わたしの小さな古本屋~倉敷「蟲文庫」に流れるやさしい時間

著者 :
  • 洋泉社
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感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862488305

作品紹介・あらすじ

会社を辞めた日、古本屋をやろうと決めた。それから18年。猫2〜3匹、亀9匹に、クワガタ、金魚、メダカなどがそれぞれ数匹ずつ同居する店で、女性古本屋店主は、今日も店の帳場に座り続けています。

感想・レビュー・書評

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  • 裏見返しに亀、裏表紙には二匹の猫。
    各章の扉に可愛いイラストが入り、目次にもカマキリやクワガタやカミキリの挿絵がいっぱい。
    これ全部、お店の構成メンバーだという。
    他にも金魚とメダカもいるらしい。いないのは小学生男子・笑

    岡山・倉敷の街の一角で20年以上続いている古本屋「蟲文庫」の話。
    てらいのない素直な文章でお店のいきさつを語るのは、店主の田中美穂さん。
    店主と聞くとさぞかし古書に詳しい凄腕を想像しそうだが、ご本人はいたって自然体だ。
    長続きの理由をもし挙げるなら、そこかもしれない。

    古本屋で修業したわけでもなく、資金もなく知識もない。
    更に言うならプライドも野望もなかったという。
    開店時に並べた本は手持ちの数百冊だけだったらしいし、非社交的で、お客さんが入ってくると店の奥でドキドキしていたという。
    加入金が捻出できずに古書組合に加入も出来なかったらしいから、なかなかの情熱家ではないか。いや、こんな表現は嫌がられそうだけど。

    自己肯定感が低いわけではなく、全てにおいて気負いがないのが素敵なところ。
    「閉店間際、もう一時間以上もためつすがめつ粘っているお客さんに、結局100円の文庫本すら買ってもらえず一日が終わる、ということも珍しくありません。
    でもやっぱり、売れる、売れないは別にして、気の済むまで店を開けていられるというのは、幸せなことだなと思います」
    いいなぁ、ここ。本が好きっていうのがこちらにもしっかり伝わってくる。
    お父さんが大切にしていた日本文学全集が売れたとき、手元に一巻だけ偶然残っていたのを発見して喜ぶ場面が、もう本当にいい。
    売れればいい、じゃないのだ。
    その本だけにある思い出や佇まいごと好きなのだ。
    こんな古本屋に並べられる本たちは、なんて幸せなんだろう。

    自己実現などという大それたものはない。
    自分がもろくて頼りない存在だということを知ったひとが、黙ってきちんと丁寧に続けることの大切さがあるだけだ。
    ちょうど地面すれすれに生える苔のように。
    そうだ、田中さんは「苔」の本も出しているし、本書にも苔の話が登場する。

    「早くおじさんになりたい」という願いは叶わなかったらしいが、今も歌をうたいながらお店に出ているのだろうか。
    帳場から見える景色に、私も混ざりたい。ついでに猫も撫でてきたい。
    「好き」を仕事にしたい誰かへ、本好きなあなたへ、お薦め。

  • 図書館で一気読みしてしまった本。


    岡山は倉敷の美観地区にある
    「町屋」風の景観にビックリの古本屋
    「蟲文庫」。


    猫と亀とクワガタと金魚とメダカ、
    そして愛する苔と共に帳場に座る店主は、
    会社を辞め
    21歳にして古本屋を開業した
    田中美穂さん。

    そんな田中さんの
    開業当時のエピソードや、
    本との不思議な出会い、
    お客さんとのほっこりした会話など
    ひとつひとつが心温まるエッセイです。



    「文体こそ人なり」
    と言うように
    穏やかで静かな佇まいの中にも
    一本筋の通った
    ブレない「芯」を感じさせてくれる文章。

    おそらくお店自体も
    同じ空気感を醸し出しているんだろうな。


    21歳の時に
    見よう見真似で始めたこの仕事。

    書店を営業する傍ら
    夜に朝にと
    アルバイトで生計を
    立てる日々。


    お金を稼ぐ目的ではなく、
    「好き」を仕事にすることの意味と覚悟。

    「意地で維持」という言葉をモットーにしている田中さんだけに、
    なんとしてでも
    店だけは続けていきたいという
    彼女の強い意志が、
    淡々として心地いい文章の隅々から伝わってくるようでした。


    自らの努力で勝ち取った自由のカタチと
    そのゆるい空気感は勿論、

    友部正人やあがた森魚のライブや
    トークショーに
    オリジナルグッズの販売など、

    古本屋の枠にハマらない自由な活動も
    なんとも魅力的です。


    まったく別々の道を歩んでいる人たちが
    「好き」を通して
    本のあるところに集まり、
    ほんの一瞬、
    同じ時を共有して、
    そして別れていく
    古本屋という空間。


    人と人との出会いだって
    そういうことやし、
    ブクログでの出会いだっていっしょ。


    だからこそ沢山の素晴らしい作品がある中で、
    同じものを選び
    同じものに共感した喜びを
    共に分かち合えたらって思うし、

    それこそが
    一期一会であり、
    好きを貫く醍醐味なんじゃないかな。



    古本屋が好きな人や
    将来自分でお店を開業したい人、

    猫好き、苔好きに、星好きさんなら
    強くオススメしたい一冊です。

    • 円軌道の外さん

      MOTOさん、
      コメントありがとうございます!

      愛猫が亡くなったり、
      仕事がバカみたいに多忙だったり、
      いろんなことが重な...

      MOTOさん、
      コメントありがとうございます!

      愛猫が亡くなったり、
      仕事がバカみたいに多忙だったり、
      いろんなことが重なって
      まったく活字を読むことができなくなってました(汗)(≧∇≦)

      お返事遅くなって
      ホンマすいません!


      あははは(笑)
      自分も小学生時代
      同じことを考えてましたよ(^O^)

      暇ぁぁ~な本屋の店主になって、
      1日中
      誰に咎められることなく
      漫画を読みふけりたいなぁ~って
      妄想してました(笑)(^_^;)


      大人になってよく疑問に思うのは
      お客がまったく入ってないのに
      つぶれないお店って
      あるやないですか?

      昭和な佇まいの喫茶店とか
      ベタな名前のスナックとか(笑)、
      古本屋もそうなんやけど、
      どうやって生計を立ててるんかな~って ホンマ不思議に思うんスよね~(笑)


      親の遺産がガッポリ入ったのか?

      はたまた宝くじが当たったのか?


      自分も万が一
      宝くじが当たったら、
      そんな生活してみたいなぁ~(笑)♪

      2013/12/01
    • azu-azumyさん
      円軌道の外さん、こんにちは。
      先日はとてもうれしいコメントをありがとうございました!

      この本、全く知らなかったのですが、読んでみたく...
      円軌道の外さん、こんにちは。
      先日はとてもうれしいコメントをありがとうございました!

      この本、全く知らなかったのですが、読んでみたくなりました!!
      しっかりメモしています^^

      私の読書は、好きな作家さんの本ばかり読むというふうで、かなり偏っていました。
      でも、ブクログを始めたおかげで、読書の幅が広がってきたのではないかしら~
      と、思っています。
      なんて、自分でい言ってる私って・・・(汗)

      円軌道の外さんのレビューを読ませていただきながら
      こんな作家さんもいてはったんや~、こんな本もあったんや~
      って、ワクワクしています。
      これからもどうぞよろしくお願いします。
      2014/01/18
    • 円軌道の外さん
      azu-azumyさん、
      ホンマ遅くなりましたが(汗)
      いつも沢山の花丸ポチと
      あったかいコメント感謝感激です!

      実は住み慣れた...
      azu-azumyさん、
      ホンマ遅くなりましたが(汗)
      いつも沢山の花丸ポチと
      あったかいコメント感謝感激です!

      実は住み慣れた大阪を離れて
      このたび、ついに花の都、大東京へと上京したので
      まぁ、なんやかんやバタバタとしておった次第です( >_<)

      あっ、この本、ホンマ
      オススメですよ~(笑)

      『好き』を仕事にすることの苦労や覚悟、やりがいが
      素朴でいて確信に満ちた言葉でつづられていて、
      自分が選びとった
      『好き』とともに生きることの意味や醍醐味も
      改めて考えさせられたりして、
      読めば必ず
      何かが変わる本だと思います。

      あははは(笑)
      そうですよね。
      普通、読書はどうしても失敗したくないし
      安心できる好きな作家さんの本ばかり読んじゃうのが
      常やと思いますよ(笑)

      自分もそうやったんやけど
      震災で沢山の仲間を亡くした時に
      人は何かのきっかけで
      あっけなく死んじゃう存在なんやって
      あるとき気付いたんですよね。

      それ以来、どうせ儚い人生なら
      知らない世界があるまま死んじゃうのは
      なんか嫌やなぁ~って思って、
      本との出会いも
      できる限り先入観ナシで
      新しい扉をドンドン開いていこうって決めたんです(笑)

      勿論失敗も多いけど(笑)
      失敗しないと本当に面白い本は分からないし、
      面白くない本が教えてくれることって
      実は意外とあったりするので(笑)
      (面白くない本に出会うことで自分の知らない自分の嗜好が解ったりとかね)

      やっぱ読書という行為にムダなんてないんやなぁ~って
      今は思います。

      こちらこそ、
      いろいろ勉強させてもらうので
      情報交換よろしくお願いします(笑)(^o^)

      てか、いてはったんや~とか(笑)
      azu-azumyさんも
      もしや関西の出身ですか?
      2014/09/07
  • 2010年秋のころだから、まだこの本が書かれる前のときに、本棚を占領している20年前に亡くなった叔母さんの蔵書を古本屋に売ろうとしたことがあった。百科事典の類は売れないことを聞いていたので、当時大河で再ブレークしていた「新平家物語」美装版全巻と叔母さんの生花の雑誌(お茶とお花の先生をしていた)、昭和30年代に発行された単行本や文庫本、ダメもとで文学全集、「タイム」社の歴史全集をダンボール箱いくつかに入れて、倉敷美観地区にある蟲文庫に持って行ったことがあった。

    なぜ蟲文庫かというと、大通り沿いにあるチェーン店よりは、ここの方が本の価値を正確に評価してくれそうな気がしたからである。名前だけは聞いていたが、本屋には一度も入ったことがなかった。ブログは何年も前に読んだことがあった。なんか長い長い文章が書かれていた。

    本屋は閉まっていたが、しばらくすると帰ってきた。小柄な可愛らしいといっていいような女性だった。予想よりも若いことに戸惑った。

    預かってもらえるだけでも良かったのだが、やはり全集類は引き取ることさえ断られた。店を見たらあまりにも狭く、そんなものは置けそうになかったので早々に諦めた。意外にも「新平家」は断られた。「他の店では取る所もあるかもしれないけど、うちはその類はとってないの」済まなそうに言うその仕草に誠実さを感じた。「取れるのは文庫本ぐらい。場所を取らない本しか回らないの」本棚の場所確保が、最大の目的なので、それはわかるけど困る、と言うと、雑誌と単行本もとってくれた。そして1000円頂けた。雑誌合わせて20冊ほどで、それだけもらえるのは、あとで他の古本屋を回ってみて破格の値だと気がついた。

    私は蟲文庫の店主を、マニアックだけども海千山千のつわものだとイメージしていた。しかし今回この本を読んでみて、あのときの私の戸惑いの意味はこうだったのだなと、ガッテンがいった。

    田中美穂さんは、21歳のときバイトを辞めたあと「そうだ、古本屋になろう」と総予算100万円ほどで始めた。1993年に倉敷市川西町に元事務所を借りて始めたらしい。全てが手探りで、自分の蔵書と持ち込みの本で細々と始めたらしい。2000年に現在位置に移転。店構えは見たことがあった。蟲文庫はつくづくいい名前だ。一度見たら忘れられない。その一方で虫専門の古本屋かと思ってしまう。そうではなくて、基本持ち込みのみで、組合には入らずに成り立っている古本屋らしい。始めはバイトの掛け持ちで、意地でも続けていた。だから、むしろ素人感覚で始めた古本屋なのだ。

    私の映画の好みは「少女が一生懸命頑張っている」作品である。もう20年以上も古本屋を1人で(⁈)で、やっているらしいので、少女と言われると「キモイ」と嫌われそうだが、まあ印象としてはそうだ、ということで、この本を読んでファンになった。

    倉敷在住の私にとって、「会いに行ける古本屋」です。時々尋ねようと思う。
    2015年5月14日読了

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      死ぬまでに行きたいなぁ、、、苔好きとしては
      kuma0504さん
      死ぬまでに行きたいなぁ、、、苔好きとしては
      2021/02/06
    • kuma0504さん
      猫丸さん、
      当然店頭には彼女の著書が平積みされています。
      おそらくその場でサインもOKと思えます♪
      猫丸さん、
      当然店頭には彼女の著書が平積みされています。
      おそらくその場でサインもOKと思えます♪
      2021/02/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      サインを頂戴する?
      猫にはハードルが高いです、、、
      kuma0504さん
      サインを頂戴する?
      猫にはハードルが高いです、、、
      2021/02/07
  • 倉敷にある古本屋さん。「本屋さんになりたい!」となったのでは無く、流れでなったと。それでも20年くらい続くのはすごい。倉敷に行ったらいってみたい。

  • 倉敷の古本屋、蟲文庫の女性店主のエッセイ?実録を書かれたものをまとめたもの。
    20年近く前か、当時の相方と倉敷の街を歩いていたときに、開店当初の店舗を偶然発見して、確か忌野清志郎のなんかの書籍を買ったような記憶がある。その後、そのあたりを訪れたときに、何度か行ったけど、移転してからは行けてないなあ~。

    文章も著者独特の世界があって、好感が持てる。
    あの頃と同じ空気が流れているんだろうな。
    店にまた寄ってみたいと思った。

    「早稲田古本村通信」等に寄せていた文章をまとめたものなので、各章で同じフレーズがよく出てくるところが唯一のマイナス。

  • 本の本
    書店

  • 蟲文庫行ってみたい
    生き方、やり方色々
    静かな底力のある田中さんにパワーをもらった

  • 2016.10月。
    人生、タイミングと勢いでするするっと動き出すことがある。それはもうそうなるように決まっていたんだなと、今振り返ると思うようなことが。蟲文庫さんもきっとそうなんだろう。もう最初からそうなるように決まってたんだな。自分の芯がしっかりしていれば、きっと流れに任せてみてもいいんだろうと思う今日この頃。

  • 亀についてのエッセイかなんか、読みたいんだよねェ・・・なんて話していたら、田中美穂サンをオススメされたんで図書館で検索。

    亀系はちょっとスグ読めない感じだったので、こちらを借りました。

    亀についてはこちらにはチラリとしか描かれてませんでしたが(クサカメですね)、苔に関して書かれていて惹かれました。
    カメ本も苔本も、借りて読みたいです。


    ファンになりました。

  • 倉敷美観地区に店を構える蟲文庫。この本は小さな蟲文庫です。この本を大きくしたのが実際の蟲文庫です。

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著者プロフィール

田中美穂(たなか・みほ)
古本屋「蟲文庫」店主。1972年、岡山県倉敷市生まれ。1994年、同市内に古本屋「蟲文庫」を開業、2000年に移転、現在にいたる。著書に『わたしの小さな古本屋』(ちくま文庫)、『苔とあるく』『亀のひみつ』『星とくらす』(WAVE出版)、『ときめくコケ図鑑』(山と渓谷社)、編著に『胞子文学名作選』(港の人)などがある。

「2018年 『ミクロコスモス 森の地衣類と蘚苔類と』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田中美穂の作品

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