の会長。この東京スリバチ学会、奇しくも団地団と同じ3人で活動をスタートし、現在は会員も増殖中とのこと。考えてみれば東京には谷のつく地名が本当に多い。山手線内だけでも渋谷、四谷、千駄ヶ谷、市ヶ谷、茗荷谷、神谷町、谷中など。他にも麻布、赤坂、麹町などは旧町名で谷町と呼ばれていたそうだ。

    本書ではこれらの谷に共通するポイントとして「スリバチの法則」というものが紹介されている。そのうちの一つは、「建物は地形の起伏を増幅するように立つ」というもの。これは、高台には高い建物が立ち、スリバチの底には地面にはりつくような低層高密度な街並みが広がっているということである。実はこれは東京に限った現象ではなく、世界各地の都市や集落で見ることができる普遍性のある現象であるそうだ。ちなみに、つい先日渋谷駅の超高層化計画の記事を見かけたのだが、スリバチの法則には真っ向から反しており、先行きがやや不安である。

    また後半では、東京における各エリア毎のスリバチ事情が、魅力たっぷりにレポートされている。図版や断面図も豊富であり、ついつい「書を捨て谷に出よう」となることは請け合いだ。

    地名とは自分とって身近なものほど、記号化してしまいがちなものである。地形やその由来を感じながら街を歩くことは、すなわち地名を身体化するということでもあるだろう。そんな好奇心に思い切って身を委ねてみると、身近な日常ほどいつもと違った風景に見えてくるのかもしれない。

  • 東京の、あの坂、あの川、あの窪地、
    なるほど、あれがスリバチ地形!
    (別名:谷戸)

    地形からくる湧水ポイントや、
    人の営みがどこに発展するのか、
    知る人ぞ知る地名の理由など、
    歴史的な背景についても描かれていて、
    地図のページに戻って見直しては
    「へえ〜、へえ〜!なるほどね〜!」を連発。
    目がランランとしてしまい、
    夜、眠れなくて困りました(笑)

    ときどき差し込まれている
    コラムもミョ〜に面白い…。
    著者の皆川さんを筆頭に、
    暗渠や、川筋をたどる研究家の方も
    いらっしゃり、世の中には
    どこまでいっても「深掘り」の方達が
    いるんだなあと感心しきり。

    面白かった!続編を切望します♪

    ※ちなみに、この本を読んで書かれた
    皆さんのレビューがまた素晴らしく、
    とても勉強になりました♪
    地形マニアはつながりますね〜!

  • 本の雑誌のレビューを見て購入。テレビのタモリ倶楽部やブラタモリのように地形を楽しみ、探索する本。
    予想以上に面白かった。

    中沢新一「アースダイバー」に似た内容かと思ったが、アースダイバーは沖積期の海面が高く、海がもっと奥まで入っていた頃の陸と海の境、ミサキの宗教的記憶が現代の神社や寺に繋がっているという論考だった。
    スリバチ学会では海が後退した後の時代、谷にある水源が水神として祀られていると論述される。同じ東京の凸凹を見ながら見透しているものや時代が違うのが面白い。

    スリバチ学会の陣容は判らないが、章の合間に著者以外の学会員(?)のコラムを挟む。神田川のトンネルの奥に大きな水の落下を確認したという文章にちょっと驚く。地名に名を残す小石川とのこと。
    この本の面白さの一つは、このような今は暗渠になった水の流れをスリバチの地図に示していること。沢山の川の流れが見てとれる。
    川の北側は急峻で南斜面は緩やかだとか、地名の言われなど、へ~と思うことが多い。「スリバチの空は広い」って名言だよ。確かに、谷地があるお蔭で東京の見晴らしが良くなっていると思う。
    他の場所のレポートも見たかった。吉祥寺の井の頭公園、府中~国分寺の野川、荻窪の善福寺川の辺りなど。

    遅く帰宅するとき、ちょっとした窪んだ土地の角で耳を澄ますと、マンホールから意外と大きな水音が聞こえる。川の名残なのか。この本を読んでから、チョッとドキドキしている。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「マンホールから意外と大きな水音が聞こえる」
      実感してみるコトが出来て良いなぁ~
      「マンホールから意外と大きな水音が聞こえる」
      実感してみるコトが出来て良いなぁ~
      2012/05/29
    • yuu1960さん
      見当違いの可能性も大いにあります。
      川の源、湧水の場所、関東でヤチとかヤツと言われる地形。その辺りを探すと昔の川の記憶が見つかるかも知れませ...
      見当違いの可能性も大いにあります。
      川の源、湧水の場所、関東でヤチとかヤツと言われる地形。その辺りを探すと昔の川の記憶が見つかるかも知れません。ブラタモリでは暗渠の跡はやたらマンホールが多いとのことでした。
      そうやって見れば、nyancomaruさんの傍にも水音の聞こえる所があるかも。
      2012/05/29
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「傍にも水音の聞こえる所があるかも」
      周りが五月蝿いのかも、最近耳を澄ますってコトをしてないなぁ、と思ってしまいました。
      「傍にも水音の聞こえる所があるかも」
      周りが五月蝿いのかも、最近耳を澄ますってコトをしてないなぁ、と思ってしまいました。
      2012/05/31
  • TV番組「ブラタモリ」でもよく扱われる地形の高低差に注目し、谷の部分、「台地に低地が谷状に切れ込み、二方向、三方向が斜面に囲まれたような形状の地形になっている場所のこと」を「スリバチ」と呼び、東京のスリバチを探訪する。

    「ブラタモリ」にハマっている人は楽しめるだろう。東京の、なじみのあるところの地形を再度確認できる。

    たとえば東横線の碑文谷あたりは、台地を渡っていること、そして川の作った谷のところに駅があるため、その駅が高架になっていること(学芸大学(立会川)、都立大学(呑川)が高架駅)。ずっと通学に東横線を使っていたので、懐かしさを覚えると同時に、また訪れてみたい気がする。

  • 昨年、神田古本街の「スリバチカフェ」で見かけた本です。
    Blog「東京のスリバチ」↓
    http://lily-flower.jugem.jp/?eid=2567

    中沢新一の『アースダイバー』は古典的名著だと思っていますが、それを現代風視点からとらえ直したような一冊。
    「書を捨て谷に出よう」を合言葉に、「スリバチ」地形と表現した都心の谷を紹介しています。

    都心である東京になぜ谷戸が多いのかというと、古く江戸時代に都市開発が始まったために、現代のような土地改変が容易ではなかったためだそう。
    起伏をならせず、起伏を生かした都市にしたため、山の手には武家、下町低地には町民地が集まり、それがもとになって、今でも高台に学校、病院、大使館、官舎、低地に住宅地、商業地が広がっているということです。

    高台ではなくスリバチの中、つまり谷の方に視点が注がれています。
    都内各地の谷の話の延長で、谷とは関係ないさまざまな土地の説明もなされており、どちらかというとそういったサブ情報に興味が惹かれました。
    本郷三丁目の「菊坂の谷」にはかつて「別れの橋」が架かっており、今でこそ都心ですが、昔はそこが国外追放の罰を受けた罪人を見送る辺境の地だったそう。
    文京区弥生で出土した土器が弥生時代の名称となったということですが、東京で弥生式土器が発掘されたとは思っていませんでした。
    唱歌「春の小川」は、自然がいっぱいの長野辺りの小川かと思っていましたが、実は代々木八幡辺りを流れる河骨(こうほね)川がモデルとされるということにも驚きです。

    ほかにも、六本木アークヒルズのアークの意味や、三四郎池のほかに一二郎池もある話、幡ヶ谷やスペイン坂の名前の由来など、知っていると楽しくなれる情報が盛りだくさん。
    渋谷の名前は「赤い渋い色の川の流れる谷」というのが由来の一つで、それは関東ローム層が鉄分を多く含んだ赤土だからだと聞くと、命名の的確さにうなります。

    普段使っている東横線が、武蔵野台地の複数の丘と谷を越えるルートであり、車窓から地形の起伏を観察できるということには全く気付いていませんでした。
    今度、この本で紹介されている江戸五色不動と平将門を祀る場所巡りをしてみようと思います。

  • 東京(江戸)は谷と丘も都市。言われてみれば、なるほどと思うが、普段はそれほど意識することが無い。城南地区・五反田に住んで10年以上、南北方向に動くにはいずれも丘を越えていかなければならない、逆に東西方向は目黒川沿いの平地(谷すじ)を移動することになる。しかし、まあそんなもの、そんなところと思っているだけで、改めてこの本を読んでみて(指摘されて)ああそういえばあそこは確かに、窪地、谷すじ、尾根すじ、旧河川だなと意識に浮かび上がってくる。というか、なんだかんだいって、けっこういろんなところを歩いているんだなと改めて感じさせられた。スリバチを意識して歩いているわけでない(車やバスで移動するときも)が、谷と丘の都市ゆえ、どこにいくにも何の気なしに丘を越え、谷を渡っているようだ。昔、かみさんと高輪から白金台を抜けて古川に降りていった路地なんかすっかり忘れていた事まで思い出させてくれた。あの頃はお互いに結構ラブラブで暇だったんだな。てなことも含めて。

     読書にしてかなり関連書を読んでいることも確か。普段は意識の奥に引っ込んでいるけど、何かを読んでいて引っかかりがあると、そういった記憶が、少しずつゆっくりと意識の表面に浮かび上がってくる。→「東京古道散歩」、「東京「夜」散歩」、「江戸 TOKYO 陰陽百景江戸」、「江戸東京≪奇想≫徘徊記」、「歩いて愉しむ 大江戸発見散歩」、「なぞのスポット 東京不思議発見」、「謎解き 広重「江戸百」」、「図説 江戸東京怪異百物語」、「江戸東京怪談文学散歩」、「江戸を歩く」、「江戸屋敷三〇〇藩いまむかし」、「江戸・東京地形学散歩」、「お江戸超低山さんぽ」、「幕末・維新の江戸・東京を歩く・東京」、「江戸・東京百景 広重と歩く」、「江戸・都市の中の異界」、「古地図と名所図会で味わう江戸の落語」、「噺家と歩く「江戸・東京」」、「江戸東京落語散歩」、「江戸の都市伝説―怪談奇談集」、「江戸の名所」、「東京今昔歩く地図帖」、「超雑学 読んだら話したくなる 江戸・東京の歴史と地理」、「カラー版 地図と愉しむ東京歴史散歩」、「霞ヶ関歴史散歩」、「彩色絵はがき・古地図から眺める東京今昔散歩」、「江戸の庶民信仰」

  • 土地勘の無い場所だと文章を読んでもなかなか入ってこないが、タモリ氏に代表される地形で東京を見る視点は、文明の象徴であるうわものを無視しており、新鮮で心地よい。

  • 気づかずに体験しているアップダウン。都会の窪地『スリバチ』に魅せられた人々の研究の集大成。

    ちょっとした下り、目の前にそびえる崖。
    そんなのを目にした時、階段や坂を上がり下がりしながら窪地を考えてみるのも面白いかも。

    散歩好きにおすすめ。

  • 東京に出てきて、もう4年がたつ。

    学生気分はどこへやら、いつのまにやら社会人の気になっている。


    地元が田舎なせいか、主な移動手段は自転車。家から大学までも毎日自転車で往復十数㌔走っていた。

    本書は東京の地形の面白さを説いている。自転車乗りとしては、平坦な道のほうが走りやすい。だが、窪地や台地を超えた瞬間に、東京という街はブルドーザー的な土地の集合体ではなく、実際に文化や歴史が根付いた街なんだということに気付かされる。


    目白台から日本女子大に出る坂をセレクトした著者には金一封を差し上げたい。深夜の酔い覚ましにあの坂のてっぺんから新宿を眺める経験は、僕にとっては予約して見に行く2時間フルコースの夜景の見えるレストランよりも価値がある。

  • 東京の「谷」「丘」「川」に着目したブラタモリ的な散歩本。京都から東京に引っ越してきて、東京には坂が多いなあと思ってたんですけど、こうやって地形図から見てみるとほんとに谷と丘のスリバチからなる街なんだなというのがよくわかります。そろそろ暖かくなってくるだろうしこの本もって散歩に行こうかな。

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著者プロフィール

東京スリバチ学会会長。1963年群馬県前橋市生まれ。2003年、ランドスケープ・アーキテクトの石川初氏と東京スリバチ学会を設立。谷地形に着目したフィールドワークを東京都内で続けている。専門は建築設計、インテリア設計。
『東京スリバチ地形散歩』を筆頭に、著書多数。

「2022年 『東京スリバチ街歩き』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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